タックスヘイブン(tax haven、租税回避地)とは、法人税などの各種税率や各種の参入障壁を低く設定することで、他国からの資金の流入や法人の設立を奨励する政策をとっている国や地域のこと。厳密な定義はないが、日本では法人税率20%未満の国や地域をタックスヘイブンとしている。後述の経緯により、後ろ暗いイメージで語られることが多い。
法人税等の軽減政策は、先進国や資源国と比べて大きなハンデを背負う小さい国々が、諸外国の資本を受け容れることで自国の発展を促そうとして考え出した政策であり、適切に運用される分には国際的にも意義ある政策である。
…なのだが、世界中の巨大企業や大富豪たちが次々とこれに便乗してマネーが過剰に流入する現象が起きてしまい、国際的な経済問題・社会問題に発展してしまっている。それどころか、前述の零細国家のみならず、海外マネーの流入の促進や自国企業の海外逃亡を防止するために先進国でも法人税率の引き下げが行われ、法人税率の引き下げ競争の結果として先進国もがタックスヘイブン化するケースが出てきている。こうした法人税率の引き下げ競争の激化は各国の財政に少なからず打撃を与えているものと考えられる。言うならば、ファーストフード店の値下げ競争と同じ問題が国家レベルでも発生しているのである。
タックスヘイブンの濫用については以下の項目にて記述するような数々の問題点があるため、日本を含めた各国ではタックスヘイブンの利用を規制する法制が整えられている。日本では既に「国外財産調書制度」が創設され、税務当局が厳しく目を光らせている。また、FATF(Financial Action Task Force on Money Laundering)という複数の政府による国際機関が、タックスヘイブンの悪用を食い止めるため、「タックスヘイブンと呼ばれたくないならこういう決まりを守りなさい」という指針を決めており、各国・地域のこの遵守状況を監視している。
しかし、ただ単に「タックスヘイブンに資産を置いているだけ」では世界各国の課税要件に該当しないことがある。日本でも「タックスヘイブンに資産を置いているだけ」の状態では課税要件に当たらないため、資金の流れを追いかける必要があったり、諸外国との協力・連携を強める必要があるなど課題は多い。2018年度からはマイナンバー制度をタックスヘイブン対策に絡めるという話もある。マイナンバーの創設を急いでいた理由の1つに、これもあったのかもしれない。
タックスヘイブン。タックス(tax)は税金なので、税金のヘブン。税金天国。税金を支払わなくていい、まさに税金の楽園……
と思われがちだが、「ヘイブン」は「haven」と書き、天国と言う意味の「heaven」(ヘブン)とは違う。
「haven」は「泊地」「停泊港」「避難港」と言った意味で、要するに「税金の避難所」と言った意味である。税金逃れという意味合いが強い言葉であることがわかる。
ただし、割と世界的に「heaven」との混同はされているらしく、フランス語の「paradis fiscal」、スペイン語の「paraíso fiscal」のようにロマンス語派を中心に「税の楽園」という意味合いの語となっている言語があるのも事実である。
タックスヘイブンの定義は国によって異なるが、日本では法人税の実効税率が20%未満の国がタックスヘイブンと見做されている(※日本の法人税の実効税率は35%強だが、世界の流れに乗って近年中に30%弱にまで下げる見通し)。
地域 | 国・土地 |
---|---|
欧州 | オランダ、スイス、アイルランド、ハンガリー、ポーランド、モナコ、ルクセンブルグ、ジブラルタル、リヒテンシュタイン、マン島、など(注・オランダは法人税率25%だが、キャピタルゲイン非課税枠があるため、非課税枠が大きい場合タックスヘイブンとなる場合がある)。 また、2017年度にはイギリスがタックスヘイブン対策税制の適用対象国となる見通しである。 |
中近東 | バーレーン、キプロス、ドバイ、マルタ、など |
アフリカ、インド洋 | モーリシャス、モルディブ、など |
アジア | 香港、シンガポール、マカオ、フィリピン、など |
太平洋 | モーリシャス、マーシャル諸島、クック諸島、サモア、バヌアツ、ニューカレドニアなど |
中央アメリカ | ウルグアイ、プエルトリコ、マリアナ、グアム、ドミニカ、コスタリカ、ケイマン諸島(英)、バージン諸島(英)、バージン諸島(米)、バミューダ島(英)、バハマ諸島、アンティール諸島(蘭)、など |
上記だけでは何が問題なのかわかりにくいだろうか。タックスヘイブンやタックスヘイブンの利用者にとっては法人税が低いことはありがたいことだろう。しかし、タックスヘイブン以外の国々やタックスヘイブンを利用していない人々に視点を移すと、様々な問題点も見えてくる。
まず前提として、企業の利益と言うものはその企業だけで達成されるものでなく、購買力を有する消費者らや、サービスや商品などの価値を生み出すための社会インフラなどがあって初めて生まれるものである。そしてそれら消費市場や社会インフラは、それらの市場・インフラを所有する国の政府によって管理維持されており、その財源の一つとなっているのが法人税である。
さて、例えば大儲けしている企業があるとする。この企業は儲けた額に見合うだけの税金を、どこかの国の政府に支払う義務がある。そこで、この企業が税金を安くするために「書類上の会社(ペーパー・カンパニー)をタックスヘイブンに作り、儲けをそこに集中する」という方法をとったらどうなるか? その企業が市場・インフラを利用している国の政府は、タックスヘイブンが無ければこの企業から支払われるはずだった多額の税金を逸することになってしまう(→移転価格問題)。そのうえこの企業は、他の企業などが支払った税金で整備された市場・インフラにただ乗り(フリーライド)している形になる。
また、海外に資産を逃がすという意味合いがあるため、自国内と異なり行政の眼が行き届きにくい。そのため脱税や不正蓄財、犯罪で得た利益の洗浄(マネーロンダリング)などの温床になりうる。これに対する税制の整備は前述のタックスヘイブン対策税制と比べて遅れを取っていたが、ここ数年で海外への送金や国外資産の保有といった資料情報の蓄積や後述の国外財産調書の提出義務化など、税務当局の監視の強化が急ピッチで進められている。
ただし、海外に資産を逃がすだけなら包囲網は強化されつつあるが、もっと厄介なのは資産だけでなく本人自身の身体もろともタックスヘイブンへ逃げてしまった場合である。こうなると、たとえ日本人であっても日本の税制上では「非居住者」となり、国内の税金を納める必要はなくなってしまう。これについては平成27年7月より「国外転出時課税制度」が創設され、一定の条件に当てはまる資産家は国外転出時に投資資産の含み益を申告・納税しなければならなくなった。このように、最近になって漸く少しばかりの網が張られる状態になったばかりである。
上記から、いわゆる「富の再分配」が阻害されるため、経済格差の原因の一つとなっているとする意見もある。例えば貧困問題にかかわる国際団体オックスファムなどがそう強く主張している。
ただ、タックスヘイブンに会社を作る理由は税金逃れや資産の隠匿が全てかというと、必ずしもそうとは言い切れず、税金や蓄財以外の目的でタックスヘイブンに会社を設立する場合がある。よくあるのは仲の悪い国相手に企業が進出する場合で、直接進出すると相手国から見た自国のイメージが悪いために不買運動やバッシング等が頻発して商売が成り立たなくなってしまう恐れがある。そこで「第三国にペーパーカンパニーを設立しそこから海外進出してきたかのように装うと、進出先は敵国が生産した商品と思わず買ってくれるだろう」という訳である。
タックスヘイブンはペーパーカンパニーが乱立しているため、真の輸出元がどの国であるかをカモフラージュしやすく、秘密を厳守することから、真の輸出元がどの国であるかを隠したいときにも好都合という訳であるが、この性質がテロ組織や、テロ組織に類似する問題のある国家への輸出入取引に悪用されやすいという問題も抱えている。タックスヘイブンを考えるときには、このような側面があることも頭の片隅に入れておいた方が良いだろう。
移転価格問題について解説すると、例えば法人税の税率が異なる二国間に親会社と子会社があり、相互に取引したとする。本来あるべき利益の取り分を日本50:海外50とするところを、税率が安い国の方で利益を大きくしたほうがトータルで納める税金が安くなるため、利益の取り分を日本20:海外80と歪な形にすることをいう。
このため日本では移転価格税制を適用し、この差を徴税漏れとみなして不足分の30を取り立てては、企業が「二重課税だ」と反発して訴訟に持ち込むケースが後を絶たず、また司法でも場合によって国が勝ったり企業が勝ったりと判断が揺らいでいるといった問題に発展している。そして、これがもし日本とタックスヘイブンにある子会社相手の取引だったら…と思うと、経営者でなくても両社間の利益をどう配分したいかは想像がつくだろう。
日本の法人税率の引き下げが近年繰り返し行われているのは「金持ち・大企業優遇目的」という単純な理由ではなく、「諸外国よりも実効税率が高いと国際展開している企業が日本で法人税を納めてくれないから、仕方なく税率を引き下げている」という事情があるのである。これに関しては何もタックスヘイブン相手に限った話ではないが、諸外国がタックスヘイブンと対抗するために法人の実効税率を引き下げると、当然日本も追随しないと国際社会で負けてしまう。こういった意味でも、移転価格税制はタックスヘイブンの存在が強く影響を与えている問題であると言えるだろう。
もっとも現在の日本においては、タックスヘイブンにあるペーパーカンパニーに儲けを集中させても、タックスヘイブン内にある子会社との法人税率差に相当する税金を、日本国内にある親会社が法人税として支払わなければならなくなる仕組みとなっているため、租税回避を目的としたこの手法の旨味はかなり失われている。
しかし、タックスヘイブン内で本当に活動実態があり、日本法人からの支配力が一定基準以下(出資額が50%未満・外国関係法人の株式保有割合が10%未満等)であると認められる場合は対策税制の対象外となり、結果的にいくらか恩恵を受けられてしまうことも否めない。租税回避なのか、自由競争の中での国際間取引なのか、その境界線はハッキリしないグラデーションであるため、自由な競争を過剰に妨げてはいけないという理屈もあるからである。
一方、タックスヘイブン国内における投資・資産運用は活発に行われている。資産運用に特化した特定目的会社をタックスヘイブン内に設立し、運用する限りは税金がかからない(国内へ引き出したときに課税される)ため、再投資による税効果が最適であるためである(平たく言うと国内では利益の20%に課税され、残り80%の部分しか再投資出来ないが、タックスヘイブン内では利益の100%が丸々再投資出来ることとなる)。保有資産を分割することで親会社が倒産した際のリスクを軽減させる効果もあるため、(国民のためかどうかはさておき)その会社の株主のためならタックスヘイブンに特定目的会社を作ることは経営判断から見て何らおかしいことではないのである。また、タックスヘイブンには資産運用の成功報酬を食い扶持にしている百戦錬磨のファンドマネージャーが少なからず居ることなど、これらの優位性を利用しようとしてタックスヘイブン国内に蓄財し資産運用している大企業や資産家も多い。その多くは日本国内で法人税や所得税等を支払った後の剰余金を運用しているだけであるため法的には問題ないが、アングラマネーの流通や、本国で脱税した後の資金をマネーロンダリングしたり不正に蓄えている後ろ暗い連中と同一視されてしまうリスクも低くない。
また、ほぼ日本固有に見られる傾向として、タックスヘイブンにおける匿名性の高さを利用して逆に損失を隠し粉飾決算を行うためにタックスヘイブンが利用されるケースが実際にある。これは日本の企業が税逃れをして租税回避することよりも、納めなくても良い税金を納めてでも経営不安を隠蔽するために粉飾決算を組んで損失を隠したがることの方に動機が向きやすい傾向があるからだと考えられる(実例としては、2011年に明るみになったオリンパスの粉飾決算事件などがある)。即ちこのケースではタックスヘイブンが租税回避とは真逆の方向に利用されていることになる。無論、税金をたくさん納めているから良いと言うわけではないことに留意しておく必要がある。
ちなみにタックスヘイブンへの投資は大金持ちだけのもの、と思われがちだが実はそこまでの稼ぎでなくても利用は出来る。最も安いもので毎月3万円程度の余裕資金を積立貯蓄に回せるくらいの稼ぎがあればタックスヘイブンを利用することが可能である。どういう商品かというと、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を介して毎月最低250米ドル(または2500香港ドル)からの積立投資を行う、というものであり、俗に「オフショア積立投資」と言われる。
ただ、金額的にはハードルは低いが、口座を作るためのハードルがかなり高い。海外に投資用の口座を作る必要があり(日本では香港が人気なようである)、パスポートが必須、連帯名義人を必ず作らなければならない、その他諸々制限がかかるといった具合である(特に日本は租税条約や情報公開関係に煩いと思われているらしく、タックスヘイブン国からの印象はあまり良くないようである)。
デメリットは資産の運用益に対する手数料の割合が大口取引と比べて割高であることや、選べる商品が少ないこと。金持ちとそうでない者の格差はここでも避けられない話である。また運用商品も積立投信みたいなものなので、運用益に対する税金はかからないが当然元本保証ではないことに留意する必要がある。…以上、受け売りの記述ですが参考になれば幸いです。
「何らかの金融処理上の便宜のために、国外の金融機関に法人をおいて経済活動を行うこと」を「オフショア金融」と呼び、そういった目的によく利用される国・地域を「オフショア金融センター」と呼ぶ。
タックスヘイブンとオフショア金融センターの何が違うの?というと、だいたい似たような感じである。だが、本記事冒頭でも述べたがタックスヘイブンは上記のような「後ろ暗いことの為に利用されているところ」というニュアンスがより強い。
「オフショア金融センターの中で、FATF勧告などを遵守しようとせず不正の温床となっているところがタックスヘイブンである」とも言えるかもしれない。
だがこの「オフショア金融センター」と「タックスヘイブン」の2つの言葉あまり厳密に使い分けられているわけではなく、「同じことを言い換えているだけ」と見なす人もいる。
掲示板
177 ななしのよっしん
2022/05/11(水) 20:59:00 ID: kXq/RwDzdy
難しくてなんのこっちゃ分からん。
ドラクエで例えてくれ。
178 ななしのよっしん
2022/06/09(木) 10:12:28 ID: oU98UYANZs
誤解を恐れず細かい事を端折って簡潔に説明すると
100儲けた内30税金納めなきゃいけない国で会社を運営してるけど
外国で100儲けた内100そのままにできるところに移動して税金納付を回避する手法ができる国々の事
ということでええんか
179 ななしのよっしん
2023/10/29(日) 10:34:30 ID: HlFjICh9dN
記事長すぎて読む気にならん 駄文規制で取り締まるべき
急上昇ワード改
最終更新:2025/01/03(金) 12:00
最終更新:2025/01/03(金) 12:00
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