漫画家(まんがか)とは主に「漫画」「コミック」を描くことで収入を得る人のこと。
「個人事業主」に該当する。
概要
漫画家と呼ばれるのはあくまで作品制作において主体的な役割を果たす者であり、作画などに関する補助的な仕事のみをする場合はアシスタントと呼ばれる。また作画の担当を他に設け、シナリオのみを書く者もいるがそうした人々も通常漫画家とは呼ばれず、漫画原作者と呼ばれるのが一般的である。[1]
小学校など、いつも絵を描いていて「漫画家になる!」という子を見たことがないだろうか。
理想
自分のキャラクターや世界観、ストーリーが大勢に認められる。
日本中の書店に君の作品が並ぶ。アニメ化、映画化、ゲーム化も夢じゃない!
ほら、君の描いたキャラクターが画面で身軽に動いてるぞ!もちろん有名声優の声つきだ!
心に響くOP曲!まさにイメージ通りじゃないか!世界観をよく引き立ててる!
好きなものを描くだけで、億万長者なんて最高!
発言力も強く、ポスト(旧・Twitter)すれば、瞬く間にいいね!や賛同の嵐。俺TUEEEE状態。
ネットに投稿したら「先生何やってんすかシリーズ」・「プロの犯行」とか言われてワロタw
テレビや取材でひっぱりだこ。有名人や他の漫画家さんとも仲良し。
羨望の眼差しと共に世界中に君の名が轟き、死後も歴史に名を遺す偉大な漫画家となるのであった。
…上手く行けば確かにそうなのだが、実際にそうなるのは極稀である。
現実
漫画家は非常に競争が激しい世界である。そのうえ、以下のようにどの時点でも相応の苦労が伴う。
この辺りの事情に関しては漫画家を題材とした漫画『バクマン。』『まんが道』なども大いに参考になる。
デビューまで
まず、漫画家になるための関門として、各出版社・雑誌で開催されている新人漫画賞に応募したり、出版社に直接持ち込みを行い、編集者の目に留まる必要がある。あるいは同人誌を作る、または、インターネット上で作品を公開するなど自分の作品をアピールし、それが出版社に認められて商業デビューという道もある。が、どれにせよ、競合するライバルは多く、編集者や出版社との相性の問題も存在する。
次に、編集者に認められたとしたとしても、その先はこれまた茨の道である。編集者とのやりとりは基本的に漫画家との一対一で行われるため、最低限のコミュニケーション能力が求められる。また、作品に対して容赦なくダメ出しがされる場合もあり、確固たる精神性も必要となる。すぐに商業デビューとならない場合には複数の作品を持ち込むことを要求されたり、アシスタントとして商業作家のもとに修行に出されたりの下積み期間を置いたりすることになる。
連載開始後
編集会議も突破して連載枠を勝ち取り、いよいよ連載デビューとなると、そこからが本当の競争の始まりである。
デビュー前と変わらず編集者からの厳しいダメ出しがされることは続き、さらに編集方針によって漫画の方向性から変えられてしまうこともあり、自分の本当に描きたかった漫画が書けるとは限らない。商業誌で連載する以上、同人誌やインターネット上で描いていた時のような描写・表現・パロディにNGが入ることもあり、毒気とともに作品の魅力が抜かれてしまうこともある。最悪、それが原因で打ち切りという事態もありうる。
商業誌に掲載される以上、多くの読者が生まれることになる。もちろん礼賛や称賛も届くだろうが、それだけとは限らない。批判や厳しい評価も寄せられる。読者からの評価は編集者よりも厳しいものとなることもあり、中には漫画の内容と関係なく作者を気に入らないと攻撃を仕掛けるアンチも生まれてしまう。近年では出版社側で誹謗中傷対策も進められているが、漫画家にはこれらを耐えしのぐ精神性が引き続き求められる。
ネタ切れ・締め切り・描写ミスなど
連載作家になるということは、定期的な締め切りに追われ続けるということである。
漫画家は1週間、あるいは1ヵ月の間に次の連載のアイデアを出し、ネームを書き上げ、ペン入れをして、仕上げを行わなくてはならない。限られた制限時間の中で少しでも良い作品を書き上げるのは過程は常に時間との勝負であり、締め切りに苦しめられるのはもはや漫画家の日常といっていい。
漫画家を題材とした創作でも、何とかして締め切りに間に合わせようと奮闘する漫画家や、逆になんとかごまかして締め切りを伸ばしてもらおうとする漫画家は鉄板ネタである。
面白いアイデアを毎週毎月出し続けることも大変な作業である。漫画家といえど一人の人間に過ぎず、自分一人で出せるアイデアには限界があり、それ一本でやっていてはすぐにネタが切れてしまう。そのため、面白い作品をアウトプットし続けるのにはたくさんの情報をインプットし、それを消化する必要があるが、連載作業に追われて時間を確保できないなどの理由で、ネタ集めに苦労することがある。
これも漫画家を題材とした創作で鉄板となるネタであり、『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する漫画家の岸部露伴は面白い漫画のネタを得るためならば自分や他人の命にかかわることであろうと首を突っ込むほどである。
常に新しいキャラクターやおもしろい展開を生み出せるとは限らず、ときにはマンネリ展開や超展開が発生してしまうこともある。漫画家によっては「来週の自分が何とか続きを考えてくれるだろう」と最後の引きにとんでもない展開をかます漫画家もいる。
こちらもやはり漫画家を題材とした創作でも鉄板ネタであり、『ドラえもん』の劇中劇である『ライオン仮面』の作者であるフニャコフニャ夫は「主役死亡→次回で主人公の弟であるオシシ仮面が登場するも即死亡→次回で主人公のいとこのオカメ仮面登場」と泥縄式に天丼展開を繰り返す羽目になった。
時間に追われる中で時に漫画家は知識不足や資料不足やうっかりで意図せぬ誤った描写をしてしまうこともあり、批判されてしまうことがある[2]。あまりに面白い間違いの場合、「だってゆでだから」や「世界一腕の立つ殺し屋」とそれ自体がネタ化してしまうこともある。
編集者・編集部との関係
連載をするにあたって、編集者・編集部は最大の味方であり、同時に最大の敵となりえる存在である。
編集者という存在は、漫画家の作品をまず最初に読む外部の人間であり、同時に漫画家へ意見を通すことができる。漫画のための資料を取り寄せたり、漫画家に新しいアイデアを提供したり、逆に漫画家の尖りすぎたアイデアを万人に受け入れられるように修正したりと、その仕事範囲は広い。また、ともすれば常人の感覚をなくしてしまいそうな漫画家に対して、出版社に勤めるまっとうな社会人として時には漫画家を励まして奮い立たせ、時には暴走する漫画家にブレーキをかけることが期待される。
しかし、のちに週刊少年ジャンプ編集長にまで上り詰め、多数のヒット作を陰から支え続けた鳥嶋和彦のような名編集者もいる一方で、漫画家以上に社会常識がないようなダメ編集者もいる。原稿を紛失したり、漫画家のやる気を削いだりといった問題編集者のエピソードはいくつか語られている。最悪の場合、漫画家と編集部の関係性が破綻し、連載の打ち切りや訴訟にまで発展した事例もある。そこまでいかずとも、漫画家と編集者の相性が悪いと漫画家の仕事は十全にいかなくなる。良い編集者にあたるかどうかは運であるが、担当編集者と良い関係性を築くことには気を使わなくてはならない。
創作の中では原稿を回収しようとする編集者ともう少し待ってほしい漫画家とのバトルがよくあるのは上の「締め切り」の項で述べた。また、ダメ編集者が登場する作品として『月刊少女野崎くん』や『ギャグマンガ日和』の作中作『ソードマスターヤマト』などが挙げられる。
打ち切り
雑誌の掲載枠は有限である。そのため、人気がないと判断された連載漫画は打ち切りの対象となり、次の新連載に切り替えられてしまう。
「打ち切り」「未完」「2巻乙」などの記事も参照してほしいが、打ち切られる場合にはストーリーを無理やりにたたまされたり、中途半端な状態で終わってしまうこともある。
打ち切りから逃れるために編集者からの路線変更やテコ入れなどの指示が入ることもあり、なおさら自分の書きたかったことから外れていくことも多い。
労働量・労働時間
週刊連載をしていたり、連載を掛け持ちしていたりする場合、その作業量は膨大なものになる。毎月/毎週の締め切りに追い掛け回され、休日や寝る暇もないという事態に陥ることもざらである。長時間労働は前提と考えなくてはならない。
漫画家は個人事業主であるため、始業時刻や就業時刻などが基本的には定められていない。それに加えて、自宅と作業場が同じ建物になることが普通で、仕事とプライベートの時間が分かれにくい。そのため、不規則な生活で長時間労働を続けてしまい、体を壊す漫画家も多い。椅子に座って絵を描き続ける仕事ではあるが、体力は必須となる。
金銭関連
収入に関して
漫画家の収入は主に雑誌に掲載された際の「原稿料」と、単行本が発売された際の「印税」である。これ以外にも映像化された際の収入やグッズなどの「原作使用料」の収入もあるが、それは作品が大ヒットしてグッズが開発・販売されるのが前提となる。出版社によっては「専属料」というものもある。これは漫画家がほかの雑誌に書かない専属契約を結ぶ代わりに出版社から金銭を払うというものである。このほか同人作家として活動して収入を確保したり、近年ではインターネットの普及により収入を得る方法は増えている。だが、どれにせよ安定して収入を得れるとは限らない。
原稿料は、1ページ単位で金額が決まっており、新人で7000円程度、人気漫画家であれば1ページ2万円を超える。新人で週刊連載で19ページ×4週となれば月々の原稿料は7000円×19ページ×4週=532000円となる。
印税は、単行本が発行されたときに本の価格×発行部数の約1割を得られるというもの。紙の本の場合は10パーセントだが、電子書籍の場合は印刷代などがかからないため高くなることが多い。その代わり、発行部数ではなく売上部数がかけられるため、実売数が低いと印税は低くなる。
仮に、紙の本で単価500円の単行本が1万部発行されたとすると、500円×1万部×10%=50万円が印税となる。
アニメ化・映画化された際には漫画家に「原作使用料」の名目で金銭が支払われる。しかし、この金額は興行収入が膨大になろうとも数百万円程度となっている。むしろ映像化されたことによる単行本の売り上げ増加による印税のほうが金額としては多いかもしれない。[3][4]
同人作家としての活動は、連載を持つ商業作家でなくともできることではあるが、商業作家が行う場合にはネームバリューなどでより多い収入が期待できる。とはいえ、商業連載と同人活動を両立させられるかは作家や連載形態によって千差万別なので、すべての漫画家が同人活動できるわけではない。
購入特性
その他、漫画の単行本自体が飲食品のように頻繁・定期的に同じ巻数を複数購入するものでもなく、家電製品のように5~10年で壊れて買い替えという事もないため、収入は必ずしも一定・無制限ではないといった側面もある。もちろん読者全員が全巻購入してくれるとは限らない[5]。
支出に関して
作業場の家賃・光熱費・作業用ツール代などは漫画を作成する上での必要経費であるが、これがかなり重い。作業場には漫画家やアシスタントを含めて数名分の作業スペースを確保できるスペースが求められる。それに見合った家賃は相応のものとなるだろう。光熱費も部屋の大きさや作業人数に比例して大きくなる。作業用ツールもアシスタント分まで含めて用意する必要があり、コピー機やパソコンやプリンタも必須である。
さらに重たいのがアシスタントの雇用費である。
週刊連載で毎週19ページを書き上げるとなると、漫画家一人の作業量ではどうしても時間が足りない。そこで雇われるのが背景などを担当してくれるアシスタントである。
しかし、アシスタントの給料は漫画家が負担することが普通であり、時給1000円で3人を1日8時間雇うと、一日あたり 2.4万円、毎月20日雇うと48万円となってしまう。もちろん、ベテランのアシスタントにはそれ相応の待遇が求められるため、より費用がかさむことになる。
前述の原稿料の金額と比べてほしいが、アシスタントの雇用費だけで月々の原稿料は吹き飛んでしまうことがわかるだろう。漫画家がまともに収益を出そうとするならば、単行本による印税は必須となるのである。
※必ずアシスタントを雇用しなくてはいけない、といった義務がある訳ではない。
税金関連
人気漫画家となって収入が多くなると、それに伴い支払うべき税金の額・割合が増大していく。これは漫画家に限ったことではないが、大ヒット作を生んだ漫画家は印税だけでも膨大となるため、税負担も相当なものになるのは間違いない。
また、2023年からはインボイス制度が始まり、さらに納税者側に負担がかかるようになったという主張もみられる。漫画家もこの影響を受けることが予想されている。
プロダクション化
上記のような負担を少しでも軽くするために、個人事業主をやめ、プロダクション化する漫画家も存在している。
それでも漫画家に俺はなる!!
がんばれ。
…とはいっても、家でゴロゴロしながら適当に絵を描いているだけではなれない。近年は漫画家になる方法は多様化しているが、それでも最低限身に着けておくべきスキルはある。
技術を向上する
もしイラストを描く時点でコケているなら、無策・闇雲に描いても時間の無駄遣いになりやすい。
漫画家(商用)レベルの複雑な絵をフリーハンドで描くのは至難の業なので、アタリ・下書き・ラフ画なども有効活用してみよう。筆圧や頭身による差にも注意である。
たまにメチャクチャ上手い人はいるが、大抵の人は絵に特化した専門訓練なんてしていないのだから絵が絶望的に下手だとしても落ち込む必要はない。ただし長期戦になる。
比較して自分の描いた絵にダメ出ししたり、せっかく描いた部分を消してやり直す…といったつらい作業も必要になる。むしろこれが一番つらい。…だが重要である。部位自体のサイズを間違えている場合もあるので注意。頭だけ妙にでかいのに、頭の範囲を大切にしながら描くなど。
他、様々な人が お絵描き講座 などを出している。(項目参照)
ツールに習熟する
近年では漫画を描くのに従来の紙とペン以外にも多様なデジタルツールが揃っており、それらに対する知識や習熟は必須に近い。
情報・アイデア・ネタを集める
「絵が上手いだけ」では意外と汎用性がない。描くのが漫画である以上、そこにはストーリーがある。原作付きやコミカライズ専門でもない限り、漫画家は絵だけでなくストーリーも生み出すことが求められる。
面白いストーリーを生み出すには様々な知識・情報・アイデアが必要となる。これらを収集し、消化するのもまた、漫画家になるのには必須である。
様々な方法
- 様々な情報・価値観に触れてみる。
- よさそうなネタ・題材があればメモしておくとネタ切れを防げる。
- 最低限の勉強はしておく。
オリジナルのアイデアを作る
アイデア(項目参照)を集めたうえで、漫画家となってオリジナルの創作を行うには独自のアイデアが必須である。
現代においては人類の積み重ねた物語が数千年分以上あるため、それらに全く重複しない物語はまずありえないが、それでも自分独自のアイデアを練るのが創作者としての義務であり、最大の喜びだろう。
アイデアを練るうえで一番大切なのが柔軟な考えを持つことである。
常識だけに凝り固まってしまうと、自分から選択肢を大きく狭めてしまう。自分の生み出す漫画の中では、空想上の動物・架空の国家・独特の世界観があってもいいし、重力をひっくり返しても問題ない。1億歳の幼女がいてもよいし、1億℃の炎を吐くドラゴンが空を飛び回ってもいい。トンデモ法律や現代科学では説明できない摩訶不思議アイテムや現象も思いのままである。
また、日常を題材にした場合でも、何か一つの要素が現実世界(普通)と違っていたら世界はどうなるか、などとアイデアを練ってみるのも面白い。何が違っているのか、違っていることで世界はどう変わるのか、などと思考実験を繰り返すことで面白い物語が作られることもあるだろう。
関連商品
関連項目
外部リンク
- アシスタント代は出版社が出すべき。読者は漫画家に配慮が出来てない。何も知らない外野は黙れ! その 1(日本語)
- アシスタント料は税額ね出版社が負担して!読者と出版社は加害者で、漫画家は被害者という現状を知って欲しい。(日本語)
- 完結してから一気読みしたいタイプなら新刊が出るたびに買って積読してほしいという漫画家さんの発言が切実 → しかしこういう事情もある?(日本語)
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- 「めんどくさい絵師の漫画」に見る、「感想を言うこと」の難しさ(日本語)
- 受け手の無邪気な感想が作り手を傷つける?「◯◯っぽい」は褒め言葉じゃない(日本語)
- 例の「わざわざ作者に言わなくてもいいのに」問題について、有栖川 有栖先生の含蓄ある回答(日本語)
- コミケで本当にあった話?(日本語)
脚注
- *ただし、ゆでたまご(漫画家)の嶋田隆司のような例外も存在する。
- *例として、伏線・設定の不備によって物語が行き詰まる、矛盾が出る、無理のあるご都合主義展開になる。
- *映画『鬼滅の刃』、原作者に入る収入は“雀の涙”?興行収入200億円の不思議な配分 (biz-journal.jp)
- *テルマエ・ロマエ「興収58億で作家の取り分100万」騒動 映画製作者・出版社と作者間の問題浮き彫りに
- *ブックオフなどの中古書店、漫画喫茶などで読まれてしまう場合もある。
- *自衛隊施設など、「軍事施設」であるため予約なしで誰でもホイホイ入れては問題があるし、一般公開イベントでも所持品検査等はある。
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