通貨同盟(monetary union)とは、経済学の用語である。
概要
定義
複数の国において、どこの国の政府にも影響されない中央銀行が発行する単一の通貨を共同して使用することを通貨同盟という。
採用国
1999年以降にユーロを流通させているEU内の諸国、1945年以降にCFAフランを流通させている中部アフリカの諸国、1945年以降にCFPフランを流通させている南太平洋の諸国が採用国の例に挙げられる。
通貨同盟の長所と短所
通貨同盟と複数カレンシーボード制
A国とB国とC国が共同で出資して中央銀行を設立し、その中央銀行が発行する通貨を3国で流通させることは通貨同盟である。
また、3国の中でもっとも経済力があるA国を中心として、B国がA国通貨を対象とするカレンシーボード制を採用し、C国がA国通貨を対象とするカレンシーボード制を採用し、2つのカレンシーボード制を構築するという為替体制が考えられる。これを仮に複数カレンシーボード制と呼ぶことにする。
ヨーロッパでたとえるなら次のようになる。EU諸国が出資して欧州中央銀行(ECB)を設立し、欧州中央銀行が発行する統合通貨ユーロを出資国が使用するのが通貨同盟である。EU諸国の中でもっとも経済力の高い国をドイツと認定し、ドイツの通貨マルクを対象とするカレンシーボード制をドイツ以外の諸国が採用するのが複数カレンシーボード制である。
複数カレンシーボード制と共通する長所
通貨同盟と複数カレンシーボード制には共通する長所がある。
両者とも名目為替レートが完全に固定されており、固定相場制の極地である。通貨同盟なら自国通貨と外国通貨が全く同一なので名目為替レートが1に固定される。複数カレンシーボード制なら名目為替レートが当局が指定した数値に固定される。そのため両者とも固定相場制の長所を大いに享受できる。
名目為替レートが完全に固定されているので、物価が硬直的な短期において実質為替レートも固定され、貿易の確実性が増し、企業経営者が経営の見通しをたてやすくなり、企業が在庫投資や設備投資といった投資を行いやすくなり、国家全体の投資が増える。それにより将来において資本量が増えて、将来において国家の供給力が増える。
名目為替レートが完全に固定されているので、物価が硬直的な短期において実質為替レートも固定され、純輸出の多い国がその勢いを持続することができる。
複数カレンシーボード制と共通する短所
通貨同盟と複数カレンシーボード制には共通する短所がある。
名目為替レートが固定され、物価が硬直的な短期において実質為替レートも固定され、貿易の確実性が増し、投資が増える。投資の余地が少ない先進国でそのような状態になると、過剰投資が発生し、需要が無いのに需要が有るかのように見せかけて投資家から融資を騙し取る投資詐欺を行う知能犯罪者が増え、不良債権が増え、バブル景気とバブル崩壊が発生し、長期にわたる深刻な不景気が発生する。
名目為替レートが固定され、物価が硬直的な短期において実質為替レートも固定され、純輸出の多い国がその勢いを持続する。産業の規模が大きい先進国でそのような状態になると、外国から「周辺国の産業を潰しながら経済発展しようとしていて近隣窮乏化政策を実行している」などと厳しく批判される。
両者とも政府が自国通貨を入手して政府購入を大量に増やす政策を実行しにくいという短所がある。政府購入を増やせないと、軍事的危機や経済的危機を乗り越えにくくなる。
カレンシーボード制は中央銀行が特定の外国通貨を資産に計上したときにだけ自国通貨を発行する制度であって、中央銀行が政府の国債を資産に計上しつつ自国通貨を発行することを禁止する制度であり、中央銀行の通貨発行権を大きく制限する制度であり、政府が通貨発行益(シニョレッジ)を得られなくする制度である。そして通貨同盟も政府が通貨発行益を全く得られない制度である。
複数カレンシーボード制と共通しない長所
通貨同盟と複数カレンシーボード制には相違点がある。
通貨同盟は費用を削減できるという長所があり、複数カレンシーボード制は費用がかかるという短所がある。
複数の国家が通貨同盟を採用する場合は、外国為替市場や中央銀行を1つだけ持てばよいのであり、紙幣を1種類だけ印刷すればいいのであり、費用を削減できる。
複数の国家が複数カレンシーボード制を採用する場合は、国ごとに1つずつ外国為替市場を配置し、国ごとに1つずつ中央銀行を組織し、国ごとに1種類ずつ紙幣を印刷する必要があり、費用が多くなる。
複数カレンシーボード制と共通しない短所
通貨同盟と複数カレンシーボード制には相違点がある。
通貨同盟を採用したA国において犯罪者が統合通貨Xの紙幣を強奪する犯罪を起こし、そのあとに国境を越えて通貨同盟を採用したB国に侵入してしまえば、強奪した統合通貨Xの紙幣を使って優雅に暮らすことができる。
通貨同盟を採用する諸国においてクレジットカードやデビットカードを徹底的に普及させて現金通貨の扱いを徹底的に減らしてキャッシュレスを実現させれば上記のような事態が起こりにくい。ただし、キャッシュレスは自然災害に弱いという欠点があり、完全に行われるとはいえない。
通貨同盟を採用する諸国において警察が情報共有をして連携していれば上記のような事態が起こりにくい。しかし、通貨同盟を採用するような諸国においても言語的・文化的な壁が存在し、警察どうしの情報共有が完全に行われるとはいえない。
一方で、複数カレンシーボード制は国境を越えた犯罪が起きにくいという長所がある。
C国があって通貨C’を発行しており、D国があって通貨D’を発行しており、C国とD国がカレンシーボード制を採用しているとする。犯罪者がC国で通貨C’の紙幣を強奪する犯罪を起こしたあとに国境を越えてD国に侵入しても、強奪した通貨C’の紙幣を使って優雅に暮らすことができない。国境を越える前に通貨C’の紙幣を通貨D’の紙幣に両替せねばならないが、「両替をするときに警察にバレるかもしれない」と恐怖して、なかなか両替をすることができない。このため、いつまでたっても犯罪者はC国の中に滞在し続けることになり、C国の警察におびえながら暮らすことになる。
カレンシーボード制のこうした長所は、軍票の長所と共通している。軍票は軍隊が占領地で使用する代理紙幣であり、本国の通貨とは異なる紙幣である。占領地において軍隊が奇襲されて大量の軍票を強奪されたとしても、その軍票を本国通貨に両替することが難しい。そして軍票は本国で流通していないので、軍票を使って本国でテロ活動をすることができない。つまり軍票は国境を越えたテロ活動が起きにくいという長所がある。詳しくは軍票の記事を参照のこと。
まとめ
以上のことをまとめると次のようになる。
通貨同盟 | 複数カレンシーボード制 | |
共通する長所 | 固定相場制の長所を享受できる。短期において実質為替レートが固定され、企業が経営の見通しを立てやすくなり、企業が投資しやすくなり、将来において資本ストックが蓄積され、国家の供給力が増える。純輸出が多い国はその勢いを持続できる。 | |
共通する短所 | 投資が増えすぎて過剰投資が発生する危険性がある。純輸出が増えすぎて外国の産業を潰してしまう危険性がある。政府が通貨発行益(シニョレッジ)を得られず、政府購入を大幅に増やせなくなり、危機が発生しても対応できなくなる。 | |
費用 | 費用がかからず、安上がりである。 | 外国為替市場や中央銀行を維持せねばならず、紙幣を印刷せねばならず、費用がかかる。 |
国境を越えた犯罪が起きやすいかどうか | 国境を越えた犯罪が起きやすい。加盟国Aと加盟国Bの国境を越えるときに両替せずに済むので犯罪者にとって有利である。 | 国境を越えた犯罪が起きにくい。A国とB国の国境を越えるときに両替せねばならないが両替が難しく、犯罪者は犯罪を犯した国に滞在し続ける運命にある。 |
関連項目
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