小林泰三(こばやし やすみ)とは、日本の小説家である。1962年生まれ、2020年没。
名前の読みは「たいぞう」ではない。本屋ではたまに間違った棚に置かれている。また、全く同じ字で「たいぞう」と読む、『日本の国宝、最初はこんな色だった』などの著作がある美術史学者がいるが、もちろん別人。
概要
1962年京都生まれ。1995年、短編「玩具修理者」で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞しデビュー。元々奥さんが応募を目指し書こうとしていたが、書けないのでアンタが書けと応募締切の数日前に言われ、ぱっと書き上げ応募したらしい(本人談)。ちなみに本業は三洋電機の研究者。
作品は短編集が中心で、長編はあまり多くない。SF、ホラー、クトゥルー、ミステリー、はては恋愛まで幅広いジャンルを書き分けるが、得意なジャンルはSFとホラー。SFの設定を利用してホラーを、SFを利用してミステリーを、などジャンルを越えた設定もお手のもの。SF界隈ではデビュー当初から高い評価を得ており、野尻抱介、林譲治とともにハードSFの新たな旗手としてNHKトリオと呼ばれていた(らしい)。ミステリ方面でも『密室・殺人』『アリス殺し』などで高く評価されている。
デビュー作の『玩具修理者』や代表作の『ΑΩ』など、ホラー系の作品ではじゅるじゅるとした汁気の多い描写が目立つ。また光文社文庫の書き下ろし作品などでは、やたらと極端な方向に突き進む人間たちを描くエスカレーション型のブラックコメディをよく書いており、とにかく絶望的に噛み合わない会話を書かせたら当代随一。
ホラー系は趣味と性格と底意地と読後感の悪い(褒め言葉)話が多いので、初めて彼の小説を読む人は、『海を見る人』や『天体の回転について』、『天獄と地国』などのSFから手を出すのもいいだろう(内容自体は結構ガチのハードSFで、そっちも悪趣味な作品は入っているが)。
ホラーが大丈夫という人は、『玩具修理者』『人獣細工』『家に棲むもの』『脳髄工場』などで、じゅるじゅるとした描写とその裏に張り巡らされた物語の罠を存分に堪能すべし。ミステリー好きの人は『アリス殺し』か『密室・殺人』、『殺人鬼にまつわる備忘録』あたりから読むのがオススメだが、ミステリーを書いてもやっぱりおよそマトモではないので(『密室・殺人』はプロの評論家・書評家の間でも人によってオチの解釈がまるで違ったとか)、非常に邪悪なミステリーを読む覚悟をしてどうぞ。
1998年に短篇「海を見る人」でSFマガジン読者賞を、2012年に『天獄と地国』で、2017年に『ウルトラマンF』で星雲賞日本長編部門を受賞している。また2012年には『大きな森の小さな密室』がなぜか10万部ほどのヒットになった。現在は『アリス殺し』に始まる〈メルヘン殺し〉シリーズが世界各国に翻訳されており、最大のヒット作になっているらしい。
2020年11月23日に、癌で闘病中であったところ、大阪府内の病院で死去した。[1]58歳没。同年も4冊の新刊を出しており、闘病中という情報も公になっていなかったため、突然の若すぎる訃報は各方面に衝撃を与えた。訃報を公表した親友の田中啓文のTwitterでのやりとりによると、夏に体調不良を覚えてからあっという間の急死だったという。没後、日本SF大賞功績賞が贈られ、SFマガジン2021年4月号では追悼特集が組まれた。
作品リスト
- 玩具修理者 (1996年、角川書店→1999年、角川ホラー文庫)
- 人獣細工 (1997年、角川書店→1999年、角川ホラー文庫→2023年、角川ホラー文庫[改版])
- 密室・殺人 (1998年、角川書店→2001年、角川ホラー文庫→2014年、創元推理文庫)
- 肉食屋敷 (1998年、角川書店→2000年、角川ホラー文庫→2023年、角川ホラー文庫[改版])
- 奇憶 (2000年、祥伝社文庫)
→ 忌憶 (2007年、角川ホラー文庫[書き下ろし2編追加・改題]) - ΑΩ (2001年、角川書店)
→ ΑΩ 超空想科学怪奇譚 (2004年、角川ホラー文庫[改題]→2023年、角川ホラー文庫[改版]) - 海を見る人 (2002年、ハヤカワSFシリーズJコレクション→2005年、ハヤカワ文庫JA)
- 家に棲むもの (2003年、角川ホラー文庫)
- 目を擦る女 (2003年、ハヤカワ文庫JA)
→ 見晴らしのいい密室 (2013年、ハヤカワ文庫JA[収録作変更・改題]) - ネフィリム 超吸血幻想譚 (2004年、角川書店→2007年、角川ホラー文庫)
- 脳髄工場 (2006年、角川ホラー文庫)
- モザイク事件帳 (2008年、東京創元社)
→ 大きな森の小さな密室 (2011年、創元推理文庫[改題]) - 天体の回転について (2008年、ハヤカワSFシリーズJコレクション→2010年、ハヤカワ文庫JA)
- 臓物大展覧会 (2009年、角川ホラー文庫)
- セピア色の凄惨 (2010年、光文社文庫)
- 人造救世主シリーズ
- 完全・犯罪 (2010年、東京創元社→2012年、創元推理文庫)
- 天獄と地国 (2011年、ハヤカワ文庫JA)
- 惨劇アルバム (2012年、光文社文庫)
- アリス殺し (2013年、東京創元社→2019年、創元推理文庫)
- 百舌鳥魔先生のアトリエ (2014年、角川ホラー文庫)
- 幸せスイッチ (2015年、光文社文庫)
- 記憶破断者 (2015年、幻冬舎)
→ 殺人鬼にまつわる備忘録 (2018年、幻冬舎文庫[改題]) - 世界城 (2015年、日経文芸文庫)
- 安楽探偵 (2016年、光文社文庫)
- 失われた過去と未来の犯罪 (2016年、KADOKAWA→2019年、角川文庫)
- クララ殺し (2016年、東京創元社→2020年、創元推理文庫)
- ウルトラマンF (2016年、早川書房→2018年、ハヤカワ文庫JA)
- 因業探偵 新藤礼都の事件簿 (2017年、光文社文庫)
- わざわざゾンビを殺す人間なんていない。 (2017年、一迅社→2021年、二見ホラー×ミステリ文庫)
- ドロシイ殺し (2018年、東京創元社→2021年、創元推理文庫)
- パラレルワールド (2018年、角川春樹事務所→2019年、ハルキ文庫)
- 因業探偵リターンズ 新藤礼都の冒険 (2018年、光文社文庫)
- C市からの呼び声 (2018年、創土社)
- 人外サーカス (2018年、KADOKAWA→2021年、角川ホラー文庫)
- 神獣の都 京都四神異譚録 (2019年、新潮文庫nex)
- 代表取締役アイドル (2020年、文藝春秋→2022年、文春文庫)
- 杜子春の失敗 名作万華鏡 芥川龍之介篇 (2020年、光文社文庫)
- ティンカー・ベル殺し (2020年、東京創元社→2022年、創元推理文庫)
- 未来からの脱出 (2020年、KADOKAWA→2022年、角川ホラー文庫)
- 逡巡の二十秒と悔恨の二十年 (2021年、角川ホラー文庫) - 未収録短編集
- 時空争奪 小林泰三SF傑作選 (2024年、創元SF文庫)
関連項目
脚注
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 森博嗣
- 西尾維新
- 有栖川有栖
- 貴志祐介
- 芦辺拓
- 横山秀夫
- 芥川龍之介
- 宮部みゆき
- 歌野晶午
- 島田荘司
- 伊坂幸太郎
- 石持浅海
- 東野圭吾
- 森見登美彦
- 殊能将之
- 法月綸太郎
- 黒田研二
- 恩田陸
- 星新一
- 北山猛邦
- 北村薫
- 深水黎一郎
- 綾辻行人
- 大沢在昌
- 田中芳樹
- 小松左京
- 古処誠二
- 浅暮三文
- 浦賀和宏
- 小川一水
- 神林長平
- 田中啓文
- 舞城王太郎
- 神坂一
- 麻耶雄嵩
- 乾くるみ
- 加納朋子
- 貫井徳郎
- 奥田英朗
- 長谷敏司
- 石田衣良
- 小野不由美
- 今野敏
- 水野良
- 有川浩
- 詠坂雄二
- 氷川透
- 東川篤哉
- 道尾秀介
- 西村京太郎
- 米澤穂信
- 万城目学
- 森岡浩之
- 三崎亜記
- 古泉迦十
- 海堂尊
- グレッグ・イーガン
- 西村賢太
- 田辺青蛙
- 田中慎弥
- 笹本祐一
- 朱川湊人
- 三田誠
- 真保裕一
- 月村了衛
- 辻村深月
- 真梨幸子
- 佐々木譲
- 赤川次郎
- 梶尾真治
- 井上夢人
- 瀬名秀明
- 荻原規子
- 竹本健治
- はやみねかおる
- 池井戸潤
- 山田風太郎
- 船戸与一
- 北方謙三
- 連城三紀彦
- 高村薫
- 湊かなえ
- 三津田信三
- 誉田哲也
- 野崎まど
- 中山七里
- 似鳥鶏
- 泡坂妻夫
- 桐野夏生
- 倉知淳
- 黒川博行
- 広瀬正
- 相沢沙呼
- 皆川博子
- 牧野修
- 稲見一良
- 恒川光太郎
- 西澤保彦
- 天藤真
- 町井登志夫
- 今邑彩
- ピエール・ルメートル
- 初野晴
- 羽田圭介
- 岡嶋二人
- 石川博品
- 藤井太洋
- 江戸川乱歩
- 若竹七海
- アガサ・クリスティ
- エラリー・クイーン
- 島本理生
- 横溝正史
- アーサー・C・クラーク
- 須賀しのぶ
- 篠田節子
- 宮内悠介
- 青山文平
- 真藤順丈
- 円居挽
- 松本清張
- 芦沢央
- 内田幹樹
- 細音啓
- 折原一
- 早坂吝
- 呉勝浩
- 西村寿行
- 久住四季
- 月夜涙
- 高木彬光
- 遠田潤子
- 中村文則
- 鮎川哲也
- 沼田まほかる
- 山本巧次
- 佐藤究
- 青崎有吾
- 北森鴻
- 大山誠一郎
- 山田正紀
- 鳥飼否宇
- 白井智之
- 斜線堂有紀
- 夕木春央
- 矢樹純
- 井上真偽
- 方丈貴恵
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