この項目は独自研究と独自史観を元に書かれています。 信じる信じないはあなた次第です。 あと本項作成者は漫画・ゲームの特殊設定ミステリにはあまり詳しくないので、識者の情報をお待ちしております。 |
特殊設定ミステリとは、SFやファンタジー、ホラーなどの設定を用いて、現実世界とは異なる特殊なルールを導入したミステリー作品のこと。
ノックスの十戒で「探偵方法に超自然能力を用いてはならない」「未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない」「中国人を登場させてはならない(これは「常人離れした特殊能力を持った人間を登場させてはならない」ぐらいの意味)」と三項にわたって戒められているように、従来、ミステリー作品において、現実に存在しない超能力や超科学、ファンタジー要素を導入するのは禁じ手とされてきた。「論理的に謎が解決される面白さ」を追及するミステリーにおいて、こういった要素を導入すると「なんでもあり」になってしまい、読者を納得させられないからである。
「密室内の被害者をどうやって殺害したのか?」という謎に対して、何の伏線もなく「犯人は実は超能力者でサイコキネシスを使いました!」というような解決で、「なるほど!」と納得してくれる読者は、あまりいないであろう。解決でそれまで語られていなかった超自然的な要素をいきなり出してしまえば、読者には解決編までに真相を推理しようがない。それがアリならどんな可能性だって考えられるからである。
しかし、逆に言えば、読者を納得させられるのであれば、超自然的な要素を導入してもミステリーは成立しうる。たとえば前述の「実は犯人は超能力者でした!」という真相であっても、あらかじめ「容疑者の中に超能力者が1人隠れている」ということを読者に示しておけば、「超能力者は誰だ?」という犯人探しを成立させることができる。
もちろんこれも、「1人超能力者がいるなら2人以上いる可能性を否定できないのでは?」というツッコミはあり得るが、たとえば「超能力者は一定の範囲内に1人しか存在できない」というルールを作中に導入することでそういったツッコミを回避することはできる。
このように、SFやミステリーの要素を導入し、現実世界とは異なる特殊なルールを設定した上で、そのルールの上での謎解きを行うのが、特殊設定ミステリである。
ただしSFやファンタジーの要素が導入されていれば全て特殊設定ミステリというわけではなく、SFやファンタジーの要素があったとしても、作中の謎がそれらの要素と直接関係せずに、あくまで我々の暮らす現実世界のルールの中で解決される場合においては、あまり特殊設定ミステリとは呼ばれない。
導入された設定に一定のルールがあり、謎解きがそのルールに基づいていることが特殊設定ミステリの条件と言える。
よくわからん、という人は一例として『DEATH NOTE』を思い出してもらいたい。あの作中ではデスノートの使用法について様々なルールが提示され、それに基づいて夜神月はLたち警察を出し抜くための奸計を巡らせ、Lはキラのもつ特殊な能力とそのルールを解明していくことで月に迫っていった。ああいった「特殊なルールに基づいた謎解きや知恵比べ、そのルールが存在するからこそ可能なアクロバティックな論理」が特殊設定ミステリの醍醐味と言える。
あるいは『ジョジョの奇妙な冒険』で敵のスタンド能力を手がかりから推理し、その裏を掻いて勝利するといったような、能力バトルものでおなじみの頭脳戦も、「一定の特殊なルールの元で『謎』とその『解明』を描いている」という意味で、一種の特殊設定ミステリと言える。
逆に、たとえば『名探偵コナン』には身体が小さくなる薬や阿笠博士の作る数々のお助けアイテムといった非現実的な設定があるものの、それらの要素が謎解きに直接絡むわけではない(トリックの解明や犯人の特定に対してそれらの存在が基本的に考慮されない)ので、特殊設定ミステリとはふつう見なされない。
現代の特殊設定ミステリの流行には、こういった漫画・アニメ・ゲーム・ライトノベル的な文化の影響は実際かなり大きい。現代の主な特殊設定ミステリの書き手の多くは、21世紀の漫画・アニメ・ゲーム・ライトノベル文化で育ち、それらに馴染んでいる80年代~90年代生まれの若手である。
この定義に従うなら、人狼ゲームやリアル脱出ゲームのような、一定の決められたルールの中での謎解きゲームの類いも、特殊設定ミステリの一種と言える。これらのゲームのブームと、特殊設定ミステリの流行は時期的にも近く、連動した現象と見るべきだろう。
また、SFやファンタジーの要素がなくても、閉鎖的な孤島、異国、過去の時代などを舞台に、その舞台だからこそ成立する(現代日本では成立しない)謎と解決を描いたタイプのミステリも、広い意味での特殊設定ミステリと言うこともできる。
実際、2010年代後半から特殊設定ミステリブームと並行して、古処誠二『いくさの底』、伊吹亜門『刀と傘』、辻真先『たかが殺人じゃないか』、米澤穂信『黒牢城』、芦辺拓『大鞠家殺人事件』といった過去の時代を舞台に、その時代だからこそ成立する謎解きを構築した本格ミステリが高い評価を得る流れが生まれており、これも特殊設定ミステリブームと連動した現象と見るべきかもしれない。
もともと日本では、黎明期のSF(科学小説)はミステリー(探偵小説)のサブジャンルと見なされていた。どちらも謎を論理的に(ミステリーは推論で、SFは科学の論理で)解決しようとする指向性を持つジャンルであるため相性がよく、SFミステリーは古くから洋の東西を問わず書かれており、SF作家が同時にミステリーを手掛けることも珍しくなかった。
そのため、現在「特殊設定ミステリ」と呼ばれているタイプの作品も、00年代ぐらいまでは「SFミステリー」と呼ばれることが多かった。SFミステリーの最も古い作例がどれかは未確定だが、有名どころではアイザック・アシモフ『鋼鉄都市』(1954年)が特に先駆的な作例だろう。
ファンタジー系では、科学の代わりに魔術が発達した世界でのミステリーを描いた、ランドル・ギャレット『魔術師を探せ!』(1964年)『魔術師が多すぎる』(1966年)などの「ダーシー卿シリーズ」が先駆と言える。これらのように作例自体は昔からちらほら存在したものの、それらはミステリーの歴史においてはあくまで傍流、変化球、異色作、言ってしまえばある種のキワモノであった。
殊に日本では松本清張以降、ミステリーの世界ではリアリズムの呪縛が強く、SFミステリーは散発的に書かれていたものの、現在まで名前の残る作品はほとんどなく、ミステリー史に大きな影響を与えるような作品は存在しなかった。たとえば1985年の『東西ミステリーベスト100』国内編にランクインした中でSFミステリーと呼べそうなのは井沢元彦『猿丸幻視行』ぐらいだし、これも「SF設定を使っただけの歴史ミステリー」と呼ぶのが正確である。
日本でその潮目が変わったのは、1987年の綾辻行人のデビューから始まった新本格ムーヴメント。古典的な謎解きの面白さのルネッサンスを目指した新本格において、「死者が蘇る世界での殺人事件」を描いた山口雅也『生ける屍の死』(1989年)という金字塔が登場する。『生ける屍の死』が画期的だったのは、「謎解きのために特殊な世界をひとつまるごと作ってしまう」ということをやってのけたことであった。
次いで1995年にデビューした西澤保彦が、タイムループミステリの金字塔『七回死んだ男』、登場人物の人格が次々に交換される中での殺人を描く『人格転移の殺人』、超能力者の犯罪を解明する〈神麻嗣子の超能力事件簿〉シリーズなどのSFミステリーを続々と発表。「SF的な設定を導入しても、そのルールをきっちり定めればミステリーは書ける」という認識を広めた。
この西澤の成功を受けて、00年代に入ったあたりから、ミステリー方面からも森博嗣『女王の百年密室』、石持浅海『BG、あるいは死せるカイニス』などの意欲作が書かれるようになっていく。この頃まではSF的な設定が主流だったため、現在でいう特殊設定ミステリに対してはまだ伝統的な「SFミステリー」という呼称が使われることが多かった。
ファンタジー設定のミステリーも上遠野浩平『殺竜事件』『紫骸城事件』、久住四季『トリックスターズ』などが書かれていたものの、作者がライトノベル系の作家だったためか、ミステリー界隈からの注目度はあまり高くなかった。
漫画では前述の『DEATH NOTE』や『未来日記』といった特殊なルールに基づいた頭脳戦・デスゲーム・サバイバルものが流行し、「特殊なルールに基づいた知恵比べ」という形式が広まっていく。
この流れを遡ると、現代の特殊設定ミステリに最も強烈な影響を与えたと言えるのが『ジョジョの奇妙な冒険』と福本伸行作品で、『ジョジョ』のスタンドバトルや、『カイジ』などの福本作品に登場する数々の特殊なゲームは、そのまま特殊設定ミステリの思考法の土台になっていると言えるだろう。
また特殊設定ミステリ史を語る上で外せないのが、2001年からスタートしたゲーム『逆転裁判』シリーズのヒットであり、綾里真宵の霊媒能力を活用した謎解きや、その能力による意外な事件の発生は、後にデビューする若手作家たちに非常に強い影響を残した。
そして2009年、ホラー的なルールの上で本格ミステリの犯人探しとドンデン返しを成立させた、綾辻行人『Another』が登場。次いで2010年、剣と魔法のファンタジーの世界で堂々たる犯人当ての本格ミステリを達成した米澤穂信『折れた竜骨』が登場すると、「SFミステリー」という言葉ではこれらの作品を包括できなくなってきた。
そこでSF・ファンタジー・ホラーなどを導入したミステリーの総称として広まったのが、米澤が『折れた竜骨』のあとがき内で使用した「特殊設定ミステリ」という言葉である(それ以前にも「特殊設定ミステリ」という言葉自体の使用例は存在するが、現在の意味での用例が広まるきっかけはここと思われる)。
2011年には城平京『虚構推理 鋼人七瀬』が第12回本格ミステリ大賞を受賞。本作は当時は後述の多重解決ものの文脈で評価されていたが、後に特殊設定ミステリの代表作のひとつと見なされることになった。
学園ホラー、剣と魔法のファンタジー、伝奇アクションと、それぞれ異なるジャンルでの漫画・アニメ・ゲーム・ライトノベル的な設定と本格ミステリとを融合したこの3作品が立て続けに登場したこの3年間が、大きな歴史の転換点だったと言えるだろう。
同時期、本格ミステリ界では多重解決ブームが起きており(例:米澤穂信『インシテミル』、円居挽『丸太町ルヴォワール』、麻耶雄嵩『貴族探偵対女探偵』等)、「論理の意外性」を追及することが本格ミステリの主流になってきていた。意外な犯人もトリックもとうに出尽くし、叙述トリックのような語りやプロットで驚かせるのも頭打ちになってきていた本格ミステリの世界において、読者が思いつかないような論理を提示して驚かせる「論理の意外性」は、本格ミステリに残されたフロンティアだったのである。
そして、その「論理の意外性」を提示するために、『インシテミル』や『丸太町ルヴォワール』のような特殊な論理合戦の舞台、あるいは「真相を教えてくれる鏡」を導入した森川智喜『スノーホワイト』のように、非現実的な設定を意識的・積極的に導入する作品が珍しくなくなってきた。
この多重解決ブームは「多重」解決である以上、必然的に「論理の手数で勝負する」方向に進み、2010年代半ばに深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』、井上真偽『その可能性はすでに考えた』で行き着くところまで行ってしまい、一段落することになる。
しかしそれと入れ替わるようにして、『人間の顔は食べづらい』の白井智之、『名探偵は嘘をつかない』の阿津川辰海、『ジェリーフィッシュは凍らない』の市川憂人といった新人たちが立て続けに登場、特殊な設定を導入してそのルールに基づいた謎解きを展開することで「論理の意外性」を打ち出した作品を続々と発表していく。
この中で、白井智之の第2作『東京結合人間』が発表された際に、綾辻行人がその作風を評して〝鬼畜系特殊設定パズラー〟と命名したことで、これらを総称する名称としての「特殊設定」という言葉がより広まっていった。
この潮流は2017年、×××を導入した今村昌弘のデビュー作『屍人荘の殺人』がミステリーランキング三冠を獲得するに至って、もはや堂々たる本格ミステリ界の主流ジャンルに躍り出た。『屍人荘』はミステリファンだけでなく一般層にもヒットしてベストセラーとなる。
以後、『屍人荘』のヒットもあってか続々と特殊設定ミステリが書かれており、2019年の相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のように、この特殊設定ミステリブームを前提にしたような作例まで登場してきている。2021年には、本格ミステリが受賞しないことで有名な江戸川乱歩賞を、武侠ものの特殊設定ミステリである桃野雑派『老虎残夢』が受賞、時代が変わったことを印象づけた。
2023年現在、ブームとしては少し一段落した印象もあるが、主要な書き手がここ10年にデビューした若手作家たちであるため、今後も本格ミステリの主要サブジャンルとして定着していくだろう(推定)。
前述の通り、現代の特殊設定ミステリは(山口雅也や西澤保彦の功績ももちろん大きいが)決して従来の本格ミステリの歴史の中だけから生まれてきたものではなく、漫画・アニメ・ゲームの文化と本格ミステリの文化が合流した結果――つまりは「本格ミステリ小説が好き」だけではなく「本格ミステリも漫画もアニメもゲームも好き」が当たり前である世代の作家たちの登場によって盛り上がったジャンルと言える(たとえば円居挽や阿津川辰海はデビュー作で『逆転裁判』の影響を隠そうともしていない。青崎有吾や今村昌弘はもともとライトノベルの新人賞に投稿していたし、斜線堂有紀は電撃小説大賞出身。市川憂人はNovelsM@sterの動画投稿者、榊林銘は東方二次創作漫画家、桃野雑派はエロゲのシナリオライターである)。
そういう意味で、現在の「特殊設定ミステリ」という言葉の用法を確立した米澤穂信がライトノベルレーベル出身であり、その米澤の『折れた竜骨』と同時期に出た『Another』と『虚構推理』が後にアニメ化されている事実は示唆的といえる。
今後「特殊設定ミステリ」の歴史を振り返る際――ひいては21世紀の本格ミステリの歴史を語る上では、特に90年代以降の漫画史・アニメ史・ゲーム史・ライトノベル史を踏まえることが必須になっていくかもしれない。
特殊設定ミステリは、おおよそ次の3パターンに分類できる(ちなみにこの分類法を提唱したのは今村昌弘)。ただあくまで大雑把な分類なので、どれに分類すべきかが難しい作例もいろいろある。
舞台となる世界は我々の住む現実世界に準拠しているが、探偵や犯人、事件関係者が特殊な能力を持っているパターン。
探偵側が特殊能力者である場合は、その特殊能力のルールを元に、それを事件解決にどう活かしていくかや、その能力が存在することで事件にどんな影響を及ぼすかが見所になる。『七回死んだ男』(同じ1日を9回繰り返す特殊体質)、『サイコメトラーEIJI』(主人公が超能力者)、『逆転裁判』(助手が霊媒)、『神様ゲーム』(神様が最初に犯人を教えてくれる)、『STEINS;GATE』(記憶を保持しての世界線移動)などが典型的な例。
犯人側が特殊能力者である場合は、犯人の持つ能力の解明が焦点になる。『DEATH NOTE』をL側から見た場合が典型的なこのパターン。
『サクラダリセット』『教室が、ひとりになるまで』などの能力バトルものは、この両者の組み合わせによるパターンと見なせる。
登場人物は我々と同じ一般人だが、事件が起きた環境が特殊であるパターン。
普通の登場人物が異常な事態に放り込まれる、巻き込まれ型の物語では、世界を支配する特殊設定のルールを解明し、それに基づいて事件や事態の解決を目指すという構造になる。『Another』『人格転移の殺人』『屍人荘の殺人』などが典型的。『星を継ぐもの』も分類としてはこのパターンにあたるだろう。
基本的に現実世界とほぼ同じで登場人物も特殊な能力は持たないが、現実にはない技術や生物などが当たり前に存在し、その特性が周知されている世界を舞台にしたミステリもこのパターンに分類できる。『ジェリーフィッシュは凍らない』『楽園とは探偵の不在なり』など。
現実世界とは全く異なる能力やルールが当たり前のものとして存在する世界を舞台に、登場人物も当たり前に特殊な能力を持っているパターン。異世界ファンタジーのミステリはほぼこれにあたる。
『戦地調停士シリーズ』『トリックスターズ』『折れた竜骨』『六花の勇者』『アンデッドガール・マーダーファルス』『むかしむかしあるところに、死体がありました。』など。
世界の秘密を知っている者から見れば特殊な世界で特殊な能力を持つ者たちによるミステリだが、部外者から見ればそうではない、というパターンもある。『虚構推理』や殊能将之の某作品が典型例。
年代別。「特殊設定ミステリとしても鑑賞できる」程度の作品も含むが、漫画・ゲームなどはどこまで含めるかはなんとなく……。漫画やシリーズものは開始年準拠。「あれも特殊設定ミステリでは?」というのがあれば掲示板で指摘してください。
掲示板
21 ななしのよっしん
2023/06/25(日) 22:00:42 ID: R6suaNrQ+x
記事にある予言の島は特殊設定ミステリか?
あれ、予言といわれた物は登場したけど、ノストラダムスの予言と似たような扱いだったが。
あと、これも記事のある特殊設定ミステリ作品なのではと思うものがありまして……。
名探偵ピカチュウなんですけどね。
一応定義上は異世界ファンタジーのミステリだと思うんですけど。
あと、動物が探偵やったり、気付いたら動物や昆虫になっていた元人間が主人公だったりする作品も特殊設定ミステリと呼べるかもしれない。
22 ななしのよっしん
2023/06/25(日) 22:34:29 ID: R6suaNrQ+x
記事のある作品だと、ID:INVADEDもあったな。あと、ミステリに入るか議論はあると思うが、魔人探偵脳噛ネウロも。
23 ななしのよっしん
2023/10/26(木) 22:56:21 ID: VUVG7NRRfj
急上昇ワード改
最終更新:2024/04/30(火) 19:00
最終更新:2024/04/30(火) 19:00
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