WaveToneとは、Ackie Sound製作の耳コピ支援ソフトである。
概要
wav, mp3などの幅広いコーデックに対応しているフリーソフトであり、フリーソフトと思えないような機能の多さが特徴である。以下、ver.2.61のreadme.txt中の「主な機能」より引用。
・音声スペクトラム、基本周波数の解析
・キー検出、コード検出、自動採譜
・キータップと音源の音量変化からテンポ測定
・タイムストレッチ、ピッチシフト
・グラフィックイコライザ、L-Rなどのフィルタ
・指定範囲のリピート再生,指定位置にジャンプできるラベル機能
・録音機能
・解析結果のグラフ上でノート編集
耳コピ初心者にとってはできることが多すぎて戸惑うことになるかもしれないので、次項から具体的な使い方を解説する。ある程度使い慣れた頃にはきっとこのソフトから離れられなくなるだろう。
WaveToneを使って耳コピをしてみよう
1. 音楽ファイルの読み込み・解析
WaveToneをダウンロード・解凍し、耳コピするための音源を用意したら、準備完了である。
まず、wavetone.exeを起動しよう。このとき、音源をまだ読み込んでいないため画面の真ん中が灰色になっているはずである。よって、音源を読み込むために画面左上の「ファイル(F)」の「開く(O)...」を選択する。すると、新たなウィンドウが出てくるのでその画面で音源を選択しよう。音源を選択するとさらに「解析」(その右には選択したファイル名)と書かれた小さなウィンドウ出てくる。ウィンドウの内容は次の通りである。
1秒あたりのブロック数
半音あたりのブロック数
音階の範囲(オクターブ)
基準周波数 A4=
□基本周波数を解析
解析するチャンネル
□Stereo □L-R □L+R □L □R
最初のうちは全部チェックを入れたうえでデフォルトの設定で問題ないだろう。なお、一度解析すると変更するにはもう一度ファイルを読み込まなければいけなくなるので注意すること。ちなみに、ファイルやフォルダ名に環境依存文字(例えば"♡"など)が入っている場合、ファイルが認識されず「ファイルが見つかりません。」と出ることがあるので注意。そういうときはファイル名を書き換えよう。
1秒あたりのブロック数 (範囲:20, 25, 40, 50, 80, 100)
1秒につき何回解析を行うかを決める。この値が小さいと急激な音程の変化を読み取ってくれなくなる。「100」を推奨する。
半音あたりのブロック数 (範囲:1, 5, 10)
まず、「半音」とはピアノの鍵盤でいう「1つ隣」までの音の離れ具合を指す用語である(例:ミとファ、ラとシ♭)。また、この半音を「100セント」とおく数え方もある(このとき1オクターブは1200セントである)。ここで5や10を選ぶと20セントや10セントごとの細かい音程の解析をしてくれる。1以外の数値を選ぶと音程が曲線で出てくるので少々見づらくなるデメリットはある。ただ、ボーカルのしゃくり・こぶしや、ギターのチョーキングなど半音未満の音が重要になる場合もある。この値を1以外に設定すると少し動作が重くなるので曲調と自分の好みで設定するといいだろう。
音階の範囲(オクターブ) (範囲:0~10)
解析する音の高さの範囲を指定する。例えば「1~8」と指定した場合、C1~B8を解析して表示する(C1とは1オクターブ目のドを指し、B8は同様に8オクターブ目のシを指す)。高すぎたり低すぎたりする音はあまり使われないので解析しても意味がないかもしれない。参考までにそれぞれの高さのドの周波数の値をおいておく(小数点以下を四捨五入)。
音程 | C0 | C1 | C2 | C3 | C4 | C5 | C6 | C7 | C8 | C9 | C10 | C11 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
高さ(Hz) | 16 | 33 | 65 | 131 | 262 | 523 | 1047 | 2093 | 4186 | 8372 | 16744 | 33488 |
基準周波数
A4の周波数を指定する。日本のポップスでは概ねA4が440Hzであるが、日本のオーケストラにおいては442Hzを採用する場合が多く、海外のオーケストラでは444~448Hzとさらに高くなっている。また、17世紀頃のバロック音楽においては基準となる周波数の高さが定められておらず(370~560Hzと大きくばらつく)、クラシック音楽の耳コピをする際は、使用する楽器や時代背景などを考慮する必要がある。
基本周波数を解析
前項の「基準周波数」とは別物なので注意すること。倍音成分のうちの最も低い周波数が基本周波数となっている。大雑把に言うと、最もよく聴こえる音の周波数である。ラップなどに音程を強引に当てはめるときには使える。これは好みでチェックを入れたり外したりしていい。
解析するチャンネル
一般にステレオの音楽ファイルには左右2つのファイルが同時に収録されており、それらを同時に流すことで立体的な曲となる。その2つのファイルを様々な方法で組み合わせたデータも聴くことができるようになる。詳しくは後述するが原曲のStereoの他に、L-Rは非常に強力なのでチェックを入れておきたい。
2. 拍子・テンポの決定
音楽ファイルを読み込み、解析を終えると、読み込んだデータが縦軸が音程で横軸が時間のピアノロールで表示される。音が鳴っている周波数帯に色がついていて、赤ければ強く、青ければ弱く鳴っている。なお、弱すぎる音は表示されないようになっているのだが、表示する音の強さの閾値は「感度」(虹色のバー)を調節することによって変えられる。また、表示する色の色合いは「コントラスト」(白黒のバー)を調節することによって変えられる。
耳コピを始めるにあたって、まずは曲の拍子とテンポを決定しよう。
4 | 120 | BPM | 0 | ms |
と書いてある部分が(デフォルトでは画面上部中央に)あるが、それらの3つの数値はそれぞれ「拍子」「テンポ」「1小節目のスタート位置」を表している。拍子はおそらく判別できると思うので、拍子の値を入力してからテンポとスタート位置を確定させる。
最も簡単な方法は、Shiftキーを押しながら曲に合わせてスペースキーを押すことである。そうすることでテンポとスタート位置の両方を同時に確定させることができる。
なお、曲の途中で拍子やテンポを変えたい場合、画面左上の「表示(V)」タブの「リズム、キートラック(R)」や「テンポトラック(T)」を選択して表示させるとピアノロールの上部に専用のトラックが出現するので、変更したい箇所をダブルクリックするとそれ以降の拍子やテンポを設定することができる。
テンポは500BPM以下かつ0.0001BPM単位で設定することができる。さらにShiftキーとCtrlキーを押しながらスペースキーを押すと、0.01BPM単位でテンポを解析できる。
3. キーの決定
耳コピをするうえではキーの特定が欠かせない。多くの方法が存在するが、そのなかでいくつかを紹介する。
まず、WaveToneにはキー解析機能がある。画面左上の「解析(A)」タブの「キー解析(K)...」をクリックすると12本のバーが出現する。バーが長いほどそのキーである可能性が高くなる。他にもメロディなどを追っていくことでキーを判別する方法がある。聴き取ったメロディなどを鍵盤などで鳴らしてみて黒鍵を使った個数で判断する、メロディの最後はキーの主音である可能性が高い、などと推理していく。
なお、WaveToneにおいては平行調(relative key)は同じものとして扱われる(例:CとAm, FとDm)ので、注意が必要である。また、曲の途中でキーを変えたい場合も画面左上の「表示(V)」タブの「リズム、キートラック(R)」を選択して表示させ、専用のトラックをダブルクリックして変更できる。
4. コードの解析
テンポやキーが確定したら、「解析(A)」タブの「コード検出(C)...」をクリックする。すると新たなウィンドウが出現し設定する項目が出て来る。ウィンドウの内容は大きく分けると「検出位置」「スケール上のコードを優先」「検出対象のコード」の3つである。
「検出位置」とはコードの切り替わるペースを指定するオプションで、1, 2, 3拍ごともしくは1小節ごと(4拍子なら4拍ごと)に切り替えることができる。しかし、コードが切り替わる場所やペースは一定ではない。コードの検出位置は後で細かく変更することができる。なので雰囲気で決めてもそこまで問題ない。(4拍子の曲に「3拍ごと」と指定すると流石にダメだが)
「スケール上のコードを優先」とは、そのキーのスケールで用いられる音のみを使ったコードを優先するオプションである。例えばキーがF/Dmならば、「ファ、ソ、ラ、シ♭、ド、レ、ミ」を組み合わせて作るコードを優先する。優先する度合いはスライダーによって変更することができる。また、キーが途中で変わる曲に対してはこのオプションは無効となる。
「検出対象のコード」とは、検出した結果に出現するコードを制限するオプションである。全てにチェックを入れてもいいのだが、突拍子もないコード進行が生まれる可能性もあるので判断は難しい。とりあえずメジャースケールのダイアトニックコード(スケール上の音で作られるトライアド(3和音)やセブンス(4和音)のこと)に含まれるMajor, minor, 7, M7, m7, m7b5は指定しておこう。さらに汎用性の高いdim7, aug, sus4, 7sus4なども指定してもいいかもしれない。いずれにせよ、これらの検出結果をそのまま使うことは少なく、後で手直しをすることになることがほとんどなので雰囲気で決めても問題ない。
以上を決めて「OK」や「適用」を押すとコード検出が始まり、コードが表示されるようになる。表示されない場合は「表示(V)」タブの「コードトラック(C)」を選択する。それぞれのコードにはディグリーネームが併記されている。ディグリーネームとはコードの根音(ルート)がキーと何度離れているかを示す表記である。例えばキーをGとすると、GM7はIM7、Am7はIIm7、F#m7b5はVIIm7b5となる。なお、WaveToneにおいては平行調は同一視されるので短調の主和音はナチュラルマイナーならVImもしくはVIm7、ハーモニックマイナー・メロディックマイナーならVImもしくはVImM7として扱われる。
コード検出をする際の注意だが、Stereo・L-R・L+R・L・Rというチャンネルの組み合わせを選ぶボタンがあり、コード検出は現在選ばれているチャンネルの組み合わせで行われる。元の音源はStereoであるから、これを選んでいる状態でコード検出を行うことをおすすめする。
ここからは曲を聞き取りながらコードを確定させていく。まずはコードの変わり目の位置を決める。コードトラック上をCtrlキーを押しながらクリックすると、コードの変わり目(検出位置)を8分音符単位で変更(離したりつなげたり)することができる。小節をまたいでつなげることも可能なので「小節の始まりより8分だけ早くコードが切り替わる」といったよくある事象にも対応できる。
範囲も確定したら、コードトラックのコードが書いてある部分(「C7[V7]」のような部分)を右クリックしてコードを適切なものに変更する。10個のコードが候補として挙げられているほか、「コード名入力(I)...」をクリックすることで自分で決めることもできる。「コード名入力(I)...」で入力する際はオンコード(分数コード)を設定することもできる。さらに、コードを考えなくてよい箇所はN.C(no chord)とおくことができる。また、コードの書いてある部分をクリックするとそのコードの音を聞くことができ、ダブルクリックするとコード名を直接打ち込むことができる。
また、曲を流しながらコードを鳴らすこともできる。「ヘルプ(H)」の真下にある、重なっている音符とスピーカーの絵の「コード再生」というボタンをクリックすると鳴るようになる。コードを聞こえやすくしたければ、画面上部のWAVEというスライダーで曲の音量を下げると良いだろう。その際、曲に対してコードの発音が遅れることがあるが、「オプション(O)」の「設定(T)...」を選び、「発音補正時間」を調整するとその分だけ早くなる。
この部分に関しては音楽理論を学んでおくとかなり楽をすることができる。
5. 耳コピする
長い準備が終わったらようやく耳コピの開始である。再生速度や音程を変更したり、イコライザを調整したりしながら聴き取っていく。イコライザにはプリセットを記録しておく箇所が3つあり、イコライザの値を調整したあとにCtrlキーを押しながら画面上の「1」「2」「3」のどれかのボタンを押すことで記録される。
そして、耳コピするうえで大事なコマンドが再生速度・音程の下にあるチャンネル選択である。これらについて解説する。一般的な曲は左チャンネルと右チャンネルを同時に流すことで成り立っていることにも留意してほしい。
- Stereo...原曲通り左チャンネルを左から、右チャンネルを右から流す
- L-R......左チャンネルの音に右チャンネルの音の逆位相を重ねてモノラルで流す(詳細は後述)
- L+R......左チャンネルの音と右チャンネルの音を重ねてモノラルで流す
- L........左チャンネルの音のみを両側から流す
- R........右チャンネルの音のみを両側から流す
特に重要なコマンドが「L-R」である。任意の波形に対し全ての変位を反転させた音(変位の値を-1倍したもの)を重ねる(波動における重ね合わせ・足し算のこと)と、音は完全に消えてしまう。すなわち「L-R」のコマンドを用いると、左チャンネルと右チャンネルで共通して鳴っている音は消えることになる。つまり埋もれている音を見つけることが容易になる便利なコマンドなのである。
6. 保存する
解析したデータは「.wfd」という拡張子のつくファイルで保存することができる。新しく解析データを保存する場合「ファイル(F)」の「名前を付けて解析データ保存(A)...」を選ぶ。このようにしてファイルを保存しておくと、次回音声ファイルを読み込む際に、(音声ファイルがあるフォルダに同名の解析データがある場合)解析データを開くかどうか選択でき、「はい(Y)」を選ぶと前回解析したところから再開できるうえにデコードをする時間を短縮できる。
また、解析データを作っている状態では「ファイル(F)」の「解析データ上書き保存(S)」を選ぶことで、その解析データに上書き保存できる。
耳コピ実践編
/*この項目については特に意見を募集しています*/
以上を踏まえて1曲をコード進行までコピーしてみよう。MOSAIC.WAVのガチャガチャきゅ~と・ふぃぎゅ@メイト(short ver.)を例にとって説明する。
ダウンロードリンク(公式サイトからもリンクが貼られています)
上記のリンクから「figu_short.mp3」をダウンロードし、WaveToneで読み取る。その際には「解析するチャンネル」には全てチェックを入れておく。
まずは拍子・テンポを確定させよう。4拍子であることは分かるだろう。次にShiftキーを押しながら曲に合わせてスペースキーを押してテンポとスタート位置を確定させる。ある程度押し続けていると、178BPMの1000ms前後に落ち着くと思われる。
続いてキーの確定を行う。サビのメロディから推測してもいいが、ここではキー解析を使う。解析を行うと、A/F#mのバーが最も長い。実際キーをAとして考えると一番収まりが良い。したがってキーはA/F#mとおく。
今度はコード検出を行う。検出位置は「2拍ごと」もしくは「1小節ごと」で良いだろう。
さて、これで準備は整った。1小節目からコードを確定させていこう。
1~13小節目
1~4小節目はN.Cで構わない。効果音が鳴っているだけなのでコードとして解釈できないからだ。
5~12小節目は同じフレーズを延々と繰り返している。イコライザを使って低音部分を聞き出してみると、「レ→ミ→ラ」と鳴っているように思える。そこで、それらを根音とするダイアトニックコードを考える。ちなみにWaveToneでは3和音(トライアド)のdimがないので、m7b5やdim7などに置き換える必要がある。
キーAのダイアトニックコード (※[]内はディグリーネーム) |
|||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
根音 | ラ | シ | ド♯ | レ | ミ | ファ♯ | ソ♯ |
トライアド | A [I] |
Bm [IIm] |
C#m [IIIm] |
D [IV] |
E [V] |
F#m [VIm] |
G#dim [VIIdim] |
セブンス | AM7 [IM7] |
Bm7 [IIm7] |
C#m7 [IIIm7] |
DM7 [IVM7] |
E7 [V7] |
F#m [VIm7] |
G#m7b5 [VIIm7b5] |
また、IV, IV7はサブドミナント、V, V7はドミナント、I, IM7はトニックとして扱われる。一般にトニック(T)は弛緩、ドミナント(D)は緊張、サブドミナント(S)はドミナントほどではないが緊張の印象を与える。また、和音の構成が似ているVIm, VIm7はトニックの代理和音とされていてトニックとして扱うことができ、同様にIIm, IIm7はサブドミナントとして扱うことができる。VIIdim, VIIm7b5は和音自体の癖が強いのでドミナントとして扱うかどうかは半々といったところである。
IIIm, IIIm7に関してはドミナントとして扱う流派もあればトニックとして扱う流派もある。特にジャズ系の理論だとほぼトニックとして扱われる。ここではあまり触れないでおく。
さらに、T,Sはいずれの機能にも進むことができ、DはTに進むことが望ましいとされている(例外はたくさんある)。そのため、曲のリズムに合わせてIV→V→Iと移行していくのは非常に自然であるといえる。
13小節目はN.Cでいいだろう。
14~21小節目
14小節目のコードの候補を右クリックで出してみると上位に「A7」が入ってくる。さらにボーカルのメロディが「ソ♮」の音を出している。しかし、「ファ、ド」の2音については依然として半音上がっている。このことからキーDに転調しているとも考えられるが、Aメロ全体を通して「ラ」の音がメインに鳴っている。よって、Aメロである14~21小節目はAミクソリディアンで演奏されていると考える方が良いだろう。
Aミクソリディアンのコード (※[]内はディグリーネーム) |
|||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
根音 | ラ | シ | ド♯ | レ | ミ | ファ♯ | ソ |
トライアド | A [I] |
Bm [IIm] |
C#dim [IIIdim] |
D [IV] |
Em [Vm] |
F#m [VIm] |
G [VIIb]※ |
セブンス | A7 [I7] |
Bm7 [IIm7] |
C#m7b5 [IIIm7b5] |
DM7 [IVM7] |
Em7 [Vm7] |
F#m [VIm7] |
GM7 [VIIbM7]※ |
上記のコードがミクソリディアンで使うコードになる。Aメジャー(Aアイオニアン)と比べて「ソ♯」の音が半音下がっている。この「ソ」の音を含むコードが重要になってくる。ただし「ソ」を含む和音のうち、A, A7はモードの開始音なので特別扱いし、C#dim, C#m7b5はDへと解決したくなるので使わないほうが良い。
以上を踏まえてコードを考えていく。14, 15小節目はA7でいいだろう。16小節目は前半がGで、後半は低音で強く「ファ♯」の音が鳴っているがボーカルを始め「レ」の音も強いのでD#M7/F#が良いだろう。17小節目もA7で良いだろう。18~21小節目は14~17小節目をそのまま使って問題ない。コードトラックの範囲をドラッグするとコピーができる。
それに加え21小節目の後半2拍を「A」と「E/G#」に変更してもいいだろう。
※全体を通しての注意事項なのだが、16小節目前半でGを打ち込んだときにディグリーネームが[VI#]と出たと思われる。一般に(7つ目の音が半音下がったと解釈するため)[VIIb]と表記するのが普通なのだが、♯を用いる調(「五度圏」を参照)だとコードもディグリーネームも「#」が使われるという仕様になっている。逆に♭を用いる調だと、例えば普通は[IV#m7b5]と書くようなディグリーネームも[Vbm7b5]と表記されてしまうので注意。
以降も表で用いるディグリーネームは一般的なものを使用するが、画面に出てくるものと違ってくる可能性には気をつけてほしい。
22~33小節目
最初の4小節はWaveToneが提示する候補に従って「F#m | C#m | D E | A」で良いだろう。問題は26小節目であるのだが、先回りして27小節目を聴いてみるとF#m[VIm]らしい。よってそれに繋がるようなコード進行を考える。26小節目を半分に分割すると後半におけるWaveToneの候補にC#が出てくる。これは代表的なノンダイアトニックコード(ダイアトニックコードではないコード)の一つであり、セカンダリードミナントとよばれる。次の表を見てほしい。
キーAにおけるセカンダリードミナント (※[]内はディグリーネーム) |
|||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
解決先 | A [I] |
Bm [IIm] |
C#m [IIIm] |
D [IV] |
E [V] |
F#m [VIm] |
G#dim [VIIdim] |
AM7 [IM7] |
Bm7 [IIm7] |
C#m7 [IIIm7] |
DM7 [IVM7] |
E7 [V7] |
F#m [VIm7] |
G#m7b5 [VIIm7b5] |
|
対応する セカンダリー ドミナント |
E7 [V7] |
F#7 [VI7] |
G#7 [VII7] |
A7 [I7] |
B7 [II7] |
C#7 [III7] |
まず、E7→Aへの5度下降が自然なのはE7の「ソ♯、レ」がそれぞれAの「ラ、ド♯」へ移ろうとするからであり、「ソ♯、レ」が減5度という不安定なインターバル(間隔)を持っているからである。全てのダイアトニックコードに対して5度下降するドミナントコードを考えると上記のようになる。なお、Iに対するドミナントコードはすでにV7として存在していてこれをプライマリードミナントとよぶ。また、VIIdimやVIIm7b5には解決したくならないため、それに対するセカンダリードミナントは考えない。
さて、今回のように27小節目のF#mへのセカンダリードミナントを考えるとC#7が出てくる。26小節目の後半の音を解析してみると、ド♯やファ(=ミ♯)の音が強く出ている。さらにベース音がド♯の音を出しているので、26小節目の後半はC#7で良いだろう。
さらに遡り、26小節目の前半のコードを考える。右クリックをして候補を見てみるとG#mなどのソ♯を根音とするコードが多く出てくる。ここで考えられる概念として「マイナーツーファイブ」というものがある。先程セカンダリードミナントを考えたが、これはとあるコードを1番目とおいてそれに対して完全5度上のコードを考えることで成り立つものである(例:F#mの根音に対して完全5度上はド♯なのでC#7)。さらに、一般のコード進行にはIIm→V7→Iというものがある。これはV7→Iという進行のV7に対しさらに完全5度上のIImを付けることによってよりスムーズなコード進行にしたものである。これを先述の話に適用させる。F#mの完全5度上のドミナントはC#7、さらに5度上のコードのマイナーコードを考えるとG#m7となる。このマイナーコードのことをリレーテッドツーマイナーセブン(related IIm7)とよぶ。さらに、そのコードをG#m7b5にすることでさらにスムーズな進行となる。このコードのことをリレーテッドツーマイナーセブンフラットファイブ(related IIm7b5)とよび、普通はマイナーツーファイブとよばれる。
また、マイナーコードに対するツーファイブのツーをm7b5にするという考え方もある。これはマイナーキーのダイアトニックコードに由来する。今回で言えばキーF#mにおいてF#mをImとして考えるとIIの和音としてG#m7b5が与えられる。
今回は到達先が平行調の主和音のVImだったのでG#m7b5はキーAのダイアトニックコードと一致する。VIm以外を到達先に選ぶとツーファイブのツーは元のキーのダイアトニックコードとは一致しない。(ただし一致しないことは悪いことではない)
以上をまとめると、26, 27小節目のコード進行は次のようになる。
G#m7b5 C#7 | F#m
28~31小節目は「Bm C#m DM7」の繰り返しで良いだろう。順次進行という隣り合ったコードに移動する自然な進行の一つである。
32, 33小節目はEを伸ばしているだけのように聞こえるかもしれないが、よく聴くと32小節目の4拍目が半音上がって(すなわちFのコードで鳴って)いるように聞こえる。この音は先程のセカンダリードミナントの知識を応用させると説明することができる。それが代理ドミナント(substitute dominant)と呼ばれるものであり、以下のものがある。
キーAにおける代理ドミナント (※[]内はディグリーネーム) |
|||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
解決先 | A [I] |
Bm [IIm] |
C#m [IIIm] |
D [IV] |
E [V] |
F#m [VIm] |
G#dim [VIIdim] |
AM7 [IM7] |
Bm7 [IIm7] |
C#m7 [IIIm7] |
DM7 [IVM7] |
E7 [V7] |
F#m [VIm7] |
G#m7b5 [VIIm7b5] |
|
対応する ドミナント |
E7 [V7] |
F#7 [VI7] |
G#7 [VII7] |
A7 [I7] |
B7 [II7] |
C#7 [III7] |
|
代理ドミナント | A#7 [IIb7] |
C7 [IIIb7] |
D7 [IV7] |
D#7 [Vb7] |
F7 [VIb7] |
G7 [VIIb7] |
E, E7を例にとって説明する。これらに対するセカンダリードミナントはB7である。ドミナントコードの肝はコードの根音に対する3度の音(上中音)と7度の音(導音)で構成されるトライトーン(三全音)である。この音は非常に不安定であり、この状態を解放することによって曲は作られていく。ここで、B7のトライトーン「レ♯、ラ」を含むドミナントコードを探すとF7になる。このコードもB7と同様にE7へ解決する効果をもつと考えられ、場合によってはB7とは違った滑らかさを醸し出すことができる。
また、代理ドミナントは「裏コード」ともよばれる。これは五度圏において裏側(増4度/減5度)の位置に存在しているコードであるからである。
34小節目~
いよいよサビに移るが、サビのコード進行は耳にへばり付くような非常にキャッチーなものとなっている。34,35小節目を2拍ごとに区切りWaveToneが提示したコードを見てみると、「D[IV] E[V] C#m[IIIm] F#m[VIm]」になっていると思われる。これは王道進行とよばれるもので、循環コード「I VIm IV V」の派生の逆循環コード「IV V I VIm」のさらに派生の「IV V IIIm VIm」であり、ヨンゴーサンロク(4536)ともよばれている。恐ろしいほど汎用性の高いコード進行で多くの曲に使われている。
36,37小節目は「Bm E | A」すなわちIIm→V→Iという非常に素直な進行である。
38,39小節目は同様に4536、40,41小節目は「Bm C#m | Bm E A」で良いだろう。
ここまでをまとめると34~41小節目は次のようになる。
D E | C#m F#m | Bm E | A
D E | C#m F#m | Bm C#m | Bm E A
42~49小節目も上記と同様で良いように思えるが48小節目の後半(上記のC#mの部分に該当)が何やらおかしい。48小節目後半をよく見てみると「ド、ミ、ソ」の音が強く鳴っているように感じる。ここで考えられることとして「モーダルインターチェンジ」が挙げられる。モーダルインターチェンジとは(リディアンやフリジアンなどの)モードを変更することを指し、狭義ではアイオニアンからエオリアンすなわちメジャーからマイナーへの「同主調変換」を指す。多くの場合、同主調変換はキーがメジャーある曲において同じルートのマイナーのキーのコードを持ってくる。今回の場合、曲のキーがAなのでキーがAmのコードを持ってくる。すると次のようになる。
キーAmのダイアトニックコード (※[]内はディグリーネーム) |
|||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
根音 | ラ | シ | ド | レ | ミ | ファ | ソ |
トライアド | Am [Im] |
Bdim [IIdim] |
C [IIIb] |
Dm [IVm] |
Em [Vm] |
F [VIb] |
G [VIIb] |
セブンス | Am7 [Im7] |
Bm7b5 [IIm7b5] |
CM7 [IIIbM7] |
Dm7 [IVm7] |
Em7 [Vm7] |
FM7 [VIbM7] |
G7 [VIIb7] |
48小節目の後半のみ一時的にAmに転調してCM7を借りてくることで、曲にさりげない意外性を持たせることができる。
49小節目以降はこれまでのコードの切り貼りで問題ないが、64小節目の最後の8分から全音符分の長さの箇所のコードはN.Cで構わない。解析した結果を見てみると、C3の部分から順に「ドー、ファ、シ♭、ミ♭、ラ♭、レ♭、ソ♭」(最初のドの音だけ4分で残りは8分)と完全4度ずつ上昇している。先述の7つの音を同時に鳴らしたコードは4度堆積(4th interval build)とよばれ、コードネームで書き表されることは少ない。また、65小節目はコードとしての機能をそこまで考えなくていいのでN.Cで十分である。どうしてもWaveToneの範囲でコードを付けたいのならばCm7b5(ド、ミ♭、ソ♭、シ♭が含まれる)あたりが妥当だろうか。(よく聴くとCm7b5で鳴っているようにも聞こえる)
完成
これでガチャガチャきゅ~と・ふぃぎゅ@メイト(short ver.)のコード解析は概ね終わった。これより先、例えばどんな音が鳴っているのかという耳コピを行いたい場合、コードごとに使用できるスケール(available scale)が決まっているのでそれをヒントにして行うと楽である。
関連動画
関連項目
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