回送とは (カイソウとは) [単語記事]

回送とは、鉄道・バス・タクシー・飛行機など公共交通機関の車両を、営業運転せずに別の場所へ送り込むことである。

概要

回送中の車両は回送車・回送列車などと呼ばれ、乗客に乗車できないことを示すため行先表示機には「回送」と表示する。

タクシー業界では回送のことを隠語で「ワカメ」と呼ぶ。回送と海藻を引っ掛けたダジャレだが、なぜヒジキやモズクではなくワカメなのかは不明である。

回送の分類

車庫と駅・バス停の間を回送するもの
回送の形態として最も多く見られるもの。
1つの車両で複数の路線を運行する時、1つ目の路線の運行が終了した場所から次の路線の運行開始場所まで回送するもの
運行する路線の始終点が大きく離れていない場合に行われる場合がある。
折り返し運転のために回送するもの
その列車の終着駅に折り返し運転に必要な設備がない場合などに行われる。バスでも終着バス停が一方通行の道路内に所在し、降車停と乗車停が離れている場合などに行われる。
車両を整備・廃車するために工場へ持っていくために回送するもの
定期検査や修理の実施・廃車時などに行われる。
タクシーの回送
詳細は後述

鉄道の回送

鉄道車両の回送は距離が長くなると無駄が大きくなるので、ダイヤグラムを組む段階で回送列車がなるべく発生しないようにダイヤを組む。

しかし首都圏の朝夕のラッシュアワーのように乗客の流動が極端に一方向的な場合、ターミナルに到着した列車を折り返し回送列車にし、素早く始発駅に戻すといったことも行われる。

途中駅での折返し列車を設定する場合、大抵折返し設備のある駅を始発・終着駅とするように設定される。しかし輸送実態から折返し設備のない駅を終着駅とする必要がある場合、事故などによって折返し設備のない駅で運転打切になった場合などにその駅から折返し設備のある駅まで回送列車を仕立てる場合がある。

車両の大規模整備・廃車時にも回送列車が設定される。それは経費節減のために大規模工場は多くの鉄道会社で集約されているためである。特に札幌市営地下鉄・東京メトロ・都営地下鉄・名古屋市営地下鉄・大阪市営地下鉄では車両の整備回送のために連絡線が設置されている。

バスの回送

バスも回送距離が長くなると燃料を無駄に消費することになるため、なるべく回送便の設定は避けたいところだが、実際は運転士が運転できる時間が営業便と回送便では別々にカウントされる・運転士の労働時間が法律・労使協定などによって縛られるなどの理由から回送便の設定が多くある。

バスの車庫は鉄道の車庫と異なり、土地と営業所用の建物があれば立地可能である。しかし需要発生方向や騒音の問題などから必ずしもターミナルに近い場所に車庫を設置できるとは限らない。例えばJRバス関東の運行拠点の一つである東京支店は高速バスターミナルの東京駅から直線距離でおよそ4km離れており、東京駅を発着する高速バスは東京支店との間をいつも回送している。

バスの回送便は大型二種運転免許を持たない人でも運転できる。

タクシーの回送

タクシーは営業エリアが決められており、法律で営業エリアの外でお客を拾ってはいけないと決められている。営業エリアは例えば東京都・千葉県・神奈川県では以下のように決められている。

都県名	営業エリア名称	含まれる市区町村
東京都	特別区・武三交通圏	東京23区・武蔵野市・三鷹市
	北多摩交通圏	立川市・府中市・国立市・調布市・狛江市・小金井市・国分寺市・小平市・西東京市・昭島市・東大和市・武蔵村山市・東村山市・清瀬市・東久留米市
	南多摩交通圏	八王子市・日野市・多摩市・稲城市・町田市
	西多摩交通圏	青梅市・福生市・あきる野市・羽村市・瑞穂町・日の出町・奥多摩町・檜原村
	島嶼区域	大島町・利島村・新島村・神津島村・三宅村・御蔵島村・八丈町・青ヶ島村・小笠原村
神奈川県	京浜交通圏	横浜市・川崎市・横須賀市・三浦市
	県央交通圏	藤沢市・茅ヶ崎市・平塚市・伊勢原市・秦野市・相模原市の津久井交通圏に属する地域を除く全域・大和市・座間市・海老名市・綾瀬市・厚木市・寒川町・大磯町・二宮町・愛川町・清川村
	津久井交通圏	相模原市の旧津久井町・旧相模湖町・旧城山町・旧藤野町区域
	湘南交通圏	鎌倉市・逗子市・葉山町
	小田原交通圏	小田原市・南足柄市・大井町・中井町・開成町・山北町・松田町・箱根町・湯河原町・真鶴町
千葉県	京葉交通圏	市川市・船橋市・習志野市・鎌ケ谷市・八千代市・浦安市
	東葛交通圏	松戸市・柏市・流山市・野田市・我孫子市
	千葉交通圏	千葉市・四街道市
	北総交通圏	佐倉市・成田市・香取市・八街市・印西市・富里市・白井市・酒々井町・栄町・多古町・神崎町・東庄町・芝山町
	東総交通圏	銚子市・匝瑳市・旭市
	山武・東金交通圏	東金市・山武市・大網白里市・九十九里町・横芝光町
	市原交通圏	市原市
	東海交通圏	茂原市・勝浦市・いすみ市・一宮町・睦沢町・白子町・長柄町・長南町・長生村・御宿町・大多喜町
	南房交通圏	木更津市・君津市・袖ヶ浦市・富津市・鴨川市・館山市・南房総市・鋸南町

ただし営業エリア内でお客を拾って営業エリアの外まで賃走するのと、営業エリア外で拾う場合であっても営業エリア内まで確実に行くお客であれば拾っても良い。例えば東京都全域と神奈川県の京浜・県央地域を営業エリアに持つタクシーの場合、以下のようになる。

発地	着地	可否
新宿駅（特別区・武三交通圏）	羽田空港（特別区・武三交通圏）	営業エリア内で完結しているのでOK
南大沢駅（南多摩交通圏）	成田空港（北総交通圏）	発地が営業エリア内なのでOK
成田空港（北総交通圏）	京急川崎駅（京浜交通圏）	着地が営業エリア内なのでOK
東京ディズニーランド（京葉交通圏）	成田空港（北総交通圏）	発着地両方が営業エリア外なのでNG

回送を行う場合、空車表示を「回送」にし、お客を拾えないことを示した上で営業エリアに戻る。営業エリアに入ると再び空車表示を「空車」に切り替え、客扱いが可能になる。

基本的に回送に要する有料道路の料金は乗客が負担しなくても良いが、有料道路を利用しないと営業エリアに戻れない場合は回送分の通行料金を乗客に請求できる。例えば兵庫県だけを営業エリアに持つタクシーが、神戸市から明石海峡を越えて徳島県鳴門市まで乗客を送り届けた場合、明石海峡大橋を通行しないとタクシーが戻れないので回送分の通行料金を乗客に請求できる。