「ウィリス・オブライエン」(1886.3.2 ~ 1962.11.8)とは、人形を用いたストップモーションアニメにより映画史上に燦然と輝く傑作「キングコング(1933)」を生み出したストップモーションアニメの先駆者であり、特撮映画界にその名を轟かす偉大な特殊効果クリエイター「レイ・ハリーハウゼン」と「円谷英二」に衝撃を与えた巨匠である。
特撮映画の先駆者
サンフランシスコの新聞漫画家やニュース映画のカメラマン助手等の様々な職を経て、1913年に作ったボクサーの人形からストップモーションアニメを作ろうと思い立ち、博物館で骨格を復元した化石に衝撃を受けた事等からボクシングと並んで愛好していた、「恐竜」をテーマにした映画の自主制作を始め、24コマで1コマずつ撮影したモデルアニメーションと実写のライブアクションを合成する独自の手法を生み出していった。
ウィリス・オブライエンが製作した恐竜と原始人の映像を見て出資者が現れた事から、「恐竜とミッシング・リンク」や「眠れる山の幽霊」を製作した後、7年がかりでコナン・ドイルの小説「ロスト・ワールド」を映画化し、次回作として恐竜を題材とした映画「Creation」の製作にとりかかったものの資金不足から製作は中止となった。
キングコング
「Creation」の製作が中止になった後、巨大なゴリラが暴れる映画製作の話を聞き付けたウィリス・オブライエンは、自らのモデルアニメーション技術を用いる事を訴えて、「Creation」のストーリーをベースにして映画「キングコング」の製作を開始した。
ウィリス・オブライエンの手により、人形のキングコングが時にはジャングルの奥に潜む畏怖を具現化したり、人間の女性と心を通わせたり、恐竜と闘ったり、ビルの屋上で大暴れしたりと、表情豊かに動き回る姿が描かれた映画は1933年に公開されて大ヒットを記録し、「世界で最も有名なモンスター映画」「本格的モンスタームービーの原点」とまで言われるようになった。
そして「キングコング」は、特撮映画界にその名を残す巨匠「レイ・ハリーハウゼン」と「円谷英二」にも衝撃を与え、少年だったレイ・ハリーハウゼンは映画製作の道を志し、円谷英二はフィルムを取り寄せて1コマ単位で分析する程の熱心な研究を行った。
師匠と弟子
誰かに教わったわけではなく、自分で撮影技術を開発した事に自負のあったウィリス・オブライエンは、技術の流出を防ぐ為に弟子を取らない主義を貫き、スタッフはあくまで助手として認識していた。
そんな助手の一人に、「キングコング」で映画制作の道に進んだレイ・ハリーハウゼンがいた。
「猿人ジョー・ヤング」製作時にウィリス・オブライエン自身は特撮担当者たちの取りまとめ役を担った事から、その特撮映像の85%をレイ・ハリーハウゼンが担当し、違和感の無い人間の役者によるライブアクションとの合成や、主人公のゴリラ「ジョー」の動きの素晴らしさから「猿人ジョー・ヤング」はアカデミー特撮効果賞を受賞した。
レイ・ハリーハウゼンは、その後もウィリス・オブライエンを慕って「動物の世界」と言う教育映画制作を手伝ったり、ウィリス・オブライエンの企画を基にした映画「恐竜グワンジ」を製作する等した事から、ウィリス・オブライエンは「ハリーハウゼンの師匠」と呼ばれるようになった。
※「キングコング」や「猿人ジョー・ヤング」の撮影に参加したピート・ピーターソンも弟子と呼ばれている。
不遇の晩年、そして・・・
「猿人ジョー・ヤング」以降も、「原子怪獣現わる」「地球へ2千万マイル」「シンバッド七回目の冒険」といったヒット作を製作する弟子レイ・ハリーハウゼンに対し、師匠のウィリス・オブライエンは「キングコング」「猿人ジョー・ヤング」以降は成果をあげられず、「グワンジ」等の企画を売り込むも、
「スクリーン・リア・プロジェクション」方式という少ない制作費で驚愕の映像を作り出す手法を確立した弟子レイ・ハリーハウゼンに対して、
と言う自身が生み出した撮影スタイルから巨額の制作費(モデルアニメーションが出来るまで役者を長時間拘束したり、室内にフルスケールのセットを作る必要があった為)がかかる上に、弟子の活躍によりモンスター映画は低予算で作れるものという認識が強くなっていた為に企画がどれも実現せず、不遇の晩年を送ったと言われた特撮映画界の先駆者は、1962年11月8日に76年の生涯を閉じた。
ウィリス・オブライエンの没後、「グワンジ」はレイ・ハリーハウゼンにより「恐竜グワンジ」として製作・公開された。また「キングコング」に衝撃を受けたレイ・ハリーハウゼンと円谷英二は、
という核兵器により誕生する人類最大の災厄を登場させるという奇妙な縁がある。
1コマずつ撮影する忍耐力と、温度・湿度にまで気を配らなければならない労苦を重ねるスタイルであるモデルアニメーション技術は、現在ではCGに取って代わられているが、ウィリス・オブライエンが「キングコング」で見せた名人芸は、特撮映画の古典として永遠に語り継がれると思われる。そしてそれらを語る時、ウィリス・オブライエンと言う先駆者がいた事を思いだしていただければ幸いである。
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