公害とは、事業活動などの人間活動による環境汚染によって、ヒトの生活や健康に被害が生じることである。
概要
旧くは足尾銅山鉱毒事件など、企業活動で放出される化学物質により生じる被害(産業型公害)を指した。
しかし近年は生活水準が向上し、自動車の排ガスなどのように市民自身が被害者であり加害者でもあるという都市型公害(生活型公害)が問題視されるようになってきている。
小学校で習う水俣病などのように、1950~60年代に取り沙汰されたいわゆる「公害病」を生じさせた主要な事件は「四大公害」と呼ばれる。
1993年に定められた「環境基本法」で明記された7種類の公害は「典型七公害」と呼ばれるが、この範疇に当てはまらない公害も存在する。
四大公害(病)
イタイイタイ病
1955年以前に富山県神通川流域で発生した。原因物質は三井金属鉱業株式会社の鉱山から出たカドミウム。鉱山から流れ出る抗排水にカドミウムが溶けており、流入した河川、そして下流の田畑を汚染。
付近の農作物や地下水を摂取した市民が、腎障害や骨軟化症、それによる骨折を発症した。小学校で習えば誰もが反応する余りにもあんまりな名前だが、その凄惨さを生々しく語る病名でもある。命名は富山新聞記者の八田清信。
カドミウムは自然界に広く存在し、我々は常に少量のカドミウムを摂取している。特に日本人は米が主な摂取源である。土壌中に含まれる量も比較的多く、日本人は世界の他の国と比べてカドミウムを多く摂取している。
水俣病
1956年ごろに熊本県水俣湾沿岸で発生した。原因物質はチッソ株式会社の工場排水に含まれたメチル水銀。アセトアルデヒド製造工程で触媒に用いられた無機水銀から生じたものだった。
食物連鎖による生物濃縮で魚介類にメチル水銀が溜り、摂取した住民に感覚障害や聴力障害、運動失調などの中枢神経障害が起こった。有機水銀中毒のハンター・ラッセル症候群と症状が似ていたことが原因究明の鍵となった。母体汚染により胎盤を通じての胎児性水俣病も発生するなど、次世代にも深い傷跡を残した。
生物濃縮によって引き起こされた初めての公害であり、海外でも「Minamata Disease」の名で知られる。世界的に広まってしまった負のイメージを払拭すべく、水俣市は環境都市としてのまちづくりを進めている。水俣湾も97年に安全宣言が出され、漁業も再開されている。現在の水俣湾は熊本県でも有数の綺麗な海である。
新潟水俣病(第二水俣病)
1965年ごろに新潟県阿賀野川流域で発生した。原因物質は昭和電工株式会社の工場排水に含まれたメチル水銀。こちらも同じくアセトアルデヒド製造を行なっていた。流域の川魚を食べた住民が同様の症状を発症した。
水俣病の救済を求める訴訟はどちらの事件でも未だ続いており、原告の高齢化も叫ばれてきている。ちなみに、魚はもともと水銀濃度が高い生物であり、現在の日本人が通常摂取する水銀の約8割は魚由来である。
四日市ぜんそく
1960年ごろから三重県四日市市の石油コンビナート地帯で発生した。主な原因物質は硫黄酸化物などとされる。急激な工業化により、排煙による大気汚染が深刻化。慢性気管支炎や気管支喘息などの被害が市民に拡がった。
他の公害と異なり、都市部での被害や大気汚染など経済成長の負の側面を見せた公害であった。これをきっかけに大気汚染対策の法整備や技術開発が行われ、日本の硫黄酸化物量は67年から年々低下している。
その他国内における代表的な公害事件
- 足尾銅山鉱毒事件
- 明治時代、栃木県の足尾銅山から流出した汚染水による渡良瀬川などの水質汚濁、および精製過程で生じる有毒ガスと酸性雨で発生した広範な被害を指す。田中正造が問題提起したことで知られる。
- 黒い水事件
- 1958年に製紙工場の黒い排水によって生じた江戸川の汚染。水質汚濁対策関連法案の整備が進むきっかけとなった。
- 環七・環八沿いの光化学スモッグ
- 東京における大気汚染の深刻化を象徴する問題で、1970年以降被害の報告が相次いだ。一時期はほとんど毎日のように大気汚染注意報が発令されていた。
- 田子の浦港ヘドロ公害
- 製紙業が盛んな静岡県富士市の沿岸で1960年代に発生した海洋汚染。「ヘドロ」という言葉を世に知らしめ、映画の中では公害怪獣ヘドラが田子の浦で誕生することになった。
- 土呂久砒素汚染
- 宮崎県の土呂久鉱山で1920年から1962年にかけて断続的に行われた亜砒酸の製造過程で生じた様々な汚染物質、特に砒素化合物で生じた健康問題。慢性砒素中毒症は四日市ぜんそく、イタイイタイ病、二箇所の水俣病に続いて1973年に公害健康被害補償法の対象となったことから「第四の公害病」と呼ぶ人もいる。同時に島根県の笹ヶ谷鉱山周辺でも同様の被害が発生していることが認定された。
- 豊島事件
- 香川県豊島で1975年から1990年まで、推定100万トン近い産業廃棄物が違法投棄されていた問題。産廃の移動は2017年までかかり、今も水質汚濁が残っている。
公害の種類
典型七公害
環境基本法により定められるが、あくまで「基本法」であるため(基準値がある項目もあるものの)罰則などはない。この他にそれぞれの項目に係る個別法が存在し、細かく規制や罰則が定められるという法体系になっている。
- 大気汚染
- 人の活動によって生じる汚染物質が呼吸によって気道を通じ、呼吸器に害を及ぼすこと。酸性雨などにも関連する。典型七公害の中では年間の苦情件数がもっとも多く、環境基本法では二酸化硫黄、二酸化窒素、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、光化学オキシダントの5項目について環境基準、測定法が設定されている。
- 騒音
- 主観的に騒々しい、不愉快だと感じる音すべてを指す。会話妨害、睡眠妨害、難聴などの悪影響を及ぼす。典型七公害では大気汚染に次いで苦情件数が多く、環境基準、測定法が設定されている。
通常は等価騒音レベルという評価基準を用いるが、航空機の騒音の場合は発生回数を考慮して、騒音の量を積み重ねて評価する「加重等価平均感覚騒音レベル」という基準を用いる。 - 悪臭
- 不快感や嫌悪感を与える低濃度気体物質のこと。騒音に次いで苦情が多い。基準値や測定法が設定されているが、測定機器などは用いず、被験者による臭い判別試験の結果を統計的に計算して値を求める。
- 水質汚濁
- 排水などにより水域が汚染されること。飲料水への混入による健康被害や赤潮、水の華などを引き起こす。悪臭に次いで苦情が多く、環境基準が設定されている。
- 振動
- 工事や自動車による全身振動。心理的、精神的な悪影響の側面が大きい。
- 土壌汚染
- 重金属や農薬などが土壌に蓄積すること。典型七公害の中では苦情は殆どない部類に入るが、環境基準が設定されている。具体的には「アルキル水銀、PCB、全シアン、有機リンが検疫中に検出されないこと」。苦情が少ない理由として、「土地」を公的なものと感じにくいこと、公害が体感しにくいことが挙げられる。
- 地盤沈下
- 地下水の組み上げにより粘土層が収縮し、地盤が沈むこと。建築物や水道管などが破壊されるなどの被害が起こる。公害に当てはまる人為的なもののほか、地震などの自然現象で起こることもある。
その他の公害
- 廃棄物投棄
- 処理業者などによる山中などへの違法な投棄を指す。対策が施されている廃棄物処理場と違って、直に環境を汚染してしまう。水質汚濁や土壌汚染に含めることもできるが、工場や農場から生じる汚染とは違った対策が必要となる。
- 日照阻害
- 建物によって日光が遮られてしまう問題。農作物には深刻なダメージとなる。住宅の場合、日照権を巡り訴訟に発展するケースも珍しくない。
- 過剰な照明(光害)
- 上記とは逆に、夜間の人工照明が明るすぎたり、ビルの反射光がまぶしすぎたりすることで生じる問題。詳細は光害の記事を参照。
- 通風妨害
- 建築物が風の流れを止めてしまうこと。夏場には異常な気温上昇につながることもあるため、近年は風通しに配慮した都市計画が沿岸部を中心に取り入れられている。逆に建物に当たった風が地面で吹き荒れる「ビル風」も昔から問題とされている。
比喩的なもの
- 観光公害
- 観光客が多すぎて観光地/現地や公共交通機関のキャパシティを超えたり、マナー違反や悪戯・不法侵入といった迷惑行為、名物や文化財の摩耗や損傷といった様々な被害を及ぼすものを公害とたとえたもの。環境破壊はもちろん地元住民も大被害を受けやすい。聖地巡礼などでも起きる。
オーバーツーリズムとも呼ばれる。
関連動画
関連項目
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