(青豆)概要にだまされないように
物語のスケール的にも量的にも、90年代の『ねじまき鳥クロニクル』と並ぶ春樹を代表する大長編。
エルサレムで春樹が行った名演説と名高い「壁と卵」演説(2009)、徐々に加熱していくノーベル文学賞候補者にまつわる報道を筆頭に、村上春樹にとって追い風となる状況が出来上がってきた矢先にこの『1Q84』が爆売れ。本作刊行前後には『ノルウェイの森』メガヒットにつぐ第二次・春樹ブームと呼んでも良い状況ができていた。
その知名度に比して、春樹の小説の中でもジャンル分け困難かつ要約の難しい複雑な構造を持った部類に入る作品である。ファンタジー・SF要素(『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』)を持ちつつも現実の歴史とのリンク(『ねじまき鳥クロニクル』)も匂わせており、これらが溶け合って名状し難い何かが出来上がっている。
タイトルはジョージ・オーウェルによる古典的なディストピアSF『1984』のもじり。前作『アフターダーク』でもこれは引用されているし、本作でも劇中のどこかで引用されている。この時期の春樹は『1984』を相当意識していたらしい。
(天吾)あなたがあらすじを望むのであれば
スポーツインストラクター・青豆は殺し屋として裏の顔を持っている。1984年、彼女はとある仕事を境に月が二つ存在する「以前の世界とは微妙に異なる世界」1Q84年に迷い込む。一方その頃、予備校講師・天吾は小説家を目指す過程で異様な雰囲気の少女・ふかえりと出会う。彼女と共作した『空気さなぎ』が大ヒット、しかし天吾はこの出来事を境に「以前の世界とは微妙に異なる世界」にいつの間にか迷い込んでいたことに気づく。天吾は身の回りを調査する過程で、ふかえりがとあるカルト宗教団体と関係していることを知る。そしてその団体と青豆が関わっていた殺しの依頼の間にはある関係があり––––
(牛河)ソリッドなエピソードを集める
- 主要人物である不気味な小男牛河は過去作『ねじまき鳥クロニクル』でも脇役として出てくる。謎の再登板である。
- 村上春樹は過去に『アンダーグラウンド』というオウム真理教による地下鉄サリン事件を取材した著作を発表したことがあるが、本作に出てくるカルト宗教団体とそれとは濃い関係にあると思われる。 ちなみに春樹が硬派なノンフィクションを手掛けるのはかなり稀であり、相当ショックな事件だったらしい。
- マスコミ嫌いで知られる村上春樹だが(ラジオは好きらしく、のちにラジオ番組を持った)、本作には悪役(?)としてNHK集金人が登場する。しかもちょい役ではなく、話の本筋にこれがかなり関わってくる。春樹の小説にしてはかなり露骨というか珍しい突飛な設定で、相当なコンプレックスがあるようだ。
- そんな春樹はジャズ喫茶の店長時代にNHK集金人からテレビを所有していないのに粘着されるなど、理不尽な仕打ちをされたことがあるらしく、かなり根に持っているらしい。
(天吾と青豆)サヤの中に収まる関連項目のように
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 風の歌を聴け
- 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
- 国境の南、太陽の西
- 海辺のカフカ
- ねじまき鳥クロニクル
- ノルウェイの森
- 1973年のピンボール
- 羊をめぐる冒険
- 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
- ダンス・ダンス・ダンス(小説)
- スプートニクの恋人
- アフターダーク(小説)
- 騎士団長殺し
- 街とその不確かな壁
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