リチウム(Lithium)とは、銀白色の柔らかい金属で、最も軽い(水に浮く)金属である。
概要
- 原子番号は3、元素記号は“Li”。分類はアルカリ金属、レアメタル。
- ギリシャ語の「石(Lithos)」に由来する。
- 発見:1817年、「ペタル石」という鉱物の化学分析による。
- 利用例:リチウムイオン電池、潤滑グリース、双極性障害の治療(後述)、宇宙船内部の空気浄化(LiOH)など。
- 炎色反応により深紅色(赤紫色)を示す。
医薬品
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双極性障害(躁うつ病)や躁病の治療に、リチウム塩が用いられる。日本薬局方には炭酸リチウム(Li2CO3)が収載されている。先発医薬品はリーマス®。
炭酸リチウムの作用機序は不明であるが、PI代謝回転(ホスファチジルイノシトール代謝回転)の抑制が関与していると考えられている。PI代謝回転とは、細胞内の情報伝達機構の一種。通常、細胞表面に存在するGタンパク質共役型受容体が情報を受け取ると、ホスホリパーゼCによってPIP2(ホスファチジルイノシトールビスリン酸)がDG(ジアシルグリセロール)とIP3(イノシトールトリスリン酸)に分解される。このうち、水溶性のIP3は細胞質内に拡散し、小胞体のIP3受容体(IP3感受性Ca2+チャネル)に作用、細胞質内のCa2+濃度を上昇させる。このようにして、細胞内に情報が伝達される。
炭酸リチウムから生じたLi+は、PI代謝回転に係わる酵素IMPase(イノシトールモノフォスファターゼ)を阻害することで、イノシトールの合成を抑制し、PIP2の再生を抑制、PI3の生成も抑制される。これが抗躁作用につながると考えられている。また、グリコーゲン合成に係わる酵素グリコーゲンシンターゼを不活性化する酵素GSK-3β(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β)も、リチウムイオンによって阻害されるため、作用に関与している可能性がある。
しかし、Li+は体内にもともと存在するNa+やK+と同じ1価の陽イオンであるため、それらのイオンと置換することでさまざまな影響を及ぼす。リチウム中毒の初期症状としては、悪心、嘔吐、多飲、多尿、下痢、傾眠(ねむけ)などがある。血中リチウム濃度の上昇に伴い重症化し、中等度のリチウム中毒では耳鳴り、振戦(ふるえ)、痙攣、言語障害、意識障害などがあらわれる。重度のリチウム中毒では昏睡、血圧低下、腎障害などがあらわれ、死に至る。治療域(0.3~1.2mEq/L)と中毒域(1.5mEq/L以上)が近いため、炭酸リチウムを投与する場合はTDM(薬物治療モニタリング)を行い、一定の血中濃度(0.4~1.0mEq/L)を維持する。中毒症状があらわれた場合、投薬を中止して利尿薬の投与を行うが、消失しにくい場合は血液透析を行う。
作用発現には4~10日ほど掛かる。完全な腎排泄型の薬物であるため、腎障害の患者には禁忌。てんかんや心疾患のある患者は、症状を憎悪させることがあるため禁忌。食塩を制限されている患者は、リチウム濃度が上昇し毒性が発現しやすいため禁忌。また、催奇形性があるため、妊婦への投与も禁忌。
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