アントン・ヒルマー・フォン・シャフト(Anton Hilmer von Schaft)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
CV.有本欽隆(石黒監督版OVA)、屋良有作(Die Neue These)。
概要
ゴールデンバウム朝銀河帝国の軍事技術者。工学博士、哲学博士。帝国軍技術大将として科学技術総監の任にある技術士官。帝国暦489年初頭当時、56歳。禿げ上がった頭と対照的に豊かな暗赤色の眉とひげ、赤みをおびた鼻、肉付きのよい体という一見ビアホールの亭主のような外見だが、眼光はその範疇には収まらなかったという。
帝国軍技術将校のトップとして科学技術総監部をひきい、指向性ゼッフル粒子の開発などの功績を残したが、彼の発案による第八次イゼルローン要塞攻防戦ののち、収賄や軍事機密漏洩などの罪状で逮捕収監された。
経歴
帝国暦483年ごろ、科学技術総監に任じられる。以後、競争者を追い、主要ポストを自派閥で固め、政治力で地位と特権を維持する一方、同盟に先んじて指向性ゼッフル粒子の開発を成功させた。ラインハルト・フォン・ローエングラムの台頭にあたっても早期から協力的な姿勢を取り、ラインハルトに疎まれつつもリップシュタット戦役やリヒテンラーデ公クラウスとの相克といった政変をくぐり抜けて自己の地位を保っている。
489年初頭、シャフトは元帥府で帝国軍最高司令官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥に面会し、“イゼルローン要塞の前面に対抗する要塞を築く”という発想を提示した。そして、構築中に攻撃を受けることを想定していない、と実現性を否定するラインハルトに、「すでに構築された要塞を、イゼルローン回廊まで移動させる」という腹案を披露する。彼がプレゼンしてみせたのは、帝国内のガイエスブルク要塞に12個のワープ・エンジンを取り付けてイゼルローン回廊まで移動させるという、空前絶後のプランであった。
かくして採用された要塞移動作戦は、司令官をカール・グスタフ・ケンプ大将、副司令官をナイトハルト・ミュラー大将として急速に準備が進められることとなった。いくども小規模な実験が行われ、同年3月ごろにはシャフトも要塞に搭乗して行われたヴァルハラ星系外縁部へのワープ実験が成功。ついに帝国軍はガイエスブルク要塞を用いてイゼルローン回廊へ侵攻することとなった。
しかし、こうして発生した第八次イゼルローン要塞攻防戦は、折しもヤン・ウェンリー大将不在のイゼルローン要塞にかつて無い打撃を与えこそしたものの、最終的には援軍と共に帰還したヤンの戦術指揮によって敗北。ガイエスブルク要塞も通常航行エンジンの一基を破壊されて推力バランスを失い、“雷神のハンマー”を受けた末、発案者の頭部のような光に包まれて爆発・消滅する結果に終わった。
遠征部隊の帰還後、ラインハルトはシャフトを呼び、その罪を問うた。シャフトは自信満々の態度を崩さず、敗戦は作戦指揮の失敗であって技術面の問題によるものではない、と釈明したが、憲兵総監ウルリッヒ・ケスラー大将から提示された罪状は、「収賄および公金横領、脱税、特別背任、軍事機密の漏洩」というものであった。シャフトは実際にフェザーンと通じており、ガイエスブルク要塞の敗戦後、もはやシャフトを不用物とみなしたフェザーンから帝国司法省に情報が流されていたのである。
シャフトが連行・収監された後の消息は不明であるが、シャフトはほぼ確実に科学技術総監の任を解かれ、シャフト閥で固められていた科学技術総監部にも大幅な人事刷新が行われたものと思われる。
また、西暦1996~98年頃、OVA「銀河英雄伝説」本伝第四期・外伝第一期においては、総計13話にわたり制作協力の肩書で参加している。多田俊介が演出を務めた「朝の夢、夜の歌」Kap.IIIの制作協力もシャフトであった。
人物・能力
シャフトは科学者でありながら軍人としても野心的な俗人であり、その野望は、軍事科学者として帝国史上はじめて帝国元帥の地位を得ることだったといわれる。科学技術総監の顕職も、科学者としての才能よりも闘争心と政治力によって得たものと噂されるほどだった。
俗臭にまみれた彼の態度をラインハルトは「尊大で不快」と感じ、ケンプには「学問に対する敬虔さというものを一片も感じさせない俗物」とすら思われていた。要塞のワープ実験に際しても、本来シャフトはオーディンの元帥府から実験を眺めるつもりが、ラインハルトの指示によってしぶりながらも要塞に乗り込むことになったのだ、という根拠のない噂が流れ、「貴賓にちかい、しかも安全な席から危険な実験を遠く見まもる、というのは、いかにもありそうなこと」と多くに信じられたほどであった。
実際、政治的才能はじゅうぶんに持ち合わせており、総監の地位を維持する手管やラインハルトに恭順する姿勢といった点からも、その政治力の高さをおしはかることができる。ラインハルトがシャフトを疎みながら更迭に至らなかったのも、シャフトの代替となりうる人物がすでに中央から排除されてしまっており、科学技術総監部の幹部ポストを固めているシャフト閥も更迭すれば組織運営に支障が生じること必至、しかもシャフト自身もラインハルトに協力的だったために切り捨てるほどの理由がなく、国事多忙な中で科学技術総監部の刷新にまで手を付けかねる状況に持ち込まれていたという点が大きかった。
いっぽう、軍事科学者としても相応の才能の持ち主ではあったようである。総監在職期間の数少ない業績である指向性ゼッフル粒子は、アムリッツァ星域会戦や回廊の戦い本戦で活用された有用な技術であった。ガイエスブルク要塞のワープも、アイデアは「スケールを大きくしただけ」で「あいた口がふさがらない、というたぐい」のものではあったが、その実行に必要とされたワープ・エンジン12個の完全同時作動は、「要塞を移動させることにかんして、技術上、なんら問題はない。解決すべき点は、質量とエンジン出力との関係、ただそれだけである」という彼の豪語のとおり、みごとに実現している。
関連動画
関連項目
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