シコルスキー S-72 Xウイング は、1983年から1988年にかけて、アメリカ航空宇宙局 ( NASA ) がアメリカ陸軍を協同契約発注元(契約パートナー)として 国防高等研究計画局 (DARPA) の資金協力を得て、シコルスキー・エアクラフト社に対して開発発注したヘリコプターと固定翼機を混合させた ローター・システム検証(研究)航空機 ( Rotor Systems Research Aircraft , RSRA ) である。
計画名である 「Xウイング」は、映画 「スター・ウォーズ・シリーズ」 に登場する 宇宙戦闘機 “ Xウイング・ファイター ” が由来とも言われている。
固定翼機の高速性、複合ヘリコプター (Gyrodyne) の高速性 と 空中停止(ホバリング) 能力の両立、純粋ヘリコプターの (複合ヘリコプターに比較しての) 経済性と柔軟性を1機で全て賄うと共に、主回転翼の羽根角度(ローターブレードのピッチ)を制御する一般的な手法ではなく、ローター駆動用の 2基の T58-GE-5 ターボシャフトエンジンから抽気し、回転翼の羽根の翼端から圧縮空気を噴出して仮想的な翼形を生成し、それを用いるという、「回転翼の駆動と制御に関する新方式」を検証することにあった。
圧縮空気の流量と各翼への配分はコンピュータ制御され、各回転翼のブレード翼端から適切な比率で噴出される。 飛行原理的には ホットサイクル式ローターの考え方を更に推し進めたものと捉えることも出来る。
実は 厳密には 冒頭画像の 「X ウイング」 機 というのは 2号機 ( NASA 登録番号: N-741 NA , 民間機登録番号 : cn 72002 ) の 改造後の状態のみ を指す概念 である。
(初号機 NASA 登録番号: N-740 NA , 民間機登録番号 : cn 72001 )
1981年にNASA とアメリカ陸軍は、後に X 字翼 ( X ウイング )と呼ばれた、4枚羽根の主回転翼を 「ローター・システム検証(研究)航空機」 (RSRA) に取り付けることをシコルスキー社に提案要求した。
シコルスキー社は、自社の提案で RSRA に UH-60A の主回転翼を適合させることを提案し、一方、ヒューズ・ヘリコプターズ社は YAH-64A の主回転翼を適合させることを提案し、更に、ボーイング・バートル社は YUH-61A か、“Model 347” ( CH-47 チヌーク の 4枚羽根・主回転翼構成 仕様機 [通常は3枚羽根] の社内名称 ) の 主回転翼を適合させることを提案したが、結局、この計画は継続されることは無かった。
X 字型翼・循環制御・概念 は1976年10月にアメリカ国防高等研究計画局 (DARPA) 投資下のデイビッド W. テイラー・海軍技術研究所 によって発展し、ロッキード社は概念を実証試験する為に大規模な回転翼を開発するというアメリカ国防高等研究燃費の問題計画局 (DARPA) 間との確定契約を獲得した。
1983年後半にシコルスキー社は、X字型・回転翼システムの為の概念実証(デモンストレーション)試験機として既存の試作機から1機の S-72 「ローター・システム検証(研究)航空機」 (RSRA) を改修する契約を受けた。
改修された機体は1986年に生産されたが、1988年に計画が中止されるまでの間に一度も飛行することは無かっ た。 (※)
「X ウイング計画」に基づく継続的な飛行は1983年から1988年までのわずか5年間で終了し、設計運用寿命の12年間を全うすることなく終了した。
(※) 大きな慣性積率(慣性モーメント)を持つ巨大な4枚羽根を適切に制動するブレーキ、更に X 翼 を固定するまでの間の空力と重心上の不安定な挙動を当時の航空電子装置(コンピューター)では制御しきれなかったとも、また回転翼を駆動する T58-GE-5 ターボシャフトエンジンと TF34-GE-400A ターボファン の合計4基の膨大な燃料消費の問題を解決出来なかったからとも航空評論家は記事を書いている。
結局 熱核タービンエンジン により燃費の問題を事実上、無視可能となるような技術革新が起きない限り「ホットサイクル式ローター 」の実用機の出現はあり得ないという現実が判明することになった。
「ホットサイクル式ローター 」の特性上、不要となった尾部の対トルク用・副回転翼(テイルローター)を撤去、固定翼機形態の場合でも主回転翼を取り外すことなく、X 字型 ・ 回転翼の回転運動をブレーキで制止・固定させ、そのまま 「X 字型 ・ 固定翼」として利用する。 なお、航空工学的な分類では 「複葉機」 (派生変形)となる。
このため、少なくとも
複合ヘリコプター 〔 ジャイロダイン / Gyrodyne 〕 ⇔ 固定翼機
2形態に関してのみ、相互間の遷移飛行には煩雑な 「組み替え作業」 を必要とせず 無段階移行(完全変形) が可能となるはずだった。
各々の飛行形態の変換に関して、最大2時間程度の地上整備作業により “ 組み換え変形 ” が可能である。
形態名 | 部品交換作業の内容 |
純ヘリコプター | T 字型尾翼 (頂部の小型水平尾翼) 、同・垂直尾翼の中央左側に尾部の対トルク用・副回転翼(テイルローター) を設置。 |
複合ヘリコプター 〔 ジャイロダイン / Gyrodyne 〕 |
T 字型尾翼の頂部にある “小型水平尾翼” を小型のものに交換、上下に可変迎角の大型水平安定板を追加。 |
固定翼機 | 主・回転翼、尾部の対トルク用・副回転翼を撤去 ( 反トルク・テール・ローター を 撤去しなくても最大速度は低下するが飛行は可能 。 下記ニコニ・コモンズ画像を参照)、T 字型尾翼の頂上部にある “小型水平尾翼” を標準版のものに交換、上下の可変迎角の大型水平安定板は必要に応じて撤去。 |
同時代の回転翼航空機として特異な特徴として乗員のみを座席から切り離す、後の時代の カモフ 「Ka-50」 の射出座席とも異なる 「スタンリー・ヤンキー摘出システム」 と呼ばれた非常脱出装置一式を備えていた。 脱出手順は、主回転翼の羽根を切断する為に活性化(アクティベーション)された分離ボルトが発火し分離が開始されるのと連動し、適切な時機〔タイミング〕に航空機の操縦室の天井の脱出口パネルもまた同様に、火薬の爆発作用により吹き飛ばされ、2名ないし3名の乗員はこの Yankee (ヤンキー)システムと呼ばれたロケット装置により、コックピットの座席から“乗員のみを”引き抜かれた。
回転翼の空力データ入手という研究機としての機能とは別に、将来的な実用機の開発への試金石としての青写真をも意図した「Xウイング」だったが、複合ヘリコプター故の必要性とはいえ、エンジンを4基も搭載する無駄に加え、抽気による回転翼制御システムとエンジン数の相乗作用もあり、燃費は通常のヘリコプターより劣った。
シコルスキー社とアメリカ陸軍は、将来の実用機開発への費用増大を避ける( リスクマネジメントによる危険分散 )意図を以て、同海軍も対しても、本機の特性を活かした実用機を開発することで、戦術(写真)偵察機、空対地任務の観測機、早期警戒機 ( Airborne Early Warning , AEW )、電子戦機( Electronic Warfare aircraft,EW )、対潜水艦戦 (Anti-submarine warfare, ASW)向けの対潜哨戒機、捜索救難(Search and Rescue:SAR)等の任務に対する X字型・回転/固定翼機 の適性があることを働きかけたが、海軍の関心は得られなかった。
思ったよりも固定翼形態での速度が出ないという運用結果もあり、ティルトローターの方が片方のエンジン停止時の安全性や、遷移飛行に関する困難( ヘリコプター形態から固定翼機、あるいはその逆など、“垂直離着陸 - 水平飛行”相互移行時に不安定になる )があるとはいえ、速度や燃費、航続能力でXウイングを上回り、構造の簡便さや整備性でも本機を上回るベル・ヘリコプターのXV-15や実用機 V-22 オスプレイが登場すると、Xウイングという複合ヘリコプターに対するアメリカ陸軍や、アメリカ航空宇宙局 (NASA) の関心も薄れ、1988年に計画は正式には中止(キャンセル)されている。
アメリカ陸軍が手を引いたその後も、アメリカ航空宇宙局(NASA)は地上における風洞試験やごく稀に短時間の試験飛行を仕様上の理由、つまり「肝心の X字翼自体の技術的な未熟による飛行危険性」から、主として“初号機”を用いて行ったが、1997年の試験飛行を最後として同機が二度と飛行することは無く用途廃止となり、シコルスキー社が本機のデータを取り入れた実用型を開発する余地は遂に生じることは無かった。
飛行形態 (組み替え後) |
最大速度 |
---|---|
1.純ヘリコプター形態 | 296km/h |
2.複合ヘリコプター形態 | 370 km/h |
3.固定翼機 | 555.6km/h |
[◎] | 回転翼直径を避けて吊り上げる必要があるため、“Π” 形の腕(アーム)を持つ2台連結型のクレーン車が必要。 |
〔◆〕 | 煩雑さを嫌い、6機以上を保有している飛行隊では、各々3形態に既に組み換え済みの3種類を1組とした、2組体制で運用する実務とした。 |
超時空騎団サザンクロスに登場する 惑星グロリエの開拓惑星軍「サザンクロス軍」 ( Army of the Southern Cross, ASC ) の 航空宇宙局 ( Aeronautics and Space Administration, ASA ) 所属、 戦術機甲宇宙軍団 〔宇宙機甲隊〕 ( Tactical Armored Space Corps, TASC ) 配備の可変戦闘機 VFH-10A/B 『オーロラン』 の ヘリコプター形態 (※) は、本機の構想に多大な影響を受けてデザインされた。
※ 二重反転式ローター 及び 熱核タービンエンジン により燃費の問題を事実上、無視可能となり実現した ホットサイクル式ローター の採用。
乗員 | 2名、または 3名 (機長 兼 正操縦士 、副操縦士 、 電子機器操作員 兼 観測員) |
座席数 | 3席 (定員: 3名) |
胴体全長 | 21.54 m |
回転翼直径 | 18.90 m |
主回転翼の頂部までの全高 | 4.42 m |
胴体全高 | 3.25 m |
自重 | 6,572 kg 〔9,535 kg〕 |
空虚重量 | 9,480 kg 〔不明〕 |
全備最大重量 | 8,346 kg 〔11,884 kg〕 〔 〕内の値が最大離陸重量を超えるが、主回転翼による垂直離着陸は不可能だが滑走により離着陸が可能。 |
最大離陸重量 | 11,815 kg ( 3形態のいずれにおいても、この値を超えないこと ) |
推進専用補助エンジン ( TF34 )を装備しない場合の 離陸重量 |
8,300 kg |
主・発動機 |
ゼネラル・エレクトリック T58-GE-5 |
推進用・補助機関 |
ゼネラル・エレクトリック TF34-GE-400A |
最 大 速 度 |
370 km/h 〔 555.6km/h 〕 |
推進専用補助エンジン (TF34) を使用しない場合の最高速度 |
|
推進専用補助エンジン (TF34)を使用しない場合の 巡航速度 |
|
最大平均上昇率 | 6003,94 ft / 分 |
海面での初期上昇率 | 3,050 m / 秒 |
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掲示板
2 ななしのよっしん
2016/07/30(土) 01:19:45 ID: g4vUtp+JSS
今ならローターをCMCで作れそう。
あと推進ファンも抽気したエアかモーターで駆動させれば,エンジンも1系統で済む。
これで少しはマシになるかなぁ……?
3 ゆい奈
2017/01/19(木) 00:13:28 ID: sZ/KGJHZ9D
イゴール・シコルスキー財団の保管庫に海軍向けに提案した実用機のデザイン画がありましたので、追加しました。
■ シコルスキーエアクラフト ウェブサイト> 試作機・生産機の歴史(保管庫)>Xウイング
http://w
4 ななしのよっしん
2017/01/19(木) 15:01:36 ID: D/yf6ySOkT
この手の機体が活躍したのは映画「シックス・デイ」のなかだけか
急上昇ワード改
最終更新:2024/12/27(金) 06:00
最終更新:2024/12/27(金) 06:00
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