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AEDとは、医療器具の一種である。Automated External Defibrillator(自動体外式除細動器)の略。
概要
心室細動という致死的な不整脈に対し、電気ショックを与えることで心拍の正常化を図る機械である。
心室細動を起こしている心臓は、心筋の各細胞がお互いに電気信号を発し合い、急速にエネルギーを消耗しつつも、本来の拍動を起こす電気信号の効果が消えている状態である。この状態にある心臓は血液を送り出す力がなく、心筋を動かすためのエネルギーも急速に消耗を始めている。医学的には広義での「心停止」状態と見なされる状態の一つであり、エネルギーを完全に使い果たして、心静止に陥る(=本当に心臓が止まってしまう)前に、この「電気信号の発し合い」を止めさせなければ、患者は死に至る。
AEDでは、この状態にある心臓に対して必要に応じて電気ショックを与え、異常な電気信号を全て消し去った(脱分極と言う)上で、本来の拍動を起こす電気信号によって心拍が正常化することを期待する。乱暴な言い方をすれば、電気ショックで一瞬だけ心静止させる機械である。
元々は医療機器として、医師しか使用が認められていなかった機材である。2002年に高円宮親王が心室細動で急逝した事件などを受け、2004年より非医療従事者へも開放された。現在では駅などの人が多く集まる場所への公衆AEDとして設置が進んでおり、実際にAED施術により救命される事例も増えてきている。
なお、病院で使用される、手で握り持つタイプの電極で電気ショックを与える機材は、純粋に「除細動器」と呼ばれる(時折映画などで、心静止した患者に電気ショックを与える場面が見られるが、これは間違い。後述する通り、除細動器は心室細動を止めるために使用されるもので、心静止状態には適用できない。これはAEDも同じ)。また、心室細動を起こしかねない病気を持っていることが判っている患者向けに、ペースメーカーのように体内に埋め込むタイプの除細動器も存在する(ICDと言う)。
また、心停止には大きく分けて4つの状態があるが、AEDが有効なのはこのうちの心室細動と無脈性心室頻拍だけであって,心臓が完全に止まってしまっている状態である心静止には効果がない。心室細動以外ではAEDは電気ショックが不必要な旨のメッセージを喋るので,この場合胸骨圧迫(いわゆる心臓マッサージ)のみを続け、救急車の到着を待つことになる(人工呼吸は基本省略。詳細は心肺蘇生法を参照)。ただしこの場合でもAEDが適切な処置を音声指示してくれることが多く、また外観的に心室細動なのか心静止なのか(あるいは別な疾患なのか)は見分けが付かないため(倒れた人間を目の当たりにして慌てていれば尚更であろう)、とにかくAEDをつなぐ、というのは有効手段であることには変わりない。下手の考え休むに似たり、である。
消防署などで使い方を含めた講習が行われていることが多いので、出来る限り受講しておくとよい。
実際の使用法
警告 |
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以下に示す手順は、あくまで一般的な手順です。 実際の使用局面では一刻を争うため、公式な講習や訓練を受けることを強くお勧めいたします。 この手順のみを参考にして施術し、救命に失敗した場合でも、責任は負いかねます。 |
- 意識があるかどうかを確認する。
- 救急車を呼び、AEDをケースから取り出す。
即座に心臓マッサージを始めることになるので、周囲にいる人に通報やAEDの運搬をお願いするとよい。
- 呼吸の有無を確認する。この時、普通の呼吸をしていると判断できない場合は呼吸なしと見なす。
- 胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行う。胸の中心部に両手を重ねて当て、1分間に100回以上のペースで、5cm程度胸が沈み込むように押し込む(正確に測れる訳ではないので、だいたいでよい。とにかく「強く押す」ことだけを意識する)。
また、CPRの訓練を受けており、 完璧に行う自信がある場合のみ、気道確保・人工呼吸を行う。
AEDか救急隊が到着するまで繰り返す。かなりの体力勝負なので、複数人で交代しつつ行うとよい。 - AEDが到着したら、電源を入れ(ふたを開けるだけで電源が入るようになっている場合もある)、パッドを患者の体に貼りつけ、AEDと接続する。貼り付ける場所はパッドに絵が描いてあるが、概ね「体毛が少ない部位を狙い、心臓を挟むように貼る」こととなる(毛深い患者のために剃刀が入っている場合もある)。
同時に、患者が身につけている金属類は外す。湿布薬を貼っている場合ははがす。濡れている場合は拭き取る。
上衣を脱がせることになるので、余裕があれば周囲に人垣を作ってもらうとよい。
ここからはAEDから音声で指示が出るようになっている場合も多い。 - AEDが心電図の計測を始める。計測を妨害する虞があるため、この間は患者から離れる。
- AEDが要除細動と判断すると、その旨を音声や表示などで警告する。
- 患者から離れていることを確認し、AEDの起動ボタンを押す。電気ショックが発動する。
- 心臓マッサージを再開する。
- 以後、救急隊が到着するまで7~9を繰り返す。
AEDの電源は切ってはいけない。また、パッドを貼りなおしてもいけない。(病院到着後、医師がAEDに記録された心電図を見て治療を行うため)
責任について
AEDの使用局面は即ち患者の生死に直結する事態であることもあり、「AEDを使っても助けられなかった場合、責任を問われたりしないの?」と心配する声がよく聞かれる。
救助者は民法第698条(緊急事務管理)や刑法第37条(緊急避難)によって守られており、AED施術や心肺蘇生法は医療行為として医師法に問われることもない。
心室細動は一刻も早い治療をしないと、生命や脳障害といった重い後遺症にかかわる。
不慣れな救命活動を行うのは勇気が必要であるが、責任を恐れて躊躇する必要はない。
なお、このことを法的により明文化するために、俗に「善きサマリア人の法」と呼ばれる法を立法化すべきであるとする声もある。
なお、男性が女性に対して使用する際に、セクシャルハラスメントだと騒がれたという噂が定期的に持ち上がることなどから(2023年現在実際に刑事告訴や提訴に至った事例はない)、男性が女性に対しての使用を躊躇するという意見もあるが、これについては、現場で「そこの髪の長い女性の方、AEDの操作を頼みます」などと周囲の女性の協力を得て自分から使用しないようにする、といった方法で回避は可能。
実際、自動車教習所などでAEDを使う講習の際は周囲の協力を仰ぐ事を前提として「そこの白い服の方」や「メガネのあなた」といった外見的な特徴などで無作為に指名して協力を頼むように指導している(名前や肩書きなどを気にしていては助かる命も助からなくなるという観点)。
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関連項目
- ニコニコ大百科:医学記事一覧
- 一次救命処置(BLS)
- 心臓
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