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双極性障害とは「躁(軽躁)状態」と「うつ状態」の両極端が繰り返し起こる「気分障害」である。「躁うつ病」の名で知られているが、現在は基本的に「双極性障害」と呼ばれる。DSM-5では「双極性障害」と呼ばれ、各種提出用診断書はICD10コードをもちいて「F31・双極性感情障害」と記載される。
概要
うつ病とほとんど同じ「うつ状態」と対極の「躁・軽躁状態」が繰り返し起こる慢性疾患である。「躁状態」があるものは「双極Ⅰ型障害」、「軽躁状態」があるものは「双極Ⅱ型障害」として、大きくこの2種に分類される。
双極性障害の診断は非常に難しく(最初に「うつ状態」で診断を受けることが多いことも含め)当初から「双極性障害」として診断されることは極めて少ない。実際に診断されるまでの期間が平均で4~10年ほどかかるとも言われている。
実際「うつ病」として診断されていた患者の10人に約1~2人が最終的に「双極性障害」に変わることがある。これは決して誤診ではなく、正しい診断がされるまでそれなりに時間を要する疾患だからである。
双極性障害の原因
双極性障害の原因そのものは未だはっきりはしていないが、誰にでも起こってしまう。特に生活上のイベントや過度のストレス(昇進・転職・転居・結婚・葬儀・徹夜など)により発病してしまう。
以前、双極性障害は「単に心からくる病気である」と思われてきたが、昨今の研究によりそれだけではない「脳の様々な異常からくる病気(神経伝達物質の増減やバランスか崩れているなど)」であることがわかってきている。
双生児を対象とした研究などから、発症に遺伝的要因が関与していると推定されている。ただし同一の遺伝子を持つはずの一卵性双生児であってすら双子の片方しか双極性障害を発症しない例も少なくないことから、完全に遺伝要因のみで決定されるような病気ではないことも判明している。決して遺伝のみからくる病気(遺伝病)ではない。
発病前の性格傾向としては「①とても真面目②社交的③明るいかおとなしい④ユーモアのあふれるタイプ⑤組織の潤滑油的な役割やリーダーをを担うことが多い性格」などが挙げられる。このようなタイプは「頑張りすぎる」ことが多く、極度な過労が蓄積してしまう。しかし本人は「まだ疲れていない」「これくらい大丈夫」と頑張り続けてしまうため、気分がハイになり、双極性障害(躁・軽躁状態)を引き起こしてしまう。
主な症状
躁状態・軽躁状態の共通している点は自分は元気で爽快な気分であるがゆえに「周囲を困惑させている」のに本人は全く気付かないことである。どちらにせよ問題を起こしていることには変わらないので、躁状態だから重い・軽躁状態だから軽いというような尺で測れるものではない。
うつ状態はうつ病の症状とほぼ変わらない。ただし気分の波が激しくなるため、単極性のうつ病・躁病とは全く異なった苦しさを本人は強く感じる。
躁状態
躁状態であると判断される目安は以下のとおりである。
躁状態では人が変わったような行動になる。周囲を休ませないため、疲労困憊させてしまう。また社会生活においても破滅的な行動をとってしまうため、周囲に対し信用を著しく落とす言動・行動が多く見受けられる。場合によっては周囲に暴言や暴力をふるってしまう。
大変元気で活動的になるため、本人は「これが本来の自分の姿である」と思ってしまう。そのため明らかな異常行動であっても「正当な理由で行動している」と思い込んでしまい、安易にとがめたり止めようとすると怒りをあらわにし、周囲にきつくあたることがある。
また一気に何百万の買い物をしたり、何の計画もなく起業しようとしたり、時には「自分のアカウントには何百・何千万のフォロワーがいて、自分が一言発信すれば瞬く間に全世界に広がり影響を与えることができる(根拠のない自信からくる誇大妄想など)」を抱く場合も少なくはない。
躁状態はどんな状況であれ、長年築き上げてきた人間関係や信用を瞬く間に壊してしまう状態である。
軽躁状態
軽躁状態の場合は躁状態と同じ症状が4日以上続く。他人から見て明らかに人が変わった様子ではあるが、Ⅰ型の躁状態よりは激しくは現れず、社会生活に支障があまりないため周囲には「少しテンションが高い・気分が良いのかも」と思われ、見過ごされやすい。
Ⅰ型の躁状態よりも軽いと思われがちだが、かなりつらく追い詰めることには変わりない。軽躁状態であっても決して軽んじるべき状態ではない。
うつ状態
うつ状態であると判断される基準は目安として以下のとおりである。
Ⅱ型は軽躁状態よりもうつ状態の期間が長いため、Ⅰ型よりも自殺企図のリスクが高いとされている。また、他の精神疾患(摂食障害やアルコール依存症など)を引き起こしやすい。
混合状態
躁状態(軽躁状態)からうつ状態やその逆の場合、躁とうつが混ざって出てくる。例えば活動的で興奮している状態でもうつ状態のイライラとした落ち着きのなさが表れるなど「躁とうつが混濁して両方出てくる」状態である。本人は大変落ち着きのない状態になる。
この状態のときは特に「自殺企図(自殺念慮・希死念慮)」に注意したい。うつ状態の「死にたい」と躁・軽躁状態の「衝動的(行動的・意欲的)」な部分が合わさってしまうと行動に移ってしまいやすくなるからだ。
睡眠障害
いずれも深刻な睡眠不足に陥ると双極性障害を悪化させるため、細心の注意を払いたい。
- 躁・軽躁状態では調子が良いと錯覚するため「睡眠時間(あるいは睡眠をとらなくても)問題ない」と考えて眠らなくなってしまう。疲れを感じないため、本人は気づかず(あるいは気づいていても)睡眠がとれなかったり、睡眠時間が短くても問題に思わない。また徹夜は躁状態を悪化させるリスクにもなる。また一晩の徹夜でも躁転する危険性がある。
- うつ状態では入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒が顕著に表れる。また目を覚ましてもしばらく身体が非常にだるく、まぶたは重いままである。結果しばらくのあいだ布団の中で悶々してしまうことも少なくはない。
治療
- 双極性障害を専門的に診るのは「精神科」
精神科は精神疾患を診る専門の病院である。双極性障害であるかどうかも含め、精神疾患を幅広く診ることができるため、気分の大きな変調を感じたら必ず精神科で診てもらう。精神科のほかに「心療内科」「神経科」を掲げている病院・クリニックであれば精神科医が診るので問題はない。実際「精神科」の敷居を下げるために「心療内科」を併設している病院が多い。
なお「精神科」を併設しない「心療内科」(あるいは「内科」と「心療内科」など)は、内科の病気に対して心身の両面から診ていく病院なので、精神疾患は専門外である。
なお「躁状態(双極Ⅰ型障害)」が見受けられる場合は入院施設のある医療機関に受診し、「軽躁状態(双極Ⅱ型障害)」が見受けられる場合は入院施設のある医療機関を紹介してもらえるようにするのが望ましい。その際は医師とよく相談していくこと。 - (確実なところから)情報収集をする
双極性障害と向き合い治療をしていくための情報を収集し、理解を深める。この記事からは「関連書籍」「関連リンク」を参考にし、情報を得ることができる。 - 自分の人生を守るために治療する
躁・軽躁状態で信頼を失うこと、うつ症状で自分を犠牲にしないようにきちんとした治療を受けることが一番である。自分の人生を守れるのは、あくまで自分自身でしかない。完璧にできなくてもよいので、症状を引き起こすストレスなどは医師とよく相談しながらコントロールしていく。 - 服用する薬に対する理解をする
服用する薬は必ず副作用を伴う。相互の効果を正しく知り、調子や具合が悪くなった場合は速やかに医師に相談できるように把握・理解に努める。 - 自分の病気を受け入れ、病気に対する偏見を持たない
まず自分自身が病気に対して受けいれられず、勝手な偏見を持ってしまうと、自分を責め、治療を勝手に中断したりするなどの行動をしてしまう。自分の病気は自分がよく知っているはずなので、周囲の偏見的な意見を気にすることなく、病気を受け入れ、自分に対する偏見を捨てていく。
薬物療法
主治医に相談せず勝手に量を増やしたり、服薬を中止したり、お酒を飲む(飲みすぎる)と興奮したり自分の行動が抑えられなくなるなどの強い副作用を伴います。 とても危ないので絶対にやめてください。 |
双極性障害の薬物療法では主に「気分安定薬」「非定型抗精神病薬」などが用いられる。症状により適応となる薬が分かれるが、ここでは分類せず治療に使われる代表的な薬のみを示している。場合によっては「抗不安薬」「抗うつ薬」「定型抗精神病薬」も処方されることがあるが記載しない。「睡眠薬」も状態により処方が変わるため、こちらも記載しない。
- 気分安定薬
心理療法
「双極性障害の原因」でも述べたが双極性障害は心の病気だけではないので、カウンセリングだけで治るものではない。薬物療法と心理療法の両方を組み合わせ、再発防止につなげていくことが大切である。
- 心理教育
病気や薬の性質を理解し、病気と向き合う。再発の予兆を自分自身で把握することも目的となる。 - 対人関係・社会リズム療法
毎日の活動時間やその時の周囲の状況を記録することによって、生活の乱れやストレスに気づき、これを修正していく。 - 認知行動療法
その人の思い込みで判断してしまう「考え方のクセ」に気づき、修正していく。
関連疾患
間違われやすい病気
- うつ病
躁・軽躁状態では問題が起こっていることは自覚せず、うつ状態になった場合に初めて受診することがほとんどである。またうつ状態ではなくなる(軽い躁状態以上になる)と「完治した」と本人や家族などは誤解しやすく、治療を勝手に中断することも少なくはない。 - 境界性パーソナリティ障害
偏りすぎた性格が起因して感情の起伏が激しくなる。相手を大好きで称賛していたかと思うと、些細なことで相手を大嫌いになると突然攻撃的になるなどの症状が見受けられる。両極端な症状が出ることから、双極性障害と間違われやすい。 - 統合失調症
脳機能のバランスが崩れて起こる病気であり、特に幻覚・幻聴のほかに様々な妄想が起こる「陽性症状」と無気力・無関心が起こる「陰性症状」が見受けられる。「陽性症状」は強い妄想(被害妄想や誇大妄想など)や興奮してまとまりのない会話が「躁状態」、「陰性症状」は一見「うつ状態」に見えることがある。
なお、間違われやすいが併発して「統合失調感情障害」となる場合もある。
併発しやすい病気
- 依存症
快感や高揚感を伴う特定の物質にはまってしまうと、それがないと一時も我慢できなくなってしまうことがある。アルコール依存症・薬物依存症・買い物依存症などが挙げられる。 - 摂食障害
極端に食べ物を制限・摂取しない「拒食症」、大量の食べ物を食べ、その後に大量に吐いてしまう「過食症(過食嘔吐)」、またその両方が断続的に繰り返される状態になる。 - パニック障害
突然呼吸がしずらくなったり、心臓が(病的に)ドキドキしたり、急激に強い不安感に襲われ「死んでしまうのではないか」という強い恐怖を感じる。しかし内科で診察しても異常は見られない。 - PTSD(心的外傷後ストレス障害)
大災害・事故・性的暴力・虐待などの過酷な体験のあとに現れる精神・身体症状。 - アスペルガー症候群
特定の事項に関する集中力がある反面、対人コミュニケーションを苦手とする特性。判断・ものの見方が相反する上に相性は悪いが、2つの障害が併発している場合もある。
関連動画
関連リンク(参考文献)
- 厚生労働省
- 公益社団法人 日本精神神経学会
- 日本うつ病学会
- すまいるナビゲーター(大塚製薬株式会社)
- NPO法人ノーチラス会(双極性障害の当事者団体)
関連項目
親記事
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兄弟記事
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