棋士とは、専ら将棋、囲碁といった盤上ゲームを職業としている人のことである。また、アマチュアと区別するために、「プロ棋士」という呼称が使われることもある。
将棋の棋士
日本将棋連盟に所属し、棋戦に参加する者のこと。また、女性のみが資格を取れる「女流棋士」の制度が別にあるが、女流棋士は用意されている特別参加枠を除き、棋戦には出場できない。誤解を避けるために言うと、棋士は男女を問わず資格を取れる制度であるが、現在の将棋の棋士制度が確立して以降、棋士の資格を得た女性がいない。
将棋棋士の対局
棋士の出場する大会は「棋戦」と呼ばれ(なお、アマチュアの主要大会も「(アマチュア)棋戦」と呼ばれることがある)、一人の棋士が年間に10程度の棋戦に出場する。
このうち、挑戦手合形式(タイトル保持者以外の対局によりタイトル保持者に挑戦する棋士1名を決め、その棋士が勝てばタイトル奪取。ボクシングなどに似る)で競われる棋戦は特に重要視され、「タイトル戦」と呼ばれる。2018年以降は「竜王戦」「名人戦」「叡王戦」「王位戦」「王座戦」「棋王戦」「王将戦」「棋聖戦」の8つとなっている。
挑戦手合形式を取らない棋戦としては、優勝賞金が8大タイトル並みの「朝日杯将棋オープン戦」、テレビ放送があって持ち時間の短い「銀河戦」「NHK杯テレビ将棋トーナメント」、選抜されたトップ棋士が全国11の会場で公開対局を行う「将棋日本シリーズ」などがある。
女流棋士は、通常はこれらとは独立に開催される「女流棋戦」に参加する。ただし一部の棋戦には女流棋士枠が設けられており、「特定のタイトルを保持する女流棋士」「女流タイトル保持者を選抜」などの方法で出場権が与えられる。たいていの場合1次予選からの出場となる(NHK杯の女流棋士枠は本戦から出場)。
女流棋士のタイトル戦は「白玲戦」「清麗戦」「マイナビ女子オープン」「女流王座戦」「女流名人戦」「女流王位戦」「女流王将戦」「倉敷藤花戦」の8棋戦がある。「マイナビ女子オープン」と「女流王座戦」は女流棋士以外にも女性奨励会員と女性アマチュアが出場することができ、「白玲戦」と「女流王座戦」は上記2女流棋戦のタイトルを保持している非女流棋士が出場できる。
将棋棋士になるまで
「新進棋士奨励会」が棋士を選び出す場を担っている。入会にはアマチュアの都道府県代表くらいの実力が必要とされており、しかもその中でプロになれるのは2割程度と言われている。
入会時は6級[1]から始まることがほとんどだが、入会試験時の年齢と実力の自己申告により、1級から5級の各級で入会する例もある。そこで所定の成績を収めて昇級・昇段し、三段まで昇段すると三段リーグ(三段の全員を対象としたリーグ)に入る。ここで2位以内に入ることで四段に昇段し、初めてプロ棋士になれる。また、三段リーグで3位になった者には次点が与えられ、次点を2度獲得することでも四段昇段の権利が与えられる[2]。ただし、満21歳の誕生日までに初段に昇段できない者と、満26歳の誕生日を迎えた期の三段リーグまでに四段に昇段できない者は原則として強制退会となる。この条件を満たせないと自覚して自主的に奨励会を退会する者も多い。
女流棋士の資格については別の基準がある(奨励会員になれば降級して7級にならない限り女流棋士になれるほか、その下部組織の研修会でも所定の成績により女流棋士になれる)。詳細は女流棋士の記事を参照。勿論、女性でも三段リーグを勝ち抜けば(「女流」の付かない)棋士になれる。しかし、今のところ里見香奈、西山朋佳、中七海が三段リーグに進出したのが最高であり、三段リーグを勝ち抜いて棋士になった女性はいない。なお、西山は2回三段リーグで勝ち越したことがあり、うち1回は次点であった。
また、三段リーグを勝ち抜いて棋士になった外国人もまだいない。女流棋士を含めても、2020年終了時点でカロリーナ・ステチェンスカが唯一である。
真剣師として賭け将棋で有名を馳せていた花村元司が1944年に特例によってプロ入りした以降、長らく奨励会を下から上がっていく以外のプロ入りする方法は制定されていなかったものの、のちにアマチュア選手や女流棋士が棋戦で顕著な好成績を挙げるようになったことにより、これ以外の方法でもプロ棋士になる道が制定された。
- アマチュア選手が指定のアマチュア棋戦で上位入賞することで、または女流棋士が女流出場枠で、プロ棋戦に出場し所定の通算勝ち星と通算勝率を同時に満たすと、棋士編入試験を受けられる(2006年より。→「瀬川晶司」「今泉健司」「折田翔吾」を参照)。
- アマチュア選手および女流棋士(女流棋士枠で棋戦に出場する女性奨励会員を除く)が、通算勝ち星と勝率に関わらず、指定された棋戦において1回でも所定の成績を挙げると、棋士編入試験を受けられる(2021年より)。
- 指定されたアマチュア棋戦で優勝すると、奨励会初段入会試験を受けられる。(1997年より)
- 指定されたアマチュア棋戦で優勝すると、奨励会三段リーグ編入試験を受けられる。(2007年より)
囲碁の棋士
日本では、日本棋院と関西棋院のどちらかで入段試験を突破した者だけがプロ初段の棋士となり、プロ棋戦への参加資格を得ることができる。将棋とは違って女流棋士という制度は存在せず、プロ試験を受けて棋士となった女性棋士が女流棋士と呼ばれている。ただし、囲碁の場合は初段からプロと名乗ることができるので、初段ぐらいの女性棋士も表舞台に出ることが多い(男性棋士だと初段~三段程度ではプロと名乗れる強さではないので、表舞台に立つことはまずない)。
近年女流棋士枠が導入され、藤沢里菜初段が史上最年少棋士の記録を更新した(11歳)。ちなみに一般棋士としての最年少は趙治勲が長らく記録を保持していたが、井山裕太が2002年にこれを更新。更に、仲邑菫が2019年に10歳0か月でプロ入り記録を更新した。
なお、日本プロ囲碁界には外国人プロ棋士も多く所属している。日本と同じく囲碁が盛んな韓国・中国・台湾の出身者が多いが、他にアメリカ合衆国やヨーロッパ出身の棋士もいる。趙治勲、張栩などが有名。
韓国・中国・台湾にも囲碁のプロ組織が存在するが詳細は割愛する。
囲碁棋士の対局
日本国内の囲碁棋士の棋戦は、全棋士を対象としたものが9つと、他に選抜された棋士で行う大会がある。上記の将棋同様、主要なものはタイトルマッチ形式で争われ、「7大タイトル」と呼ばれる。「棋聖戦」「名人戦」「本因坊戦」「天元戦」「王座戦」「碁聖戦」「十段戦」の7つがある。
- 2019年時点で、井山裕太が2016年4月21日から11月3日までの197日間、2017年10月18日から2018年8月3日まで290日間、七冠を保持した。
- 上記の七冠をすべて経験した(グランドスラムと呼ばれる)棋士は、趙治勲・張栩・井山裕太の3人。
女流棋戦も存在するが、将棋とは位置づけが異なり、囲碁の女流棋士は通常の棋戦に参加しつつ女流棋戦にも参加する。このため女流棋戦の数は5つのみとなっている(2015年以降)。このうち「女流本因坊戦」「女流立葵杯」「女流名人戦」「女流棋聖戦」がタイトル戦として開催される。
また上記の通り、日本国外にもプロがいることから、そちらの棋士と対戦する国際棋戦も多数設けられている。昭和中ごろまでは、はっきりと日本が囲碁における世界一の地位を占めていた。然し、1980年代から韓国勢の実力が急上昇し、世界タイトルを席捲。ついで2000年代から国策として囲碁の棋力上昇に取り組んだ中国がこれに追随し、更に台湾勢も台頭。現在では、日本の棋士は苦戦している。
その他
時には麻雀の選手も棋士と呼ばれることがあったが、プロ競技麻雀が浸透した昨今ではプロ雀士と名乗っていることが多い(かつて雀士とは賭け麻雀で生計を立てる人を暗喩していたため憚られていた)。チェスの場合は基本的にはプレイヤーと呼ばれ、棋士と呼ばれることは少ない。
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関連項目
脚注
- *7級もあるが、これは6級から成績不良で降級した場合にのみなる例外的な級位である。
- *なお、前者が順位戦でC級2組に参加となる一方で後者はフリークラス編入となり、一定の条件を満たさないと順位戦に参加できず、10年以内にC2に昇格できなければ強制引退となるため、拒否して2位以内での昇段を目指すこともできる。
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