泡坂妻夫(あわさか つまお)とは、日本の推理作家・奇術師。「泡」の字は旁が「己」ではなく「巳」になるのが正式な表記。
概要
本名・厚川昌男(あつかわ まさお)。1933年生まれ、東京都出身。紋章上絵師の家に生まれ、家業を継いだ傍らで書いた短編「DL2号機事件」で第1回幻影城新人賞佳作を受賞し、1976年に幻影城からデビュー。それ以前から本名の厚川昌男名義で奇術師として活動しており、1969年に第2回石田天海賞を受賞している。
『乱れからくり』で1978年、第31回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。以降、1982年に『喜劇悲奇劇』で第9回角川小説賞、1988年に『折鶴』で第16回泉鏡花文学賞を受賞している。直木三十五賞では第79回にて『乱れからくり』で候補になって以来5回落選し、1990年、第103回に『蔭桔梗』で受賞した。
代表作に短編では亜愛一郎シリーズ、曾我佳城シリーズ、『煙の殺意』などがある。長編では『11枚のとらんぷ』、『乱れからくり』、『湖底のまつり』、『妖女のねむり』など多数。連城三紀彦と並び称される短編ミステリの名手であり、あらゆる描写に伏線を仕込む技巧では他の追随を許さない。また大胆な逆説を多用する作風から「日本のチェスタトン」とも呼ばれた。直木賞を受賞した『蔭桔梗』や『折鶴』などの、主に職人の世界を描いた人情小説や、時代小説の評価も高い。奇術趣味が高じてか、本じたいに驚天動地の仕掛けを施した作品もある。その系統での代表作の『しあわせの書』と『生者と死者』は「紙の本ならではのトリック」と評判になり2013年末からリバイバルヒットした。
奇術師、紋章上絵師としての活動も作家活動と並行して行い、そちらの著作も多い。紋章上絵師として、著作の表紙などに描かれている模様の多くは泡坂自身がデザインしている。奇術師としては、直木賞の受賞会見で自ら奇術を披露してみせたというエピソードがあるほか、自身の名を冠した厚川昌男賞という奇術の賞が存在する。
短編を年に1作ずつ発表し、全3巻での完結に21年を要した《夢裡庵先生捕物帳》シリーズなどに代表されるように、上絵師との兼業のために非常にマイペースな仕事ぶりだったが、最晩年までコンスタントに作品を発表し続けた。2009年2月3日、急性大動脈解離のため急死。満75歳没。死去の前日まで執筆していた《ヨギ ガンジー》の新作短編が未完の遺稿となった。没後、遺稿を含む単行本未収録作品が『泡坂妻夫引退公演』にまとめられた。
著作は小説だけでも50作以上に渡るが、そのうち現在でも新品で入手できるのは12作に留まる。『湖底のまつり』『妖女のねむり』『奇術探偵 曾我佳城全集』、文学賞を受賞した『折鶴』や『蔭桔梗』、また前述のリバイバルヒットした《ヨギ ガンジー》シリーズの第1作にあたる『ヨギ ガンジーの妖術』といった代表作も品切れの状態。とはいえ著作のうち初期の本格ミステリの代表作は多くが創元推理文庫で読めるので、まずはそこから入るのをおすすめしたい。
作品リスト(小説のみ・刊行順)
赤太字は現在新品で入手可能なもの、青太字は品切れだが電子書籍で読めるもの。
- 11枚のとらんぷ (1976年、幻影城ノベルス→1979年、角川文庫→1988年、双葉文庫→1993年、創元推理文庫→2014年、角川文庫)
- 乱れからくり (1977年、幻影城ノベルス→1979年、角川文庫→1988年、双葉文庫→1993年、創元推理文庫→1996年、角川文庫→1997年、双葉文庫)
- 亜愛一郎の狼狽 (1978年、幻影城ノベルス→1981年、角川書店→1985年、角川文庫→1994年、創元推理文庫)
- 湖底のまつり (1978年、幻影城ノベルス→1980年、角川文庫→1989年、双葉文庫→1994年、創元推理文庫)
- 花嫁のさけび (1980年、講談社→1983年、講談社文庫→1999年、ハルキ文庫)
- 煙の殺意 (1980年、講談社→1984年、講談社文庫→2001年、創元推理文庫)
- 迷蝶の島 (1980年、文藝春秋→1987年、文春文庫)
- 喜劇悲奇劇 (1982年、カドカワノベルズ→1985年、角川文庫→1999年、ハルキ文庫→2010年、創元推理文庫)
- 亜愛一郎の転倒 (1982年、角川書店→1986年、角川文庫→1997年、創元推理文庫)
- 天井のとらんぷ (1983年、講談社ノベルス→1986年、講談社文庫)
- 妖女のねむり (1983年、新潮社→1986年、新潮文庫→1999年、ハルキ文庫→2010年、創元推理文庫)
- ヨギ ガンジーの妖術 (1984年、新潮社→1987年、新潮文庫)
- 花嫁は二度眠る (1984年、カッパ・ノベルス→1989年、光文社文庫)
- 亜愛一郎の逃亡 (1984年、角川書店→1989年、角川文庫→1997年、創元推理文庫)
- ゆきなだれ (1985年、文藝春秋→1988年、文春文庫)
- 死者の輪舞 (1985年、講談社→1989年、講談社文庫→1993年、出版芸術社)
- 猫女 (1985年、フタバノベルス→1990年、双葉文庫)
- ダイヤル7をまわす時 (1985年、光文社→1990年、光文社文庫)
- しあわせの書 迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術 (1987年、新潮文庫)
- 妖盗S79号 (1987年、文藝春秋→1990年、文春文庫)
- 奇跡の男 (1988年、光文社→1991年、光文社文庫)
- 折鶴 (1988年、文藝春秋→1991年、文春文庫)
- 鬼女の鱗 宝引の辰捕者帳 (1988年、実業之日本社→1992年、文春文庫)
- 花火と銃声 (1988年、講談社ノベルス→1992年、講談社文庫)
- 斜光 (1988年、角川書店→1991年、角川文庫→2001年、扶桑社文庫)
- びいどろの筆 夢裡庵先生捕物帳 (1989年、徳間書店→1992年、徳間文庫)
- 蔭桔梗 (1990年、新潮社→1993年、新潮文庫)
- 黒き舞楽 (1990年、白水社→1993年、新潮文庫)
- 毒薬の輪舞 (1990年、講談社→1993年、講談社文庫)
- 砂のアラベスク (1990年、文藝春秋→1993年、文春文庫)
- ぼくたちの太陽 (1991年、光文社)
→ 雨女 (1997年、光文社文庫、改題)
- 旋風 (1992年、集英社→1995年、集英社文庫)
- 写楽百面相 (1993年、新潮社→1997年、新潮文庫→2005年、文春文庫)
- 夢の密室 (1993年、光文社→1998年、光文社文庫)
- 恋路吟行 (1993年、集英社→1997年、集英社文庫)
- 弓形の月 (1994年、双葉社→1996年、双葉文庫)
- 自来也小町 宝引の辰捕者帳 (1994年、文藝春秋→1997年、文春文庫)
- 生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術 (1994年、新潮文庫)
- 泡坂妻夫の怖い話 (1995年、新潮社→1998年、新潮文庫)
- 凧をみる武士 宝引の辰捕者帳 (1995年、日本放送出版協会→1999年、文春文庫)
- からくり富 夢裡庵先生捕物帳 (1996年、徳間書店→1999年、徳間文庫)
- からくり東海道 (1996年、光文社→1999年、光文社時代小説文庫)
- 砂時計 (1996年、カッパ・ノベルス→2000年、光文社文庫)
- 亜智一郎の恐慌 (1997年、双葉社→2000年、双葉文庫→2004年、創元推理文庫)
- 鬼子母像 (1998年、祥伝社→2003年、光文社文庫)
- 朱房の鷹 宝引の辰捕者帳 (1999年、文藝春秋→2002年、文春文庫)
- 奇術探偵 曾我佳城全集 (2000年、講談社) ※10と24を合本、未収録作追加版
→ 奇術探偵 曾我佳城全集 秘の巻 / 戯の巻 (2003年、講談社文庫、分冊)
- 比翼 (2001年、光文社→2003年、光文社文庫)
- 飛奴 夢裡庵先生捕物帳 (2002年、徳間書店→2005年、徳間文庫)
- 鳥居の赤兵衛 宝引の辰捕者帳 (2004年、文藝春秋→2007年、文春文庫)
- 蚊取湖殺人事件 (2005年、光文社文庫)
- 春のとなり (2006年、南雲堂)
- 揚羽蝶 (2006年、徳間書店)
- トリュフとトナカイ (2006年、岩崎書店) ※再編集アンソロジー
- 織姫かえる 宝引の辰捕者帳 (2008年、文藝春秋)
- 泡坂妻夫引退公演 (2012年、東京創元社)
関連商品

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関連項目
- 小説家の一覧
- 亜愛一郎の狼狽
- ミステリー
- 日本推理作家協会賞 / 直木賞
- 幻影城
- 手品
- 家紋