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エキノコックス(Echinococcus)とは、テニア科エキノコックス属に属する生物の総称である。
概要
サナダムシ(条虫)の仲間で、主に単包条虫や多包条虫などが知られる。特に後者はヒトに感染すると重篤な症状を引き起こし、国内でも話題に上がることが多いため、本記事では断りがない限り多包条虫(以下、エキノコックスと表記)について扱うものとする。
キツネやイヌなどイヌ科の動物が主な宿主であり、それらの糞と共にエキノコックスの虫卵が排泄される。それらの虫卵に汚染された生水や山菜などを介して、ヒトに経口感染する。
ヒトに感染すると後述するエキノコックス症(包虫症)を引き起こす。
分布
エキノコックスは北半球を中心に生息している。単包条虫も含めるとその生息域は全世界に及ぶ。
日本では北海道に多く生息していることがよく知られているが、元から生息していたものではなく、寄生虫に感染したキツネが礼文島に持ち込まれて人為的に広がったとする見方が一般的である。島内では徹底的に対策を行い感染は終息したものの、やがて北海道全土で感染拡大していることが判明。様々な対策を行うも成果が上がることなく、北海道に定着することとなった。
かつては国内において北海道にしか生息していないと考えられていたが、近年では愛知県などでも感染例が報告されており、本州においても分布拡大の兆しを見せている。
自然界におけるライフサイクル
前述のとおり、エキノコックスの成虫はキツネやイヌの腸に寄生しており、宿主の体内で虫卵が作られる。それらは糞と共に排泄されるが、野ネズミが餌と共にこの虫卵を摂取することで感染する。
野ネズミが虫卵を摂取すると肝臓に寄生し、幼虫として増殖する。この野ネズミをキツネやイヌが食べることでその体内に寄生、幼虫から成虫へと成長し虫卵が作られるようになる。
このように、自然界においては捕食者と被捕食者との間で循環が行われる。
なお、ヒトの体内はエキノコックスの生育に適しておらず、幼虫のまま増殖し虫卵が作られることはない。そのためヒトからヒトへの感染事例は過去に報告されていない。
エキノコックス症(包虫症)
エキノコックスによって引き起こされる病気。単包条虫によるものと多包条虫によるものが良く知られているが、特に多包条虫によるエキノコックス症は重篤な症状を引き起こす。
エキノコックスの卵がヒトの口に入ると主に肝臓に幼虫が寄生し、かなり長い潜伏期間を経て、やがて重大な肝機能障害を引き起こす。そのまま放置すると肺や脳にも転移し命にかかわる危険がある。
潜伏期間は5~15年くらいとされ、無自覚のままゆっくりと進行する。
日本の感染症法では4類感染症に分類され、全数報告が義務付けられている。
予防
最大の予防法として、まず虫卵を誤って摂取しないようにすることが重要である。
また、宿主となる生物に近づかないことも重要である。ペットのイヌを経由しての感染にも注意が必要である。なお、北海道のキタキツネは感染した個体の報告例が非常に多く、特に注意。
- 川や沢の生水は飲まない
- 野山で採れた山菜類はよく洗い、熱を通してから食べる
- 野山から帰ってきたら手をよく洗う
- キツネや野犬に近づかない
- 生ごみを放置したり、キツネにえさを与えたりしない
- ペットを野ネズミに近づけさせない
- ペットを放し飼いにしない
- ペットの糞を放置しない
診断
感染時の潜伏期間が長く、自覚症状が現れたときには治療困難となるため、早期発見が重要となる。血液検査を行い、血液中の抗体を調べることによりエキノコックスの感染歴があるかどうかを判断する。
流行地である北海道においては、エキノコックス検診の定期的な受診が呼びかけられている。
治療
早期に発見できた場合は病巣の切除を行い、治療が可能となる。しかし大抵は切除が困難な状態まで進行していることが多く、切除しなかった場合の致死率は9割以上とも言われる。
切除が困難な場合は投薬治療が試みられる場合もあるが、完全に有効な治療薬は未開発で、十分な成果は得られていない。
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関連項目
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