検閲(けんえつ)とは、行政権により不適当と判断された表現内容や言論の発表、流通を禁止する行為である。
以下断りがない限り日本における検閲について記述する。
概要
行政権が表現の規制の主体でない場合、例えば裁判所での手続きを経由して出版の差し止めが行われた場合は、検閲にならないと解されている。
大日本帝国憲法下では、第26条に「日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ」、第29条に「日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス」と定められており、法律の範囲内であれば通信の秘密と言論・出版の自由が保障されていたため、検閲を行うには法律の根拠を必要とした。
新聞紙法、出版法、映画法、治安維持法を根拠に政府は書籍、新聞、映画の内容を審査し、不都合のあるものの発表を禁止したり、記事の差し止めを行った。また違反物の没収、違反者への禁錮刑も行われることがあった。郵便物に関しては、日露戦争中に極秘に内務省が逓信省(当時の郵政事業体)へ通牒する形で検閲を開始し、1941年に臨時郵便取締令を公布して法律上の根拠に基づくものとした。
日本国憲法下では、第21条第2項において「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と定められ、検閲は明確に禁止された。但し刑事施設、刑務所や拘置所においては例外が認められることになった。
憲法第21条第1項では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と表現の自由が定められており、検閲の禁止と通信の秘密を定めた第2項は、それを保障するための施策と見做されている。
検閲における重要判例
検閲に関する重要判例としては、「税関検査事件」と、「北方ジャーナル事件」が挙げられる。
札幌税関検査事件(最大判昭和59年12月12日)
本事案では、わいせつ表現物の税関の検査による輸入禁止品の指定が、検閲にあたるかどうがが争点になったが、最高裁は、原告側(押収された側)の上告を棄却の上、判決において、検閲を、『行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止すること』と定義した。
また税関検査について、『税関は、関税の確定及び徴収を本来の職務内容とする機関であつて、特に思想内容等を対象としてこれを規制することを独自の使命とするものではない』(原文では、『ない』ではなく『なく』となっている)としている。
また、税関におけるわいせつ表現物の規制について、『健全な性的風俗が害されることを実効的に防止するには、単なる所持目的かどうかを区別することなく、その流入を一般的に、いわば水際で阻止することもやむを得ないものといわなければならない』としており、また、当該表現物について『もともとその頒布、販売は国内において禁止されており、これについての発表の自由も知る自由も、他の一般の表現物の場合に比し、著しく制限されているのであつて、このことを考慮すれば、右のような制限もやむを得ないものとして是認せざるを得ない』とした。
北方ジャーナル事件(最大判昭和61年6月11日)
本事案では、北海道知事選の立候補予定者だった被告Xが、発売予定の雑誌『北方ジャーナル』の中で、Xを個人攻撃する内容が掲載されることを知り、Xは札幌地方裁判所に出版差し止めの仮処分を申請し、これが認められた。
これに対し、不服とした原告が裁判を起こしたものである。
本事案においては、出版差し止めに関して検閲にあたるかどうかが争点になったが、これにおいて最高裁は原告の上告を棄却した。
判決において上記の「札幌税関検査事件」における検閲の定義(「行政権が主体~禁止すること」)を引用し、「仮処分による事前差止めは、(中略)、個別的な私人間の紛争について、司法裁判所により、当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否、保全の必要性の有無を審理判断して発せられるものであつて、右判示にいう「検閲」には当たらない」とした。
松文館事件第一審判決
ある成人向けマンガが猥褻物か否かで争われたこの裁判では、第一審判決の中で
と触れられており、これについて同書内で被告人(当時)の支援者が「これは検閲を肯定しているのではないか」と指摘。
第二審でも被告人(当時)である出版社社長が「昔の軍国主義のように思想統制というか・・・・・・」と受け入れがたい旨の証言をしている 。
百科事典における検閲
ユーザーにおける執筆可能な百科事典の掲載においても、厳密には検閲ではないが、検閲と例えられている出来事が起こっている。
Wikipedia
『Wikipedia:ウィキプロジェクト 検閲に反対するウィキペディア』、『Wikipedia:ウィキペディアは何ではないか#ウィキペディアでは検閲は行われません』を参照。
Wikipediaでは、Wikipediaにおいて不適切と判断された記述が削除されることがあるが、これらの削除に対して強い不満を持つ人間も少なくない。
実際にWikipediaにおける編集方針に反発し、アメリカではWikitruthが、日本ではYourpediaが設立された。…が、現在は当該サイトを見てもらえば分かると思うが、特定団体・人物・果ては他Wiki系サイトの利用者への誹謗中傷の温床となっており、「No検閲」を間違えて解釈してしまった記事が大半である。そのことをアンサイクロペディアでもネタにされてしまっている。詳しくは『日本帝國ユアペディア - アンサイクロペディア』を参照。
ニコニコ大百科
『ニコニコ大百科:自主規制と検閲』を参照。
ニコニコ大百科においては、管理者という役職はおらず、利用者の依頼に対し、サポート部隊が、不適切と判断された内容が削除される。
またグニャラくん ★において、ニコニコ大百科における問題に対する見解が言及されることがある(例:「立て逃げ」)。
記事の編集に関して編集合戦などに見られる意見の対立が起こった場合、その記事に携わる編集者やその記事の閲覧者などによって議論されることがあるが、中には感情的に相手の意見や編集方針を否定することも見られるため、冷静な議論が求められる。
青少年保護を目的とした検閲
1950年代、「悪書追放運動」とする炊書が行われた。これは「漫画が青少年に対し害を成すものである」と主張し、PTAや社会運動団体が行った。この運動が終了した今日でも「悪書追放」「有害図書ボックス」と書かれたポスト式の図書入れが駅前に設置されている。
2008年6月11日「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」が制定された。2009年4月1日施行。この法律は全て努力義務であり、罰則規定はない。
これは青少年の有害利用を防止する名目で、18歳以下の者に対し有害とされるサイトへのアクセスを制限することを目的としている。具体的にはプロバイダへのフィルタリングサービス・ソフトウェアの提供、携帯電話会社に保護者の同意がある場合を除き原則フィルタリングを設置、サーバー管理者は有害サイトへアクセス防止、をそれぞれ義務付けている。
このうち携帯電話会社のフィルタリングサービスについては、WiFi経由で回避することが可能な場合がある。
未成年者の性的虐待に対するネット検閲については、児童ポルノを参照。
著作権保護を名目とした検閲
TPP締結に伴う著作権法親告罪化により、検閲が実施される可能性が危惧されている。
2015年7月12日、内閣官房の知的財産戦略本部(本部長は安倍晋三)が著作権保護の名目に、サイトのブロッキングを検討していることが明らかとなる。
インターネット上に蔓延している著作権侵害サイトへのアクセスを遮断し、日本人及び日本在住の外国人による侵害防止を目的としている。また、この規制により日本の法律が及ばない海外サイトの著作権侵害に対処できる、ともしている。
外国政府による検閲
政治的、宗教的、安全保障上などの理由から検閲が行われている国家が存在する。
韓国
親北朝鮮系のサイトが安全保障上の理由。また親日的なサイトや韓国政府の主張に反するサイトが「反愛国的である」としてアクセスが規制されている。
中国
金盾を参照。
関連項目
脚注
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