ハサミ男とは (ハサミオトコとは) [単語記事]

概要

第13回メフィスト賞を受賞し、1999年 8月に講談社ノベルスから刊行された、殊能将之のデビュー作。

当時、受賞作にイロモノ・キワモノが多かったメフィスト賞に苦い顔をしていたようなうるさがたのミステリマニアも唸らせ、同年の「このミステリーがすごい！」9位、「週刊文春ミステリーベスト10」10位、「本格ミステリ・ベスト10」では2位にランクインするなど高い評価を得て、ミステリ業界でのメフィスト賞の評価を持ち直させた。現在は2002年に出た講談社文庫版が入手可能。

一般的に「殊能将之の代表作」といえば本作であり、2012年の『東西ミステリーベスト100』でも84位にランクインした。『黒い仏』だって言う輩の言うことは信用しちゃダメだぞ！気持ちはわかるが！

自身の模倣犯の正体を突き止めようとするシリアルキラーと、連続殺人の犯人を追う警察側の視点で展開されるサイコ・サスペンス。その上で「あるトリック」の代表作のひとつであり、周到に配置された伏線から驚くべき真相を読者に突きつける本格ミステリでもある。今となっては定番となってしまってもいるので、ミステリを読み慣れないうちに読んでおいた方がいい作品のひとつ。真相を知って再読すると、わりと序盤にあるかなり大胆な伏線など、いろいろ発見があって楽しめるだろう。

デビュー前の著者と親交があった（が、しばらく音信不通になっていたらしい）書評家の大森望は、本作のゲラを読んでいる最中に「この作者は絶対オレの知り合いに違いない」と確信して編集部に確認を取った、という逸話がある。

著者が2013年に死去した後、『メフィスト 2013 VOL.3』に、著者が友人（作中の磯部刑事のモデルになった人物）へ送った未発表原稿「ハサミ男の秘密の日記」が掲載。内容は『ハサミ男』刊行直前の2ヶ月間を小説風に書いた日記。2016年に刊行された『殊能将之未発表短篇集』（2022年に文庫化）に収録されている。

映像化は不可能と思われていたが2005年に映画化されている。アレンジされているが映像自体がネタバレを含むため、未読の人は注意。

なお、2003年の東京を舞台としているが、執筆されたのは1998年の後半である。

あらすじ

2003年、東京。

絞殺したのち、首にハサミを深々と突き刺すという手口で女子高生2人を手にかけていた「ハサミ男」は、付け狙っていた次のターゲットが自身と同様の手口で殺されているのを発見し、混乱する。

事件発覚後、ハサミ男の8ヵ月ぶりの凶行ということでマスコミの熱がヒートアップする中、なかなか犯人逮捕につながる情報を得られないでいる警察はプロファイラーを招集するなどして事態究明に乗り出すが、オリジナルのハサミ男もまた、〈医師〉の勧めに従い、真犯人を探すため独自に行動を起こす。

主な登場人物

ハサミ男: 主人公。26歳。頭のいい女の子をターゲットとする用意周到な殺人鬼。氷室川出版という出版社でアルバイトをしており、備品のハサミをくすねて研ぎ凶器として使用する。3番目の被害者を緻密に調べ上げ、そろそろ手にかけようとして彼女の住所近辺をうろついている途中に自分の手口を真似て殺された死体を発見する。食べることが大好きで少し太っている。好物はジャンクフードとミートパイ。主に毎週土曜日に自殺を試みているが悉く失敗し、そのたび医師に馬鹿にされる。
医師: 年齢は60歳くらいで純白で短髪。頭が良くて皮肉屋。引用癖がある。
樽宮由紀子: 目黒区鷹番に住んでいる、葉桜学園高校に通う高校2年生。身長は165 cmくらい。部活は弓道部に所属していた。成績優秀だが数多くの男性と肉体関係を持っていた。両親が連れ子同士の再婚をしていることもあり、家庭事情が複雑。
磯部龍彦: 警察側の主人公。目黒西署刑事課の刑事で階級は巡査。27歳。ハンサムだが無能な若手マネージャーに例えられるほどどこか頼りない。童顔なこともあり下川からは「坊や」と呼ばれている。堀之内から助手に指名される。ミステリー小説好き。
岡島: 氷室川出版の部長を務める50代女性。編集部を一人で取り仕切っている。馬面。
山岸: 氷室川出版のアルバイト。神経質で自尊心が強そうな脱サラ中年。正社員を目指しているが、岡島からは「センスがない」と評されている。
佐々塚: 氷室川出版の正社員。銀縁メガネをかけた30代半ばの小男。
下川宗夫: 目黒西署刑事課の刑事。刑事なのに身長が160 cmしかない。昇進試験に合格できないため万年巡査部長の身に甘んじており、隙を見つけては試験勉強をしている。目黒西署刑事課の面々からは親しみを込めて「長さん」と呼ばれているがこのあだ名は好きではないようだ。
上井田嘉暁: 目黒西署の刑事課長。階級は警部。見事なハゲ頭と顎鬚が特徴。非常に礼儀正しい。
堀之内靖治: 科捜研から来た人気のある大学講師みたいな犯罪心理分析官。磯部を自らの足に指定する。集中するときはこめかみに手を当てる。
松元順三郎: 目黒西署刑事課のベテラン刑事。刑事課唯一の喫煙者。刑事というより年季の入った漁師みたいな見た目をしている。尋問のプロフェッショナル。
村木晴彦: 目黒西署刑事課の刑事。階級は巡査部長。年齢は30代後半とみられる。天然パーマで手足がひょろ長く、売れないソウル・シンガーのよう。予測不可能な性格をしており、時折り突拍子もない行動に出る。普段は冷笑家だが、クラシックとオーディオ機器を語らせたら長い。
進藤誠斗: 目黒西署刑事課の若手刑事。階級は巡査。気弱で磯部よりも頼りなさげだが、時折り鋭さを見せる。大学時代は写真部に所属しており、珍しいウサギの写真でコンクールに入選したこともある。
椿田亜矢子: 樽宮由紀子の友人。歯並びが悪いが笑顔は素敵。
樽宮とし恵: 樽宮由紀子の気丈な母親。
樽宮健三郎: 樽宮由紀子の血のつながらない弟。由紀子の告別式の最中に駆け出してしまう。
黒梅夏絵: ピンクハウスマニアのフリーライター。