ここでは、山梨県のケーブルテレビ事情について解説する。
概要
山梨県はNHKを除く民放として山梨放送とテレビ山梨の2局しかなく、それ以外のネット局については東京や長野、静岡からの電波を拾うしかない。しかし周辺を山に囲まれており、しかも県庁所在地の甲府市をはじめ県人口の7割が集中している甲府盆地は県の中心部に位置していることから、周辺都県からの電波が届きにくい。現在でこそ東京スカイツリーがあるため電波が届きそうではあるが、アナログ時代は東京タワーから発信されており、しかも途中には御坂山地があるためVHFだと届かない場合が多かった。
この問題を解決するため、山梨県の各地にはケーブルテレビ会社があり、主に東京からの電波を上野原や三つ峠で拾い、それをケーブルテレビ会社経由で各家庭へ流す方法をとっている。これにより在京キー局のほぼすべてをカバーでき、関東平野と変わらないテレビ視聴環境を手に入れている。
ちなみに2020年の総務省による山梨県のケーブルテレビ普及率は81.6%と徳島県、大阪府に次いで3位。さらに共同アンテナ受信なども含めると93%を超え、全国1位である。
県内各地域のチャンネル例
山梨県のチャンネルは「基本パターン」「拡張パターン」「ケーブルテレビがない場合」の3つのパターンに分かれるので説明する。なお、ケーブルテレビは10~12chを独自放送や放送大学で使用しているが、ケーブルテレビ会社によって異なる(大抵は地域情報)のため、割愛する。
基本パターン
ケーブルテレビが視聴できる環境での基本チャンネルの例として、甲府市を中心に展開している日本ネットワークサービス(NNS)のチャンネルパターンを挙げる。
| CH | テレビ局 | 備考 |
|---|---|---|
| 1 | NHK総合甲府 | |
| 2 | NHKEテレ | |
| 3 | テレビ神奈川 | 再送信、独立局 |
| 4 | 山梨放送 | 日本テレビ系列 |
| 5 | テレビ朝日 | 再送信 |
| 6 | テレビ山梨 | TBS系列 |
| 7 | テレビ東京 | 再送信 |
| 8 | フジテレビ | 再送信 |
| 9 | TOKYO MX | 再送信、独立局 |
御覧の通りテレビ朝日、テレビ東京、フジテレビはもちろんのこと、TOKYO MXやテレビ神奈川も視聴可能である。 但し、日本テレビは山梨放送、TBSはテレビ山梨があるためネット局の制約で視聴できない。この2局は朝や昼、深夜時間帯は自局番組や他ネット番組を流すことがあり、見たい番組が見れない場合がある。
拡張パターン
山梨市を拠点にする峡東ケーブルテレビのように、拾えるチャンネルをすべて流しているケースもある。
| CH | テレビ局 | 備考 |
|---|---|---|
| 1 | NHK総合甲府 | |
| 2 | NHKEテレ | |
| 3 | テレビ神奈川 | 再送信、独立局 |
| 3-1 | チバテレビ | 再送信、独立局 |
| 3-2 | テレビ埼玉 | 再送信、独立局 |
| 4 | 山梨放送 | 日本テレビ系列 |
| 5 | テレビ朝日 | 再送信 |
| 6 | テレビ山梨 | TBS系列 |
| 7 | テレビ東京 | 再送信 |
| 8 | フジテレビ | 再送信 |
| 9 | TOKYO MX | 再送信、独立局 |
日本ネットワークサービスのチャンネルに加えてチバテレビとテレビ埼玉も視聴可能、まさかの東京都心独立局1都3県制覇である。 ちなみにハイフン(-)の後ろの数字はリモコンにある「▲」を押す回数で、3回目を押すとテレビ神奈川に戻る形となる。 このため山梨県民でも十万石まんじゅうのCMやなのはな体操を知っているというケースもある(但しチバテレビは試験放送扱いのため、たまに映らなくなる場合がある)。
ケーブルテレビがない地域
このようにケーブルテレビに依存している山梨県であるが、以下の地域はケーブルテレビ局がない。
- 甲府市の旧上九一色村地域
- 南部町 ※一部地域は自主放送なしのケーブルテレビあり。
- 早川町 ※一部地域は自主放送なしのケーブルテレビあり。
- 道志村 ※VHFアンテナで神奈川側のテレビを受信できることがある。
- 小菅村 ※VHFアンテナで東京側のテレビを受信できることがある。
- その他北杜市、富士吉田市、富士河口湖町の一部など。
他にも対象エリアであっても山奥のためケーブルが届いていない地域もあり、この場合はVHFアンテナを使用しての受信をせざるを得なくなり、結果甲府から送信されるテレビ局のものしか視聴できないため、他のテレビ番組を視聴したい場合は独自にBS/CS設備を購入・設置するか、インターネットで配信している番組に頼るしかない(ちなみにフレッツテレビもエリア対象外)。
但し南部町は例外で、静岡県側の放送を受信し、各家庭へ再送信している。アナログ時代は静岡市や富士宮市に点在していた各送信所の電波が届いていたため、デジタル後は静岡市の送信所を集約した日本平デジタルタワーからの電波が強力であるため受信が可能と推測される。
そのため南部町で視聴可能なテレビ局は以下の通りになる(ch番号不明のため、順不同)。
| テレビ局 | 備考 |
|---|---|
| NHK総合甲府 | |
| NHKEテレ | |
| 山梨放送 | 日本テレビ系列 |
| テレビ山梨 | TBS系列 |
| NHK総合静岡 | 再送信 |
| 静岡朝日テレビ | 再送信、テレビ朝日系列 |
| テレビ静岡 | 再送信、フジテレビ系列 |
見てわかる通り静岡朝日テレビ(テレビ朝日系列)とテレビ静岡(フジテレビ系列)が補完されており、さらにNHKが甲府側と静岡側両方で視聴可能である。アナログ時代は静岡第一テレビ(日本テレビ系列)と静岡放送(TBS系列)も視聴でき、日本テレビ系列とTBS系列も甲府側と静岡側で視聴可能であったが、デジタル化後に再送信の見直し(甲府と視聴環境を合わせる)が行われてしまい、現在ではごく一部の地域を除き視聴不可である。
この通り一応NHK+民放4局が補完できているので視聴環境はさほど悪くないと思うが、あえて不満に思う人がいるとしたら、それはアニメファンである。
まず静岡県側にはテレビアニメの多くを占めるテレビ東京系列とUHF独立局がないため、それらは視聴できない。さらに送信されてくるのが静岡県のテレビ番組ということで、南部町民はアニメ不毛の地静岡を自動的に受けることになっていた(最近は静岡放送で独自アニメ枠が設定されているが、先述の通り南部町では視聴不可)。よってテレビ番組(特にアニメ)の話をすると静岡側の人たちとは話がかみ合うが、甲府側との人たちとはあまり話が合わない場合が多い。南部町民が静岡寄りと言われるのはこの所以もある。
ちなみに富士吉田市の一部と富士河口湖町の一部も静岡県側のテレビが受信可能で、さらに北杜市の一部は長野県側のテレビが受信可能である。
問題点
このように山梨県民にとって必需品であるケーブルテレビであるが、当然いくつか問題がある。
料金面
日本ネットワークサービスの例を挙げると、加入時に約10万円(加入金80000円、工事費16000円。ちなみに税別)がかかり、さらに月額料金として3000円(これも税別。なおNHK受信料は別)がかかる。加入時の費用は分割払い可能、月額料金は年払いにすれば若干安くなるが、それでも負担は大きい。他のケーブルテレビ会社も日本ネットワークサービスの料金と大差がなく、これが他の都道府県なら競争があるため「加入金不要」「工事費は会社が負担」「電気とセットで月額料金割引」等があるが、山梨県は「山梨では映らない東京のネット局をカバーする」ことを目的としているため、各地域で独占しており、しかも他事業社を排除しているため、そのような減額サービスはあまり期待できないのが実情である。公正取引委員会仕事しろ。
ケーブルテレビ局の乱立
狭い山梨県内に自主放送を行なっているケーブルテレビ会社は17局、自主放送を行なっていない所を含めると22局もある。南アルプス市にいたっては4局が入り乱れており、しかも地区で細分化されているため、山梨県へ転入時にどこへ頼めばいいか非常にわかりづらい。中には契約者数百件の有限会社(特例有限会社)がやっているところもあるため、せめて市町村レベルでは1局にまとめてもらいたいところである(これでもアナログ時代に比べれば統合で減ってきてはいるけど)。
ネット局の問題
上述でも述べたがケーブルテレビはチャンネル補完目的のため、県内にネット局のある日本テレビとTBSは除外されていることである。
これについて山梨放送が日本テレビ、テレビ山梨がTBSの代替をしてくれれば問題はない…はずであるが、実は山梨放送とテレビ山梨はテレビ朝日、フジテレビ、テレビ東京の番組を放送することが多い。これは数少ないケーブルテレビが映らない地域のための配慮であるが、これにより山梨放送やテレビ山梨はローカル枠での埋め合わせだけでは足りなくなり、本来であれば全国ネットで放送されるはずの番組が山梨県だけ別の時間帯に移動されたり、番組そのものが放送されなかったりする。
この問題の代表例として『笑っていいとも!』がある。本来であれば昼間にフジテレビで放送されており、山梨県内でもケーブルテレビによってほとんどの地域でリアルタイムに視聴が可能だった。しかし数少ないケーブルテレビがない地域のために山梨放送が夕方5時に再放送をするというケーブルテレビがある地域からすれば意味不明なことをやっていた。ちなみに山梨放送は午後の時間帯は日本テレビの『午後は○○おもいッきりテレビ』というこちらも長寿番組を放送していたため、この時間帯に『笑っていいとも!』を放送することはできなかった。
ニコニコ動画での影響
このようにケーブルテレビの依存度が高い山梨県であるが、都道府県対抗シリーズのアニメ関係動画にも大きく影響してくる。
上の2つの動画を見比べていただきたい。1本目の動画で山梨県で視聴できるアニメはずらりと並んでいるのに対し、2本目の動画では4本しかなく47都道府県中最下位となっている。 なぜ類似動画でこれほどの差が発生しているのかというと、最初の動画はケーブルテレビを含めた場合、2本目の動画は地上波のみの場合である。
地上波のみの場合、山梨放送とテレビ山梨の2局で賄なわれるはずであるが、先述のネット局の問題でローカル枠が足りない状況のためアニメを放送できる枠がほとんどないのである。さらに山梨県は少子高齢化が著しく進んでおり、高齢者が大好きなテレビドラマやバラエティ番組が優先される傾向で、アニメについては「ケーブルテレビをご利用ください。ケーブルテレビがないところはインターネットをご利用ください」という姿勢のため放送に消極的である。ちなみに山梨県はケーブルテレビがないと『ちびまる子ちゃん』も『クレヨンしんちゃん』も『プリキュア』も観れない地域である(『サザエさん』と『ドラえもん』は早起きすれば一応観れる)。
ちなみに2本目の動画であるが、この時(2011年頃)は『ゆるキャン△前の山梨』真っ盛りで、山梨放送もテレビ山梨もローカル枠や深夜枠でのアニメ放送をガンガン削っていた時期である。2018年以降は山梨県内でご当地アニメの意識が強くなっており、山梨県の組織や自治体との協力関係またはコラボがあれば山梨放送またはテレビ山梨でも放送してくれるケースが多い。
現状について
山梨県のケーブルテレビは2000年初め頃は普及率が9割と圧倒的に多かったが、その後普及率・加入率が減少し、概要でも示した通り2020年現在81%台まで落ちている。
- 原因としてインターネットのブロードバンド化が進み、インターネットがあればテレビは最小限でよいというテレビ離れが山梨でも起きている。通常のテレビ局であればスポンサーの指標での収入増減になるが、ケーブルテレビ局の場合は視聴者からの収益のため直接影響が出る。
- インターネットの場合、ケーブルテレビと異なり山梨県も各社参入が可能で、通信会社やプロバイダが各種割引(工事費不要や長期割、電気・ガス・携帯電話とセット割など)を設定している。しかも山梨県の場合は防災の観点から光ケーブルの敷設が積極的に行なわれ、光回線の導入も地方にしては早かった。
- スポーツやアニメについてもインターネット上のスポーツ専用チャンネル(DAZNなど)やアニメ専用チャンネル(AT-Xやアニマックス、ニコニコチャンネルなど)を使えば視聴可能である。これらは有料であるが、山梨県のケーブルテレビがそれ以上に割高のため「わざわざケーブルテレビを見なくてもこれらのインターネットチャンネルに登録すればいい」という理由でケーブルテレビを解約しインターネットでの視聴に切り替える県民が増えている。
- さらに東京のテレビ局が合同でTVerという無料視聴サービスを開始。広告が多いということや放送番組が少ない、一部省略されることを除けばわざわざケーブルテレビに加入しなくても東京キー局の番組が視聴可能である(もちろん「山梨県を含めた特定の地域はブロックして観れないようにしている」ということもしていない。但し既得権益のため「山梨だけTVerを観れないようにできないか」という議論があったとも。まあTVerやプロバイダからすれば面倒なだけでメリットがないので要請されてもお断りだろうけど。)。
- 一方で山梨県内のケーブルテレビもインターネットサービスを行なっているが、回線速度が遅く、2019年時点でフレッツ光は山梨県でも1Gbpsサービスを行なっているが、ケーブルテレビは最高でも100Mbps、局によっては24Mbpsや4Mbpsと一昔前のADSLレベルで、しかも別料金(こちらも他のプロバイダに比べれば割高)である。ケーブルテレビと異なり各種セット割引はあるが制約が多く、フレッツ光やTEPCOひかり、au one netなどの後塵を拝している。特にヴァンフォーレ甲府サポーターの多い山梨県では回線速度の遅さは致命的で、アウェーゲームなどをDAZNで視聴しようとすると回線速度が起因とするコマ落ちや視聴不可が多発し、ケーブルテレビ提供のインターネットでの視聴を見限って1Gbpsサービスを行なっている通信会社やプロバイダに切り替える者が多かった。2020年頃よりテレワーク需要も増えたことから山梨のケーブルテレビの1Gbpsサービスを順次導入している。
- 地上デジタル放送化やインターネット回線との共有化により、これまでのアナログ同軸ケーブルから光ケーブルへの切替工事が必要であるが、これが各ケーブルテレビ会社の負担になっている。
- 光ケーブルへの切替は契約者都合ではなく会社都合のため、原則会社負担で実施する必要がある。日本ネットワークサービスのように契約者数が数万件の場合は人員と時間が多く割かれ、一方で契約者数が数百件程度の小規模ケーブルテレビ会社は工事を実施する原資がないため、非常に厳しい状況となっている。
- 対策として小規模ケーブルテレビ会社は他のケーブルテレビ会社へ吸収または事業譲渡されたり、小規模ケーブルテレビ会社同士で合併したりして費用の圧縮に努めている。県内最大手の日本ネットワークサービスも一度離脱した山日YBSグループへ再編入し、原資確保に努めている。
- それでも費用負担が重くのしかかっていることから、ケーブルテレビ会社によっては交換局で同軸ケーブルへ変換するその場しのぎの対策を実施(この場合インターネットとのセットは不可能)したり、管轄自治体からの補助金(大抵筆頭株主は各自治体である)を受けてどうにか契約全戸に対しての工事を実施している。
- このように多大な費用をかけて切替工事を行なっているが、その後資本力が圧倒的に違う通信会社の回線高速化についていけず(対応の光ケーブルや相応の交換設備が必要)、契約者数を減らし続けている。
- 以前はケーブルテレビだけで普及・加入率が全国1位であったが、山梨県内の普及率・加入率の低下により2020年現在、徳島県と大阪府に抜かされている。
- 徳島県はアナログ放送時代は紀伊水道の恩恵(アナログ電波は海面に反射しやすい)を受けていたため関西圏からの電波を拾えたが、デジタル化によりその恩恵が難しくなり、さらに区域外再送信の調整にも失敗したことからVHFの場合は実質NHKと四国放送しか視聴が出来なくなってしまった。一方で徳島県内のケーブルテレビ局は関西圏のテレビ局と契約しこれまで通り放送しているため、徳島県の指導もありケーブルテレビへ加入する徳島県民が急増し、山梨県を抜かしている。
- 大阪府はj:comをはじめとしたケーブルテレビ局が強い地域で、しかも地域による縦割りもなく競争により営業も積極的である。もちろんインターネットを含め各種割引も充実しており、エリアや加入者を増やし続け山梨県を抜かしている。
このように特にデジタル化後はインターネットという強敵の前に遅れをとり、シェアを落とし続けている。
関連動画
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