こんなのって こんなのってないよ――っ!!とは、CLAMP原作の漫画”魔法騎士レイアース”の登場人物 獅堂光の台詞である。
概要
異世界『セフィーロ』のエメロード姫の魔法で、東京タワーからセフィーロへ召喚された獅堂光、龍咲海、鳳凰寺風の三人。セフィーロは心の強さ、すなわち思いや願いが力に直結する世界。エメロード姫は『平和』や『秩序』を祈る『柱』としてセフィーロを支えてきたが、突如どこかへと姿を消してしまった。セフィーロは闘争と混乱で溢れ、さらに魔物まで出現するようになっていた。
光たちが東京へ戻るには『伝説の魔法騎士』として、エメロード姫の「セフィーロを救って」という願いを叶えるしかない。エメロード姫を攫ったとされる神官 ザガートからエメロード姫を救い出すため、三人は互いを助け合ったり、セフィーロの住民と交流したり、時にはエメロード姫の導きに救われたりしながら、魔法騎士として成長していく―。
三体のロボ『魔神』の力を纏い、ついにザガートを倒した三人。だが、彼女たちの前に立ちはだかったのは、救いを求めてきたエメロード姫その人だった。豹変して殺意をむき出しにするエメロード姫に驚く三人に、これまで彼女たちを導いてきた優しい声―エメロード姫の声が真相を語る。
『柱』たるエメロード姫は、常にセフィーロの『平和』『秩序』を祈らなければならない。しかし彼女はザガートに恋をしてしまい、セフィーロの平和と秩序を第一に考えられなくなってしまった。セフィーロの安寧よりザガートの幸せを願うようになってしまった。それゆえにセフィーロは不安定になってしまったのだ。
エメロード姫は自らを戒めるために閉じ籠り、ザガートと距離を置くことで気持ちを整理しようとした。だがそれも失敗に終わってしまった。
つまりエメロード姫はザガートに誘拐されたのではなく、エメロード姫自身の意思で行方をくらましたのである。むしろザガートは彼女の側でその宿命を憂い、彼女の自由を願っていた。
セフィーロを支える『柱』は、その役目ゆえに自殺することができない。『柱』の力は強大で、セフィーロの住人では太刀打ちできない。ゆえに『柱』に万が一のことがあった場合、『柱』を殺すために外の世界の人間を呼び出すというセーフティ――それが『魔法騎士』を召喚する魔法なのだ。ザガートへの思いが制御できなくなる前に、エメロード姫は光たちを召喚したのだった。
セフィーロを救ってほしいとは、エメロード姫自身を殺して欲しいということだったのだ。これまでザガートが執拗に魔法騎士三人に刺客を送り込んでいたのも、魔法騎士にエメロード姫を殺させないためだった。
嫌な言い方をすれば、光たちはエメロード姫を介錯するためだけに今まで戦ってきたのだ。だが、これまでお互いのため、セフィーロのため、すなわち他者のためを思いながら戦ってきた三人に、ザガートを思うエメロード姫の気持ちを否定できるはずがなかった。
ザガートを失い怒り狂うエメロード姫は、混乱する光たちにお構いなしに攻撃してくる。暴走するエメロード姫がもし世界の破滅を願ったなら、その願いの力でセフィーロは消滅するだろう。そうなる前に止めてほしいとエメロード姫は懇願する。光たちはエメロード姫の願いを受け止め、慟哭しながら彼女を倒す。宿命から解放されたエメロード姫はザガートの元へ旅立ち、眩しい輝きが広がっていく―。
気が付くと光たちは元居た場所―東京タワーに戻っていた。だが三人の心中は帰還の喜びよりもやりきれなさやいたたまれなさで溢れており、光は思わず
「こんなのって こんなのってないよ――っ!!」
この台詞のコマを最後に、魔法騎士レイアースの第一部は幕を閉じる。「こんなのってないよ――っ!!」と言いたかったのは当時の読者のほうかもしれない。
「セフィーロを救う」「東京に帰る」という物語の目的は果たせているものの、助けを求めた張本人を殺してしまうという非常に後味の悪い終わり方であり、ネットでレイアースの話題が出ると未だに高確率でこの展開や柱システムについて語られる。
TVアニメ版
TVアニメ20話にて原作同様東京タワーに帰還するのだが、この台詞の代わりに「もう一度セフィーロに行きたい もう一度セフィーロに行って、今度こそ柱であるエメロード姫が大切に育てたセフィーロの為に自分ができることをしたい」と願う台詞に変更されている。続く21話冒頭では、光はエメロードを殺してしまったことを夢でうなされており、その悪夢の中で嗚咽と共に「こんなのって こんなのってないよ......!」と呻くようにつぶやく―という風に改変されているため、原作とはシチュエーションや台詞のニュアンスがやや異なる。
叙述トリック
最後の最後にこれまでの前提が覆るという驚きの展開だが、実は「セフィーロを救ってほしい」「エメロード姫が姿を消した」といった断片的な情報が開示されているだけで、最初からエメロード姫は「ザガートに攫われた私(エメロード姫)を救出してほしい」などとは一度も言っていない。
- エメロード姫は「この世界を救って」「セフィーロを救って」と繰り返し言っているが、「ザガートから私を助けて」とは一言も言っていない。
- 風の「ゲームソフト」「RPG」というメタ発言によって、読者は「勇者が悪を倒してお姫様を救い出す」ようなファンタジー世界観だと錯覚させられる。
- 「ザガートがエメロード姫を攫った」と語った(推測した)のは導師クレフであり、エメロード姫自身は言っていない。
- 肝心なことを聞くと考えこんだりはぐらかしたりして教えてくれないクレフや魔神。
- エメロード姫の見た目は幼い少女なので救出対象にしか見えず、事件の元凶には全く見えない。
- ザガートは暗黒騎士みたいな格好してるためどう見ても悪役にしか見えず、エメロード姫の思い人には全く見えない。
- 真実を知っていたであろうザガートが光たちと直接会うのは終盤の一回だけなので、光たちに真実を伝えるタイミングが全くない。戦闘中にようやくエメロード姫の悲しい宿命について語るも、光たちは「あと一歩でセフィーロを救って東京に帰れる」ということに意識が集中しており、ザガートの言葉は届かない。
こういった断片的な情報から「ザガートという悪人に囚われたエメロード姫を助ければセフィーロが救われる」と解釈したのは光たちやクレフ(そして読者)であり、その解釈はエメロード姫の本当の願いとズレてしまっていたのだ。
関連項目
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