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正式名称は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律。
概要
かつては伝染病予防法と呼ばれていたが、伝染病予防法に含まれていなかったエイズや性病、結核についても対象とすることとなった。
各感染症を社会的悪影響が大きいと考えられる順番に一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症という感じでグループ別に分けているのが特徴である。また、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症という区分もある。
感染症の分類
一類感染症
感染力や致死率が非常に高く、社会的悪影響が非常に大きいと考えられている疾患のグループ。
患者(疑似症患者や無症状の感染者を含む)を強制的に指定された病院に隔離・入院させることができる他、場合によっては病原体に汚染された建物に入ることを原則禁止にしたり、発生した都市自体を封鎖すること(ロックダウン)も可能になる。
以下の7疾患が該当する。
ちなみに天然痘とペスト以外はウイルス性出血熱に含まれており、ペスト以外は全てウイルス感染症である(ペストのみ細菌感染症である)。
二類感染症
一類感染症ほどではないが社会的悪影響が大きいと考えられている疾患のグループ。
一類感染症と同様に患者を強制的に隔離することが可能となるが、一類感染症と異なり無症状感染者の隔離やロックダウンはできない。また、ジフテリアとポリオについては疑似症の患者に対しては適用されない。
以下の7疾患が該当する。
このうち、SARS・MERS(ともにコロナウイルスが原因)、鳥インフルエンザ、ポリオはウイルス感染症であり、結核とジフテリアは細菌感染症である。
主に「飛沫感染する(結核は空気感染もある)」「発熱と咳が主な症状である」「致死率が高い」などの特徴がある。
ちなみにSARSはかつては新感染症や一類感染症に指定されていたこともあった。
三類感染症
一類感染症や二類感染症ほどではないが社会的悪影響が大きいと考えられている疾患のグループ。
患者を強制的に隔離することはできない(ただし、症状が重くて入院が必要な場合はある)が、治るまで会社(職場)や学校に行くことを禁止するという措置が可能となる。また、病原体に汚染されたモノ(食べ物など)を消毒したり廃棄することも可能となる。
以下の5疾患が該当する。
このうち腸管出血性大腸菌感染症以外の4つはかつては二類感染症だったが、2007年から三類感染症に変更された。
「主に食べ物や飲み水から感染する(食中毒)」「感染力が強く、人から人にうつりやすい」「下痢が主な症状である(ただし腸チフスとパラチフスでは下痢がみられないこともある)」「重症化しやすく致死率が高い」などの特徴がある。また、全て細菌感染症である。
四類感染症
主に動物や昆虫、食品などが媒介する感染症が該当するグループ。
人から人にうつることが少ないため社会的悪影響はあまり大きくないと考えられている。しかし中には狂犬病や黄熱病、炭疽症などのように致死率が非常に高い病気もあり(特に狂犬病は致死率ほぼ100%である)、決して侮ることはできないのである。また、炭疽菌やボツリヌス菌のような生物兵器として使われる危険性が高い病原体も含まれている。
必要な措置としては「病原体に汚染された場所の消毒」「感染源となった動物や昆虫の駆除」などがあげられる。
- 食中毒系…A型肝炎、E型肝炎、ボツリヌス症など
- 哺乳類(犬、猫、コウモリ、ウサギ、齧歯類など)が媒介する感染症…狂犬病、腎症候性出血熱(ハンタウイルス感染症)、サル痘(エムポックス)、炭疽症、野兎病、レプトスピラ症(ワイル病)など
- 鳥類が媒介する感染症…鳥インフルエンザ(H5N1型とH7N9型を除く)
- 蚊が媒介する感染症…マラリア、デング熱、ジカ熱、黄熱、ウエストナイル熱、日本脳炎、チクングニア熱など
- ダニが媒介する感染症…重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、日本紅斑熱、ツツガムシ病など
- その他…レジオネラ肺炎(温泉・銭湯などで感染することが多い)、コクシジオイデス症(真菌・カビが原因の病気としては唯一の四類感染症)
五類感染症
社会的悪影響が最も低いと考えられている感染症のグループ。インフルエンザやノロウイルス胃腸炎など日常的に見かける感染症や性感染症(性病)などが該当する。ただし中にはエイズのように有効な治療法が無い病気や、破傷風・劇症型溶連菌感染症(人食いバクテリア)・髄膜炎菌性髄膜炎のような致死率が非常に高い病気もあるため、油断は禁物。
また、後述するが、五類感染症の中でもさらに全数把握疾患と定点把握疾患に分かれている。
- 季節性インフルエンザ
- 2019年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)…かつては二類感染症相当の指定感染症だったが、2023年に五類感染症(定点把握疾患)に格下げとなった。
- RSウイルス感染症
- アデノウイルス感染症…プール熱(咽頭結膜熱)、流行性角結膜炎、胃腸炎など
- 麻疹
- 風疹
- おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
- 水痘(水疱瘡)
- B型肝炎、C型肝炎
- 後天性免疫不全症候群(エイズ)
- ウイルス性胃腸炎…ロタウイルス、ノロウイルスなど
- 百日咳
- 髄膜炎菌性髄膜炎
- 溶連菌感染症
- マイコプラズマ肺炎
- 梅毒
- 細菌性腸炎…カンピロバクター、サルモネラ菌、腸炎ビブリオなどによる食中毒
- メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
- バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)感染症
- アメーバ赤痢
- クリプトスポリジウム症
新型インフルエンザ等感染症
インフルエンザやコロナウイルス感染症のうち、新型のウイルスや(昔流行したがしばらく流行せず)再び流行することとなったウイルスによるものが該当する。
多くの国民が免疫を持っていないため重症化しやすく、社会的悪影響が大きいと考えられており二類感染症とほぼ同等の措置が必要であると考えられている。
以下の4疾患が該当する。
指定感染症
既に知られている感染症のうち、「ウイルスが新型になった」などの理由により一類感染症・二類感染症・三類感染症のいずれかとほぼ同等の措置が必要であると判断された疾患のこと。
過去にはSARSが一類感染症相当の指定感染症に、鳥インフルエンザ(H7N9型)・MERS・COVID-19が二類感染症相当の指定感染症に指定されていたこともあった。
新感染症
未知の病原体による感染症で感染力や致死率が非常に高く、一類感染症とほぼ同等の措置が必要であると判断された疾患のこと。
かつてはSARSが新感染症とされていたこともあった(後にウイルスが特定されたため、指定感染症に変更)。
報告義務
一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症は全数把握疾患となっており、該当する感染症の患者を診断した医師は直ちに(24時間以内に)最寄りの保健所に報告しなければならない。
五類感染症については該当する感染症の患者を診断した医師は7日以内に保健所に報告しなければならない(ただし髄膜炎菌感染症・麻疹・風疹の3疾患は直ちに報告しなければならない)。
また、五類感染症の多くは定点把握疾患(全ての医師に報告義務があるわけではなく、一部の病院のみに報告義務がある疾患)となっているが、中には全数把握疾患となっているものもある。
- 麻疹…直ちに報告。
- 風疹…直ちに報告。
- 急性脳炎…四類感染症(ウエストナイル熱、日本脳炎など)を除く。
- ウイルス性肝炎…四類感染症(A型肝炎、E型肝炎)を除く。
- 後天性免疫不全症候群(エイズ)
- 髄膜炎菌感染症…直ちに報告。
- 百日咳
- 劇症型溶連菌感染症
- 破傷風
- 梅毒
- アメーバ赤痢
- クリプトスポリジウム症
- ジアルジア症
特定病原体等
感染症法では特定病原体等と呼ばれる一部の病原体(ウイルス、細菌、真菌・カビ、原虫)や毒素に対して所持の制限や厳格な管理を要求しているものもある。
特定病原体は危険度が高い順番に一種病原体等、二種病原体等、三種病原体等、四種病原体等というようにグループ分けされている。
一種病原体等
感染力や致死率が非常に高く有効な治療薬も存在しないため、社会的悪影響がきわめて大きいと考えられている病原体。原則、所持することを禁止している。
以下の病原体が該当する。ちなみに全てウイルスであり、ペスト以外の一類感染症の病原体である。
二種病原体等
感染力や致死率が非常に高く、社会的悪影響がとても大きいと考えられている病原体。所持する場合は厚生労働省の許可が必要となる。
以下の病原体と毒素が該当する。主にバイオテロに使用される危険性が想定されている病原体等が含まれている。
三種病原体等
感染力や致死率が高く、社会的悪影響が大きいと考えられている病原体。所持する場合は厚生労働省の許可が必要。
など。
四種病原体等
所持に関する制限は特に無いが、厳格な管理が要求される病原体。
- インフルエンザウイルスのうち、H2N2型(アジアかぜを引き起こしたタイプ)
- 鳥インフルエンザウイルスの一部…H5N1型、H7N7型、H7N9型
- 新型インフルエンザウイルス
- 2019年新型コロナウイルス
- ポリオウイルス
- デングウイルス
- 黄熱ウイルス
- ウエストナイルウイルス
- 日本脳炎ウイルス
- 結核菌(多剤耐性結核菌を除く)
- コレラ菌
- サルモネラ菌のうち、腸チフスやパラチフスを引き起こすもの
- 赤痢菌
- 腸管出血性大腸菌(O157、O111など)
- クリプトスポリジウム
- ベロ毒素(赤痢菌や腸管出血性大腸菌が産生する毒素)
など。
関連動画
関連項目
- 病気(疾患)
- 感染症
- 医学記事一覧
- 法律に関する記事の一覧
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