「現代仮名遣い」とは、1986年(昭和61年)に内閣によって告示された、日本語の仮名表記の規範。
1946年(昭和21年)に内閣より告示された「現代かなづかい」の曖昧な箇所を幾分明確化すると共に、改めてその意義を世に示したものであり、この両者に本質的な差異は無い。よって当項目では必要な場合を除き「現代仮名遣い」と「現代かなづかい」を特に区別せずに説明する。また、その経緯上「歷史的假名遣」にも若干触れる。
概要
日本語には「ある言語を正しく記述するために定められた厳格な規則」である正書法(orthography)が制定されていない。しかし、公的文書や新聞・出版物にこうした規範が適用されることで一般大衆にもそれが広く浸透し、法的拘束性は無いものの一種の慣習法のように実質的な意味において正書法(の一部)として機能しているといえる。
現代仮名遣いは明治期から第2次世界大戦まで広く通用していた「歷史的假名遣」に対する批判から生まれた部分があり、歷史的假名遣の最大の欠点であった綴りと音の対応性の向上がその大きな特徴である(ただし、ここでいう音とは音声ではなく音韻のこと。 /おう/ という音韻は「オウ」とも「オー」とも「オオ」とも発音され得る)。
- 多くの煩雑な同音異綴を統一(例: 「じやう」「じよう」「ぢやう」「ぢよう」「ぜう」「ぜふ」etc... → 「じょう」)
- 捨て仮名(「っ」などの小書き文字)を原則的に採用(これで「じょう」「じよう」が書き分け可能となる)
一部では慣習を尊重して統一を見送ったものもあり(例:「おう」「おお」)、この点で「歷史的假名遣に妥協した」との批判もあるが全くの見当違いである。また、四つ仮名(じ、ぢ、ず、づ)の扱いについては複合語(2語以上で構成された単語)については曖昧な記述にとどまっているが、こちらも「慣習を尊重」するという現代仮名遣いの前書きの1番目に明記された原則に遵ったものである。
「歷史的假名遣」の批判
歷史的假名遣愛好者からの、現代仮名遣いに対する批判は爾来多い。曰く、
だが、そもそも歷史的假名遣というのが何かというと、江戸中期の国学者が学問的に適切に古典を記述するための表記として編み出したものを明治期になって現代口語筆記用に魔改造したものである。
では、それまでの口語の筆記はどうだったかといえば、例えば先に述べた「じやう」「じよう」「ぜう」「ぜふ」の音の区別なんてものは平安中期には無くなってしまい、以来この「ジョー」という音は個々人の好き勝手に書かれるようになっていた。例えば鎌倉期の歌人・藤原定家(小倉百人一首の編纂で有名)が残した俺ルールは後世「定家仮名遣い」と呼ばれてたりする。室町時代になると四つ仮名の区別が無くなるので「ぢやう」「ぢよう」も「ジョー」一家の仲間入りを果たした。
そして江戸中期に契沖と本居宣長により「契沖仮名遣い」が確立された。しかし契沖にしろ宣長にしろ、この契沖仮名遣いが古典文語つまり古語を表記するためのあくまで学究的なものであり、近代口語つまり話し言葉を表記するのに適さないことをきちんと理解していた。というのも、彼らは口語による私的な文章では契沖仮名遣いを使っていないのである。
しかしながら江戸幕府を倒し明治政府を打ち立てた要人たちの多くは、それまでの政権とはまるで無縁な地方の出身者ばかりであった。彼らがこの国を纏めるためにはどうしても、文章語として日頃より比較的慣れ親しんでいて、国民共通のバックボーンをもたらしてくれる古典文語に頼らざるを得なかったのは仕方ない。とはいえ歷史的假名遣には契沖仮名遣いを表記の原則とする以外の厳密なルールは無く、捨て仮名の使用、濁点・半濁点の使用、音便の表記などには人によって多少の揺れがある。
しかし、先に述べたように「ジョー」ひとつとっても各人で好きに書いてよかったところを「じやう」「ぢよう」「ぜふ」etc..で書き分けなさいと決められては学習効率も悪く不便である、という声は既に明治期から何度か上がっていた。しかしその度に森鷗外や芥川龍之介など古典文学に素養の高い文人や学者を中心とした市井の反発が強く、結局のところ現代仮名遣いの登場は国家翼賛的な風潮を否定できるようになった第2次世界大戦後を待たなくてはならなかった。
「歷史的假名遣」への批判
同音問題については既に触れた通り。
語源については根本的な問題で、例えば現代仮名遣いで「どじょう」と書く語の仮名表記について、歷史的假名遣では唯一の正解を示すことが現時点ではできず、はっきりとした語源を示す新資料が発見されるまではあくまで慣用例として「どぜう」等を示すしかない。「悩まずに漢字で『泥鰌』と書けばよい」という意見も聞くが、仮名を使わずに解決する話なら最初から仮名遣いに拘る必要が無いので全く以て本末転倒である。
ただし、古典を表記する上では、歷史的假名遣ほど優れた表記は他に無いだろう。
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