本記事では、UGC百科事典サイト (ニコニコ大百科やピクシブ百科事典、各種ファンwiki等) における記事の構成の仕方を書いていく。
『UGC百科事典サイトの記事の書き方』と被る部分はそちらに記載しているため、先にそちらを読んでいただけるとありがたい。また、重ね重ねになるがむろん本記事が唯一無二の正解というわけでもなく、なんなら「この記事に全く反しているのに秀逸な記事」がいくらでも存在していることには留意されたい。
まえがき――本記事のゴール
前回となる『UGC百科事典サイトの記事の書き方』では、「最初の一里塚をとにかく作ること」を目指し、一般的なフローに文章を入れていく方法を紹介した。この方法は、例えば『あの料理の記事がまだない』『あのポケモンの記事がまだない』『あの動画投稿者の記事がまだない』というときに記事を立てる方法として有効に活用いただければ幸いである。
さて、Wikipediaなどでは基本的にこの建て方しかないのだが、ニコニコ大百科やピクシブ百科事典、膨大なページ数Wikiなどにおいては『これについて語りたいから記事を書きたいのだ』というケースもあろう。こうなると場合によっては、参考となる記事がなかったり、自分の書きたい方面にとって参考にならないケースもある。
そこで今回は「主軸を『これ』と定めて記事を構成する方法」を解説する。前回は架空の料理『ずんだフライ』の記事を書いていくというていで記事を書き進めたが、今回は実際にある記事についてどう組み立てていったのかを見てみよう。
全体フロー
基本的に構成の考え方は以下のようになる。
とはいえベースは前回でも説明した通り、
である。前回は先駆者の構成を真似る方法だったのを、自力で概要に何を書いて、補足に何を回すかを考えるだけである。
例に挙げるのは『三菱重工爆破事件』と『東京でない東京』である。この2記事を挙げるのは単にこの記事の初版編集者が前掲2記事の初版編集者であり的はずれなことを言わなくて済むからという消極的な理由であり、自慢したいとか他の記事を見下しているとかそういうことではないので留意されたい。むしろ他の編集者の方々は本記事初版編集者よりもっと多くの優れた記事を書かれていると思います。ほんとに。
Case 1:『三菱重工爆破事件』
まずは『三菱重工爆破事件』を軸として、構成の組み方を考えてみよう。
記事主題を設定する
『三菱重工爆破事件』といえば、日本において知名度の高い無差別テロ事件のひとつであり、後のオウム真理教によって起こされた松本サリン事件や地下鉄サリン事件までは、最大規模のテロ被害でもあった。また、その事件の背景には、東アジア反日武装戦線という極左テロ集団の思想が故に三菱重工がターゲットとして選ばれたという側面もあった。
故に、この事件を語るには、さまざまな側面が考えられる。「三菱重工爆破事件のテロ被害がどれだけ酷いものだったか」を主軸にすることもできるし、「東アジア反日武装戦線はなぜこのような事件を起こしたのか」を主軸にすることもできよう。
しかし、本記事の初版編集者が主軸とした点は「なぜ爆破予告が起きると、どれだけふざけた内容であっても厳戒態勢が取られるのか」であったりする。これは、そもそも「三菱重工爆破事件」を建てるに当たってのきっかけが以下の様なものだからである。
爆破予告が起きるたびに「なんで明らかに淫夢民や恒心教徒のいたずらなのに、ここまで真面目に対応しているんだよ、馬鹿じゃねえの?」「そもそも本当に爆破するつもりなら、わざわざ爆破予告なんてしないだろう。対応するだけ犯人の思うツボだ」という声が見られる。でも実際にいたずらだと思って対応しなかった結果日本史に残るほどの被害が起きたテロ事件がたしかあったよね?
記事主題に従って構成を考える
この「なぜ爆破予告が起きると、どれだけふざけた内容であっても厳戒態勢が取られるのか」を主軸にする場合、まず「概要」で事件の流れを説明し、次に「結論部 (これは前回の『記事の書き方』における、いわゆる補足)」で「だから警察も自治体も企業・学校も364364発の爆弾をしかけたとかいういたずらにも厳戒態勢を取るんだよ」と締めると良さそうに思えてくる。
こうして「概要」→「結論部」という構成はできたが、「概要」はあくまでも概要である。つまり、「どんな事件だったか」というだけである。「結論部」でいきなり「だから警察も自治体も企業・学校も364364発の爆弾をしかけたとかいういたずらにも厳戒態勢を取るんだよ」と言われても、読者からすれば唐突な気はしないだろうか。いきなり概要から書き始めれば、「ああ、三菱重工爆破事件についての全体的な話をしたいのね」と思って読み進めるはずだ。唐突に別の話がはじまったという印象を取り除くにはどうすればいいのか?
答えは簡単である。「この記事は『なぜ爆破予告が起きると、どれだけふざけた内容であっても厳戒態勢が取られるのか』を主題にしていますよ」と最初にことわっておけばいいのだ。故に、概要の前に「まえがき」を追加することになる。結果として、構成は以下のようになろう。
序文 | 三菱重工爆破事件とはこれこれこうだよ |
まえがき | この記事は「なぜ爆破予告が起きると、どれだけふざけた内容であっても厳戒態勢が取られるのか」という点から三菱重工爆破事件を解説する記事だよ |
概要 | 三菱重工爆破事件はこういう事件だったよ |
結論部 (補足) |
だから警察も自治体も企業・学校も364364発の爆弾をしかけたとかいういたずらにも厳戒態勢を取るんだよ |
記事主題を強調しつつ構成を肉付けする
構成ができたら、記事はもう8割書けたも同然である。あとは記事主題をそうだね、と言わしめるだけのまえがきと結論部を書くだけだ。ただし、『記事主題がぼやけてしまわないように、書くことを取捨選択する』ことを意識する必要がある。
例えば概要では、多くの情報源で『東アジア反日武装戦線がどうして三菱重工を爆破しようとしたのか』といった流れについて、彼らの思想を探る方向から深掘り解説されていることは多かろう。しかし、記事主題はあくまで『なぜ爆破予告が起きると、どれだけふざけた内容であっても厳戒態勢が取られるのか』なのだから、政治的な議論は脇においておきたい。なので、「東アジア反日武装戦線はとにかく三菱重工を敵視しました。ちょうど余ってた爆弾があったのでそれを三菱重工のテロに使いまわしました」とでも書いて、さっさと事件の流れに入るべきである。そして、「いたずらだと思ったので」あたりは太字にして強調しておこう。記事主題からすればぜひ強調したい部分だからである。逆に記事主題からしてどうでもいい部分は書かなくともよいだろう。今回で言えば、「三菱重工爆破事件は松本サリン事件・地下鉄サリン事件が起きるまでは最大規模のテロ事件だったよ」ということすら書いていない (まあ、追記で書かれるかもしれないが) 。
まえがきは「この記事は『なぜ爆破予告が起きると、どれだけふざけた内容であっても厳戒態勢が取られるのか』を主題にしていますよ」ということを伝えるために書くのであるから、「実際には爆破はなかったが大きく社会が対応させられた爆破予告事件」をいくつか列挙した上で、「こういう事件で『なんで大袈裟に厳戒態勢取るんだろう』って、皆さん思ってますよね?」と前フリをしてあげると、よりそのメッセージが伝わりやすい。また、その記事主題に絞って記事を書いていますよ、と伝えるために、
と、記述を省いた部分についても強調してあげるといいだろう。記事主題はくどいくらいに強調すると、読者からも何をいいたいかを読み取ってもらいやすい (なおこの項目では序文にも記事主題を仄めかし、はてはお知らせ表示テンプレートを使用して省いた部分を強調している。) 。
さて、結論部に移動したいのだが、ここで多くの人は思うはずだ。「三菱重工爆破事件ひとつだけだと、この結論を導くには材料として弱いな」と。実際、ひとつの例証だけで人はなかなか納得出来はしまい。もうひとつくらい説得力を持たせられる事件はないだろうか?ここでGoogleで「爆破予告のあと、実際に爆破した事例」を探してみると、見つかった。アイルランド共和軍 (IRA) も実際に爆破予告してから爆破しているではないか。それも、事前に通告して人的被害を最小限に抑えることで、政治的な目的を達成しようとしているわかりやすい事例である。これを概要と結論部の間に、補足として付け加える。
Case 2:『東京でない東京』
次は『東京でない東京』である。
記事主題を設定する
東京でない東京とはなんぞや、という話だが、もともとは「千葉県にある東京○○一覧」とでも題する予定であった。ではこの記事名になったのはなぜかというと、「千葉にはよく東京○○と名前がつくものが多い」というネタについて触れたいからである。だが、筆者は次のように考えた。
そう、上述のように考えて、千葉県以外の関東隣県の事例を集めようとした矢先、筆者は直面する。「あれ、そもそも日本中に『東京○○』があるな?」ということである。こうすると、「千葉県にある東京」のおまけ程度に埼玉や神奈川を書く予定ではあったが、むしろ「東京外の東京」を網羅してみたくなろう。こうして、記事名は「千葉県にある東京○○一覧」ではなく、「東京でない東京」となったのだ。
記事主題に従って構成を考える
とはいえ、まだこの段階では千葉にある「東京」がメインである。というか、このような記事を読みに来るような読者としては、まず千葉の話をしっかり消化してほしいであろう。よって、「千葉」をメインとして概要とする。「千葉以外」はいわば補足であるから、一覧記事のように列挙して概略だけ書くことにしよう。
とはいえ、「東京は千葉だけのものではない」という補足部分をしっかり読んでいってほしいので、「千葉以外についても触れてるよ」とアピールしたい。「下に千葉以外についても書いてますよ」と示すには?――そう、まえがきの出番である。2回目の話でわかっていただけただろうが、「記事をこう読んでほしいというオーダーを読者にするなら、まえがきを書いて「こう読んでください」と示す」のが早い。察してくれと願うより、お願いすべきなのだ。結果として、構成は以下のようになろう。
序文 | この記事は東京にない東京○○の紹介だよ |
まえがき | この記事には千葉県以外の東京も触れてるから読んでね |
千葉 (概要) |
ゆーてやっぱり東京は千葉のものだよね |
非千葉 (補足) |
いやいや千葉だけじゃないよ、神奈川や埼玉はおろか、北は北海道から南は沖縄まで東京はあるよ |
記事主題を強調しつつ構成を肉付けする
ということで、まずはメインである千葉について書いていく。有名所として「浦安にあるくせに『東京ディズニーリゾート』」「東京でもドイツでも村でもない、正答率0%のテーマパーク『東京ドイツ村』」「いまでもなお世界中の行き先表示でTokyoと書かれる『成田国際空港』」をあげつつ、千葉の東京をとにかく列挙していく。千葉県は東京湾も大好きなので、東京湾についても一段落を取って解説しておこう。更に、なんでこんなに千葉に東京があるのか?という部分はしっかり説明を書いておきたい。そのため、「東京にアクセスしやすい」「東京から千葉に移ったから」のほか、「Chibaには実はマリファナって意味もあるらしいから、それで避けているという説もあるんだよ」という点までフォローしてあげたい。
そして非千葉の非東京の東京を列挙するパートであるが、こちらは道府県別にリスト化して掲載していこう。そうして書いているうちに、「東京工場」「東京事業所」があまりに多いことに気付く。「東京工場」や「東京事業所」はもはや特筆性が薄いわけだ。なのでルールに「東京工場」「東京事業所」は除く、と入れておく。
まえがきは今回の場合、非千葉の非東京もあげていることを示せればいいのであっさりめでよかろう。こうして記事は完成した。投稿してみよう。
記事主題から外れない部分で読者の意見をフィードバックする
そうして投稿したところ、「こんな東京○○もあるよ」という報告が寄せられた。それだけでなく、読者からこのような意見を掲示板やTwitterでいただく。
- アメリカにも東京はあるよ (リトルトーキョー)
- トウキョウトガリネズミはどうだろう
- 「京葉」も東京要素薄いのあるよね
- 「東京」だけどTokyoじゃないものもあるよね (中国や朝鮮半島、ベトナムの『東京』や京都府にあるHonda Cars 東京都など)
- 東京以外でも蒙古タンメンとか台湾ラーメンとかあるよね
最後のものは記事主題である「東京外の東京」からはずれるが、上4つは記事主題からしても面白い。アメリカの事例はドイツの事例や、小惑星の事例とともにリストにいれ、トウキョウトガリネズミも厳密な記事ではないし、実際エピソードも面白いから書き足そう。京葉も言われて調べてみれば東京がほとんど、またはまったく関係しない事例がそこそこあったので追記する。4番目のケースについては、新たなパラグラフとして付け加えたほうが面白そうなので、「番外編:Tokyoではない『東京』」という項を新設した。UGC百科事典サイトはこういう集合知があるからやめられない。
いかがだっただろうか。このような「記事構成も自分で考える」というケースの場合、どんな編集者も「なにを伝えたいか」「だからどうすればそれが伝わるのか」という構成方法で書いている。これは小論文やニュース記事、あまり褒めたくはないがキュレーションサイトといったものでも似たような手法を取っている。多くの文章を読み、その構成を真似るという点では『UGC百科事典サイトの記事の書き方』で示したことと実は同じことを言い直しただけである。 なぜ、その記事を建てようと思ったのかという点にとことん向き合うことで、魅力的な記事を書くことができるだろう。
重ね重ねになるがとにかく書いて、まずひとつ投稿してみよう。UGC百科事典サイト群は新たな編集者を待っている。
- 11
- 0pt