逆オイルショックとは、オイルショックの逆で、原油価格が暴落すること、あるいはそれを端緒とする経済的な混乱である。
概要
何らかの原因で、原油供給量が上昇するか、消費国側の需要減、あるいはその両方が生じると、原油の価格やその先物が落ちることがある。
ここで産油国が価格を下支えしようとしなかったり、景気先行き不安が重なったりすると、原油価格が暴落し、産油国がうろたえて有価証券投げ売りするせいで相場が荒れたり、石油関連株暴落でお偉いさんが無事死亡したり、ガソリンスタンドに来たお前らがちょっとだけ安くなったガソリン価格表示に「なんでもっと安くならないんだよ[1]」とか言いながらちょっとだけ得した気分で満タンにするようになったり、主婦がスーパーに殺到し、逆にトイレットペーパーを売り場に押し売りに来るせいで店がトイレットペーパーで埋め尽くされたり。これが逆オイルショックである。
産油国からすれば(損益分岐点にもよるが)原油を卸せば卸すだけ逆ザヤになって赤字が膨らみ、かといって操業停止しようにも時間[2]とコスト[3]が(再開時にも)べらぼうにかかるという、板挟みの悪夢である。
一方、日本や韓国みたいな使うだけの国からすればオイルショックほどショックにはならない。とはいえコスト下落に伴うデフレ懸念や世界経済後退に伴う輸出産業の不調懸念など、いいことばかり…というわけでもない。
2020年の逆オイルショック
歴史上何回か逆オイルショックがあったが、最たるものは2020年のそれだろう。
2019年第2四半期くらいから同年末まで、サウジアラビアとロシアの価格維持の努力もあり、原油価格は1バレル$50~$65くらいでぼちぼち安定していた。問題は、2月からアラ露協調を継続するかで両国がもめだしてからだ。サウジアラビアは思い切って減産したい[4]が、そこまで価格維持する必要のないロシア[5]は減産を渋る。
そんなことしているうちに「アイツ」が来てしまった。この怪物を恐れ世界中が引きこもり化し景気も急ブレーキ。油燃やして経済を回そうとするやつはもう世界にどこにもいない。
価格がどんどん落ちてゆくなかで、両国の妥協点を探る交渉は難航する。ロシアはお得意の交渉決裂をちらつかせたり、片やサウジアラビアは「増産して潰すぞ露助」と脅してみたり、などと高度な駆け引きがあったらしい。
最終的にはアメリカの口添えもあり、4月13日にようやく生産量を1割以上カットする歴史的大減産の合意に達した。年初の半分以下$24という歴史的低水準になった価格もここから反転する…はずだった。
全然下げ止まらない!実は、経済活動の停滞が想像以上で燃料が全然売れておらず、石油元売りのタンクは在庫が捌けないため既に満杯に近かった。いくら安くても買い増しする余地がもうなくなっていたのだ。どころかこれ以上買い増したら貯蔵場所を追加で用意するためのコストまで余計にかかってしまう。かくしてタダでも要らねえ、買ってほしけりゃ保管コストを負担しろとなった結果、ついに4月20日のWTIでの5月先物が
をつける前代未聞の異常事態となった。「原油とかいう厄介者を引き取ってくれる代わりにお金をあげる[6]」というわけだ。負の値は極端な例としても、他の石油関連市場でも多少遅れて異様な安値を付けた(一例)。状況はどこの国も似たようなものだったということだ。
約20年ぶりの安値を見て「買いだな」と分析する投資家が殆どだった。常識的な予想だったが、その予想に従い「$0より下がるわけがない」といって買いに出て行った相場師が5分後に手を血まみれにして戻ってきたであろうことは想像に難くない。
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関連項目
- オイルショック…元ネタ:石油価格が暴騰して経済が混乱する
- SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)…2020年のショックはだいたいこいつのせい
- トイレットペーパー騒動…逆オイルショック時には逆に消費者が小売に押し売りしてくる
脚注
- *たとえ原価ゼロでも、精製コストと物流コスト、それに揮発油税(国/地方・特例込み)53.8円/L、石油石炭税(温暖化対策特例込み)2.8円/Lがかかるから仕方ないよね。あ、消費税もあるよ!これ揮発油税・石油石炭税に対してもかかる税だからちゃんと払おうね!あなたの自動車は税金を燃やして走っている…
- *ご家庭の水栓のようにキュッと止めるわけにはいかない。ゆっくりやらないとウォーターハンマー現象を何億倍にもしたような衝撃が設備にかかって最悪パイプラインが破裂する。
- *油田に限らず、化学プラント一般は操業開始と終了時に莫大なコストがかかる。というのも、各種パラメーターを(安定させるのではなく)あえて動かして所要のところに(人と設備の事故もなく)持ってこられる熟練した高給のエンジニアを、たくさん雇わなければならないためだ。
- *サウジアラビア的には2019年12月に上場した国策石油企業・サウジアラムコの収益構造の健全性と株価を維持したい。アラムコがくしゃみをしたら大株主たる政府が風邪をひいてしまう。
- *ロシア的にはむしろ低価格を維持して、最大産油国アメリカの新興シェール油田群を、この機会にぬっ殺しておきたい。オイルシェール採掘はその複雑な方法ゆえ、比較的コストが高く、したがって損益分岐点も在来型油田に比べれば高いのだ。
- *実際、こうなってしまった原油は途端に厄介者になる。よもや、石炭のようにとりま空き地に野積みにしておくわけにも、牛乳のように下水道に流すわけにも、キャベツや患畜のように埋却するわけにもいかない。海に捨てようものなら周辺国の沿岸警備隊と環境保護団体が飛んできてグーで殴られる。
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