ワスプ級強襲揚陸艦とは、アメリカ海軍が運用している揚陸艦の艦級である。
概要
1989年から運用が開始され2009年までに8隻が配備された。
『揚陸艦』の為、1900人近いアメリカ海兵隊と戦車を含む各種装備を積載しそれを港湾施設を使うことなく上陸させる能力に加え、輸送用大型ヘリコプターなら最大40機以上、垂直離着陸機最大20機を運用できる能力を持った『空母』としての顔を持つ軍艦である。
なお、2020年7月に6番艦『ボノム・リシャール』が改修中に火災に見舞われて船体の6割を損傷した結果修理コストの観点から退役が決定した。
建造に至るまで
第2次世界大戦で数多くの敵前上陸作戦を経験したアメリカ海兵隊は戦争中に実用化が進んだヘリコプターの能力に着目、終戦から間もない1947年には実験部隊を編成し、朝鮮戦争での実験的運用を経て本格的なヘリボーン用ヘリコプター部隊の運用を開始した。
これを受けてアメリカ海軍は余剰となっていた航空母艦をヘリコプター揚陸艦に改装した後、1961年からは新規のヘリコプター揚陸艦としてイオー・ジマ級強襲揚陸艦を新造し、実績を積み上げていった。
しかし、ヘリコプターは上陸用舟艇を用いた上陸作戦より迅速で敵の脅威が少ない後方への揚陸ができる反面、天候によっては飛行できない、戦車や重砲を輸送できない欠点が表面化した。それを解決する方策として1971年からヘリコプターに加え垂直離着陸機『ハリアー』の運用能力と上陸用舟艇の運用能力を併せ持つタラワ級強襲揚陸艦が新造された。
タラワ級の登場はアメリカ海兵隊の上陸作戦能力を向上させると共に、『ハリアー』の運用能力も加わったことで空母を呼ばなくとも自前での固定翼機で攻撃・警戒が可能となった。その一方で迅速な揚陸では上陸用舟艇に対しヘリコプターが上回っている反面、戦車など重装備の揚陸は上陸用舟艇が独占しているジレンマが残っていた。
そこへ『LCAC=ホバークラフト式揚陸艇』が登場する。それまでの上陸用舟艇に対して4倍ほどの速さを持ちながら60t越えの戦車を輸送出来る能力はまさに革命だった。
早速、アメリカ海軍はタラワ級においてLCACの運用を開始したがLCAC開発前の設計だったため改修してもタラワ級において運用できるLCACの運用数は1隻と不充分だったたことやタラワ級で指摘された運用上の不具合を改善する目的で開発されたのがワスプ級である。
船体構造
全長257.3m、全幅42.7mの船体には右舷中央部に備えた艦橋構造物を持つ全通式の飛行甲板から外観上は『空母』としか言いようがないが艦尾には喫水線ギリギリまでウェルドックを防護する大型扉があるので素人から見ても小型船を発進できる軍艦という推察は出来る。
そんな本級を動かす機関は基本、7万馬力の蒸気タービンで最大速力は22kt、航続距離は18ktで9500海里とニミッツ級や随伴する戦闘艦艇と比べると遅いが世界的に見ても揚陸艦の最大速力はこの程度である。
なお、最終8番艦『マキン・アイランド』は機関を後継のアメリカ級強襲揚陸艦のテストヘッドとしてCODLOG方式=ディーゼル電気推進(低速時)+ガスタービン(高速時)を採用した[1]。これにより最大速力は変わらないが巡航速度が20ktに引き上げられ、なおかつ蒸気タービン方式よりCODLOG方式が半分の燃料消費で済むことも証明された。
能力
輸送・揚陸能力
本級の揚陸は後述の航空機と共に艦尾のウェルドックよりLCAC3隻もしくは上陸用舟艇12隻、場合によってはAAV7装軌式水陸両用装甲車を状況に応じて選択、兵員と装備を揚陸させる。
海兵遠征部隊(MEU)
海兵隊歩兵大隊を中核とした諸兵科連合部隊で本級1隻で搭載できる部隊。M1エイブラムス戦車4両、M777牽引式155mm榴弾砲6門、前述のAAV7もしくはLAV-25(装輪式)装甲車十数両といった重装備だけでなく航空部隊、兵站部隊も加えられている。
航空機運用能力
本級ではニミッツ級など正規空母と任務を分け、なおかつヘリコプターの大量運用を重視している為諸外国の揚陸艦や一部空母の様にスキージャンプ式飛行甲板は採用していない故に垂直離着陸機は燃費の悪い垂直上昇や水平式自力発進をせざるを得ない。尤も海兵隊の任務は基本的に有事への一時対応=陸軍などの主力部隊が来るまでの露払いの様な短期戦・小規模な戦域なのでこれで充分とされた。
なお、任務に応じて艦載機の組み合わせも以下のように変わる。
任務 | 構成 | 備考 |
基本編成 | ハリアーx6 MV-22×12 CH-53E×9 AH-1W×4 UH-1×4 |
AH-1WはZへ更新中、 CH-53Eはkへ更新予定。 |
空中強襲 | MV-22×42 | CH-46から更新。 |
制海 | ハリアー×20 MH-60R×6 |
ハリアーはF-35Bへ更新中。 MH-60Rは対潜哨戒・救難用。 |
個艦戦闘能力
イオー・ジマ級、タラワ級では個艦防御や上陸部隊への火力支援用として両用砲が建造当初に装備してあったが、本級では建造当初から装備せず、シースパロー用8連装発射機を2基、ファランクスCIWSを3基[2]、後に追加でRAM用21連装発射機を2基と世界的に見ても充実した対空兵装を備えている。
更に2000年に発生した駆逐艦『コール』自爆ボート特攻の教訓から25mm機関砲3門、12.7mm機関銃座最大8箇所と水上近接兵装も強力。
また、艦橋にはニミッツ級原子力空母に装備されているAN/SPN-48大型3次元レーダー1基に加え対空用2次元レーダーを2機種備えるといった具合に電子兵装も強力である。
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関連項目
脚注
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