ヘルダーとは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
ラインハルト・フォン・ローエングラムの初陣を描いた短編外伝「白銀の谷」で登場する。
銀河帝国軍人。惑星カプチェランカに数多ある帝国軍基地の内、連隊規模の兵力を有するBIII基地の基地司令官。階級は大佐。不機嫌で陰気そうな容姿をした人物で、ベーネミュンデ侯爵夫人の手の者から出世と引きかえにラインハルトを抹殺せよという内容の密書が届き、戦死という形で彼を殺そうと謀略を巡らす。
原作では彼の部下であり協力者であるフーゲンベルヒ大尉を情報を聞き出して返り討ちにしたところで物語が終了するため、具体的にどのような最後を迎えたのかは不明。ただし、外伝「黄金の翼」におけるグレゴール・フォン・クルムバッハ憲兵少佐の発言やラインハルトの内心のつぶやきから、その後もラインハルト暗殺を諦めずにその命を狙ったが、キルヒアイスとともに逆襲され、公式には「戦死」扱いになっていることが語られている。
概ね原作どおりだが、OVAでは後半オリジナルでヘルダー大佐との決着まで描かれるため、その人物像が掘り下げられ、愛する家族がいること、歴戦の軍人だが命がけで戦うのに嫌気がさしていること、そして寒いのが苦手で基地から出たがらないという設定が追加されている。カプチェランカは極寒の惑星だというのに、そんな人材を基地司令官に据えるあたりに帝国軍人事局の悪意を感じられる。単に気に留められていなかったか、カプチェランカ勤務をしているうちにそうなった可能性もあるが。
それだけにベーネミュンデ侯爵夫人の手の者からの申し出は、危険の少ないもっと安全な任務につきたいと常々願っていたヘルダーにとっては唐突に転がり込んできたその機会であり、絶対に成功させて本国勤務になってやるという気概を持って、ラインハルトと諍いを起こして敵意を抱いていたフーゲンベルヒ大尉を協力者として取り込む。ラインハルトに思うところありまくりとはいえ、さすがに味方殺しという悪行に手を染めることに躊躇いと後ろめたさを見せたフーゲンベルヒの様子をみて、彼を扇動しながら見えない位置で拳銃を手に取っていた。拒否された場合は即座に口封じのために射殺する心算だったのだろう。
こうしてフーゲンベルヒを利用してラインハルトの初陣での抹殺を目論んだのだが、ラインハルトは悠々と帰還し、フーゲンベルヒは未帰還という結果になり、自分が命じたこともバレているのではと激しく動揺する。が、ラインハルトは特に警戒しているような様子は表面上は見せず、それどころか今度はこちらから敵基地を奇襲しようと自ら死地に飛び込むような積極的提案をしてきたこともあって、「フーゲンベルヒは敵にやられた」「なにも気づかれていない」「戦闘中のほうが殺す機会がある」と判断してラインハルトの提案を採用する。
そしてラインハルトに単独行動を命じ、しばらくして彼のいるポイントに行って人影に銃撃したのだが、それはその辺の雪をかき集めて軍服を人型にしているだけのダミーで、ラインハルトに背後を取られてしまった。これで一巻の終わり……かと思われたが、ここから歴戦の軍人としての圧倒的戦闘経験によってラインハルトの天才と互角以上の銃撃戦を演じ出す。
「舐めてもらっては困るな!私はこれでも幾多の戦場をめぐってきたのだ!」
「何度も何度も、命を的に戦ってきたのだ!それでようやくえたのが今の地位だ! だがそれも所詮、最前線の司令官だ! こんな辺境の惑星で、陽もあたらない氷の中で、家族にも会えず! 明日をも知れぬところで戦い続けるのはもうこりごりだ!!」
「貴様を殺せば、やっと暖かい安全な本国に帰れるんだ! 貴様のように、姉の七光りで出世が約束されているようなものに、わかってたまるかっ!!」
ヘルダーの怒りと嘆きは当然のものであったかも知れない。命がけで戦いづけてきた結果与えられたのが最前線の、しかもよく小競り合いで壊滅するのが珍しくないような類の基地の司令官職とあっては溜め込んでいた不満はそうとうなものがあったろう。そんなところにやってきたのが皇帝の寵姫の弟である。別に前線なんかに出なくても、自分が望んでやまない安全な場所でぬくぬくとしているだけでエスカレーター式に出世が約束されているような存在である。
彼は今まで味わってきた理不尽や不条理をも思い出したかのように連射を続け、エネルギー切れになる。が、それは演技でわざと作った隙であった(戦闘前にブラスターのエネルギーカプセルを見て、エネルギー残量が少ないことを確認している描写がある)。飛び出してきたラインハルトが引き金を引く前に、高速でエネルギーカプセルを取替えて逆撃、ラインハルトのブラスターを弾き飛ばして銃撃戦で完全勝利した。
が、トドメの一撃というところでキルヒアイスが乱入。ヘルダーの手首を撃ち抜いてラインハルトの窮地を救った。そして基地副司令のマーテル中佐にラインハルト暗殺の現場を目撃されたこともあって、もはや隠蔽のしようもないと諦めた。しかしラインハルトとしてはそれで満足できなかった。姉の安全のためにも、黒幕のベーネミュンデ侯爵夫人に責を負わせたがった。ラインハルトの姉は現皇帝の寵姫であり、それに対する悪意から犯行及んだとあれば、大逆罪に準ずる罪であり、いかにベーネミュンデ侯爵夫人といえども処断は免がれないだろうと考えたのだが、そちらに思考をさき過ぎていたためか、迂闊にも眼前の問題に気づかなかった。
「大逆罪……、大逆罪は、一族まで死刑……!!」
帝国の刑罰は連座制である。とりわけ国家や帝室の権威にかかわる事柄に対して寛容の精神などあるわけもなく、ヘルダーのように身分があるわけでもない実行犯とその一族に容赦などしないであろう。皇帝への叛逆者として法廷に立たされ、死刑判決を受け、自分が、妻が、幼い子が、家族全員が処刑されていく光景がありありと想像できてしまった。
そんな未来は断じて認められなかった。そもそも、ベーネミュンデ侯爵夫人の誘いに乗ってラインハルトを殺そうとしたのも、愛する家族のいる場所に帰りたかったからなのだ。半狂乱になってヘルダーは脇目もふらさずに谷底に向けて走り出し、そのまま転落して秘密を守った。
予想外の結末となったものの、それでもラインハルトは禍根を断とうとマーテル中佐に事の真相を軍法会議で証言してくれるように頼んだが、マーテル中佐はヘルダー大佐を名誉の戦死扱いすることに決めた。彼も境遇的にはヘルダーに近く、彼が凶行に及んだ背景がよく理解でき、道を誤った上官の家族にまで責を負わせたくはなかったのだろう。
フーゲンベルヒが石黒版オリジナル外伝のザイデル兄弟を連想させる平民出身の伍長となり、病弱な母親のために物資横流しの汚職を働いているものの基本的に善性の人間として描かれ、汚職が告発されるのを恐れて渋々協力者になっているという設定変更により、原作のフーゲンベルヒの行動の一部がヘルダーのものになっている。
いつもナイフを携帯しており、 柄で机を一定間隔で叩く癖がある。実際、ナイフの扱いはすごいものがあり、ブリザードが吹き荒れる猛吹雪の中、遠距離からのナイフ投げで標的の心臓を射抜くという、地味にすごいことをやってのけている
ラインハルトの乗った機甲車からの反応がいつまでたっても消えないことから、フーゲンベルヒを伴って「戦死確認」もしくは「確実な抹殺」のために赴くが、道中のやりとりから想像以上にフーゲンベルヒがラインハルトに入れ込んで心変わりしていることを察して、身柄を確保した後に侯爵夫人に寛恕を願ってみると言ったが、それでもラインハルト暗殺をあくまで実行する心算であった。ベーネミュンデ侯爵夫人という黒幕を教えようとしたフーゲンベルヒを口封じのために、ついでラインハルトをも殺そうとしたが、その際にアンネローゼを侮辱したため、原作フーゲンベルヒと同じ死に方をした。
公式記録ではヘルダーとフーゲンベルヒは「哨戒行動中に行方不明」と処理された。
掲示板
7 ななしのよっしん
2022/12/20(火) 21:04:55 ID: fe8I+cUe4F
長年の冷遇で腐ってたのとラインハルト暗殺絡みの計画が狂って失調してただけで本来は歴戦の経験を糧にしたタイプの相当有能な軍人だったんだろうな
何か間違えていればローエングラム体制で頭角を現せた人材だったかもしれん
8 ななしのよっしん
2023/10/10(火) 20:02:19 ID: Av4Al7g2ds
副司令のマーテル中佐も冷静沈着で有能そうだっただけにもったいないと言うか、腐敗した組織や宮廷闘争で無駄に散った人材と言えるかな。
んで、こういう人材が居たから門閥貴族がどんどん馬鹿になっていっても戦争できていたんだろうなと。ミュッケンとかメルカッツみたいなまともなトップ層が居たのももちろんあるけど。
9 ななしのよっしん
2024/03/23(土) 23:53:57 ID: 034avS1AOU
社会人になり、クソみたいな職場をいくつも渡り歩き
自らの限界を知り尽くしてしまうと
ラインハルトよりヘルダーを応援してしまうのです
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最終更新:2025/01/03(金) 12:00
最終更新:2025/01/03(金) 11:00
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