- ドイツ語の人名。エミールとも訳される。
- ドイツの小説家ヘルマン・ヘッセの小説の登場人物。
- ドイツの児童文学家エーリヒ・ケストナーの小説『エーミールと探偵たち』、『エーミールと三人のふたご』の登場人物、
エーミール・ティッシュバイン。ノイシュタットに住む少年。 - 田中芳樹による小説『銀河英雄伝説』の登場人物。
- エミール・フォン・レッケンドルフ - オスカー・フォン・ロイエンタールの副官。
- エミール・フォン・ゼッレ - 主人公ラインハルト付きの従卒を務める少年。
- ゲーム、「ゴッドイーター2」の登場人物。エミール・フォン=シュトラスブルク。
- ゲーム実況グループ「○○の主役は我々だ!」の1人。
あらすじ
語り手である「わたし」のもとを訪れた友人の「僕」が、蝶の標本を見せられたことを切っ掛けに少年の頃の思い出を話す。
エーミールはその思い出話の登場人物。
エーミールは「僕」の家の中庭の向こうに住む先生の息子である。非の打ちどころがなく(「僕」はこれを悪徳と表現)、あらゆる点で品行方正な模範生であり、さらに蝶の展翅について優れた技術も持っていた。
そんなエーミールを貧しい家庭の「僕」は感嘆しながらも妬み、憎んでいたのだという。実際、物語の中で「僕」の悪印象があってか、エーミールは非常に感じの悪い(しかし軽蔑しようの無いほどに完璧な)少年として語られている。
「僕」は蝶の収集に情熱を燃やしていた十歳ぐらいの頃、珍しい青いコムラサキを捕える。その展翅したコムラサキをエーミールに見せるのだが、その珍しさを認めながらも、「僕」の展翅についてこっぴどい批評を食らってしまう。
二年後、「僕」が最も熱烈に欲しがっていたクジャクヤママユ(ヤママユガ科クスサン属(Saturnia)の蛾)をエーミールが蛹からかえしたと聞き、エーミールの部屋を訪ねる。エーミールの不在から「僕」は誘惑に負けて展翅中のクジャクヤママユを盗み出してしまう。直後に良心と不安から戻そうとするのだが、その時にはクジャクヤママユはポケットの中で潰れてしまっていた。エーミールは必死に修復するが、どうにもならなかった。
耐えきれず罪を打ち明けた母の勧めもあって、「僕」はエーミールに自分の罪を告白し、侘びとして大切な自分の蝶を全て差し出すと提案する。だが、エーミールは激することもなく、ただ息をひとつ鳴らして「僕」を冷淡に軽蔑した。
「そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。」
「結構だよ。僕は、君の集めたやつはもう知ってる。そのうえ、今日また、君がちょうをどんなに取りあつかっているか、ということを見ることができたさ。」
蝶の収集を自ら穢してしまった「僕」がその夜、自分の蝶を全て、手ずから潰してしまうところで話は終わる。
※ちなみに、特に印象深い「そうか、そうか~」の部分はネット上でもよく触れられるが、表記ゆれが多い。「きみは」「君は」、「やつ」「奴」と、ひらがな/漢字であったり、「そういうやつ」「そんなやつ」とわずかに言い回しが異なっていたりする。
日本において
この『少年の日の思い出』(Jugendgedenken, 『少年の日』『少年時代』の邦題もあり)は日本人の認知度が非常に高い作品である。
この短篇はもともとヘッセが1911年に発表した『クジャクヤママユ』(Das Nachtpfauenauge)を、地元ヴュルテンベルクの地方紙向けに1931年に改稿したもの。
同年に留学中の独文学者・高橋健二(一般にはヘッセやケストナーの翻訳で知られる)がスイスにてヘッセを訪問した折、帰り際に道中の無聊を慰めるよう同紙の切り抜きを手渡された。それを翻訳して日本で発表したものが『少年の日の思い出』である。
それが1947年の国定教科書『中学国語』に掲載されて以来60年以上も過半数の教科書に掲載され続け(当項目の引用も高橋訳)、多くの日本人が義務教育課程でトラウマを背負い込む目にすることになったのである。
なお、蛾の名前は改訂の度に「白蛾太郎」「楓蚕蛾/ふうさん蛾」「ヤママユガ」と変化し、最終的に標準和名に沿った「クジャクヤママユ」に落ち着いた。
本国ドイツでは初稿の Das Nachtpfauenauge の方が有名。日本では高橋健二の弟子にして日本昆虫協会副会長および日本蝶類学会理事を務める岡田朝雄による厳密な学術考証を踏まえた翻訳『クジャクヤママユ』が三省堂の教科書に採用されている。
『クジャクヤママユ』では「僕」にハインリッヒ・モーア(Heinrich Mohr)という名前があったり、エーミールがクジャクヤママユを成体で捕獲したことになってたりと細部が色々と異なる。つまり『少年の日の思い出』は「僕」を名前変更可能無名にすることで読者の自己投影がより深まり、またエーミールが蛹から育てることで彼にとってのクジャクヤママユの価値がプライスレスになったりと、改稿前と比してトラウマ度がいっそう増していると言えるだろう。
もちろん教養小説(ビルドゥングスロマン)としてもさることながら、かつてはカール・マルクス的な階級闘争を踏まえた政治的視点など、当時からさまざまな読み方がなされてきた。現代的な視点ではオタク文学の元祖と視ることも可能かもしれない。
ニコニコ動画において
この作品の高い知名度ゆえか、動画内において蝶や蛾の標本など(時には生きている場合でも)が登場すると「エーミール」のコメントが流れることがままある。登場するだけで流れることもあるが、ゲーム動画によっては標本が仕掛けの一つとなっている場合もあり、主人公が勝手に持ち出す様子が小説のシーンを強く想起させるものと思われる。
くれぐれも現実において人の物を盗んだり、壊したりしないこと。何よりも他人に嫉妬し憎悪しないこと。
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