本記事は、ビジネスパートナーである
ジャニーズ事務所への配慮の観点から、
博報堂広報室長の判断により一部表現
を削除しています。
とは、広告代理店「博報堂」が出版している雑誌『広告』の記事「ジャニーズは、いかに大衆文化たりうるのか」の末尾に記載された注意書きである。
すなわち、記事タイトルの「本記事」とはこのニコニコ大百科の記事のことではないことに留意されたい。
概要
雑誌『広告』は、 大手広告代理店「博報堂」が1948年に「広告文化の創造と発展」を目的として創刊した雑誌である。
この『広告』の「Vol.417」は、2023年3月31日に発売された。
だが、この号に掲載された「ジャニーズは、いかに大衆文化たりうるのか」という記事の末尾において、この
本記事は、ビジネスパートナーである
ジャニーズ事務所への配慮の観点から、
博報堂広報室長の判断により一部表現
を削除しています。
という注意書きが付されていたのである。
この記事は、アイドルに関する著作もある社会学者「田島悠来」氏と、ジャニーズに関する著作もある(本記事「関連商品」参照)批評家・DJである「矢野利裕」氏による、ジャニーズ事務所の60年の歴史を語った対談記事であった。構成・文を担当したのは「鈴木絵美里」氏である。
さて、どのような表現が、どのような理由から削除されたのだろうか。
どんな内容が、何故削除されたのか
これについては、対談の一方の当事者である「矢野利裕」氏が自らのnoteにて、そしてこの号の発刊時点で『広告』の編集長であった「小野直紀」氏が『広告』の公式noteにて、詳しく説明している。
なので正直これらを読んだ方が詳しいし正確であるが、説明のためこの記事においても要約しておこう。
まず、博報堂広報室長の判断で削除される前の「直し」稿の時点での文章は以下のようなものであったという(太字は「ここが削除される」ことを示すために太字化しているのみで、元の文章で太字だったわけではない)。
ジャニーズは’60年代初頭にはナベプロの傘下としてやってきて、ある意味この分野の開拓者であるが故に’80年代以降は非常にマスメディアに対して力を持っていったと思うんですね。“ジャニーズ帝国”というような言われ方もしますけど、よくも悪くもとにかく大きな力を確立することに成功した。著作権や肖像権管理の厳しさだとか、あるいは囲い込み、独占するようなコントロールをマスメディアに対して影響力を持ってやってきて……。いまの時代はとくに、メディアの独占的なコントロールやハラスメントなどはその問題性を追及されるべきところだと思います。
ちなみに、「削除される前」とは言っても、この「直し」稿に入る以前の時点で既にカットされていた部分もあった。元の対談では、ジャニーズのセクシュアル・ハラスメントの問題(後述)に関して、また博報堂の談合事件に関してなども言及されていたが、この「直し」稿の時点で博報堂側によりカットされていた。これについては、対談終了時点で小野直紀氏を始めとした編集サイドから「一部の発言が使えない可能性がある」とは恐縮されつつ伝えられていたのだという。
とはいえ「矢野利裕」氏もそう言った部分のカットは残念に思いながらも受け入れて上記の文章を含む「直し」稿を編集側に提出し、雑誌の発刊を待った。
だが、実際の雑誌記事では上記の部分がさらにこのように削除されていた。
ジャニーズは’60年代初頭にはナベプロの傘下としてやってきて、ある意味この分野の開拓者であるが故に’80年代以降は非常にマスメディアに対して力を持っていったと思うんですね。“ジャニーズ帝国”というような言われ方もしますけど、よくも悪くもとにかく大きな力を確立することに成功した。著作権や肖像権管理の厳しさだとか、あるいは……。
このように、「メディアを独占的にコントロールする」ことや「ハラスメント」に関して具体的に記した箇所が除去されていたのだ。
そして記事の末尾には
本記事は、ビジネスパートナーである
ジャニーズ事務所への配慮の観点から、
博報堂広報室長の判断により一部表現
を削除しています。
という注意書きが付されていたのだった。
小野直紀編集長が執筆した上記note記事によれば、これはこの注意書きに記載されている通り、ビジネスパートナーであるジャニーズ事務所への配慮という理由で、博報堂広報室長から削除要請があったものであるとのこと。編集長はこの要請に対して
①利害関係、人間関係にまつわる忖度はある程度理解するが、そこに社会問題や犯罪がかかわる場合の忖度は不適切である。
②社外の方の発言であり著作者人格権の侵害にかかわる問題である。
③削除したほうがリスクがある(話題になる)。
という理由を示して拒否・反対。「もし、そのまま掲載してなにか問題が起きたら、自分がクビになることはまったく構わない。自分がとれる責任はすべてとる」とも伝えていたとのこと。
しかし、広報室長は了承せず、また議論をしているうちに校了予定日を1週間ほど過ぎてしまって雑誌そのものの発刊が危ぶまれ、やむなく「要求を呑むかわり」として以下の2つの選択肢を広報室長に提示したのだという。
①以下の言葉を別の表現に変更する。
「メディアの独占的なコントロール」「ハラスメント」
②上記を含む矢野氏の発言を削除し、以下の文面を記事の末尾に記載する。
「本記事は、ビジネスパートナーであるジャニーズ事務所への配慮の観点から、博報堂広報室長の判断により一部表現を削除しています。」
そして広報室長が選択したのは②であり、それに基づいて上記のように削除され、そして
本記事は、ビジネスパートナーである
ジャニーズ事務所への配慮の観点から、
博報堂広報室長の判断により一部表現
を削除しています。
という注意文が掲載されることになった。
広報室長は「批判があることを覚悟して選択した」と話していたという。
小野直紀編集長はnote記事の末尾にて、雑誌の発刊を優先して削除に対する抗議・拒否を徹底できなかったことに対して謝罪した上で、「博報堂の善い部分が強化され、悪しき部分が浄化されることを心から願います」とのコメントを記載している。
影響
前述の「ジャニーズのセクシュアル・ハラスメントの問題」については、イギリスBBCが制作して2023年3月に放映したジャニーズ事務所創業者「ジャニー喜多川」氏の性加害に関するテレビドキュメンタリー『Predator: The Secret Scandal of J-Pop』(日本語字幕版のタイトルは『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』)を受けて、「この番組について、ひいてはこの問題について日本の大手メディアがほとんど扱わない」ことも含めて2023年3月当時ちょうどネット上である程度話題になっていたものでもある。
そのために、この騒動についても注目を集め、以下のようにいくつかのウェブメディアや週刊誌が記事として掲載した。
- 博報堂、雑誌からジャニー喜多川氏巡る記述削除 広報が判断...「ビジネスパートナーへの配慮のため」: J-CAST ニュース
(2023年4月3日の記事)
- 博報堂の雑誌『広告』ジャニーズのハラスメントやメディアコントロールへの言及削除 編集部「広報室長の判断で削除されたのは事実」(1/2 ページ) - ねとらぼ
(2023年4月4日の記事)
- ジャニーズ性加害を削除 博報堂は「性加害容認」企業? | 週刊文春 電子版
(2023年4月12日配信記事。翌日発売の『週刊文春』2023年4月20日号にも掲載)
- 博報堂の雑誌『広告』がジャニーズ関連記述を一部削除 | 週刊金曜日オンライン
(2023年4月29日の記事)
小野直紀編集長による反対理由の③「削除したほうがリスクがある(話題になる)。」が現実のものとなってしまったとも言える。
なお、上記「J-CASTニュース」記事で「小野氏は今回の号で編集長を退任となり、今後の体制は未定となっている。」と記されているので「この件で編集長を退任する羽目になったのか」と思ってしまう者もいよう。だが、実際には小野直紀氏がこの号を最後に編集長を退任となることは以前から決まっていたことであるという。
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