元農水事務次官長男殺害事件とは、2019年6月1日に発生した殺人事件である。ネット上では「英一郎の事件」と言った方が伝わりやすいだろうか。
概要
かつて農林水産事務次官を務めた元エリート官僚である76歳の父親が、44歳無職の息子を殺害した事件。ほとんど引きこもり状態で両親に暴力をふるう息子の今後を悲観した父が、息子に引導を渡した事件として話題になった。引きこもりの高齢化(いわゆる8050問題)への一石を投じた事件でもある。
殺された被害者はともかく、殺人を犯した父の方にも同情が集まるという稀有な事件である。
背景
殺害されたのは熊澤英一郎(当該記事も参照)。犯人は父の熊澤英昭であった。
英一郎は子供の頃からあまり友人もおらずいじめられがち、一方でゲームに非常にハマっていた。しかし母はいわゆる教育ママで、英一郎が勉強せずにテレビゲームに熱中しているのを見た母は息子のプラモデルを勝手に捨てた。これに英一郎はキレて母に暴力をふるうようになったという。後年twitterでも母のことを「愚母」と呼び「真っ先に殺したい」と投稿している。家庭内暴力をふるう一方、プラモデルを捨てられない為にいやいや勉強していた。また、歳の離れた妹のことも嫌悪していた。一方、父親のことはかつては尊敬していたようだが、エリート街道をゆく父と挫折した英一郎の間には自然と溝が生まれていったようである(twitter等では父の権威をひけらかしていたが)。
やがて英一郎は家を出て母所有の家で一人暮らしをしていたが、2008年からは無職となって一切働かず、親の金を頼りに生活し、オンラインゲームにのめり込むようになる。かなりの重課金プレイヤーだったようだ。その一方で精神疾患を患い、発達障害・アスペルガー症候群と診断されていた。事件の5年前くらいにはコミケでイラスト集販売を行っており、父が一緒に売り子をしてくれるなど、父はなんとか英一郎の心が好転するよう父なりに行動していたようだ。
そして不幸なことに、引きこもりの兄・英一郎の存在から妹の縁談話がことごとく消え(報道によれば英一郎が縁談相手に対して嫌がらせや金の無心、ネット上での誹謗中傷などを行っていたという)、精神を病んだ妹は5年ほど前に自殺してしまった。
家庭内暴力と殺人へ
2019年5月25日、事件の1週間前、約20年ぶりに英一郎が実家に戻ってきた。英一郎は両親の前で「(自分の)44年間はなんだったんだ」と号泣する。思えばこれが最後のヘルプだったのかもしれない。これに対し父は「(一人暮らししていた家の)ゴミを片付けないとな」と言ったが、英一郎にとってはこれは間違った回答だったのだろう。突如「お前らエリートは俺をバカにしている!」と叫び、父の髪を握ってテーブルに頭を叩きつけ「殺してやる!」と絶叫。これで親子関係は完全に壊れ、その後も両親に対する家庭内暴力が頻発するようになった。母はこうした状況に耐えられず鬱病になったという。
そんな状況で事件当日を迎える。この日、近所の小学校が運動会を行っていたため騒がしく、これに英一郎は「うるせーな、子供ぶっ殺すぞ」と不穏な言葉を発した。父曰く「本当に殺されると思った」というほど英一郎は殺気立っていたそうだ。それを見た父は、3日前に50代の引きこもり男性が起こした『川崎市登戸児童連続殺傷事件』を思い起こし不安を覚えると、そのまま無意識に包丁を手に取り、ゲームにふける英一郎をめった刺しにして殺害した。その後自ら110番通報して逮捕される。
裁判
2019年12月、第一審は懲役6年の実刑が言い渡された。その後、実刑判決としては異例の保釈が認められた(保釈金は500万円)。控訴審は一審を支持して罪は変わらなかった。
同じ2019年には池袋高齢者ドライバー暴走事故も発生しており、『上級国民』というワードがこの事件にもまとわりつくようになった。しかし英一郎の働きもせずに、親のカードでゲームに32万円課金したと自慢する等の言動に嫌悪感を抱き、家庭内暴力や妹の自殺なども加わって父に同情する声もまた多く、難しい話である。
英一郎とネット
殺害される際に英一郎はオンラインゲームであるドラゴンクエストXをプレイしていた。そして英一郎のアカウントはログインした状態のまましばし放置されることになる。これが話題になると、見物したりザオラルをかけたりするプレイヤーが続出し、一種の祭り・悪ふざけと化した。なお翌6月2日にはログアウトされて消えた。
彼はtwitterでも「自分はリアル貴族」等と発言していた。父の威光で威張り散らしたと思ったら、母を殴った事を武勇伝のように語るなどしている。
こうした子供のような言動でネットゲーム界隈では良くも悪くも有名人だったとされている。
関連項目
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