ファロール(Pharol)とは、C・L・ムーアのスペースオペラ小説『ノースウエスト・スミス』シリーズで言及される異星の神。クトゥルフ神話に取り入れられたことで数奇な運命を辿ることになる。
概要
二つ名は、ブラック・ファロール/暗黒のファロール(ファロル)、ファロール・ザ・ブラック (Black Pharol/Pharol the Black)。
スミスの相棒のヤロールは金星人で、いかがわしい暗黒信仰の魔神としてシリーズ中たびたびファロールに言及している。シリーズ第1作の『シャンブロウ』(1933)で既に名前が挙がっていた。
もっとも、これに信心を示す者はもはやいないらしく、「ガッデム!」並みに軽い感じで使うことが多かったが。
『神々の遺灰/神々の塵/Dust of Gods』 (1934)[1]では、ノースウエスト・スミスとヤロールは、謎の小男からファロールの遺灰を手に入れて欲しいと依頼を受ける。
現在は小惑星帯になっている失われた惑星で信仰されていた三神のうちで最も強大な存在であったファロールは、肉体を失い去った後にもその名残である塵を残していった。それを使って神をよみがえらせた者には全知全能が与えられるというのだが…
この作品では、残りの2神、セーグ/サイグ(Saig)とルサ(Lsa)についても言及される。 しかし、火星の神殿跡で神々の玉座にたどり着いたスミス達は、これら2神が文字通り塵一つ残さず消え去っていることに気づくのだった。
のちにムーアと結婚することになるヘンリー・カットナー[2]は、クトゥルフ神話小説『ハイドラ/ヒュドラ/Hydra』(1939)にて暗黒のファロル/ブラック・ファロールの名に言及した。
この時点のファロールには詳しい情報はない(小男も本来の姿は知らないと自分で言っていた)。
かつての肉体[3]は暗黒そのものとして顕現していたこと、その神殿は、狂気をもたらす生きた光と暗黒の番人達に守護されていることだけが語られた。
発展と変貌
リン・カーターは、『シャッガイ/Shaggai』(1971)で、クトゥルフ神話世界によりふさわしい姿へとファロールの「リメイク」を行った。こんな奴どうでもいいからシャンブロウを神話世界に輸入してくれ…
魔術師エイボンが「角度のあるこの宇宙より遙か彼方にある超宇宙の深淵」…ティンダロスの猟犬「その設定、逆じゃね?」…より召喚した魔神という設定で、のたくる蛇のような腕と牙を備えた、巨大な黒い怪物の姿をとっていた。大変強情な性格で、拷問系の魔術でいくら脅しつけられても最初に述べたこと以上の追加情報を決して出そうとしなかった。
『クトゥルフ神話カルトブック エイボンの書』(原書2001)に再録された際には、リチャード・L・ティアニーの詩『ファロールの召喚/The Summoning of Pharol』が書き下ろされた。ここではファロールが単眼で、炎を纏っているという追加情報が示された。
炎の魔物という点では、クラーク・アシュトン・スミスの『アヴェロワーニュの獣』に登場したエイボンの指輪に封じられた魔物から影響を受けているのかもしれない[4]。
クトゥルフ神話TRPGのクリーチャー図鑑『マレウス・モンストロルム』(原書2006)では、この炎の特徴が更に強調されており、この旧支配者が歩いた場所は焦げて黒くなり、触れた可燃物は発火する。燃え移ったものはともかく、ファロール本体を包む炎を消す方法はない。また、6本もの腕…というか触腕を持っているのも特筆もの。
人間を生きながら黒焼きにして生贄に捧げる教団の設定が作られたのもこの時である。
新バージョンである第7版に対応した『新クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム Vol.2 神格編』(原書2020)での闇の旅人(Dark Traveler)ファロールは、我々の世界とは別の次元の住人で、旧き神の封印に束縛されていないと追加設定された。先に述べたカルト教団には改めて教団名が設定されたが、どうやらファロールご本尊の召喚がまともに成功しないらしい。この体たらくでは彼らのお先は真っ暗である。
ブラウザゲーム『神姫PROJECT』でイラスト集の書籍付録として登場した神姫ファロールは、闇属性の銃使いで、バースト攻撃にはムーアの小説に直接関係する用語が使われている。
なお、原作小説の主人公ノースウエスト・スミスの愛用武器は熱線銃。
これだけ設定を弄くり回されてもブラックという属性を維持し続けているのは、かえって凄い事ではないだろうか?
謎の小男「ついにファロールをここに甦らせたぞ! さぁ、星々を滅ぼす方法を私に教えるのだ!」
ファロール「それはピラミッドに棲むものに問うがよい」
小男「えぇ~… (´・ω・`)」
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関連項目
脚注
- *『~遺灰』が論創社版、『~塵』がハヤカワ文庫。どちらも仁賀克雄訳
創元SF文庫の市田泉訳も『~塵』としている - *中村融は両作家の短編集にそれぞれ巻末解説を書いており、「ミスター」C・L・ムーアへファンレターを送ったカットナーが「ミス・キャサリン・ムーア」から返事が来て仰天したというエピソードを紹介している(『大宇宙の魔女(新訳)』と『ロボットには尻尾がない』に収録)。
二人の仲の進展には実はラヴクラフトも関わっている。S. T. ヨシによれば、ラヴクラフトはカットナーに「この写真同封しとくから後でムーアさんに渡しといて」という手紙を1936年に送っているのだ。縁結びのキューピットにして愛の職人・ラヴクラフト! - *旧訳ではねじれた人間のような形だと書かれていたが、市田泉による2021年の新訳によれば、これはファロールを信仰していた往古の異星人の姿なのだそうだ。神そのものは直視できず姿は不明
- *これはウィアード・テールズに掲載された短縮版での設定で、 オリジナルにあたる初稿版ではこの魔物は直接姿を現すことはない。『ナイトランド叢書 魔術師の帝国《3 アヴェロワーニュ篇》』に掲載されているのが初稿版で、『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』と『イルーニュの巨人』に掲載されたのが短縮版である。
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