――それは、可能性の獣。 (機動戦士ガンダムUC公式サイトより)
可能性の獣(かのうせいのけもの)とは、小説、およびアニメ作品
「機動戦士ガンダムUC」に登場するキーワード。
概要
可能性の獣、とは「機動戦士ガンダムUC」の作品中に登場する言葉である。
『私のたった一つの望み』……『可能性の獣』……『希望の象徴』……父さん……母さん……
ユニコーンガンダムを最初に起動させる際の主人公バナージ・リンクスの独白
幼い頃に見た「貴婦人と一角獣」のタペストリーを追想しつつ
主役機「ユニコーンガンダム」を指す別名ともとれるが、
「可能性」という作品全体のテーマに関わるキーワードにもなっている。
「オルフォイスへのソネット」
小説版のプロローグとエピローグでは、詩人リルケの作品「オルフォイスへのソネット」の一節が引用されている。その中には、可能性によって育まれ力を得る獣、として一角獣(ユニコーン)が登場する。
おゝ、これは現実には存在せぬ獣。
ひとびとはこれを知らず、それでもやはり――そのさまよう姿、その歩みぶり、その頸を、そのしずかな瞳のかがやきすらを愛した。
たしかに存在はしなかった。しかし人々はこれを愛したから、純粋の獣が生まれた。
人々はいつも余白を残しておいた。そしてその透明な、取っておかれた空間で獣は軽やかに首をあげ、そしてほとんど存在する必要さえもなかった。
人々は穀物では養わず、いつも、存在の可能性だけでこれを育てた。
可能性こそ獣に大いに力をあたえ、ために獣の額から角が生まれた。ひとふりの角が。
ひとりの処女(おとめ)のかたわらに、それはしろじろとよりそった――。
そして銀(しろがね)の鏡のなかに、そして処女のうちに、まことの存在を得たのだ。
ライナー・マリア・リルケ「オルフォイスへのソネット」第2部4より
(※実際に機動戦士ガンダムUCに引用されたバージョンとは翻訳が異なる)
「貴婦人と一角獣」
上記の一節は、リルケがフランスの美術館を訪れた際に見た展示品、「貴婦人と一角獣」というタペストリーから着想を得て創作された。
このタペストリーにおいて「貴婦人」は「箱から宝物を取り出している(或いは箱に宝物を収めようとしている)」姿で描かれている。
「貴婦人」の右側では「一角獣」が旗を掲げており、左側では一角獣と対を成すように「獅子」がもう一つの旗を掲げている。
それらの背景には「『À mon seul désir(私のたった一つの望み)』と言う文字が掲げられた、青い天幕」が描かれている。
この「貴婦人と一角獣」のタペストリーは機動戦士ガンダムUCの作中にも登場している。ユニコーンガンダムの製作に大きく関わったビスト財団の総帥「カーディアス・ビスト」が所持していたようだ。ビスト財団は歴史的な美術品を地球から宇宙に移送して保管することを表向きの活動内容としており、その関係で入手したものと思われる。
未来の可能性、人間に内在する神
ガンダムUC本編よりおよそ百年前……宇宙世紀が始まろうとしているまさにその時、地球連邦首相官邸では、西暦から宇宙世紀への改暦を記念する式典が開催された。
地球連邦初代首相リカルド・マーセナスは、その式典でスピーチを行った。その中で彼は、人間の中に眠る「未来のあらゆる可能性を見据え、より高みに近づこうとする心」のことを「我々の内に存在する神」と呼んでいる。
……西暦の時代、それは神の言葉としてさまざまに語られてきました。人はどのように生きるべきか。いかにして世界と向き合うべきか。モーゼが授かった十戒の例を持ち出すまでもなく、それらに対する教えはあらゆる宗教に伝えられています。人間の言葉ではなく、人と神の契約の説話として。
今、神の世紀に別離を告げる我々は、契約更新の時を迎えようとしています。今度は超越者としての神ではなく、我々の内に存在する神――より高みに近づこうとする心との対話によって。宇宙世紀の契約の箱は、人類がその総意から生み出したものであるべきでしょう。この首相官邸の名前、〈ラプラス〉の語源についてはご存じの方も多いでしょう。十八世紀のフランスに生まれた物理学者の名前です。ラプラスは、過去に起こったすべての事象を細大もらさず――原子一個の動きに至るまで――分析することで、未来は完全に予測できると考えました。
この考えは後に量子力学の発達によって否定され、今では未来を完全に予測する術はないことが証明されています。我々はその経緯を逆説として受け取り、この首相官邸〈ラプラス〉の名を冠しました。
「未来にはあらゆる可能性がある」という意味を込めてのことです。…………今日、ここには地球連邦政府を構成する百ヵ国あまりの代表が集い、吟味に吟味を重ねた宇宙世紀憲章にサインをしました。間もなく発表されるそれは、のちにラプラス憲章と呼ばれ、人と世界の新たな契約の箱として機能することになるでしょう。……
……他人の書いた筋書きに惑わされることなく、内なる神の目でこれから始まる未来を見据えてください。
現在、グリニッジ標準時二十三時五十九分。間もなくです。この放送をお聞きのみなさん、もしその余裕があるなら、わたしと一緒に黙祷してください。去りゆく西暦、誰もがその一部である人類の歴史に思いを馳せ、そして祈りを捧げてください。宇宙に出た人類の先行きが安らかであることを。宇宙世紀が実りある時代になることを。
我々の中に眠る、可能性という名の神を信じて――
このスピーチの直後、首相官邸〈ラプラス〉は何者かのテロによって爆発。リカルド・マーセナスをはじめ、宇宙世紀憲章の文言の吟味に関わっていた各国代表達は全員死亡する。
そのおよそ百年後。カーディアス・ビストが、ユニコーンガンダムをバナージ・リンクスに託す際の言葉――
......今こそ人は、自らを律し、尊厳を取り戻さねば。百年前に紡がれた希望を生かすために。
内なる可能性を以て、人の人たる力と優しさを世界に示す。
今を超える力、可能性という内なる神を。
人類の新たな可能性、分かりあえる力、ニュータイプ
「宇宙に出た人類はその環境に適応するために潜在能力を開花させ、他者と誤解なく分かりあえるようになる」というジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプ論は、人の持つ無限の可能性、人の新たな力を謳ったものだった。
しかしニュータイプが確認された「一年戦争」から数十年、機動戦士ガンダムUCの本編の時代ではニュータイプは戦争の道具、撃墜王の代名詞として扱われてしまっており、『誤解なく分かりあえる人』という当初の概念からはもっとも遠いものとなっている。
このまま撃て!「可能性」に殺されるぞ!そんなもの……棄てちまえ!
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外部リンク
関連項目
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- ユニコーンガンダム
- バナージ・リンクス
- ユニコーンガンダム2号機
- ユニコーンガンダム3号機
- UNICORN
- ニュータイプ
- ユニコーン
- 一角獣
- タペストリー
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