エルフリーデ・フォン・コールラウシュ(Elfriede von Kohlrausch)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
銀河帝国の人物。クリーム色の髪の美人で、気性の烈しい女性。高位貴族の係累としての純粋に守旧的な信念に基づいた、強い身分意識と矜持を有する。
ゴールデンバウム朝銀河帝国末期の帝国宰相クラウス・フォン・リヒテンラーデの姪孫。一族の復讐のためオスカー・フォン・ロイエンタールの殺害を試みるも失敗する。やがてロイエンタールの子を身籠り、息子(のちのフェリックス・ミッターマイヤー)をなした。
フリードリヒ4世朝後期からエルウィン・ヨーゼフ4世朝初期にかけての帝国宰相クラウス・フォン・リヒテンラーデ公爵の姪の娘である。リヒテンラーデ公はリップシュタット戦役の終結時に失脚して一族もろとも粛清され、一族に連なる女子供は辺境へ流刑となった。このためエルフリーデはローエングラム体制に怨恨をいだき、流刑地を逃れて帝都オーディンへと戻ってきたものらしい。
作中への初登場は6巻「飛翔篇」、新帝国暦1年7月上旬。ロイエンタールを邸宅の前で待ち伏せ、ナイフで襲撃する。しかし本懐を達することはできず、ロイエンタールは彼女を「権力と暴力でものにした」という。彼女はロイエンタールに反発しつつも、その破滅を見とどけたい、とそのまま邸宅にいつき、ほどなく彼の子を身籠った。同年末の帝国軍大本営フェザーン移転時にもロイエンタールに帯同する。
翌2年初頭、同盟の使者ウィリアム・オーデッツの流言をきっかけに司法尚書ブルックドルフがロイエンタールの身辺調査を行ったことで、彼女の存在は帝国官憲に知られることとなった。ことはロイエンタールに遺恨を抱く内国安全保障局長ハイドリッヒ・ラングの管掌するところとなり、当時“大親征”で出征中のロイエンタールが「不穏の気配あり」として一時拘禁される要因となっている。
この一件は3月中旬には片付いたが、皇帝ラインハルトはきっかけとなったエルフリーデの処遇に特段関心を抱かなかった。当時すでに妊娠七ヶ月で中絶や流刑地への送還には母体に危険が大きいことから、彼女をロイエンタール邸からどこかの施設に移し、出産した子は養子に出すこととする、という進言を秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフより受け、そのまま処理を任せている。
しかし、出産したエルフリーデは同年5月末、赤子とともに行方をくらました。おりしも内国安全保障局は4月のブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ工部尚書爆殺事件の捜査に注力しており、帝国政府はエルフリーデを見失う。そして遅くとも同年7月までに、彼女はアドリアン・ルビンスキーとともにフェザーンに潜伏するドミニク・サン・ピエールの庇護下に入った。
同年末、新領土総督となったロイエンタールは叛乱を起こして敗亡する(ロイエンタール元帥叛逆事件)。エルフリーデはドミニクの手配でハイネセンへ向かい、戦傷により瀕死のロイエンタールの前に乳児を連れて現れた。息子の存在を知ったロイエンタールは、その子を親友ウォルフガング・ミッターマイヤーの手に委ねるよう勧める。エルフリーデは彼の言葉に従い、赤子をロイエンタールの従卒ハインリッヒ・ランベルツに任せて何処かへと去った。
ロイエンタール死後、赤子はミッターマイヤーに養子として引き取られてフェリックス・ミッターマイヤーと名付けられるが、エルフリーデの消息については何も語られていない。ただ、翌年6月にハイネセンで起きた火災(ルビンスキーの火祭り)の際、検挙されたドミニクに軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタインが直接エルフリーデの消息を尋ねたが、ドミニクは知らないと答え、オーベルシュタインも追求しなかった、という記録が残されている。
エルフリーデとロイエンタールの関係は複雑で、憎悪や嫌忌といった負の感情だけに留まらない何らかの情があったように見受けられる。エルフリーデ個人の感情や意図があまり描写されないこともあって、両者の関係を総括して明文化することは難しく、ここでは作中の描写を摘示するにとどめたい。
エルフリーデから見れば、ロイエンタールは皇帝ラインハルトの重臣として一族の仇であり、リヒテンラーデ公と一族の処刑を指揮した直接の仇でもある(当人が語るまで知らなかったが)。しかし彼女がロイエンタール個人に抱く感情について明言はなく、むしろ「一瞬、憎悪すべき男が肩ごしにふりむくのを、自分が待っているような気がした」(ためにロイエンタールを見送る顔をそむけた)といった描写もある。
ロイエンタールと口論するなかで、彼女は彼を「骨の髄からの叛逆者」と呼び、いずれ増長してラインハルトにも背くだろうと予言した。これは激情のままの言にすぎなかったが、当人が自身の器量をラインハルトに及ばない程度と確信していたにも関わらず、わずか1年半を閲さずして確かにロイエンタールはラインハルトに叛して敗死する結末に至るのである。
対してロイエンタールからすれば、エルフリーデに(あるいは彼女の思想に)象徴される、相続した特権に固執する伝統的貴族階級は嫌悪の対象ではあったが、自身を襲撃したエルフリーデ個人に対し敵意や悪意を抱いていた様子はない。エルフリーデを無理に留めてはおらず、むしろ邸宅から去るよう促しすらしたが、エルフリーデはロイエンタールの破滅するありさまを見とどけたい、と帝国官憲に発見されるまで約半年ほど居候をつづけた(このうちロイエンタールが在宅だったのは新帝国暦1年7月~11月中旬[1])。
司法尚書が行った事情聴取では、懐妊をロイエンタールに伝えたところ「この子のためにより高きをめざそう」と祝福された、と証言している。しかしロイエンタール自身は、彼女の証言は全て虚偽であり、エルフリーデの懐妊は知らず、知っていたら即座に堕胎させていた、自分には人の親となる資格がないから、と陳述した。どちらが真実であるかは明らかでなく、エルフリーデの証言意図も語られていない。
ロイエンタールとしては、エルフリーデは「意思と器量しだい」でどうとでもするだろう、という考えで、行く末に干渉するつもりはなかった。彼女の懐妊が判明してからも、動向は知らないし知りたくもない、と語っている。死の直前に再会したときにも個人名ではなく「リヒテンラーデ一族の生き残り」と認識しており、「エルフリーデ・フォン・コールラウシュという固有名詞より、彼女が誇りたかく主張した“身分”のほうに印象が強かったのであろう」と記されている。
やがてエルフリーデは死に際のロイエンタールに再会したが、「お前が自分自身の野心につまずいて、敗れて、みじめに死ぬところを見物にきたのよ」と語る彼女の声は、瀕死のロイエンタールには「奇妙に震え、不安定なように聴こえた」。彼の姿を見たエルフリーデの様子は、以下のように描写されている。
エルフリーデは、またも答えなかった。ロイエンタールに本来の鋭利さ、明敏さがあれば、彼女の表情が、はじめて見るものであることに気づきえたであろう。男は自分自身を喪失しようとしており、女は男を失おうとしていた。それは未経験の喪失であり、その意味を確認することに、女がたえうるかどうか、不分明であった。……[2]
ロイエンタールは自分を殺したいならば最後の機会だ、と自嘲したが、ついにエルフリーデはロイエンタールを殺さなかった。いっとき朦朧としたロイエンタールが視界をとりもどしたとき、その場に彼女の姿はすでになく、ただ彼の冷汗で重く濡れた女物のハンカチだけが残されていた。
ドミニクは帝国に追われる情夫ルビンスキーとともに潜伏中の身だったが、どのような縁に由来するものか、帝国の手を逃れたエルフリーデ母子を庇護していた。これは同時期、ルビンスキーがラングとの会見で交渉のきっかけにエルフリーデの件を持ち出したことと絡んでいる可能性もある。
彼女は単にエルフリーデを匿っただけではなく、乳児のためエルフリーデが求めたミルクや育児道具を手配し、医師をつけ、後には自身の所有する商船でハイネセンに送り届けることまでした。こうしたドミニクの好意に対し、エルフリーデは身分意識の名残から好意的な態度をとろうとせず、問いかけにもしばしば沈黙でむくいたが、ドミニクは気を悪くするふうもなく庇護を続けている。後にはエルフリーデも、彼女をハイネセンまで連れてきた人物を「親切な人」と呼んで感謝の念をわずかにうかがわせた。
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最終更新:2025/12/06(土) 05:00
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