ドミニク・サン・ピエール(Dominique Saint-Pierre)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
CV.平野文(石黒監督版)、園崎未恵(Die Neue These)
フェザーン公民、歌手・事業家。帝国暦489年時に27歳前後。赤茶色の髪を持つ女性で、美人でもあったものの、群を抜くほどの美貌ではなかったという。
フェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーの情人であり、そのために各方面に大きな影響力を持った。“神々の黄昏”作戦でフェザーンが銀河帝国に占領されたのちもルビンスキーの豪勢な逃避行に付き添い、もと情夫を冷静な目で見つめながらも、彼が地下から張り巡らせた様々な陰謀に関与した。
若い頃のドミニクは歌と踊りの才能で社会の最上層にのぼりつめんとする野心の持ち主で、歌手やダンサー、女優などを経験した。躍動的な踊りや声量豊かな歌声、その利発さで評価を受けていた彼女は、帝国暦481年頃、クラブの歌手として働いていたところを自治領主府の書記官だったアドリアン・ルビンスキーに見そめられ、その情人となる。その後、ルビンスキーはフェザーン第五代自治領主に就任した。
出会いから8年が経過した帝国暦489年、ルビンスキーの足はすでにドミニクのもとから遠のいていたが、シープスホーン地区の宏壮とした邸宅に住む彼女は宝石店とクラブの経営者、貨物船数隻のオーナーといった立場にあり、なおルビンスキーの情人として政治家や大商人に影響力を有していた。
当時のドミニクは、ルビンスキー打倒の野心を燃やす自治領主補佐官ルパート・ケッセルリンクと交友があった。ルパートは実父であるルビンスキーに対抗するためドミニクの協力を得ており、彼女はその頼みによって地球教の主教デグスビイを堕落させるのに協力している。しかしドミニクはいまだ本来どおりルビンスキーの味方であり、同年の帝国軍のフェザーン侵攻を受けてルパートがルビンスキーを殺害しようとした際には、彼女からの情報によってルビンスキーは難を逃れルパートを返り討ちにしている。
以降のドミニクは、秘密シェルターに潜伏するルビンスキーに同行した。帝国の内務省内国安全保障局も彼女の存在を認識しており、ルビンスキーの情人にして各種の陰謀の従犯としてその行方を捜索していた。新王朝成立後、新帝国暦2年なかばには、内国安全保障局長ハイドリッヒ・ラングに接触を試みたルビンスキーのため、自身の名前で内国安全保障局に通信文を送っている。また、この時期のドミニクは、ルビンスキーの陰謀に供する目的もあって、オスカー・フォン・ロイエンタール元帥との子を生したエルフリーデ・フォン・コールラウシュを保護していた。
その後、ルビンスキーの健康悪化を見届け、その死の直前まで付き添っていたが、彼が逮捕された際にはその場にはいなかったようである。しかし彼女は新帝国暦3年6月に惑星ハイネセンで発生した大火の際、不審人物として検挙されたなかにはいっており、憲兵隊の取り調べを受けた。ことが国事犯に類するため取り調べは厳重なものとなったが、ドミニクは冷静沈着、淡々として尋問に応じ、憲兵たちに強い印象を残している。このときのドミニクの情報提供により、この大火が皇帝ラインハルト暗殺を狙うルビンスキー最後の挑戦であったことが判明し、後世“ルビンスキーの火祭り”と呼ばれることとなる。
そして最後に、ドミニクは大きな情報を帝国政府にもたらした。旧フェザーン自治政府、地球教団、ヨブ・トリューニヒトの三者が秘密裏に繋がった相互利用関係にあったことが明らかとなり、ルビンスキーの健康悪化がこの関係にもたらした変質をも緻密に追うことができたのである。この供述は、後世の歴史学や政治学に大きな研究課題を与えることとなった。
ドミニク自身は二ヶ月の勾留ののち、起訴猶予処分となり釈放されている。以後、消息を絶ったという。
情夫であったアドリアン・ルビンスキーにはフェザーン占領後ながく付き添っていたが、けして盲信的な関係などではなかった。互いに愛情がなかったとも言い切れないが、かなり複雑な関係が築かれていたことは疑いないところであろう。彼女はルビンスキーの陰謀を醒めきった視線で把握しており、次第に気宇が小さくなっていくその内容を強烈に皮肉ることも多かった。彼女が病状の悪化が進んだルビンスキーにかけた言葉は、その最たるものだろう。
あんたが死んだあと、あんたが皇帝ラインハルトにたいしてどうふるまったか、戦ったのか、それとも足をすくおうとしただけか、他人が決めてくれるわ。そして、あんたは、その評価に抗議することもできないのよ。
のちに受けた憲兵隊による尋問でも、ルビンスキーの竜頭蛇尾について「わたしは同情しません。同情されても喜ぶような人ではありませんでしたから」と語るなど、アドリアン・ルビンスキーという陰謀家の人となりをもっとも理解していた人物のひとりであった。
当のルビンスキーのほうはというと、全般的にドミニクの利発さを高く評価していたようで、しばしば自身の陰謀の内容について会話を交わしている。一応は情人関係とみなされていたにもかかわらず、(少なくとも潜伏後については)そのような情緒とは無縁であった。いちどだけ、潜伏後のルビンスキーが何を考えたのかドミニクに自分の子を産まないかと提案したことがある。かつてルビンスキーの息子殺しに加担させられたドミニクによる返答は、
あなたに殺させるために?ごめんこうむるわ
という、簡潔かつきわめて辛辣なものだった。
ルパート・ケッセルリンクに協力してはいたが、のちのドミニクによるルパート評は「自分だけがりこうだと思っていて、鼻もちならなかった」というものだった(ただしこれは、彼の実父ルビンスキーに似て、という情夫への皮肉でもある)。ドミニクもルパート殺害に積極的に加担したわけではなく、あくまで打算的に有利なほうを選んだだけだったこともあって、ルパートの死には後味の悪さを感じていたようである。のちには、「ルパートは彼なりに正面から戦って死んだわ。あんたはどうかしら」と、陰謀を巡らせるうちに衰弱していったルビンスキーと対比する言も残した。
生前のルパートからは、帝国のフェザーン占領に際して「ルビンスキーと地球教の関係を知る証人」としてデグスビイを脱出させるよう指示を受けており、ドミニクはルパートの死後もその指示どおりにしている。この行動自体はルビンスキーも知るところだったが、そのきっかけとなったルパートの指示については、彼女がルビンスキーに黙していたことのひとつだった。
保護したエルフリーデ・フォン・コールラウシュに対しては意外な憐憫の情があったらしく、母子に医師をつけたうえ、ハイネセンに赴任していたロイエンタールに会わせるため商船を手配している。このために、ロイエンタール元帥叛乱事件に敗れて末期を迎えたロイエンタールは子の目を見ることを得、その子はフェリックス・ミッターマイヤーとして親友ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥に託されることとなるのである。
ルビンスキーの行方を追っていた軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥は、どこかの時点でドミニクによるエルフリーデの保護を察知していたらしく、ハイネセンでの尋問中にその行方をドミニクに尋ねたという記録がある。ドミニクは驚いた様子だったものの「知らない」と返答し、オーベルシュタインも追及はしなかったという。
原作での初登場は正伝4巻策謀篇第三章、ルパートがドミニクの館を訪ねたときであるが、OVAではより早く、正伝第一期から登場している。
最初の登場は第12話(第一期)で、同盟軍の帝国領侵攻作戦に先立ちルビンスキーが駐在帝国弁務官ヨッフェン・フォン・レムシャイド伯爵を招いた山荘の主としてである(この時点では台詞無し)。原作一巻ではこの場面で「所有者はルビンスキーの数多い情人のひとりだった」とあるのみだが、OVAではこの所有者をドミニクとして設定した格好となる。その後も第14話で登場し、ルビンスキーがフェザーンの思惑を披瀝する会話相手を務めている。
第二期以降での初登場は原作での初登場場面と同じルパートが館を訪れるシーン(第38話)で、以降、おおむね原作に沿ったタイミングで登場している。とはいえ、(原作同様)基本的にはルビンスキーと酒を飲みながらオトナな会話を交わしているばかりである。
最後の登場も原作と同様で、第109話において勾留ののちに釈放された時であった。
「Die Neue These」でも登場が前倒しされ、展開上では石黒監督版よりわずかに早い第9話「それぞれの星」から登場。ドミニクの私邸の室内でルビンスキーがフェザーンの姿勢について思いを巡らすシーン(黎明篇第六章-Ⅴに相当する場面)にて、身支度を整えつつルビンスキーと会話し、「金にこまらなくなっても、ステージに立つのはやめないか」という皮肉げな問いかけに「自由を売ったおぼえはないわ」と返している。
次の登場も第10話と原作より早く、石黒監督版初登場シーンに相当する場面となった(ただし、山荘の持ち主かどうかは明確にされていない)。こちらでも、ルビンスキーから同盟による帝国領侵攻に対応するフェザーンの思惑を語られている。
その後、フェザーンの動向に注目した第30話では、商人の顔をしてルパートの情報を探っていた帝国の諜報員に接近。ドミニクの示唆で酒場「ドラクール」の裏に呼び出された諜報員は、暴走する自動運転車によって不幸な“事故死”を遂げることとなる。また原作初登場の場面に相当する第41話では、デグスビイを陥れようとするルパートに妖艶に迫り、オトナの銀英伝ぶりを見事に発揮した。
掲示板
12 ななしのよっしん
2021/04/13(火) 22:54:41 ID: YLE56ExjPZ
色々な理由で子供を産むという幸せは諦めてて、それが故にエルフリーデ母子への情を示したのかなと想像
ルパート殺しに関しては実子殺しのルビンスキーにも共犯となった自分にも複雑な感情がありそう
13 ななしのよっしん
2021/04/24(土) 19:35:14 ID: nUhJ2T1cMz
旧版を見返してるが、稀に増山江威子さんと聞き違える
「大人の女性」を見習ったところあるのかもな
14 ななしのよっしん
2022/04/04(月) 23:43:48 ID: xxfDDjWJ+k
ノイエ激突編で、オーベルシュタイン配下の諜報員暗殺の片棒を担いでたのはゾクッときた。
あの人もバリバリに「魔都フェザーンの夜と闇」の当事者だったんだな、と。
急上昇ワード改
最終更新:2025/02/17(月) 13:00
最終更新:2025/02/17(月) 13:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。