かぐや姫の物語とは、2013年11月23日に公開されたスタジオジブリ制作のアニメーション映画である。
「竹取物語」を高畑勲監督による独自の解釈で描いた作品で、彼が監督を務めたのは、1999年の「ホーホケキョ となりの山田くん」以来14年ぶりとなり、最後の監督作となった。
高畑はこの作品の監督後、新たな作品を撮ることなく5年後の2018年4月5日に逝去したため、本作が高畑勲の遺作である。
概要
この地で、ひとりの女性が生きた。
笑い、泣き、喜び、怒り、
その短い生の一瞬一瞬に
いのちの輝きを求めて。数ある星の中から、
彼女はなぜ地球を選んだのか。
この地で何を思い、
なぜ、月へ去らねばならなかったのか。
姫が犯した罰とは、
その罰とはいったい何だったのか・・・。日本最古の文学物語「竹取物語」に隠された
人間・かぐや姫の真実の物語。
姫の犯した罪と罰。
ジブリヒロイン史上、最高の“絶世の美女”が誕生。
高畑勲監督は、東映に入社した頃から「竹取物語」の企画を温めていたが、日本人なら誰もが知っているにも拘わらず、あまりにも謎に満ちたこの作品を映像化することは困難であった。その後本作のアニメ化が決定したのは、彼が入社してから半世紀近く経った2005年のことである。
前作「ホーホケキョ となりの山田くん」で高畑監督は従来のスタジオジブリ作品の絵柄とは全く異なる、水彩画のような作画に挑戦したが、今回の「かぐや姫の物語」はそれをさらに発展させ、作画と背景が完全に一体化した映像を作り上げている(このため、スタッフロールでは原画・背景ではなく、作画・塗線作画と表記されている)。デジタル技術を使ったとは思えぬ手描きのようなタッチに加え、どこか昔懐かしい時代のアニメーションを思わせるこの絵柄を実現するためには、膨大な作画量が必要とされた。これに加え、本作は137分とジブリ歴代最長の作品となったため(それまでの最長作品は133分の「もののけ姫」)、完成までには8年の期間を費やした。さらに、鈴木敏夫曰く「高畑監督は以前から作品の完成へのこだわりのために、いつも遅筆になる」とある通り、当初は宮崎駿監督の「風立ちぬ」と同時公開の予定だったが、間に合わなかったことから4ヶ月遅れて公開となった。なお、総制作費はスタジオジブリ作品過去最高の50億円となっている。
音楽は「風の谷のナウシカ」から全ての宮崎駿監督作品を手掛けた久石譲が担当。「ナウシカ」や「天空の城ラピュタ」は高畑勲がプロデュースした作品だが、高畑監督の映画は意外にも今回が初めてとなる。また、物語本編でも重要な役割を果たす劇中歌「わらべ唄」「天女の歌」は高畑監督が自らフレーズを考えており、初音ミクでデモテープを作り、これを基に久石は編曲して映画本編に取り入れた。こうした試みは、2012年の大河ドラマ「平清盛」でも既に実証済みである(時代設定も同じ平安時代である)。
予告編では、穏やかな雰囲気の主題歌とは対照的に、かぐや姫が鬼気迫る表情で屋敷や都を猛スピードで駆け抜ける映像がインパクトを集めたが、映画本編自体は(後半こそ重い展開が続くものの)柔らかく牧歌的な印象を受けるものであり、この場面はむしろ全体を通してみると異彩を放っている。中にはこの予告編を見て、怖い話ではないかと勘違いしてしまう人も少なかったらしく、後述のキャッチコピーも含め、ある意味予告詐欺となってしまった(予告編を見て、映画を見るのを止めてしまった人は勿体ないことである)。
この項目は、映画のネタバレ成分を含みます。 ここから下は自己責任でスクロールしてください。 |
「ハウルの動く城」「ゲド戦記」「コクリコ坂から」など、近年のスタジオジブリ作品は原作を大胆にアレンジしたものが多いが、「かぐや姫の物語」の全体的なストーリーは原典である「竹取物語」にかなり忠実であり、かぐや姫が月へ帰ってしまう結末も同じである。そのため、映画を見た人は上述の予告編とのギャップもあって、逆に意外と思った人も多いかもしれない。
しかし本編の特徴として、かぐや姫の視点で物語が展開される点と、原作では無いかぐや姫の幼少期のオリジナルストーリーが描かれることが挙げられる。キャッチコピーを見る限り、なぜかぐや姫が人間の世界にやって来て、にも関わらず月へと帰らなければいけなくなったのか、その謎が判明すると思わせぶりなものであるが、それよりもむしろ、本作はかぐや姫の苦悩や悲しみそのものが物語の大きなテーマとなっている。
物語の終盤、かぐや姫は育ての親である翁と媼に、なぜ自分が月の世界からやって来て、また月へと戻らなければいけないのかを話すが、その全てが語られる訳ではなく、映画を見ただけでは完全にはわからない人も多いかもしれない。その答えは、パンフレットにある高畑監督の企画書で明かされているため、これから映画を見る人や、もう一度映画を見たいと思ってる人は、是非ともパンフを買って欲しい。そうすれば、この物語に残った謎が解けるはずである。
ところで、高畑監督と言えば「アルプスの少女ハイジ」の演出を手掛けており(宮崎駿も場面設定・画面構成を担当)、「ハイジ」はスタジオジブリ作品に多大な影響を与えた作品であるが、高畑・宮崎両名は「いつか日本を舞台にしたハイジを作りたい」と語っており、本作でその夢が実現した。
しかし、「アルプスの少女ハイジ」がハッピーエンドでめでたく締めくくるのに対し、本作のかぐや姫は慣れ親しんだ田舎や友達から引き離され、都で自由の無い窮屈な暮らしを強いられることとなる。この辺りは、フランクフルトに連れて行かれたハイジが、夢遊病になるほど重度のホームシックになってしまう場面などを彷彿させる。しかもかぐや姫は、最終的には田舎での楽しかった暮らしも、都の辛く悲しい出来事も全部忘れさせられて物語が終わってしまうのだから、「かぐや姫の物語」は言わばバッドエンド版「アルプスの少女ハイジ」とも言える作品なのである。とは言っても、「火垂るの墓」のように見た人の心をへし折るような救いの無い絶望的なものではなく、高畑監督がもう一つ構想していた「平家物語」のように“あはれ”の文学を存分に味わえるものである。
キャラクター、キャスト
- かぐや姫(タケノコ):朝倉あき
- 捨丸:高良健吾
- 翁(さかきの造):地井武男 / 三宅裕司
- 媼・語り:宮本信子
- 女童:田畑智子
- 斎部秋田:立川志の輔
- 車持皇子:橋爪功
- 安倍右大臣(安倍御主人):伊集院光
- 大伴大納言(大伴御行):宇崎竜童
- 石作皇子:上川隆也
- 石上中納言(石上麻呂):古城環
- 御門:中村七之助
- 石作皇子の北の方:朝丘雪路
- 炭焼きの老人:仲代達矢
翁役の地井武男は本作が遺作となった(プレスコであるため、声の録音は亡くなる前年に行われていた。また、完成後の追加収録で一部シーンのみ三宅裕司が代役を務めている)。また、石上大納言役の古城環は本作の音響制作デスクを担当したスタジオジブリのスタッフで、キャスティングに悩んだ高畑監督がオーディションで彼に白羽の矢を立てた。
スタッフ
- 製作:氏家齋一郎
- 製作名代:大久保好男
- 企画:鈴木敏夫
- 原作:「竹取物語」
- 脚本:高畑勲、坂口理子
- 音楽・ピアノ演奏・指揮:久石譲
- 人物造形・作画設計:田辺修
- 美術監督:男鹿和雄
- 作画監督:小西賢一 / 橋本晋治、濱田高行、安藤雅司、山口明子
- 撮影監督:中村圭介
- 特任シーン設計:百瀬義行
- 録音演出(音響監督):浅梨なおこ
- 編集:小島俊彦
- 製作担当:奥田誠治、藤巻直哉、福山亮一
- 制作協力:T2Studio、高橋賢太郎(高橋プロダクション)
- 制作:星野康二、スタジオジブリ
- プロデューサー:西村義明
- 原案・監督:高畑勲
主題歌・挿入歌
関連項目
- スタジオジブリ
- 高畑勲
- 鈴木敏夫
- 久石譲
- 二階堂和美
- 竹取物語
- かぐや姫
- アニメ映画の一覧
- アニメ作品一覧
- アルプスの少女ハイジ(舞台設定や登場人物に共通点が多い)
- 在原行平(劇中歌に、彼が詠んだ和歌(百人一首16番)の下の句が使われている)
- 初音ミク
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