西村寿行 単語


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ニシムラジュコウ

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寿行作品を読みかけのまま席を離れると大変なことになる可能性があります。

西村寿行(にしむら じゅこう)とは、ああっ、お尻様!である。

概要

ハードロマン」というジャンルを打ち立て、80年代に圧倒的な人気を誇った小説家。

1930年11月3日、香川県生まれ。本名は同じ字で「としゆき」と読み、兄の西村望も小説家である。様々な職を転々としたのち、1969年に短編「犬鷲」で第35回オール讀物新人賞佳作となり作家デビュー。初の著書はノンフィクション『世界新動物記』(1971年)だった。

1973年に長編ミステリ『瀬戸内殺人海流』で単行本デビューすると、最初期は『安楽死』などの社会派ミステリを書いていたが、ミステリーの謎解きには全く関心がなく、生島治郎の勧めもあって1975年の『君よ憤怒の河を渉れ』からアクションやバイオレンス要素の強い冒険小説にシフト。1977年からはほぼ月刊というハイペースで作品を発表し、あっという間にベストセラー作家へと駆け上がっていった。

1979年に、長者番付の作家部門1位に輝くと、以降も長者番付作家部門のベスト10常連となり、80年代の長者番付累計では赤川次郎、西村京太郎、司馬遼太郎に次ぐ4位(松本清張や池波正太郎、森村誠一より上位)と、80年代にはバイオレンス小説の第一人者として、超人気作家として君臨した。同時代に活躍した森村誠一、半村良とともに「三村」と呼ばれたとか。

しかし90年代に入ると下咽頭癌を患ったことや、その退院直後の右手首の粉砕骨折などで全盛期の執筆力を失ってしまう。全盛期から酒豪で知られたが、ますますアルコールに溺れるようになり作品発表ペースも低下。2000年に発表した短編を最後に作家としては引退状態となった。

2007年8月23日、肝不全のため死去。享年76。

西村姓の作家は同時代から活躍する西村京太郎がいることもあり、ファンからは「寿行センセ」と名前の方で呼ばれることが多い。

寿行作品の文庫は角川文庫、徳間文庫、光文社文庫などで大量に出たが、いずれも大量に出た時期の作品は背表紙が黒いため、寿行ファンの本棚は黒くなりがち。古書店で文庫のナ行の棚に黒い一角があればそこが寿行コーナーなのでわかりやすい。日文文庫や現行の角川文庫など黒くないものもあるが。

全盛期にはかなりの数の作品を書いたが、現在では新品で手に入る作品はごく一部。以前は古書店に行けば山ほど並んでいたが、近年は古書でも寿行作品はあまり見かけなくなってきている。2017年に『君よ憤怒の河を渉れ』が『マンハント』のタイトルで中国で映画化されるなどしているものの、世間的には昭和の流行作家として忘れ去られかけているというのが実情だろう。しかし、Wikipediaの西村寿行の項目がなぜか妙に詳細な寿行作品ガイドになっているなど、今でも熱心な寿行ファンは結構いる。

作風

寿行作品のジャンルはアクション小説、ハードボイルド、冒険小説、動物小説、パニック小説、ポリティカルサスペンスなど多岐に渡るが、その作風の最大の特徴は、

  • 短いセンテンスを連ねるスピーディな文体
  • 漢詩の素養に裏打ちされた詩的なタイトル
  • 暴力とセックス

だろう。特に寿行作品といえば、全編に渡って暴力と陵辱の嵐が吹き荒れるバイオレンス小説のイメージが強く、その作風は「ハードロマン」と呼ばれ、80年代に一世を風靡した。凄惨で苛烈な暴力シーンと、なぜかやたらと女性を尻から犯したがる陵辱シーンが寿行作品の代名詞だが、ヒロイックな願望充足小説というより、むしろ基本的には登場人物を冷酷なほどに突き放したアンチヒーロー的な作風である。後期の作品では男の方が犯されるシーンも多い。また、ラストが驚くほどあっけなく終わる作品が多いが、そのぶった切られたような読後感がかえって余韻となっていることも(特に短編)。

また寿行作品の中でも評価が高いのが動物小説で、特に『犬笛』や『黄金の犬』のような猟犬ものの冒険小説、鼠の大量発生で山梨が壊滅する『滅びの笛』やイナゴの大量発生で東北が壊滅する『蒼茫の大地、滅ぶ』といったパニック小説は数多の作品の中でも代表作に数えられる。動物ものは全般に陵辱シーンが他より少なめなので(多いのもあるが)、そういうシーンが苦手な人にはこのあたりの作品をオススメしたい。『咆哮は消えた』などの短編集もオススメ。動物ものはかつて狩猟に熱中した経験が活かされているが、デビュー前に狩猟反対派に転向しており、作中でも娯楽としての狩猟は批判的に扱われている。

他にも初期の社会派ミステリや、数は少ないが時代小説などいろいろある。上記以外の代表作は本人も心のデビュー作に挙げる『化石の荒野』、寿行ファンの間で人気が高い『峠に棲む鬼』、後期作品では『学歴のない犬』とか。

短いセンテンスを連ねる文体は、夢枕獏や菊地秀行といった後続の伝奇バイオレンス系作家に多大な影響を与えた。物質的な描写を執拗に書き込む大藪春彦の文体と並んで、西村寿行の歯切れのいい文体が80年代のノベルスブームに与えた影響は大きい。

『君よ憤怒の河を渉れ』『蒼茫の大地、滅ぶ』『去りなんいざ狂人の国を』『荒涼山河風ありて』『われは幻に棲む』『往きてまた還らず』『梓弓執りて』など、漢詩の素養に裏打ちされた詩的でかっこいいタイトルも寿行作品の魅力。このあたりが、その作風が単なるバイオレンス小説ではなく、ハード「ロマン」と呼ばれた所以だろう。

昭和の暴力とセックスの作家、というイメージ自体は全く間違っていないので、この暴力性に反発を覚える読者が多いだろう現代では作品が忘れられていくのはやむを得ないかもしれないが、ただ暴力とセックスを連ねただけの作家ではない。本項作成者のオススメは前述の代表作のほか、ヒーロー不在のサバイバルパニック小説『魔の牙』とか、凄絶無比の暗澹たる復讐劇『わが魂、久遠の闇に』とか。前述のWikipediaの項目などを参考に、好みに合いそうなものを探してみてほしい。

それにしても、なぜ寿行センセーはそこまで尻が好きなのか……。

作品リスト(小説のみ)

全判型の記載は煩雑になるため避ける。1976年の刊行順は正確なところは未確認。
たぶんこれで全部だと思うけど抜けはあるかも。

  1. 瀬戸内殺人海流 (1973年)
  2. 安楽死 (1973年)
  3. 屍海峡 (1974年)
  4. 君よ憤怒の河を渉れ (1975年)
  5. 蒼き海の伝説 (1975年)
  6. 化石の荒野 (1976年)
  7. 犬笛 (1976年)
  8. 幻の白い犬を見た (1976年)
  9. 滅びの笛 (1976年)
  10. 牙城を撃て (1976年)
  11. 原色の蛾 (1976年)
  12. 往きてまた還らず (1977年)
  13. 白骨樹林 (1977年)
  14. 咆哮は消えた (1977年)
  15. 妄執果つるとき (1977年)
  16. 悪霊の棲む日々 (1977年)
  17. 汝!怒りもて報いよ (1977年)
  18. 魔笛が聴こえる (1977年)
  19. 魔の牙 (1977年)
  20. 帰らざる復讐者 (1977年)
  21. 荒涼山河風ありて (1977年)
  22. 双頭の蛇 (1977年)
  23. わが魂、久遠の闇に (1978年)
  24. 黄金の犬 (1978年)
  25. 峠に棲む鬼 (1978年)
  26. 鬼が哭く谷 (1978年)
  27. 回帰線に吼ゆ (1978年)
  28. 魔界 (1978年)
  29. 神の岬 (1978年)
  30. 去りなんいざ狂人の国を (1978年)
  31. 蒼茫の大地、滅ぶ (1978年)
  32. 荒らぶる魂 (1978年)
  33. 怒りの白き都 (1978年)
  34. 闇に潜みしは誰ぞ (1978年)
  35. われは幻に棲む (1978年)
  36. 遠い渚 (1979年)
  37. 赤い鯱 (1979年)
  38. 炎の大地 (1979年)
  39. 遥かなる海嘯 (1979年)
  40. 黄金の犬 第2部 (1979年)
  41. 呑舟の魚 (1979年)
  42. 二万時間の男 (1979年)
  43. 修羅の峠 (1979年)
  44. 黒い鯱 (1979年)
  45. わらの街 (1979年)
  46. 昏き日輪 (1979年)
  47. 妖獣の村 (1979年)
  48. (1979年)
  49. 梓弓執りて (1979年)
  50. 怨霊孕む (1980年)
  51. 風は悽愴 (1980年)
  52. 汝は日輪に背く (1980年)
  53. 虎落笛 (1980年)
  54. 滅びざる大河 (1980年)
  55. 滅びの宴 (1980年)
  56. 鬼女哀し (1980年)
  57. 捜神鬼 (1980年)
  58. 陽は陰翳してぞゆく (1980年)
  59. 血の翳り (1980年)
  60. 白い鯱 (1981年)
  61. 老人と狩りをしない猟犬物語 (1981年)
  62. 蘭菊の狐 (1981年)
  63. 虚空の舞い (1981年)
  64. 無頼船 (1981年)
  65. 癌病船 (1981年)
  66. 扉のない闇 (1981年)
  67. 虚空の影落つ (1981年)
  68. ふたたび渚に (1981年)
  69. 秋霖 (1981年)
  70. 闇の法廷 (1981年)
  71. 鷲の啼く北回帰線 (1981年)
  72. オロロンの呪縛 (1982年)
  73. 地獄 (1982年)
  74. 攻旗だ、無頼船よ (1982年)
  75. 牛馬解き放ち―太政官布告第二九五号 (1982年)
  76. 妖魔 (1982年)
  77. 碧い鯱 (1982年)
  78. 裸の冬 (1982年)
  79. 風紋の街 (1982年)
  80. 晩秋の陽の炎ゆ (1982年)
  81. 鬼狂い (1982年)
  82. 症候群 (1982年)
  83. (1983年)
  84. 濫觴の宴 (1983年)
  85. 幻戯 (1983年)
  86. 石塊の衢 (1983年)
  87. 狼のユーコン河 (1983年)
  88. 魔境へ、無頼船 (1983年)
  89. 霖雨の時計台 (1983年)
  90. 花に三春の約あり (1983年)
  91. 頻闇にいのち惑ひぬ (1983年)
  92. 垰 大魔縁 (1984年)
  93. 沈黙の渚 (1984年)
  94. 黒猫の眸のほめき (1984年)
  95. 空蝉の街 (1984年)
  96. 妖しの花乱れにぞ (1984年)
  97. 夢想幻戯 (1984年)
  98. 緋の鯱 (1984年)
  99. 憑神 (1984年)
  100. 監置零号 (1984年)
  101. 垰よ永遠に (1984年)
  102. 鉛の法廷 (1984年)
  103. 鬼の跫 (1985年)
  104. 鷲の巣 (1985年)
  105. 雲の城 (1985年)
  106. (1985年)
  107. 襤褸の詩 (1985年)
  108. 無頼船、極北光に消ゆ (1985年)
  109. 人類法廷 (1985年)
  110. 衄られた寒月 (1985年)
  111. 異常者 (1985年)
  112. ガラスの壁 (1985年)
  113. まぼろしの獣 (1986年)
  114. 珍らしや蟾蜍、吐息す (1986年)
  115. 遺恨の鯱 (1986年)
  116. 無頼船 ブーメランの日 (1986年)
  117. 曠野の狼 (1986年)
  118. 山姥が哭く (1986年)
  119. 死神 (1986年)
  120. 時の旅 (1986年)
  121. 癌病船応答セズ (1986年)
  122. 母なる鷲 (1987年)
  123. 陽炎の街 (1987年)
  124. 凩の蝶 (1987年)
  125. 風の渚 (1987年)
  126. 人間の十字路 (1987年)
  127. 旅券のない犬 (1987年)
  128. コロポックルの河 (1987年)
  129. 幽鬼の鯱 (1987年)
  130. 魔の山 (1987年)
  131. 無頼船、緑地獄からのSOS (1988年)
  132. 残像 (1988年)
  133. 聖者の島 (1988年)
  134. (1988年)
  135. 無法者の独立峠 (1988年)
  136. 賞金犬 (1988年)
  137. 幻想都市 (1988年)
  138. 悪霊刑事 (1988年)
  139. 頽れた神々 (1989年)
  140. 学歴のない犬 (1989年)
  141. 風と雲の街 (1989年)
  142. 神聖の鯱 (1989年)
  143. 涯の鷲 (1990年)
  144. 呪医 ウィッチ・ドクター (1990年)
  145. 魔物 (1990年)
  146. 矛盾の壁を超えた男 (1990年)
  147. 蟹の目 (1990年)
  148. 魔性の岩鷹 (1991年)
  149. 凩の犬 (1991年)
  150. 呪いの鯱 (1991年)
  151. 魔獣 (1992年)
  152. 消えた島 (1992年)
  153. ここ過ぎて滅びぬ (1992年)
  154. 幻獣の森 (1993年)
  155. 深い眸 (1994年)
  156. 幻覚の鯱 神軍の章 (1995年)
  157. 世にも不幸な男の物語 (1995年)
  158. デビルズ・アイランド (1996年)
  159. 大厄病神 (1996年)
  160. (1997年)
  161. 幻覚の鯱 天翔の章 (1998年)
  162. 牡牛の渓 (1998年)
  163. 禁呪 (1999年)
  164. 月を撃つ男 (2000年)
  165. 碇の男 (2001年)

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関連項目

  • 小説家の一覧
  • 冒険小説 / ミステリー
  • 大藪春彦
  • 狡噛慎也 - 公式プロフィールで西村寿行を好きな作家に挙げている。
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