固定相場制単語

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コテイソウバセイ
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固定相場制とは、正確には固定為替相場制度というもので、為替相場に関する制度の1つであり、次の2つの意味を持つ。

  1. 独自の自通貨を発行しつつ特定の外通貨と自通貨名目為替レートについて標値からの変動を標値の1以内程度に抑制する制度のことをいい、ペッグ制ともいう。狭義の固定相場制ということができる。カレンシーボード制を採用するものとカレンシーボード制を採用しないものの2種類に分かれる。
  2. 特定の外通貨と自通貨名目為替レートについて標値からの変動を標値の1以内程度に抑制する制度のすべてをす。1.のペッグ制だけでなく通貨同盟ドル化を含む。広義の固定相場制ということができる。

本記事では1.と2.の両方を解説する。

1.の概要

定義

独自の自通貨を発行しつつ、カレンシーボード制を採用したり採用しなかったりして、特定の外通貨と自通貨名目為替レートについて標値からの変動を標値の1以内程度に抑制する制度を固定相場制という。

こうした制度はペッグ制ともいう。ペッグ(peg)とは英語で「釘を打ち付けて固定する」という意味である。

米ドル・旧宗主国通貨・金塊・銀塊・通貨バスケットなどを特定外国通貨と扱う

固定相場制は、特定の外通貨と自通貨名目為替レートを固定する制度である。

特定の外通貨」にドルアメリカ合衆国ドル)を当てはめて固定相場制を採用することをドルペッグ制と呼ぶ。アメリカ合衆国覇権国家であり、ドル世界通貨・基軸通貨として際貿易において盛んに使われているので、固定相場制を採用するの中にはドルペッグ制を採用するが多い。1945年から1971年までのブレトンウッズ体制は、アメリカ合衆国以外の諸ドルペッグ制を採用するものだった。

特定の外通貨」に旧宗通貨を当てはめて固定相場制を採用するがしばしば見られる。

特定の外通貨」に金塊を当てはめてカレンシーボード制を採用しつつ固定相場制を採用することを金本位制と呼び、「特定の外通貨」に塊を当てはめてカレンシーボード制を採用しつつ固定相場制を採用することを本位制と呼ぶ。特に19世紀以前において、金塊や塊は世界通貨として際貿易において盛んに使われていた。ちなみに、金本位制本位制の時の自通貨兌換銀行券兌換紙幣)と呼ばれる。

特定の外通貨」に複数の外通貨から構成された通貨バスケットという仮想通貨を当てはめて固定相場制を採用するがしばしば見られる。

変動幅の数字で性質が変わる

特定通貨と自通貨名目為替レートについて標値からの変動を標値のAに抑制する」と国家が宣言するとき、Aの数値が小さいほど固定相場制の性質が強く、Aの数値が大きいほど変動相場制の性質が強い。

Aに0という数字を入れることができるのはドル化通貨同盟のみである。

Aに0をえて1以下の数字を入れるとペッグ制と呼ばれることが多い。この例として1945年1971年のブレトンウッズ体制が挙げられる。この体制に参加した先進国は、自通貨ドル名目為替レート標値から変動する量を標値の上下0.75まで抑制するように義務づけられた。この体制に参加した発展途上国は、自通貨ドル名目為替レート標値から変動する量を標値の上下1まで抑制するように義務づけられた。

Aに1をえて6以下の数字を入れると「中間的為替相場制為替バンド制」と呼ばれやすくなる。この例として1979年1999年EMS(欧州通貨制度)が挙げられる。ECU(欧州通貨単位)という通貨バスケットを作り、イタリア以外のは自通貨とECUの名目為替レートの変動幅が上下2.25まで許容され、イタリアは自通貨とECUの名目為替レートの変動幅が上下6まで許容された。

Aに50とか100といった巨大な数値を入れれば事実上の変動相場制となる。

固定相場制を維持する方法その1 中央銀行が為替介入しない

固定相場制を維持する方法の1つとして、外為替市場に併設される中央銀行窓口において名目為替レート標値に従って特定通貨と自通貨を確実に交換することを中央銀行が保する方法がある。この方法において、中央銀行は外為替市場に参加せず、為替介入を行わない。

日本ドルを対とする固定相場制を採用し、中央銀行である日銀がいつでも窓口100円に対して1ドルを支払うことと1ドルに対して100円を支払うことを保したとする。

そうした場合でも、日本の外為替市場では1ドル100円から変化する可性がある。「輸出して得た1ドルを円に交換したいと思ったが日銀窓口行列ができているので待ちきれずに外為替市場で1ドルを売って円を買う」という業者が現れる可性があり、そうした業者が増えれば外為替市場で円買いドル売りと円高ドル安が進む。また、「輸入するため100円ドルに交換したいと思ったが日銀窓口行列ができているので待ちきれずに外為替市場100円を売ってドルを買う」という業者が現れる可性があり、そうした業者が増えれば外為替市場で円売りドル買いと円安ドル高が進む。

輸出の勢いが輸入の勢いを上回って純輸出プラスになって貿易黒字となって外為替市場で円買いドル売りと円高ドル安が進んで1ドル99円になったとする。その状況であっても日銀窓口では1ドル100円で交換してくれるのだから、円の価値でべると日銀窓口円安で外為替市場円高であり、ドルの価値でべると外為替市場ドル安で日銀窓口ドル高である。あるものを安く仕入れて高値で売りさばけば利益が出るから、裁定業者(利益を追求して動く民間業者)は日銀窓口で99ドルを売って9900円を買い、外為替市場で9900円を売って100ドルを買えば、1ドルけることができる。また裁定業者は外為替市場で9900円を売って100ドルを買い、日銀窓口100ドルを売って10000円を買えば、100円けることができる。いずれにせよ裁定業者は日銀窓口で円買いドル売りをして、外為替市場で円売りドル買いをする。外為替市場で裁定業者による円売りドル買いが進むので円安ドル高が進み、1ドル100円に近づいていく。一方で日銀日銀窓口で裁定業者に対して円売りドル買いをするので、マネーサプライMの供給を増やし、マネーサプライMの増加量を名目為替レート標値で割った分だけ外貨準備高を増やす。

輸出の勢いが輸入の勢いを下回って純輸出マイナスになって貿易赤字となって外為替市場で円売りドル買いと円安ドル高が進んで1ドル101円になったとする。その状況であっても日銀窓口では1ドル100円で交換してくれるのだから、円の価値でべると外為替市場円安日銀窓口円高であり、ドルの価値でべると日銀窓口ドル安で外為替市場ドル高である。あるものを安く仕入れて高値で売りさばけば利益が出るから、裁定業者(利益を追求して動く民間業者)は外為替市場100ドルを売って10100円を買い、日銀窓口10100円を売って101ドルを買えば、1ドルけることができる。また裁定業者は日銀窓口10000円を売って100ドルを買い、外為替市場100ドルを売って10100円を買えば、100円けることができる。いずれにせよ裁定業者は外為替市場で円買いドル売りをして、日銀窓口で円売りドル買いをする。外為替市場で裁定業者による円買いドル売りが進むので円高ドル安が進み、1ドル100円に近づいていく。一方で日銀日銀窓口で裁定業者に対して円買いドル売りをするので、マネーサプライMの供給を減らし、マネーサプライMの減少量を名目為替レート標値で割った分だけ外貨準備高を減らす。

以上のような考え方は、少しややこしいが、経済学教科書紹介されている考え方である[1]

為替市場名目為替レート中央銀行が保する名目為替レートが一致しなくなったとき、裁定業者(利益を追求して動く民間業者)が利益を追求する行動をすることで外為替市場名目為替レート中央銀行が保する名目為替レートへ近づいていく。しかし、裁定業者は「外為替市場名目為替レート中央銀行が保する名目為替レートのズレが2%ぐらいになってから行動を起こさないと、人件費などの費用を吸収しきれず、損をする」と判断することがある。そういう裁定業者ばかりだと、名目為替レートの変動幅を1以内に収める固定相場制にすることができない。そのため、固定相場制を確実に実践するためには、外為替市場名目為替レート中央銀行が保する名目為替レートが一致しなくなったときの行動を裁定業者だけに任せず、政府に任せる必要がある。政府なら人件費などの費用を度外視して行動を起こすことができ、名目為替レートの変動幅を1以内に収める固定相場制を採用しているときに「外為替市場名目為替レート中央銀行が保する名目為替レートのズレが2%ぐらいになってから行動を起こさないと、人件費などの費用を吸収しきれず、損をする」と考えることがない。

固定相場制を維持する方法その2 中央銀行が為替介入する

固定相場制を維持する方法の1つとして、中央銀行が外為替市場に参加して為替介入するというものが考えられる。この方法において、中央銀行は「中央銀行名目為替レート標値に従って特定通貨と自通貨を確実に交換します」と宣言しないし、外為替市場の隣に中央銀行窓口を創設することも行わない。

日本ドルを対とする固定相場制を採用し、1ドル100円標値としてそこからの変動量を標値の上下1まで許容したとする。つまり1ドル99円から1ドル101円までの変動を許容したとする。

輸出の勢いが輸入の勢いを上回って純輸出プラスになって貿易黒字となって外為替市場で円買いドル売りと円高ドル安が進んで1ドル99円に近づくと、中央銀行である日銀が円売りドル買いの為替介入をして円安ドル高へ誘導し、1ドル100円に戻す。結果として日銀マネーサプライMの供給を増やして外貨準備高を増やしている。

輸出の勢いが輸入の勢いを下回って純輸出マイナスになって貿易赤字となって外為替市場で円売りドル買いと円安ドル高が進んで1ドル101円に近づくと、中央銀行である日銀が円買いドル売りの為替介入をして円高ドル安へ誘導し、1ドル100円に戻す。結果として日銀マネーサプライMの供給を減らして外貨準備高を減らしている。

以上の考え方は、分かりやすい考え方である。

カレンシーボード制を採用するものと、カレンシーボード制を採用しないもの

固定相場制は、カレンシーボード制を採用するものと、カレンシーボード制を採用しないものの2種類に大別できる。IMF通貨基金)は前者をハード・ペッグ制の1つに分類し、後者ソフト・ペッグ制の1つに分類している。

カレンシーボード制を採用する固定相場制は、投機攻撃を受ける可性が極めて低く、固定相場制の永続性が高く、「の固定相場制」と呼ばれるにふさわしいものである。この制度についてはカレンシーボード制の記事で解説する。

カレンシーボード制を採用しない固定相場制は、投機攻撃を受けて名目為替レート標値を上方に変更して自通貨の切り下げをする事態になりやすく、固定相場制の永続性が低く、「の固定相場制」と呼ばれるにふさわしいものではない。この制度については、本記事の中の『カレンシーボード制を採用しない固定相場制』の項解説する。

長所その1 投資が増える

固定相場制を採用すると名目為替レートが固定され、物価が硬直的な短期において実質為替レートも固定され、貿易の確実性が高くなり[2]企業が貿易に関する見通しを立てやすくなり、企業が在庫投資や設備投資といった投資を行いやすくなり、投資が増える。

投資が増えると、将来において資本量が増え[3]、将来において国家の供給力が向上する。資本量が増えると国家の供給力が増えることはコブ=ダグラス生産関数で確認できる。

長所その2 純輸出のプラスの状態が固定されやすい

固定相場制を採用すると名目為替レートが固定され、物価が硬直的な短期において実質為替レートも固定される。すると純輸出プラスの状態や純輸出マイナスの状態が続きやすくなる。純輸出プラスの状態を維持したいにとってはこうした性質が長所となる。

変動相場制においては「変動相場制の自動調整メカニズム」が作用して純輸出プラスの状態も純輸出マイナスの状態も固定されにくい。「変動相場制の自動調整メカニズム」というのは、たとえば輸出が増えて輸入が減って純輸出プラスになったときに外為替市場において自通貨買い・外通貨売りの勢いが増して自通貨高・外通貨安になって名目為替レートが下降して物価が硬直的な短期において実質為替レートも下降して輸出が減って輸入が増えて純輸出プラスを打ち消す作用が働くことをいう。

短所その1 投資が増えやすく過剰投資が増えやすい

固定相場制を採用すると投資が増える。

生産設備が多い先進国において投資を増やすと、有効な投資の余地が少ないのに理矢理に投資を増やすのだから、過剰投資が増える。

過剰投資が増えると、需要がいのに需要が有るかのように見せかけて投資から融資を騙し取る投資詐欺を行う知犯罪者が増え、不良債権が増え、バブル景気バブル崩壊が発生し、長期にわたる深刻な不気が発生する。

短所その2 純輸出のプラスの状態が固定されやすく他国から批判を受けやすい

固定相場制を採用すると純輸出プラスの状態が固定されやすくなる。

そうなると、「あの純輸出プラスの状態を固定して外の産業を潰している」と外から批判されるようになる。純輸出プラスの状態を固定して輸出を過度に行って他の産業を潰すことを近隣窮乏化政策(Beggar thy neighbour)とか「失業の輸出」という。

固定相場制がふさわしい発展途上国と、固定相場制がふさわしくない先進国

発展途上国は、内の生産設備が少なく、内において有効な投資の余地が多く、過剰投資が発生しにくい。そのため発展途上国は、固定相場制を導入して投資を増やすことが望ましい。

先進国は、内の生産設備が多く、内において有効な投資の余地が少なく、過剰投資が発生しやすい。そのため先進国は、固定相場制を導入して投資を増やすことが望ましくない。

発展途上国は、内の生産設備が少なく、産業の規模が小さく、他の産業を潰すほどの輸出量を作り出せない。そのため発展途上国は、固定相場制を採用しても「あのは近隣窮乏化政策を採用している」と批判されにくく、固定相場制を採用しやすい。

先進国は、内の生産設備が多く、産業の規模が大きく、他の産業を潰すほどの輸出量を作り出すことができる。そのため先進国は、固定相場制を採用すると「あのは近隣窮乏化政策を採用している」と批判されやすく、固定相場制を採用しにくい。

日本と固定相場制

1945年まで続いた第二次世界大戦によって日本土を底的に破壊されて生産設備の多くを失っていた。そうした背景もあり、1945年から1960年代ごろまで日本発展途上国であって固定相場制が望ましいだった。

1945年から1952年までの日本GHQによって占領されていた。1949年になって日本GHQの提唱するドッジラインによって1ドル360円の固定相場制を導入するようになった。

1952年4月28日になってサンフランシスコ平和条約が発効して日本独立回復した。その直後の8月13日日本通貨基金(IMF)へ加盟し、ブレトン・ウッズ体制に参加して1ドル360円の固定相場制を引き続き導入している。

1968年日本民総生産(GNP)が世界2位になったことから、「1970年代日本先進国になっていて設備投資の余地が少ない状態になっており、固定相場制が不向きなになっていた」と考えられる。実際に、1973年2月14日になって日本変動相場制に移行しており、それからずっと変動相場制を維持し続けている。

1970年以降になって、日本は外から「純輸出が多すぎて他の産業を潰している」と批判されるようになった。特に米国から厳しく批判され、繊維や鋼や自動車半導体などの分野における日貿易摩擦がたびたび外交話題となった。

カレンシーボード制を採用しない固定相場制

出現する理由

ある国家に住んでいる人々は、外企業が生産する商品を特定通貨で輸入したいという欲求を持っていて特定通貨に対して一定の需要を持っているが、企業が生産する商品を自通貨で購入したいという欲求政府に対して自通貨で納税したいという欲求を持っていて自通貨に対して一定の需要を持っていることがほとんどである。

言い換えると、ある国家に住んでいる人々が中央銀行に対して手持ちの自通貨をすべて差し出して特定通貨との両替を要するという事態は現実において発生しにくい。

このため、固定相場制を採用する国家は、「自通貨発行高を名目為替レート標値で割って算出した数値Xだけ特定通貨準備高を積み上げる必要はく、Xよりも少ないYだけ特定通貨準備高を積んでおけば固定相場制を維持できる」と判断することがあり、カレンシーボード制を採用しない固定相場制のに変化していくことがある。Yを計算するときの根拠としては「1年間の輸入で必要とされる特定通貨の量がAなのでAをB倍してYを計算してそのYだけ特定通貨準備高を積んでおけば固定相場制を維持できる」というものが多い。特に「1年間の輸入額の1/4だけ、言い換えると3ヶ間の輸入額だけ特定通貨準備高を積んでおけば固定相場制を維持できる」というのは1つの常識であるという(資料1exit資料2exit資料3exit資料4exit)。

何かを欲張ることができる

カレンシーボード制を採用しない固定相場制のは、カレンシーボード制を採用する固定相場制のよりも、何かを欲ることができる。①特定通貨準備高を少なく積むように欲ったり、②名目為替レート標値を低めにして自通貨を高値にして欲ったり、③自通貨発行高を多めにするように欲ったりする。

以上のことを理解するには例え話を3つほど用意して考察するとよい。1.は①の例え話で、2.は②の例え話で、3.は③の例え話である。

  1. 日本の自通貨発行高が100兆円で、日銀特定通貨準備高が1兆ドルで、ドルを対とする固定相場制を採用して1ドル100円名目為替レート標値にしたとする。カレンシーボード制を採用するのなら特定通貨準備高を1兆ドル以上積み上げる必要があり、もう一切の余裕がない。しかし、「名目為替レート標値を1ドル100円に設定したときに3ヶ間の輸入額が3000ドルになると想定できるから特定通貨準備高は3000ドルで十分である」と判断したとき、カレンシーボード制を採用せず7000億ドルを何かに使用することが可になる。たとえば、発展途上国政府に貸し付けて利子収入を得ることが可となるし、かつて特定通貨準備高建て国債を発行したのであればそうした国債の償還にあてることが可になる。
  2. 日本の自通貨発行高が100兆円で、日銀特定通貨準備高が3000ドルで、ドルを対とする固定相場制を採用したとする。カレンシーボード制を採用するのなら名目為替レート標値を1ドル334円以上に設定するしかない。しかし、「名目為替レート標値を1ドル100円に設定したときに3ヶ間の輸入額が3000ドルになると想定できるから特定通貨準備高が3000ドルあれば1ドル100円の固定相場制を維持できる」と判断したとき、カレンシーボード制を採用せず1ドル100円名目為替レート標値を設定することが可となる。
  3. 日本の自通貨発行高が100兆円で、日銀特定通貨準備高が1兆ドルで、ドルを対とする固定相場制を採用して1ドル100円名目為替レート標値にしたとする。カレンシーボード制を採用するのなら中央銀行政府国債を買い入れて自通貨発行高を増やすことが禁止される。しかし、「中央銀行政府国債を買い入れて自通貨発行高を50兆円増やしたとしても、3ヶ間の輸入額が1兆ドルになると想定でき、現状の1兆ドル特定通貨準備高があれば固定相場制を維持できる」と判断したとき、カレンシーボード制を採用せず中央銀行による政府国債の買い入れを50兆円の規模で行うことが可となる。

特定外国通貨準備高が不足したときに政府や中央銀行がとりがちな行動

カレンシーボード制を採用しない固定相場制のにおいて、中央銀行特定通貨準備高が3ヶ間輸入額よりも下回り、いわゆる「外貨が枯渇した」という状態になることがある。

そのとき、その政府中央銀行がとる行動は3つに分かれる。

  1. 特定通貨建ての国債」を発行して特定通貨を発行するの金融市場で売却したり、特定通貨を発行する政府やIMF通貨基金)や世界銀行に頼み込んだりして、政府特定通貨を借り入れて、その特定通貨を自中央銀行に注入して中央銀行特定通貨準備高を増やし、中央銀行特定通貨準備高が3ヶ間輸入額を上回る状態を作り出す。
  2. 中央銀行が利上げして内の投資を減らし、輸入を減らして3ヶ間輸入額を減らし、中央銀行特定通貨準備高が3ヶ間輸入額を上回る状態を作り出す。
  3. 特定通貨と自通貨名目為替レート標値を上昇させて、物価が一定である短期における実質為替レートを上昇させて、輸入を減らして3ヶ間輸入額を減らし、中央銀行特定通貨準備高が3ヶ間輸入額を上回る状態を作り出す。

1.は中央銀行特定通貨準備高を増やすものであり、2.と3.は輸入を減らして3ヶ間輸入額を減らすものである。そして、1.と2.と3.は、中央銀行特定通貨準備高が3ヶ間輸入額を上回る状態を作り出すことを最終的としている点で共通している。

1.は1960年代までの日本がしばしば行ってきたことである。1.を行うと当面の間において固定相場制を維持できる。しかし政府が「他通貨建て国債」というものを抱えることになり、債務不履行の可性がある危険な負債を抱えることになる。政府債務不履行となったら政府の信用がくなるので、1.の手段をもう採用できなくなる。

2.は1960年代までの日本がしばしば行ってきたことである。

2.に近い手段として、政府購入を減らして輸入を減らすという方法や増税して消費を減らして輸入を減らすという方法もあり得るが、そうした方法は国会の議決を得る必要があり、国会が1年で7ヶほどしか開かれないことや国会内で反対意見を封じ込めることに苦労することから考えると、非常に時間が掛かる方法である。一方で中央銀行の金融引き締めによる投資と輸入の削減は、国会の議決が不要であって極めて速に実行できるので、特定外貨準備高が底を付きそうになるという切迫した状況に使う手段としてうってつけである。

3.は世界中でよく見られる。

3.はそれまで守っていた名目為替レート標値を変更するのだから、固定相場制を放棄したことと実質的に同じである。3.は名目為替レート標値が上昇し、自通貨の価値が下がり、自通貨安になるので「通貨切り下げ」と呼ばれる。名目為替レートが上昇するということは通貨価値が下がることであるが、そのことについては名目為替レートの記事を参照のこと。

3.を政府中央銀行が実行する前に、際的投資が3.になることを予想しつつ「これから値下がりするモノを売り払って値上がりするモノを買い込めば得をする」という一般的な原則に従って自通貨売り・特定通貨買いをするという投機攻撃(speculative attack)を行うので、中央銀行特定通貨準備高がさらに減る。それによって政府中央銀行が3.を行う必要性がさらに高まっていく。このときの際的投資行動は、自らの予想がそうした予想通りの事態を生み出す原因となっているのだから、「自己実現的(self-fulfilling)」と呼ばれる。際的投資による投機攻撃が生み出す通貨危機を自己実現的通貨危機self-fulfilling currency crisis)といい、英語版Wikipediaに記事が作られるほどの概念になっている(記事exit)。

日本政府による米ドルの借り入れ

ブレトンウッズ体制の時代の日本政府は、アメリカ合衆国政府世界銀行からドルをしばしば借り入れていた。これは、カレンシーボード制を採用しない固定相場制のにおいて政府特定通貨を借り入れることの典例である。

1946年から1951年までの日本政府アメリカ合衆国軍事予算からガリオア資金とエロア資金を受け取っていた。この両資金の総額は約18億ドルだった。当初は「アメリカ合衆国による償援助」という触れ込みだったが、1948年1月になってアメリカ合衆国の態度が急変し、日本政府に対して返済を要した。交渉の末、日本政府が返済するのは約5億ドルになった。つまり、1946年から1951年までの日本政府は約13億ドル償で受け取り約5億ドルを借り入れていた。

1953年から1966年までの日本政府世界銀行(世)から合計で8億6,300ドルを借り入れた(記事exit)。ちなみにこの当時の世界銀行アメリカ合衆国政府が多額の出資をしていた。

こうしたドルの借り入れは日本の固定相場制を維持するために行われた。当時の日本企業は大規模工場ダム新幹線高速道路を建設しており、その建築資材を輸入するときに大量の円売りドル買いをしていた。それが発生しても日銀特定通貨準備高が枯渇せず日銀が固定相場制を維持できるようにするため、日本政府ドルを借り入れて、そのドル日銀に渡して日銀特定外貨準備高を増やし、日銀が円買いドル売りを十分に行えるようにした。

国際収支の天井

ブレトンウッズ体制の時代の日本において、際収支の天井という現象がしばしば発生していた。これは、カレンシーボード制を採用しない固定相場制のにおいて中央銀行が利上げして投資と輸入を減らすことの典例である。

ブレトンウッズ体制の時代の日本は、1ドル360円を標とする固定相場制を維持していて、上下1までの変動が認められていた。つまり1ドル356円40銭から1ドル363円60銭までの変動が許されていた。

気が続いて投資が拡大し、建設の材料などの輸入が増えると円売りドル買いが進む。それに対抗して日銀も円買いドル売りをして特定通貨準備高を減らす。

その状態が続いて日銀特定外貨準備高が底を付きそうになったら、日銀が利上げして金融引き締めをして、投資を減らして理矢理に好気を終わらせて輸入を縮小させていた。このように特定外貨準備高の減少を抑制するために好気を止めることを際収支の天井といった(資料exit)。1954年から1957年までの神武気も1958年から1961年までの岩戸気も際収支の天井によって終了した。

日本1970年代頃になると際収支の天井にさほど悩まされなくなった。1968年日本民総生産(GNP)が世界2位になったことから、「1970年代日本先進国になって設備投資の余地が少なくなっていた」と考えられる。設備投資の余地が少ないということは投資による大規模な輸入が行われにくいということであり、際収支の天井の原因が小さくなったということである。

特定外国通貨の返済方法

カレンシーボード制を採用しない固定相場制のにおいて、政府特定通貨を借り入れて中央銀行にそれを渡して中央銀行特定通貨準備高を増やしたとする。

そのあとの返済計画としては、輸入と輸出を同じだけ減らし、より少ない金額の特定通貨準備高でも固定相場制を維持できる状態を作り出し、中央銀行政府に渡すことができる特定通貨の量を増やすというものがある。さらには輸入を減らしつつ輸出を増やし、中央銀行政府に渡すことができる特定通貨の量をより効率的に増やすというものがある。

以上のことを理解するには例え話をするとよい。

日本の自通貨発行高が100兆円で、日銀特定通貨準備高が2000ドルで、ドルを対とする固定相場制を採用して1ドル100円名目為替レート標値にしたとする。

1ドル100円にしたときの3ヶ間輸入額が3000ドルと予測できたので、日本政府1000ドルアメリカ合衆国政府から借り、日銀特定通貨準備高を3000ドルに増やした。

そのあとに日本の輸入と輸出が同じように減り、日銀特定通貨準備高が3000ドルを維持しつつ、3ヶ間輸入額が1800億ドルにまで下がったとする。日銀特定通貨準備高が3000ドルで、固定相場制の維持に必要とされる特定通貨準備高が1800億ドルなので、1200億ドルの余裕ができた。このため日銀1200億ドル日本政府に渡し、日本政府1200億ドルアメリカ合衆国への返済に使った。1000ドル元金に少々の利子が付いたが、余裕をもって返済できた。

この例え話において、日本の輸入と輸出が同じように減っているだけで中央銀行特定通貨準備高の余裕が生じて政府による特定通貨の返済の余地が発生している。仮に、日本の輸入が減りつつ輸出が増えているのなら、中央銀行特定通貨準備高の余裕がさらに効率よく生じることになる。

日本世界銀行からのドル建て融資を1990年7月までに済している。1970年代以降の日本は生産設備の充実した先進国になっていて投資とそれに伴う輸入が減っていて、日本銀行が積み立てるべき特定通貨準備高が徐々に減っていた。さらに生産設備が順調に稼働して輸出が増えていて、日銀が持つ特定通貨準備高も増えていた。そのため、日銀から日本政府に渡すことのできるドルの量が十分であり、日本政府による世界銀行への返済が順調に行われた。

世界銀行アメリカ合衆国からのドル建て融資をいつまで経っても返済できず債務不履行デフォルト)になる世界中で見られる。ドルを借りて中央銀行特定通貨準備高を増やして固定相場制を維持し、投資を増やしたとしても、投資によって作り出した生産設備がすぐ壊れるような代物であるのなら、いつまで経っても「生産設備の充実した先進国」になれず、「生産設備が充実せず投資と輸入の量が多い発展途上国」のままであり、3ヶ間輸入額が大きいままになる。また、生産設備が稼働して輸出を伸ばすという現象も起こらず、中央銀行特定通貨準備高も増えない。それらの要因により、中央銀行から政府に渡すことのできるドルの量が少ないままであり、政府による世界銀行アメリカ合衆国への返済が順調に行われないままになる。

2.の概要

定義

特定の外通貨と自通貨名目為替レートについて標値からの変動を標値の1以内程度に抑制する制度のすべてを固定相場制という。

ペッグ制(狭義の固定相場制)だけでなく通貨同盟ドル化を含む。

名目為替レートの目標値からの変動幅に着目する区分

すでに述べたように「特定の外通貨と自通貨名目為替レートについて標値からの変動幅が標値の1以内ならペッグ制(狭義の固定相場制)、1えるなら中間的為替相場制為替バンド制」と憶えておいてよい。

通貨同盟ドル化特定の外通貨と自通貨が同一のものとなって名目為替レート標値が1になり、名目為替レートのそこからの変動が標値の0になり続ける。

以上のことをまとめると次のようになる。

ドル化 通貨同盟 ペッグ制(狭義の固定相場制) 中間的為替相場制為替バンド
特定通貨と自通貨名目為替レート標値からの変動幅 0 1以内 1える

固定相場制の永続性や通貨発行益に着目する区分

中間的為替相場制為替バンド制でカレンシーボード制を採用する例は見られない。

ペッグ制(狭義の固定相場制)はカレンシーボード制を採用しないものとカレンシーボード制を採用するものがある。

カレンシーボード制を採用しないペッグ制のでは、中央銀行による自通貨建て国債の買い取りが許可される。そのため政府が自通貨建て国債を発行して自通貨を借り入れることが容易であり、政府通貨発行益を得やすく、政府政府購入を増やしやすいのであり、そうした性質が長所になる。一方で固定相場制の永続性を得にくく投資を増やしにくいのであり、そうした点が短所になる。

カレンシーボード制を採用するペッグ制は、固定相場制の永続性を得やすく投資を増やしやすいという長所があり、政府通貨発行益を得られず政府購入を増やしにくいという短所がある。そしてこうした長所と短所は、ドル化通貨同盟も持っている。

政府通貨発行益を得て政府購入を増やすことができるようになると、国家軍事危機経済危機を乗り越えやすくなる。

固定相場の永続性が増えると、名目為替レートが固定されるために物価が硬直的な短期において実質為替レートも固定され、貿易の確実性が高くなり、企業が経営の見通しを立てやすくなり、企業が在庫投資や設備投資といった投資を行いやすくなり、将来において資本量を増やしやすくなり、将来において国家の供給力を高めやすくなる。

以上のことをまとめると次のようになる。

ドル化 通貨同盟 カレンシーボード制を採用するペッグ制 カレンシーボード制を採用しないペッグ制や、中間的為替相場制為替バンド
固定相場制が永続して投資が増える ×
政府通貨発行益を得て政府購入を増やして国家危機に対応する × ×

政府の費用削減や国境を越える犯罪を防止できるかどうかに着目する区分

ドル化通貨同盟は、独自の自通貨を発行せずに済むので政府の費用が少なくなるという長所があり、Aお金を強奪した犯罪者がBに侵入して優に暮らすことができを越えた犯罪が容易になるという短所がある。

カレンシーボード制を採用するペッグ制や、カレンシーボード制を採用しないペッグ制や、中間的為替相場制為替バンド制は、Aお金を強奪した犯罪者がBに侵入して優に暮らすことを行いにくくを越えた犯罪が難しいという長所があり、独自の通貨を発行することになるので政府の費用が多くなるという短所がある。

ドル化通貨同盟を採用してそれぞれので流通する通貨が同じであると、「A通貨Xを強奪した犯罪者がBに侵入して通貨Xを使いながら優に暮らす」ということが可になり、を越えた犯罪が容易になる。

ドル化通貨同盟を採用せずにそれぞれので流通する通貨が異なっているとする。通貨A’が流通するA通貨A’を強奪した犯罪者は、通貨B’が流通するB通貨A’を使うことができない。そして、犯罪者は「銀行通貨A’と通貨B’を両替すると警察にバレるかもしれない」と恐怖するためなかなか両替できず、結局、Aに残留してA警察におびえながら暮らし続けることになる。このためを越えた犯罪が抑制される。

以上のことをまとめつつ、前項の表をさらに追記すると次のようになる。

ドル化 通貨同盟 カレンシーボード制を採用するペッグ制 カレンシーボード制を採用しないペッグ制や、中間的為替相場制為替バンド
固定相場制が永続して投資が増える ×
政府通貨発行益を得て政府購入を増やして国家危機に対応する × ×
独自の自通貨を発行せず政府の費用が少ないままになる × ×
を越えた犯罪を抑制する ×

国際金融のトリレンマ

国際金融のトリレンマに従うと、広義の固定相場制を採用するは2種類になる。すなわち、閉鎖経済と、固定相場制を採用する小国開放経済である。

前者と後者の違いはキャリートレードを封じ込めるための手段である。キャリートレードは自と外実質利子率の差を利用してける行為のことで、低金利通貨を借りてその通貨を両替して高金利に持ち込んで高金利国債を購入するのが代表例である。キャリートレードを放置すると為替の変動が起こりやすくなり、固定相場制を維持するのが難しくなる。

閉鎖経済は、際的資本移動を制限してキャリートレードを押さえこむ。

固定相場制を採用する小国開放経済は、際的資本移動の自由化を維持する。そうした上で自実質利子率を「世界共通実質利子率と自固有のリスクプレミアムの合計値」に合わせ、キャリートレードの発生を大きく押さえ込む。

関連項目

脚注

  1. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』375376ページ
  2. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』389ページに次の記述がある。・・・1970年代初めに各が固定為替レートのブレトンウッズ体制を放棄してから、実質為替レート名目為替レートも、いずれも人々が予想した以上に変動した(現在もそうである)。一部の経済学者は、この変動を際的投資の非合理で攪乱的な投機行動のせいだとしている。企業の経営者たちは、このような変動性は際的な経済取引の不確実性を高めるので有だとしばしばしている。・・・
  3. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』の179ページや385ページで「投資が減ることにより将来の資本ストックが減る」と摘されている。これにより、投資が増えると将来の資本ストックが増えることが理解できる。

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