海防戦艦(かいぼうせんかん)とは、軍艦の一種である。英名Coastal Defence Ship。
概要
戦艦に比してかなり小さく、せいぜい重巡洋艦程度の艦体に戦艦レベルの巨砲を搭載し、もっぱら海岸防衛を目的とした艦を指す。装甲海防艦などと呼ばれることもあるようだ。いわば、近代のモニター艦が大型化した感じである。
ここで重要なのは前述の「もっぱら海岸防衛を目的とし」ている点である。
外洋航行を考えず、あくまで大型艦の侵入しにくい海岸域での火力確保を目的としているため、モノホンの戦艦とガチで撃ちあうような艦体を持たせる必要はない。さらにさほど守るべき水域の広くない海軍であれば航続力、居住性といった大海原で船旅を続けるのに必要なものすらバッサリ切り落として小さくでき、いろいろと安上がりにすむのである。
戦艦レベルの巨砲といっても、前弩級戦艦の20cm、25.4cmからせいぜい弩級戦艦の30.5cmくらいまでの戦艦のものであり、それも最大4基程度と搭載数が少なく上記のように外洋で撃ちあうことは考えていない。モニターらしく、あくまで沿岸に侵入してくる中型艦を火力で圧倒するのが目的といえる。
残念ながら第二次世界大戦における大きな戦術の変化や技術革新についてゆけず、海防戦艦は戦後姿を消した。
昨今の「沿海域戦闘艦」あたりは沿岸での戦闘力確保という点では似ている……かもしれない。
現代日本ではその名前ゆえ、巡洋戦艦などと同じように戦艦、ないしはそれに準ずる一種と扱われることもあるが、英名にBattleshipのBattleの文字が入っていないことからもわかるように、正確には戦艦と言いがたい。
つまり、「海防/戦艦」というより「海防戦/艦」と読むほうが正しいといえるだろう。
ちなみに、イギリス海軍のフューリアスは海岸防衛目的ではない超々巡洋艦なので海防戦艦ではないと思う。
海防戦艦を使用した海軍
戦艦っぽい能力と巡洋艦レベルの動かしやすさ、というわけで、基本的に中小国海軍が海防戦艦を採用した。
大国でも、巨大な海軍を持たないか、あるいは持つ必要のない国家が一次大戦あたりまで使用している。
日本に海防戦艦の類別は無かったが、作ったことはある。後述。
また、外洋航行を考えていないため地中海、バルト海といった内海で使われることが多かった。
地中海で使われた例
- フランス海軍
主に地中海でイタリア海軍に対抗するため、 27cm砲を単装二基搭載したエミール・ベルタンの傑作<アンリ4世>などを建造。ブウィーヌ級など、30.5cm砲を搭載しているものもあった。 - オーストリア=ハンガリー帝国海軍
海軍というイメージが薄いK.u.Kだが、アドリア海の海岸防衛のため、24cm単装砲を前後二基配置したモナルヒ級を3隻建造した。単装砲艦にも関わらず戦艦扱いされることもある。 - ギリシャ海軍
27.4cm砲を三門搭載したイドラ級を3隻、フランスで建造している。
バルト海・北海で使われた例
- ロシア海軍
25.4cm砲を連装二基搭載したアドミラル・ウシャコフ級海防戦艦を3隻建造。3隻ともバルチック艦隊に所属し、海防戦艦でありながら長駆、日本まで遠征して日露戦争に出征する。結果1隻が日本海海戦で失われ、残りは日本に鹵獲されて海防艦として使用された。 - スウェーデン海軍
21cm単装砲を二基積んだ<オスカル二世>などを保有。28.3cm連装砲を二基積んだスヴァリイェ級3隻は近代化改装を経て弩級戦艦のような威容を誇り、最長で50年代後半まで使われた。 - デンマーク海軍
24cm単装一基の<スキョル>や15cm速射砲10基という特異な<ニールス・ユール>を建造。
後者はドイツの侵攻に際し脱出を試みたが失敗し、練習艦<ノルトラント>となった。 - ノルウェー海軍
20.8cm砲を積んだハーラル・ホールファグレ級やノルゲ級を建造。
中には第二次世界大戦でドイツ海軍と戦い沈んだ艦もある。 - フィンランド海軍
25.4cm連装二基を積んだ超重巡洋艦とも言うべきイルマリネン級海防戦艦を2隻、建造した。かわいい。
海防戦艦には珍しい連装砲の採用、それに真ん中の高いマスト!とにかくかわいい!
航続距離は700海里とすさまじい割り切りぶりで、イギリスに行く時は曳航されていったとか。 かわいい。
それ以外の例
- オランダ海軍
24cm砲を単装二基設置したコーニンギン・レゲンテス級海防戦艦や28.3cmを同様に配置した<デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン>などを保有し、おもにインドネシアの沿岸防衛に供した。後者は太平洋戦争で戦没している。 - タイ王国海軍
日本に発注したトンブリ級海防戦艦を2隻使用していた。うち<トンブリ>の艦橋構造物と砲塔は取り外されて現在もタイ王国海軍兵学校の校庭に設置されており、戦前日本が設計した軍艦の貴重な遺産だったりする。 - アルゼンチン海軍
一次大戦前、南米で地味にブラジル、チリと建艦競争を繰り広げていたアルゼンチンは24cm単装二基を積んだインデペンデンシア級を二隻保有していた。1892年就役で一応1968年まで生き残ってたスゴイヤツである。
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