カエンタケとは…
本記事では1について説明する。
概要
ニコニコ大百科:菌類 カエンタケ |
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分類? | ボタンタケ目ボタンタケ科トリコデルマ属 | |
学名? | Trichoderma cornu-damae cornu-damae→鹿の角の |
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核菌綱 Pyrenomycetes? | ||
このテンプレートについて |
ボタンタケ科。学名Trichoderma cornu-damae。
かつてはニクザキン科ツノタケ属(Podostroma~)だったが、種の特徴を正確に表していないという反論からボタンタケ属(Hypocrea~)に変更され、その後ボタンタケ属がトリコデルマ属に統合されたため分類が変更されて現学名になった。
めちゃくちゃ乱暴に言うと、こいつは真っ当な種類のキノコというよりも、クロカビや麦角菌に近い仲間である。これを知っていれば、この時点であんまり食用に向きそうな素性ではないと思えるであろう。
汁を触るだけで皮膚がただれ、僅か一口[1]で人が死ぬこともある。
カエンタケは希少種で、江戸時代の文献には「大毒ありといへり」(「猛毒であるとのことだ」)と記述されていたものの、現実に猛毒きのことして一般に知られるようになったのはごく最近のことである(後述)。
傘を持たない棍棒状の独特の形状を持ち、その柄は時に1-2回枝分かれし、手指状とも形容される。その鮮やかな赤色とあいまってまさに、「火炎の如し」である。近年では白い色のカエンタケも発見された。ちなみに、中国語ではカエンタケの仲間は「肉棒菌」と呼ばれる。肉棒…。
中毒
熾烈な中毒症状を発生させることから、本種は時に殺人キノコとも形容される。
普通、どんな猛毒きのこでも(たとえドクツルタケでも)触るだけなら問題ないとされているが、このカエンタケだけは例外で、皮膚刺激性があるので汁を触るだけでも危ないといわれている。しかし、触った瞬間にただれるというわけではなく、汁に触れなければ問題ないともいわれている。実際に「触ってただれた」という例は報告されていないようだ(吐瀉物に触れたことが原因と見られる皮膚の炎症は報告されている)。
味は非常に苦い。口に含んでしまうと口の中がひどい口内炎になるといわれており、一口かじっただけで「後頭部を鈍器で殴られたようなショック」を受けたという体験談がある。
不幸にも食べてしまうと、嘔吐・腹痛・下痢などの消化器症状に次いで、全身の皮膚の糜爛(びらん)・呼吸困難・言語障害・白血球と血小板の減少・造血機能障害・多臓器不全といったきわめて多彩かつ致命的な中毒症状が発生する。その多彩さから「数え厄満」と揶揄されることもある。当然、致死率は高い。致死量は3~10gであるとされる。
僅か2-3日で死に至り、そうならない場合でもこれらの症状は1か月ほども続く。その上、回復しても小脳の萎縮による運動障害・脱皮・脱毛などの後遺症が残ることが多いというから、最凶の毒きのこにカエンタケを推す声があるのも頷ける。
そもそもこんな警戒色丸出しのきのこをなぜ口にしようと思ったか、という点であるが、ベニナギナタタケとの誤食や、おそらくカエンタケの存在を知らなかった人による事故が起こっている。食用のベニナギナタタケとは、それを実際に見たことがあればまず混同しないほどの違いがあるが、初心者が図鑑の写真だけで判断したら間違えることもあるのかもしれない。とりあえず、カエンタケの肉質がベニナギナタタケよりずっと硬いことで簡単に見分けられる(が、これにしてもベニナギナタタケの固さを知らなければ判別の材料にはならないであろう)。
本種が有毒であることが発覚した実際の誤食事故は、ある旅館に物珍しさから飾られていた本種を、酔った宿泊客が勝手に酒浸しにして摂取したというものであったという。摂取した5名はキノコ本体を摂取した訳ではないにも関わらず激烈な中毒症状に見舞われ、うち1名は治療の甲斐なく死亡した。2016年現在、分かっているだけで日本では6例の誤食事故が起きており、10名が中毒を発症、うち2名が犠牲になっているという(実際には本草図譜の記述から、過去にさらに犠牲者が出ているものと考えられる)。
毒成分としてはトリコテセン類を6種類(ロリジンE、ベルカリンJ(=ムコノマイシンB)、サトラトキシンHとその酢酸エステル3種)含んでいることが判明し[2]、これらに致死的な生理活性があると考えられている。トリコテセン類というと、主にフザリウムというカビが含むことで知られているが、フザリウムの毒にもカエンタケを思わせる情け容赦のない性質が窺えるので納得である。例えば、F・スポロトリコイデスが産生するトリコテセン類のT-2トキシンはATA症(食中毒性無白血球症)を引き起こすが、骨髄の造血機能が徹底的に破壊されて致死率は30-80%である。カエンタケの中毒症状にも造血機能障害がある。
発生傾向
このように激烈な中毒症状を発生させ、その強すぎる毒性で半ば都市伝説になっている本種であるが、その毒性の強さに反して中毒例はさほど多くない(上記の通り誤食事故6例、中毒者のべ10名)。無論その見た目の禍々しさから口にすることを躊躇っている人間も少なくないと思われるが、どちらかと言えば本種自体の発生が稀であることが理由としては大きいであろう。
しかしながら、レア種であるからと言って安心は出来ない。
近年、レア種である筈の本種が大発生する事例が見られるという。その原因として、樹木が大量に枯死する「ナラ枯れ」の発生が指摘されている。ナラ枯れは「カシノナガキクイムシ」という寄生虫が樹木に寄生することで媒介されるが、このナラ枯れで枯死した樹木に、本種が好んで発生する傾向があるという(カシノナガキクイムシが本種を媒介している訳ではない)。実際にナラ枯れの発生が確認された地域と、本種の発生が確認された地域を地図で重ね合わせると、しばしば重なりあうことが分かっている。
カシノナガキクイムシの大発生の原因については諸説あるが、樹木を燃料として使わなくなったことや、管理を行う人間が居なくなったこと等による里山の荒廃が原因である、とする説が有力であるという。森林はある程度人によって整理された方が健全な状態を保てる場合がある。無論無闇矢鱈と伐採することや、過剰に管理することを推奨する訳ではないが、ナラ枯れとカエンタケの大発生は、人と里山との付き合い方というものを再考すべきである、とする、自然からの警告であるのかも知れない。
なお、最新の研究によれば、どうも木材腐朽菌等ではなく、他の菌の菌糸に寄生して栄養を一方的に奪う菌寄生菌であるらしいことが判ってきている(ボタンタケ属のキノコに多い特徴であるという)。前出のナラ枯れとの関連にしても、ナラ枯れ菌(ラファエレア・クエルキボーラ)に対して寄生するキノコであるのなら説明がつくと言えよう。
2019年には、太平洋を隔てたオーストラリア大陸でも本種が発見されている。この事は、「まだ確認されていないだけで相当の広範囲にカエンタケの分布がある」可能性を裏付けるものとして、従来日本や朝鮮といった温暖なアジア地域のみの分布と考えられていた本種の生息域を著しく拡大するものと考えられている。
自生発見時の対処法
もし自らの所有している敷地や山林などでカエンタケが自生しているのを発見した場合、決して触らず、速やかに最寄りの保健所などに連絡するのが望ましい。
素手で触らずに分厚い手袋で摘み取り、地中に埋めるという方法も存在するが、これで完全に対処出来る訳ではなく、直ぐにまた生えて来る事が殆どなのだという(キノコは土中や木中に蔓延る菌糸こそが本体であるため、地上に出てきている部分=子実体を除去しても焼け石に水である)。
危険なので、決して自分一人で解決しようとは思わないように。
関連動画
関連項目
脚注
- *2-3cmを食べた死亡例があり、重さにして約10gが致死量といわれている。
- *Yoko Saikawa et al. (2001). "Toxic principles of a poisonous mushroom Podostroma cornu-damae" Tetrahedron 57:39 http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6THR-43T2NJG-4&_user=10&_rdoc=1&_fmt=&_orig=search&_sort=d&_docanchor=&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=9a851b9f250c57886d634b0d38d7467f
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