アイオワ(戦艦)とは、米海軍が第二次ロンドン海軍軍縮会議のエスカレーター条項に従い、基準排水量の限界45000トン、主砲口径の条約限界16インチの範疇で計画を策定。主に空母機動部隊の前衛、そして日本の金剛型戦艦に対抗・優越すべく建造された高速戦艦である。同型艦はネームシップを含め4隻。米海軍最後の戦艦となった。
重量1.2トンの重徹甲弾を高初速で発射できる50口径16インチ砲を搭載。最大速度は駆逐艦並の33ノットを誇るなど、それまで米海軍に不足、あるいは欠落していた本当の意味での高速戦艦である。彼らは仮に艦隊決戦となった場合、米海軍の重巡部隊を蹂躙しかねない金剛型に強い警戒を抱いており、それを圧倒することも大きな目的だった。
また、実際にそうした運用が行われたことはそれほど多くはないものの(空母機動部隊の操舵の邪魔となるため)、機動部隊直衛艦として機能すること、そのこともコンセプトに当初から盛り込まれ、非常に充実した対空火力、レーダー装備を有していたことも特徴である。いわば金剛型のコンセプトを、1940年代の技術で大拡張した戦艦とも言える。
金剛型戦艦に優越する速度を得るべく、他国では到底量産できない高圧蒸気駆動系、実に出力212,000馬力を搭載。その上で巡洋艦並みに細長い船体を有しており、全長だけであれば大和型戦艦を上回る。33ノット全速を発揮した場合、振動過大などの問題も生じたが、安定して20ノット以上の高速巡航を行える利点は大きかった。
主砲には「Mk7」50口径16インチ砲を3連装3基9門搭載。対艦戦闘の場合、重量1.2トンを超える重徹甲弾を、概ね標準的な初速で射撃可能。大和型戦艦、あるいは近代化改装後の長門型戦艦などのヴァイタル・パートを除けば、ほぼ全ての水上艦を破壊できる威力を持つ。上記のコンセプトから5インチ両用砲、40ミリ機関砲もてんこ盛りである。
よく「自艦主砲に耐久出来ないので巡洋戦艦」という評価を受ける。それは間違ってはいないが、アイオワ級は舷側、甲板共に相応の重装甲を有していること、米海軍のダメコンノウハウを考えれば、実質的には高速戦艦と称して差し支えないだろう。寧ろ彼女の敵は、敵弾よりも細長い船体による航洋性不足、つまり悪天候であった。
というよりアイオワの装甲を余裕を持って破壊できる艦砲は、それこそ大和型の46サンチ砲程度である。水雷防御が脆弱との指摘もあるが、当時の魚雷が戦艦の水雷防御発達では追いつかない勢いで、破壊力が急増したことを鑑みれば、ある意味で戦艦の装甲による直接防御の限界。それを露呈したとも言える。
太平洋戦争では華々しい水上打撃戦には恵まれなかったが、主に空母機動部隊の前衛や直衛に活躍。3番艦「ミズーリ」が、東京湾で降伏条約調印の場となったのは、あまりにも有名な歴史的事実である。
その後は朝鮮戦争、ベトナム戦争などの地域紛争に参加。海兵隊や陸軍の支援として、主に艦砲射撃に従事。特に海兵隊からは、自らの背後に圧倒的な破壊力を持つビッグガンが存在する、その安心感から非常に好評を得ていたとも言われる。その後暫くは現役、あるいはモスボールの間を行きつ戻りつしている。
そんな第二次世界大戦の遺物が、最後の脚光を浴びたのがレーガン政権時代である。600隻艦隊構想に従い、トマホークミサイル運用能力を始めとする、かなり大掛かりな近代化改装を4隻とも実施。レバノン内戦や湾岸戦争で、ミサイル攻撃や艦砲射撃で活躍している。戦艦という軍艦が、最後に経験した大掛かりな実戦であった。
しかし、冷戦崩壊による軍縮、そして50年近い艦齢による老朽化には勝てず、1990年から1991年にかけて、相次いで4隻とも退役。現在は全艦が博物館、記念艦として保存されている。日本から一番手軽に見学できるのは、ハワイ真珠湾で記念艦となっている「ミズーリ」であろう。近年は映画「バトルシップ」の主役としても活躍した。
竣工した当時は、既に最大のライバルである日本海軍は衰退。戦艦、重巡洋艦という砲戦型艦艇の時代は終末を迎えており、ある意味では不遇な、しかし海兵隊などからは退役直前まで絶大な信頼を寄せられ、現在は全艦が平穏な余生を送るなど「船舶」としては幸福な生涯に恵まれたといえる。
共に日米最強戦艦ということで、往々にして大和型戦艦と戦闘になったら、そのようなシミュレートは枚挙にいとまがない。海戦は戦艦という一つのファクターだけでは決まらないため、一概には言えない。但し正面切った戦闘となった場合、火力、装甲ではかなり劣後しており、大和型も言われるほど機動力に劣るわけではないので、不利ではあろう。
しかし大和型戦艦が第一艦隊の主力。つまり従来のドクトリンの延長線上にあるのに対し、アイオワ級は米海軍に「高速戦艦」という、それまで存在しなかった新しい付加価値を与えたことにこそ、大きな意義がある。その上で最強ではなくとも、戦艦として高水準なバランスで纏まっていることから、「兵器」としては大和型よりも優秀とも言える。
特に電子装備に関しては雲泥の差がある。当時の技術ではマイクロレーダを搭載していても、必ずしもFCSと連動してはおらず、人間が情報を方位盤に直接入力しなければならない。そのために、戦後のイメージほどは命中精度は上がらないなどの事実はある。しかし情報収集能力に優れ、先手を打てる可能性が高いというのは大きな強みである。
急上昇ワード改
最終更新:2024/05/05(日) 16:00
最終更新:2024/05/05(日) 16:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。