俺達は水の雫。宇宙(そら)から降ってきた雨露。この砂の星でじりじりと陽に焼かれ、いつの日か干上がっていく。今は大きな傘の下で存えていても、明日はどうなるか分からない。未来(さき)のことは神様にしか分からない。俺達は水の雫。宇宙(そら)から降ってきた雨露。この砂の星で風に吹かれて、やがて地に染みていく。そして俺達は、この星の糧となる。
言葉では伝えられないものがある。それは人の想いだ。心の中の想いは、言霊に宿らない。だが、想いを知る術が一つだけある。相手の目を見つめることだ。少女は俺に嘘をついた。紳士は俺に嘘をついた。だが、彼等の瞳を見た瞬間、運命が流転し、真実が解き明かされていく。相手の目を見れば分かる。真実は一つしかない。
過ちを犯した者は、自らを責め、心を閉ざす。過ちを正すことはできない。人は過去には戻れない。だから飲む。飲んだくれ。酔っ払い。偽っても隠せない想いを酒で薄め、喉に流し込む。銃職人フランク・マーロンは、ただ酒を飲む。そして、空になったグラスに問い掛ける。俺は間違っているのか。俺は、間違っていたのか。
清算できない過去がある。振り払うことのできない過去がある。心の中に抱いている想いは、お互いに同等だ。一人は愛した両親のために。一人は愛した娘のために。引金に指を掛けることでしか、二人の男は答えを出すことができない。想いを乗せた弾丸が、互いに向けて放たれた瞬間、男は、ただ静かに涙をこぼした。過去が、人を縛る。
何かを得たとき、何かを失っていく。その事実に目を背けて生き続けることはできない。失ったものは元には戻らない。大切なもの。掛け替えのないもの。それを失くさないために必要なもの。弾丸の中に込められた揺るぎ無い決意。男は知っている。黙っていては、何も始まらないことを。動き出さない限り、変革が起きないことを。
第6話 LOST JULY
想いを抱き続けた年月が長ければ長いほど、人は過去を生きる糧とする。抱き続けた想いが深ければ深いほど、人は過去を美しく磨き上げる。美化された想いは、やがて憎しみへとその姿を変える。前を向いても、歩くことができなくなる。復讐という名の重い鎖が、心を縛り続ける限り。悲しみの涙が、流れ続ける限り。
第7話 B・D・N
欲求を満たすために際限無く繰り返される悲劇。征服欲。他人を屈伏させて、身震いするほどに得られる快感。その恍惚に身を委ねた男がいる。バト・ラド団のヘッド。光る男。ブリリアント・ダイナマイツ・ネオン。彼の両肩にある巨大なダイナモが光りを放つとき、サンドスチームが震撼する。漆黒の闇の中で、凄惨なる宴が始まる。
第8話 そして荒野と空の間を
罪を犯す者は言う。生きていくために仕方が無かったと。罪を犯す者は言う。もう抜け出すことはできないと。罪という名の影が、何も語らずにひたひたと付き纏う。悔恨と苦悩が繰り返され、絶望へと行き着く。だが、罪人は知らないのだ。振り向けばそこに、光があることを。こんなにも、こんなにも温かく、自分を照らし続けていることを。
砂漠で出会った一人の男。巡回牧師。ニコラス・D・ウルフウッド。彼は笑って俺に言った。難儀な男だと。全てを見透かしたような彼の笑顔に、俺は何も言い返すことができなかった。この男との出会いは運命なのか。それとも、神が与えた、一時の戯れなのか。その男の名は、ニコラス・D・ウルフウッド。砂漠で出会った、巡回牧師。
誰かのために何かをしてやりたいと思う。微笑むことで、相手が微笑んでくれればといいと思う。無償の行為は美しく、善意は人の心を育む。見返りを求めない想いは、人として尊ぶべきことだ。だが、それを維持しようとしてはいけない。無理を続ければ、やがてそれは、嘘という名の花を咲かせる。人の心を傷つけてしまう、刺のある花に。
二者択一。命を与えられた人間が生き続ける中で、避けては通れない別れ道。それが岐路だ。どちらに進んでも何かを失う。どちらに進んでも幸福を見つけることができない。だが、別れた道は本当に二つしかないのか。違う。進むべき道は無数にあるはずだ。俺たちの選ぶべき道は一つじゃない。未来への道は、決して一つじゃない。
第12話 DIABLO
人には、侵してはならない聖域がある。踏み込んではならない悲しみの傷跡がある。その想いを遂げるために、生きている者同士が相見える。白いコートを着た男は、静かに俺に言った。遂に見付けたと。お前の命が欲しいと。その男は、暗闇より深き笑みを浮かべた。レガート・ブルー・サマーズ。死神に魅入られた男。ただ静かに。
第13話 ヴァッシュ・ザ・スタンピード
7月20日付、定例報告書。モネヴという男が起こした事件から二日目。街の緊張は未だ解けていません。今回、私は改めて、思い知らされました。普段彼と接していると、どんどん希薄になっていく認識なのですが。ヴァッシュ・ザ・スタンピードが、人間台風(ヒューマノイド・タイフーン)と呼ばれる由縁。何故彼の下には、こうも大きなトラブルが、数多く転がり込むのでしょうか。
前を向いていると、見落してしまうことがある。自分の考えを固く信じ、唯只管に走り続けるのは美徳だ。だが、他人の気持ちや想いを、蔑ろにしていい訳が無い。父と母の想いに気付かないまま、我武者羅に生きたとしても、自己満足でしかない。時には立ち止まるのもいい。暫しの休息であるのなら。人の想いが、感じられるのなら。
人が人を裁く。己の理屈だけで、人の命が断ち切られていく。母も父も友も、過去の全てが一瞬にして虚空に消える。それを個人の感情だけで行うのは、果たして正しいのか。盗賊ロードレックの死体を前に、美しき女は言った。 何の役にも立たない屑共を大掃除しただけだと。ドミニク・ザ・サイクロプスが言った。これは大掃除なのだと。
生と死の狭間で失った記憶の断片。それは、傍観への道を示すものなのか。シルバーメタリックの銃が破砕し、右腕が変貌する。過去と、人と、母と、守ってきた全てと邂逅した瞬間、光がオーガスタを包み込んだ。人間台風(ヒューマノイド・タイフーン)。600億$$の賞金首。ヴァッシュ・ザ・スタンピード。これが、過去の始まり。これが、旅の終わり。
レムは僕に言ったんだ。地球で大好きな人が死んでしまったんだって。仕切り直すために、この船に乗り込んだんだって。大好きな人が死んでしまったら、どんな気持ちになるんだろう。僕はレムがいなくなったときのことを考えてみた。そしたら、目から熱い水があふれて止まらなくなった。レム、僕がそばにいるよ。僕は君を独りにしない。
第18話 今は、さよなら
天空に輝き、我々を見下ろす、真っ赤に血塗られたあの5番目の月を見ろ。そして思い出せ。その男の名を。その男の伝説を。見上げるだけでいい。否が応でもその男の伝説は、5番目の月に刻まれている。FIFTH MOONに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの伝説が刻まれている。そして時は満ちる。語るべきは、未来へと続く、その軌跡のみ。
強い意志は、心を奮い立たせる。だが、強すぎる意志は、心の視界を極端に狭めてしまう。家族を失った男の悲しみが、憎しみとなり、やがて殺意へと変貌する。男が銃の引き金に指を伸ばす。罪が人を変える。罪が、罪を生む。嗚呼、でも僕は、それでも僕は信じたいんだ。罪を感じる、人の心を。
辛いことがあったとき、悲しいことがあったとき、旅人が想いを馳せる場所がある。それが故郷だ。どんな過去を捨てて、旅人が故郷を離れたのか、今は分からない。どんな悲しみを背負っているのか、今は分からない。だが、旅人は自分を支えてくれるもの、自分を包んでくれる場所があるから、前へ歩き出せる。一歩一歩、踏み締めて歩いていくことができる。
第21話 OUT OF TIME
譲れないものがある。守りたいものがある。どんな苦しみが待っているとしても、立ち上がらなければならないときがある。赤いコートをまとった男は、再び銃を手にした。これ以上悲しみを増やさないために。これ以上、憎しみを増やさないために。遥かな昔、ゼラニウムの花を前にして、教えられた花言葉を、揺るぎない決意を、胸に秘めて。
第22話 ALTERNATIVE
保身。身を守る術。人は痛がりな弱さを露呈し、それ故に群れを成す。そして、知らず知らずのうちに、仲間以外の者を排除していく。だが、排除された者はどうなるのか。朽ち果てた屋敷で、身を寄せ合って暮らす子供たちに、俺は笑いかけた。 今日を生きよう。明日を生きよう。そして、明後日も。たとえそれが、永遠に続く苦しみだとしても。
第23話 楽園
間違いに気付くこと。嘘をつかないこと。相手を慈しむこと。人を殺さないこと。とても簡単なことだ。でも、時代がそれを許さない。この星には緑が無い。僕達は、あの場所を求めているのに。こんなにも求めているのに。そこでは、穏やかな日常が続き、争いも無く、奪うことも無く、人が人として生きられる聖地。そう、そこは。その場所の名は。
第24話 罪
繰り返される悲劇、繰り返される痛み。人の想いはこんなにも強く、そして儚く脆い。生きること、生き続けること、生き抜くことがこんなにも辛いものだなんて。こんなにも苦しいものだなんて。僕は選ばなければならない。選択しなければならない。生と死が交錯するその刹那、僕は人であり続けることを、選べるのだろうか。
夢を見たよレム。その星では、何もかもが酷く渇いていてね。そう、人の心も。僕は遠くから、そこで生活する人達を見つめながら、どうして人は生き続けるんだろうって、何度も思うんだ。レム。聞いてレム。僕は間違ってしまった。僕は間違ってしまったんだ。僕は、どうすれば。
130年前。あの日。あの時。僕たちは生まれてきたよね。穏やかな日々が続き、僕たちの後ろにはいつもレムがいた。でも、擦れ違ってしまった想いは、生き方を変えたね。後悔はしていないよ。僕はもう一度誓う。人を殺さないことを。人を裏切らないことを。幸せを掴むことを。夢を語ることを。未来への切符は、いつも白紙なんだから。
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