光害(ひかりがい・こうがい)とは、人工照明が起こす「うおっまぶしっ」な被害の総称である。
概要
光害(ひかりがい)とは、良好な「光環境」の形成が、人工光の不適切あるいは配慮に欠けた使用や運用、漏れ光によって阻害されている状況、又はそれによる悪影響と定義する。
ほんの150年くらい前まで、夜が真っ暗なのは当然だった。火で照らすことができる範囲はとても狭く、月明かりには遠く及ばなかった。しかし今や夜の街は昼のように明るく、空に月が出ていても気づかない人が多い。市街地から離れても街灯はそこかしこにあり、人口密集地の方向の空は煌々と輝いている。
この状況が自然からかけ離れているという警鐘は早くから鳴らされており、20世紀初めのアメリカでは既に声が上がっていたとされる。だが同国で光害(light pollution)が対策の必要な問題と認識され始めたのは1950年代で、取り組みが本格化したのは1980年代である。
日本では1970年代に「光害」という言葉が登場して天文愛好家たちの間で問題となった。環境庁(当時)は大気汚染調査の一環として1987年から夜空の明るさを全国で調査するようになり、1994年の環境白書に「光害」を盛り込んだことでこの用語に市民権を与えた。
なお、「光害」は元々「こうがい」と音読みされていたが、「公害」と紛らわしいことから「ひかりがい」とも言われるようになった。環境省は「ひかりがい」と読んでいる。
原因
いくらなんでも今さら「電気を全部消せ」という訳にはいかない。でも照明が本当に必要なところだけを照らしていれば、光害はかなり抑えられる。そこで「無駄に夜を明るくしてしまう要因」を考えると以下のように列挙できる。
- 外に漏れる屋内照明。カーテンを閉めることは環境のためにもなるのだ。
- 光の上方照射。サーチライトが分かりやすいが、普通の街灯でも構造次第では半分以上の光が上に放たれている。
- 光の反射。たとえ光を下に向けても、タイル舗装などは土よりはるかに反射率が高い。またビルが鏡のように光を反射することは昼でも問題になることがある。
- なくていい場所や不要な時間帯における光の使用。店舗の24時間営業がこの観点から問題視されることもある。
突き詰めれば「もっと効率よく光を使おう」ということになるので、光害対策は省エネにもつながる。ただ、省エネに効果的だとしてLEDが積極的に導入された結果、かえって照明が増えて光害が増えているという報告もあるので難しい。
光害の影響
天体観測の邪魔
今この記事をご覧の方のうち、自宅から天の川を見ることができる人は、多く見積もっても半分に満たないはずだ。都市部の光は淡い星雲などの輝きを見事にブロックしてしまう。そのため本格的な天体観測や写真撮影をしたい人は遠征を強いられるのだ。そして星見に適した場所となると公共交通機関が通ってなかったりするので、車が必須である。
また夜空が光に覆われると、天文学者たちはお先真っ暗となる。古くからあった天文台の近くに大きな街が形成されてしまうのも良くあることで、職員たちは光と悲しみに包まれている。日本が国外にすばる望遠鏡などの大型望遠鏡を建てているのは、光害を避けるという理由が大きい。
動植物への影響
街灯は多数の虫を寄せ集めてしまうため、間接的に人間への被害ももたらすことになる。光で寄せ集めると言えばイカなどを狙う漁船も有名だが、集魚灯の多くは海だけでなく空までお構いなしに照らすため、渡り鳥に悪影響がでているのではないかという指摘もある。
光を好む動物がいれば、蛍や夜行性動物のように光を嫌う連中もいるので、継続的な夜間照明は生態系を変動させてしまうことにもつながる。有名な例として、米国フロリダ州のウミガメが挙げられる。同州にはウミガメが毎年産卵をする砂浜があったが、照明のせいで母亀が寄りつかなくなったり、折角卵を産んでも孵化した赤ちゃんが光に釣られて陸に向かってしまったりする事態が相次いだ。このため産卵期間中はウミガメに配慮した照明を使うなどの対策が行われている。
植物も光の影響を受けやすい。日中の太陽光は植物のエネルギー源だが、夜の暗さも正常な成長に必要なのだ。特に稲が光に敏感でダメになりやすいという報告がある。
人間活動の阻害と健康被害
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ニコニコ大百科:医学記事 ※ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。 |
夜の光は私たちの安全を守ってくれるはずなのに、ときとして危険な影響を及ぼすことがある。
道路沿いに不適切な光源があるとドライバーや歩行者の目を眩ませたり注意を逸らせたりするため危険である。街灯や広告の照明に加え、日中は建物の反射光も問題となりやすい。
また、住宅の中に差し込む光はプライバシーの侵害と安眠妨害につながる。そうでなくても現代人は夜間の活動が増えていて、その間に光を浴び続けているため体内時計が狂いやすいと言われている。
さらに、先述したとおり近年はLEDの使用が増えているが、残念ながらLEDの光には目にダメージを与えやすい青い波長、いわゆる「ブルーライト」が多く含まれるという問題がある。あなたがこの記事を読んでいるその画面も健康に害を与えてしまうかもしれないのだ。光害問題全般がそうであるように、光は適切な量に抑えて必要のないときは完全にシャットアウトすることが大事と言えるだろう。
関連動画
関連商品
関連コミュニティ
外部リンク
国際ダークスカイ協会(International Dark-Sky Association)英語サイト
関連項目
光害(ひかりがい・こうがい)とは、人工照明が起こす「うおっまぶしっ」な被害の総称である。
光害(ひかりがい)とは、良好な「光環境」の形成が、人工光の不適切あるいは配慮に欠けた使用や運用、漏れ光によって阻害されている状況、又はそれによる悪影響と定義する。
ほんの150年くらい前まで、夜が真っ暗なのは当然だった。火で照らすことができる範囲はとても狭く、月明かりには遠く及ばなかった。しかし今や夜の街は昼のように明るく、空に月が出ていても気づかない人が多い。市街地から離れても街灯はそこかしこにあり、人口密集地の方向の空は煌々と輝いている。
この状況が自然からかけ離れているという警鐘は早くから鳴らされており、20世紀初めのアメリカでは既に声が上がっていたとされる。だが同国で光害(light pollution)が対策の必要な問題と認識され始めたのは1950年代で、取り組みが本格化したのは1980年代である。
日本では1970年代に「光害」という言葉が登場して天文愛好家たちの間で問題となった。環境庁(当時)は大気汚染調査の一環として1987年から夜空の明るさを全国で調査するようになり、1994年の環境白書に「光害」を盛り込んだことでこの用語に市民権を与えた。
なお、「光害」は元々「こうがい」と音読みされていたが、「公害」と紛らわしいことから「ひかりがい」とも言われるようになった。環境省は「ひかりがい」と読んでいる。
いくらなんでも今さら「電気を全部消せ」という訳にはいかない。でも照明が本当に必要なところだけを照らしていれば、光害はかなり抑えられる。そこで「無駄に夜を明るくしてしまう要因」を考えると以下のように列挙できる。
- 外に漏れる屋内照明。カーテンを閉めることは環境のためにもなるのだ。
- 光の上方照射。サーチライトが分かりやすいが、普通の街灯でも構造次第では半分以上の光が上に放たれている。
- 光の反射。たとえ光を下に向けても、タイル舗装などは土よりはるかに反射率が高い。またビルが鏡のように光を反射することは昼でも問題になることがある。
- なくていい場所や不要な時間帯における光の使用。店舗の24時間営業がこの観点から問題視されることもある。
突き詰めれば「もっと効率よく光を使おう」ということになるので、光害対策は省エネにもつながる。ただ、省エネに効果的だとしてLEDが積極的に導入された結果、かえって照明が増えて光害が増えているという報告もあるので難しい。
天体観測の邪魔
今この記事をご覧の方のうち、自宅から天の川を見ることができる人は、多く見積もっても半分に満たないはずだ。都市部の光は淡い星雲などの輝きを見事にブロックしてしまう。そのため本格的な天体観測や写真撮影をしたい人は遠征を強いられるのだ。そして星見に適した場所となると公共交通機関が通ってなかったりするので、車が必須である。
また夜空が光に覆われると、天文学者たちはお先真っ暗となる。古くからあった天文台の近くに大きな街が形成されてしまうのも良くあることで、職員たちは光と悲しみに包まれている。日本が国外にすばる望遠鏡などの大型望遠鏡を建てているのは、光害を避けるという理由が大きい。
動植物への影響
街灯は多数の虫を寄せ集めてしまうため、間接的に人間への被害ももたらすことになる。光で寄せ集めると言えばイカなどを狙う漁船も有名だが、集魚灯の多くは海だけでなく空までお構いなしに照らすため、渡り鳥に悪影響がでているのではないかという指摘もある。
光を好む動物がいれば、蛍や夜行性動物のように光を嫌う連中もいるので、継続的な夜間照明は生態系を変動させてしまうことにもつながる。有名な例として、米国フロリダ州のウミガメが挙げられる。同州にはウミガメが毎年産卵をする砂浜があったが、照明のせいで母亀が寄りつかなくなったり、折角卵を産んでも孵化した赤ちゃんが光に釣られて陸に向かってしまったりする事態が相次いだ。このため産卵期間中はウミガメに配慮した照明を使うなどの対策が行われている。
植物も光の影響を受けやすい。日中の太陽光は植物のエネルギー源だが、夜の暗さも正常な成長に必要なのだ。特に稲が光に敏感でダメになりやすいという報告がある。
人間活動の阻害と健康被害
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夜の光は私たちの安全を守ってくれるはずなのに、ときとして危険な影響を及ぼすことがある。
道路沿いに不適切な光源があるとドライバーや歩行者の目を眩ませたり注意を逸らせたりするため危険である。街灯や広告の照明に加え、日中は建物の反射光も問題となりやすい。
また、住宅の中に差し込む光はプライバシーの侵害と安眠妨害につながる。そうでなくても現代人は夜間の活動が増えていて、その間に光を浴び続けているため体内時計が狂いやすいと言われている。
さらに、先述したとおり近年はLEDの使用が増えているが、残念ながらLEDの光には目にダメージを与えやすい青い波長、いわゆる「ブルーライト」が多く含まれるという問題がある。あなたがこの記事を読んでいるその画面も健康に害を与えてしまうかもしれないのだ。光害問題全般がそうであるように、光は適切な量に抑えて必要のないときは完全にシャットアウトすることが大事と言えるだろう。
国際ダークスカイ協会(International Dark-Sky Association)英語サイト
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