2D6の期待値は5(にでぃーろくのきたいちはご)とは、TRPGプレイヤー、特にキーパー(ゲームマスター)の間でまことしやかに囁かれる都市伝説・信仰、あるいは血の涙と共に発せられる叫びである。
数学的な期待値は7であるが、経験則と体感、そしてダイスに宿る悪意は、出目が「5」に収束することを証明している。
概要
TRPG(テーブルトークRPG)や一部のボードゲームでは、6面体のダイス(サイコロ)を2つ同時に振って出目を合計する「2D6」という判定方法がよく用いられる。キャラクターの能力値やダメージ、行為の成否などを決定する重要な場面で振られることが多い。
数学的に言えば、2つのダイスの出目(2D6)の合計値として最も出現しやすいのは「7」だし、何度も振った時の平均値も「7」に収束する。しかし、なぜか卓を囲むプレイヤーたちの体感では「5」という数字がやたらと出現する、というミーム(ネタ)が存在する。
シビアな状況で判定を迫られるゲームにおいて、「あと少し届けば成功だったのに…」という場面で出た「5」は、プレイヤーとキーパーの心に深い傷を刻みつける。この共通体験が、「2D6の期待値は5」というお約束のフレーズを生み出したのである。
「よし、この攻撃さえ避けられれば…! 回避振ります!」
「あ"あ"あ"あ"!!!」
本当の期待値は「7」
まず、このネタを心から楽しむために、数学的な真実を確認しておこう。
期待値とは、ざっくり言うと「平均してどれくらいの値が出そうか」という見込みの値のこと。
6面ダイス1個(1D6)の場合、各目(1~6)が出る確率はすべて同じ 1/6 なので、期待値は以下のように計算できる。
(1+2+3+4+5+6) × 1⁄6 = 21⁄6 = 3.5
つまり、サイコロを1個振ったときの期待値は 3.5 となる。
では、サイコロが2個の場合はどうだろうか。
期待値には「和の法則」という便利な性質があり、「Aの期待値 + Bの期待値 = A+Bの期待値」が成り立つ。 そのため、2D6の期待値は、1D6の期待値を2倍するだけで簡単に求められる。
E[2D6] = E[D6] + E[D6] = 3.5 + 3.5 = 7
よって、2D6の期待値は紛れもなく 7 なのである。
実際にすべての出目の組み合わせ(36通り)を書き出してみても、「7」が合計36通りのうち6通りと最も出現確率が高いことがわかる。
一方で「5」は4通りしかなく、「9」と同じ確率である。
| 合計値 | 組み合わせ | 通り数 | 確率 |
|---|---|---|---|
| 2 | (1,1) | 1 | 2.80% |
| 3 | (1,2),(2,1) | 2 | 5.60% |
| 4 | (1,3),(2,2),(3,1) | 3 | 8.30% |
| 5 | (1,4),(2,3),(3,2),(4,1) | 4 | 11.10% |
| 6 | (1,5),(2,4),(3,3),(4,2),(5,1) | 5 | 13.90% |
| 7 | 6 | 16.70% | |
| 8 | (2,6),(3,5),(4,4),(5,3),(6,2) | 5 | 13.90% |
| 9 | (3,6),(4,5),(5,4),(6,3) | 4 | 11.10% |
| 10 | (4,6),(5,5),(6,4) | 3 | 8.30% |
| 11 | (5,6),(6,5) | 2 | 5.60% |
| 12 | (6,6) | 1 | 2.80% |
なぜ「5」と言われるのか
数学的には「7」が正しい。それは分かった。
ではなぜ、我々の魂は「5」を叫ぶのか。それはすなわち体感にほかならない。
人間の記憶は非常に都合よくできている。「7」や「8」といった平凡な成功や、文句なしの「11」や「12」といった大成功の記憶は薄れやすい。一方で、「あと1か2高ければ成功だったのに…!」という惜しい失敗の記憶は、鮮烈な印象として脳裏に焼き付く。
この分水嶺における確証バイアス(自分の思い込みを補強する情報ばかりを集めてしまう心理現象)が、「また5が出た」「どうせ5だろ」という思考を強化していくのである。ダイスは悪くない。悪いのは我々の脳なのだ。
TRPG作家の無地文字氏も、X上でこの件を数理モデル化して考察している。
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https://twitter.com/plnlttrd/status/1324287138783850497
結論
上記のような共通体験が積み重なり、「2D6の期待値は5」という言葉は、TRPGコミュニティにおける一種のお約束、様式美として定着したのである。
キーパーが振るダイスがことごとく「5」を示し、探索者たちを絶妙に苦しめる。あるいは、プレイヤーが「ここで大きな目を出せば!」という場面で「5」を出し、卓が笑い(と絶望)に包まれる。
もはや、このフレーズは単なる愚痴ではなく、卓のコミュニケーションを円滑にし、一体感を生み出すための潤滑油のような役割すら担っている……といえるのかもしれない。
- 数学的には:期待値は7。
- 経験則的には:期待値は5。
どちらを信じるかは、あなたと、あなたの振るダイス次第である。
健闘を祈る。
類似モデル
- シミュレーションゲームのファイアーエムブレムでは、命中判定の確率が実際と表示で異なるというシステムが採用されている。理由には諸説があるが、本記事の事例のように、実測と感覚の差異を和らげるためであるとの考察が有力視されている。詳述は記事「実効命中率(ファイアーエムブレム)」を参照のこと。
関連動画
関連項目
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