概要
知っての通りサッカーは非常に得点が入りにくいスポーツ[1]。先制したとしても、相手がゴールを決めた瞬間同点となり試合が振り出しに戻るリスクが残る。だが2-0であれば、相手に1点返されたとしても2-1で先行したままである。逆転されるとしたら3失点を喫した場合だが、この試合はまだ相手から1失点も許していないのだ。「勝ったな、風呂入ってくる。」と安心した気分で試合を進められるわけである。その油断が命取りになるとも知らずに……。
リード側は2点差を活かしながら安泰に試合を進めていく。だが試合終盤、何かの拍子でビハインド側の得点が決まって2-1になった。するとどうだろうか。勝っている側からすれば、先行したままとはいえ1点差、もう1点取られたら勝利を逃してしまうという焦りが出始める。対照的に、負けている側は「もう1点取れば同点だ!」と息を吹き返し始める。リード側は相手の勢いに飲まれてしまい、気がつけば追加点を許して2-2。少し前まで勝利を確信していたはずのチームは、引き分けで良しとするのか、勝つためにもう1点とりにいくのかと混乱状態に陥る。そうして同点に弾みをつけたビハインド側は攻勢をさらに強め、ついに3点目を奪取。ここに2-0から2-3の大逆転劇が誕生した。
……という具合に、サッカーの試合中における2-0はその後の劇的な試合展開の伏線とみなされ、「追いつかれる・逆転される可能性が高い」危険なスコアと呼ばれている。ファンはもちろん実況や解説ですらこの言葉を使ってしまうこともある。観客にとってみれば、勝っている側は「もう1点決めて安心させてくれ」と、負けている側は「1点返せばまだまだわからない」と思わずにはいられないだろう。
同じ2点差でも、3-1や4-2のようなスコアでは「3~4点差をつける一方的な試合展開から一矢報いた状況」や「両チームが点を取り合う展開でどちらにも勢いがある状況」であることが多く、危険なスコアとはあまり呼ばれない。一方で、3-0や4-0からの逆転劇が起きるとこの言葉をもじって「3-0(4-0)は危険なスコア」と呼ぶこともある。
2-0は本当に危険なのか?
結論から言えば、「2-0は危険」という事実は存在しない。ネット上には複数の検証記事が存在するが、いずれも「2-0から逆転される確率はごく僅かで、1-0よりも安全」という結果に落ち着いているようだ。(当然と言えば当然である)
この言葉が広くファンの間で使用されているのは、2点差をひっくり返すドラマティックな試合展開が観客にとって印象的であり、長く記憶に残るからだと思われる。また、2-0からの逆転劇は少ないながらも決して珍しい出来事ではなく、定期的に目にする機会があるのも一因か。
なお、Jリーグのコラムでは「1-0より2-1の方が、勝っている側は追加点をあげにくく、負けている側は同点にしやすい」という分析結果が紹介されている。「2-0から2-1にされてしまうと危険」という事実はあるのかもしれない。
主な例
2018FIFAワールドカップ ベスト16 ベルギー×日本
ベルギー | 3 - 2 | 日本 |
69' フェルトンゲン 74' フェライニ 90+4' シャドリ |
0 - 0 3 - 2 |
48' 原口元気 51' 乾貴士 |
「ロストフの死闘」「ロストフの14秒」でも知られる試合。日本人が「2-0は危険なスコア」と聞いてまず思い浮かべるのはこの試合ではないだろうか。
悲願のW杯ベスト8をかけ、当時世界3位の優勝候補ベルギーと対戦した日本代表。前半を無失点で凌ぐと後半早々に原口と乾のゴールで2-0と突き放す。だが格上相手に望外の展開を迎えた日本は、守勢に入り試合終了まで逃げ切るのか、それとも3点目を決めて勝利を決定的なものにするのかを決めきれないままでいた。そのうちにベルギーが1点を返すと、5分後には途中交代のフェライニに同点弾を奪われる。その後はこう着状態が続き、延長戦突入かと思われた後半アディショナルタイム。本田のCKをキャッチしたベルギーGKクルトワは日本の選手の戻りが遅いのを見るや否やカウンターを仕掛け、最終的にシャドリが流し込んで3点目。日本はW杯史に残る逆転劇を許し、あと一歩のところでベスト8を逃した。
2004 Jリーグ ディヴィジョン2 第26節 仙台×川崎
ベガルタ仙台 | 2 - 2 | 川崎フロンターレ |
89', 89' 佐藤寿人 | 0 - 1 2 - 1 |
34' ジュニーニョ 67' アウグスト |
1年でのJ1復帰を目指す仙台は首位の川崎とホームで対戦。だが前後半に1得点ずつ奪われる厳しい展開となり、試合は終盤を迎える。このまま川崎が勝利して首位独走か……と思われたその瞬間、当時22歳の「風の申し子」佐藤寿人が覚醒する。自慢のスピードで相手DFの裏を取り、味方のスルーパスをワンタッチで浮かせてゴールに流し込み1点差。さらにその1分後、胸トラップからのボレーという技ありシュートを決めなんと同点に。公式記録では89分となっているが、実際の試合時間では90+4分と90+5分の出来事である。試合終了目前、川崎はたった一人のストライカーによって勝利を取り逃す羽目になってしまった。
2008 Jリーグ ディヴィジョン1 第34節 千葉×FC東京
ジェフユナイテッド千葉 | 4 - 2 | FC東京 |
74' 新井辰基 77', 85' 谷澤達也 80' レイナウド |
0 - 1 4 - 1 |
39' カボレ 51' 長友佑都 |
最終節を残しJ2降格圏の17位に沈む千葉。残留には勝利が必要であり、その上で15位磐田・16位東京Vが両方とも負けるという非常に厳しい状況にあった。奇跡の残留のためまずはホームでの勝利を目指す千葉だったが、39分にFC東京の先制を許してしまう。後半も苦しい試合展開は変わらず、53分に追加点を奪われ絶体絶命の状態に。だがここから選手交代で新居と谷澤を投入すると、その2選手が立て続けに2得点を決め同点に。さらにその直後にはPKを獲得、これを冷静に決めて逆転。1点目からわずか7分後の出来事である。
85分にはダメ押しの4点目を加え試合終了。勝利という絶対条件を達成した千葉は、磐田・東京Vが共に敗れたことで15位へ浮上し、奇跡の残留を成し遂げたのであった。まあ翌年は最終節を待たずしてJ2降格が決まり、十数年の長い長いJ2生活が始まるんですけど。
2016 AFC U-23選手権 決勝 日本×韓国
日本 | 3 - 2 | 韓国 |
66', 81' 浅野拓磨 74' 矢島慎也 |
0 - 1 3 - 1 |
20' クォン・チャンフン 47' チン・ソンウ |
リオデジャネイロ五輪のアジア最終予選を兼ねカタールで開催された本大会、日本は初優勝をかけて宿敵・韓国との決勝に挑む。序盤から韓国の攻撃に押され、好機を作れない状態が続く。そして20分に先制を許すと、後半の開始早々に追加点を挙げられて苦しい展開に。だが後半途中に投入された浅野が矢島のスルーパスをワンタッチで流し込み1点差とすると、今度は矢島が自らヘディングゴールを決めて同点。その後もGK櫛引のファインセーブなどで韓国の攻撃を凌ぎ切ると、81分に再びスルーパスを受けた浅野がGKと1対1を制して逆転弾を決めた。ジャガーポーズでお馴染み浅野が2得点の大活躍を見せ、日本は劇的な逆転勝利で優勝を飾った。(そして6年後、W杯日本代表となった浅野は同じカタールの地でドイツから歴史的な逆転ゴールを奪うのだが、それはまた別の話。)
関連動画
関連項目
脚注
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