文学賞とは、優れた文学作品を顕彰する賞。小説のほか、詩歌・戯曲・ノンフィクション・エッセイなどの賞も多い。
最初によくある誤解を解いておくと、日本の文学賞は有名作家の名前を冠したものが大半だが、決して「名前が冠された作家っぽい作品を顕彰する賞」ではない。芥川賞受賞作は別に芥川龍之介っぽい作風であることを求められないし、江戸川乱歩賞受賞作も別に江戸川乱歩っぽい作風である必要はない。
ある程度ジャンルを限定した賞であれば冠された作家名が対象となる作品の大まかな傾向を象徴することはあるが(鮎川哲也賞、大藪春彦賞など)、それらも別に冠された作家と似た作風でなければならないということはない。
さて、小説を対象にした文学賞は、大まかにいって3種類に分けられる。
以下、具体的な例を挙げつつ説明する。
公募新人賞はその名の通り、一般から応募された投稿原稿から優れたものを選び表彰する賞。出版社や雑誌が主催し、受賞作はその出版社から商業出版、もしくは雑誌に掲載され、受賞者には賞金が支払われる。
というわけでプロ作家になる一番手っ取り早い道は、これらの公募新人賞を受賞することである。ただし、地方や新聞社主催の小さい新人賞は必ずしもプロデビューに繋がるとは限らないので、真面目にプロになりたい人はまず、受賞すればちゃんとデビューできる賞に原稿を送ろう。
基本はアマチュアのためのものだが、江戸川乱歩賞などプロ作家からの応募を認めている賞もけっこう多い。アマチュア限定の新人賞で、後からデビュー済みだったことが判明してちょっとした問題になることも稀にある。
求められる原稿の長さ(長編か短編か)、対象となるジャンル、賞金金額(1000万円以上から、受賞作の印税のみという賞まである)などは賞によって様々。短編賞に長編を送ったらどんな傑作でも落とされるし、ライトノベルの賞に純文学を送っても普通はダメである。書いた原稿を賞に送る際には、その賞の規定と対象をちゃんと確認し、それに沿った原稿を送ろう。
数十作から、賞によっては数千作の応募が集まるため、まずは編集部やアルバイトの下読みによって応募作を数作品まで絞り込み、最後に数名の選考委員(主に有名な作家が務める)の合議によって受賞作を選ぶのが基本。
公募新人賞は大別すると、長編賞と短編賞に分けられる。長編賞は主に出版社が主催し、そのまま出版できる長編作品を求める賞(短編連作でも可だったりする)。短編賞は主に雑誌が主催し、受賞作はその雑誌に掲載される。まれに長編と短編を一緒に受け付ける賞もある(かつての日本ホラー小説大賞など)。
ライトノベルを含むエンターテインメントでは長編賞が、純文学では短編賞が主流。
昔は新人賞の数も少なく、「○○賞受賞」とついていればとりあえず話題になった時代もあったが、今は公募新人賞の乱立もあり、新人の受賞作というだけでは話題にもならない。デビューしても生き残り競争はそこからが本番である。そのため、デビューしたものの売れなくて仕事がなくなったプロが再び新人賞に応募してくることも多い。ライトノベルや児童文学出身の作家が一般文芸の新人賞を獲って再デビューする例もけっこうある。
プロデビュー済みの作家による、商業ベースで発表された作品を対象に、その中から優れたものを顕彰する賞。芥川賞、直木賞、本屋大賞などは本好きでなくとも一度は名前を聞いたことがあるだろう。
主に出版社がバックについた財団法人や、作家団体などが主催する。大きな賞を受賞した作品はニュースなどでも報道され、ベストセラーになることが多い。
こちらは大別すると、若手作家を対象にした新人賞(公募新人賞とは別)と、ベテラン作家を対象にした賞に分けられる。芥川賞や直木賞は前者だが、新人(若手)の定義はわりと曖昧で、どう考えてもベテランの作家が受賞することもある。一方、本屋大賞や日本SF大賞のように若手もベテランも区別しない賞もある。1回その賞を獲った作家は、それ以降は候補にならないのが普通(例外あり)。若手が対象の賞は候補作が発表されるが、ベテラン作家が対象の賞(吉川英治文学賞や柴田錬三郎賞など)は(落選した作家に機嫌を損ねられると出版社が困るので)候補作は発表されず、いきなり受賞作だけが発表されることが多い。
主催団体が選んできた候補作から、功成り名を遂げたベテラン作家の選考委員が受賞作を選ぶというのが基本だが、本屋大賞や星雲賞、本格ミステリ大賞のように大勢での投票制の賞もある。
ふつう文学賞とは見なされないが、「このミステリーがすごい!」のようなランキング本もこれらの賞の亜流といえる。
これは本当にその道で多大な業績を残した大作家のための功労賞。ノーベル文学賞が代表格だろう(ノーベル文学賞は対象を小説に限らないが)。
作品ではなく作家個人に与えられるもののため、存命であることが条件であることが多い。本当の大ベテランしか貰えないので、あげそびれている間に本人が死んでしまい特別賞という形で追贈される作家もいる。
日本では日本ミステリー文学大賞や菊池寛賞、紫綬褒章などがこれにあたる。日本SF大賞などでも特別賞として個人に賞が与えられることがある。
日本にはとにかく文学賞が多い。地方主催の小さなものまで含めればその数は数百にのぼるとも言われる。
公募新人賞は、要するに出版社が自社に利益をもたらしてくれる新人を探すオーディションである。賞金を投資して新人を売り出し、ヒットすれば利益を回収でき、人気作家になればその後も継続して利益をもたらしてくれる。そのため新人賞は高額な賞金や魅力的な選考委員を揃えることで、有望な新人を集めようと躍起になるわけである。
既成作家の作品や業績に与えられる賞は、作家の励みになることを目的としている。どんな大ベテラン作家でも、頑張って書いた作品が褒められれば普通は嬉しいものだ。また歳をとって作品が書けなくなってきた作家にとっては、選考委員を務めることで得られる選考料がけっこう馬鹿にならない収入であるらしい。ベテランが選考委員を務めて若手に賞を与えて励まし、賞を得た作家はそれをステップボードにして活躍し、やがてベテランとなって若手を励ます側に回る。そういう作家同士の互助サイクルによって文学賞は運営されているとも言える。
また、芥川賞・直木賞レベルでも昔ほどの影響力はなくなったとはいえ、「○○賞受賞」が作品を売り出す絶好の機会であることに変わりは無い。話題になって作品が売れれば作家も書店も出版社も潤う。大きな賞を受賞したことで本が売れるようになり、作家として一本立ちできた作家も多い。それこそ本屋大賞などは売上げアップという目的に特化した賞であるといえる。
もちろん、文学賞の第一義は優れた作品を顕彰することにある。なんやかんやで賞を獲った作品は名前が残り、広く読まれたり、長く読み継がれる可能性は高くなる。もちろん、文学賞を獲った作品が全て名作なわけではないし、文学賞を獲ることが名作の条件でもない。全くの無冠でも長く読み継がれる作品はいくらでもあるし、大きな賞を獲っても数年後には忘れられる作品もまたいくらでもある。同じ賞で受賞した作品より落選した作品の方が後々まで高く評価されることも枚挙に暇がない。大きな賞を獲った作品がその作家の最高傑作という例は、むしろ少ない。たとえば佐々木譲の最高傑作が直木賞を獲った『廃墟に乞う』だと言う人はあまりいないだろう。
読者にとっては、文学賞はひとつの指標にすぎない。「○○賞受賞」と書かれた本を読んで「なんでこんなもんが受賞作なんだよ」と思った経験は、本好きなら一度や二度はあるだろうが、もちろんそれは別の誰かにとっては忘れられない傑作かもしれない。読んだ本の評価は自分で読んで決めるものである。読者にとってはランキング本などと同様、知らなかった作品を手に取るきっかけにしたり、酒の肴にしたりするのが文学賞の正しい利用の仕方であろう。たぶん。
掲示板
1 ななしのよっしん
2022/11/19(土) 09:20:28 ID: P4IcwTIPtK
ニコニコにある文学賞で人名を冠した文学賞の大半が冠した人物についての記事は無いと言う状態
2 ななしのよっしん
2023/05/16(火) 19:32:09 ID: PZxXc6ihp+
文学賞なにそれ美味しいの?を地で行ったのが村上春樹の『ノルウェイの森』、同氏最大のヒット作だが、文学賞は何一つとってないんだよな
3 ななしのよっしん
2024/10/03(木) 22:02:39 ID: XHZoImLqep
出版社主催の文学賞、盗作が発覚 「高校生部門」大賞の取り消し
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最終更新:2025/03/17(月) 14:00
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