桃太郎の海鷲とは、大東亜戦争中に製作・公開された日本の国策映画である。
1943年3月25日に公開された、真珠湾攻撃を題材とした戦意高揚映画。37分の白黒アニメだが、本作品こそが日本初の長編漫画映画である(新聞広告にも「日本最初の長編漫画映画」の文字がある)。当時の国産アニメは10分程度だった事を考えると、37分でも十分長編と言える。本作の大ヒットはアニメの社会的地位の向上に大きく貢献し、現代で数多く製作されているアニメ群の始祖的存在と言えよう。
子供向けの作風で、題名の通り岡山県の有名な童話「桃太郎」をモチーフにしている。桃太郎率いる3匹のお供(キジ、サル、イヌ)が鬼が島へ乗り込むなど童話の展開を踏襲しているが、その攻撃方法が航空機による泊地空襲という近代的なものになっている。故に登場人物は桃太郎を除くと動物で占められている。冒頭には「この映画を大東亜戦争下の少国民(子供)に贈る」という字幕も確認できる。また実際のニュース映像や写真、アメリカ側の資料を使っており、絵と実写を使い分けている。更に記録や写真に残されている風景を事細かに再現しており、リアルさを演出。海軍が協力している事もあって、兵器の描写及び効果音は本物に近い。戦争映画だが全体的に明るく、コミカルな描写もある。
戦前までは漫画映画と言えばアメリカ製のもので占められ、国産映画は見向きもされない状況だった。しかし大東亜戦争勃発でアメリカ製漫画映画は規制対象となり、臣民は娯楽に飢えていた。そんな中で製作・公開された桃太郎の海鷲はちょうど臣民の需要に応える形だったため、公開直後から大ヒットを記録。興行収入は65万円だった。軍はプロパガンダ映画の重要性に気付き、姉妹作の「桃太郎 海の神兵」が製作された。作風は本作のものを引き継いでいる。
1942年、日本プロレタリア映画同盟に所属していた瀬尾光世は海軍に呼び出され、真珠湾攻撃を題材とした国策アニメ映画の演出担当を命じられた。製作は藝術映画社が、脚本は栗原有茂が、音楽は伊藤昇が担当。海軍省が後援に回っていたため、潤沢な制作費が支給された。民間では不足していたフィルムがふんだんに使われ、12名以上のスタッフが半年以上をかけて製作。作画枚数は15万枚以上に及ぶ。当時セル画は非常に高価なもので使い回しが基本だったのだが、本作には豊富にセル画が支給されていたので、使い回しの証左である黒い線が殆ど見えない。リアリティ追求のため、海軍も様々な面で便宜を図った。製作スタッフに霞ヶ浦海軍航空隊の調査を許可したり、占領地で得たディズニー映画を提供してスタッフに鑑賞させたりと協力を惜しまなかった。何枚もの絵を重ねて撮影できる最新の多層式撮影台が初めて使用されており、今までに無い奥行きの表現に成功している。よく同時期のディズニーアニメと比較してクオリティの低さが指摘されるが、ディズニーは4年の歳月と170万ドルの制作費、500名の人員という超大規模な環境で作られており、小規模体制だった日本のアニメ製作現場と比べるのは酷な話である。
夜明け前の洋上を進む、1隻の航空母艦。飛行甲板ではウサギ整備員が航空機の発艦準備を進めている。耳で手旗信号を送るウサギの姿も見受けられる。空母の艦長である桃太郎は自身の部下であるサル、キジ、イヌに訓示を行う。彼らは号令とともに愛機に飛び乗り、ウサギ整備員たちに見送られながら飛び立つ。目的は鬼畜米英に見立てた、鬼が島の主力艦隊と赤鬼空軍の撃滅であった。
一路、鬼が島を目指して飛行する攻撃隊。三番機の中では、イヌとサルが積み木をして遊んでいた。どう見ても艦攻なのに陸攻並みの広さがある。ふと左翼端を見てみると、親鳥と離れて泣いている小鳥の姿があった。見かねたサルがあやすが、小鳥は泣き止まずイヌには笑われる始末。困り果てたサルは「きびだんご」と書かれた袋から零戦の模型を取り出し、小鳥の前で動かして見せた。模型を貰った小鳥は大喜び。そこへ親鳥の声が聞こえ、サルが小鳥を連れて僚機を足場代わりにして移動。無事親鳥に引き渡され、2羽の親子は去っていった。
やがて眼下に島が見えてきた。鬼が島である。島内ではのどかな音楽が流れ、戦艦が湾内に停泊している。そこへ一気呵成に航空隊が襲い掛かった。急降下時、何故かスツーカのジェリコのラッパが鳴っている。魚雷が命中し、次々に沈没していく敵戦艦群。漫画ポパイに登場するプルートがあっと言う間に白旗を揚げる。一方、飛行場に駐機している赤鬼空軍の航空機をサルが率いる攻撃隊が片端から破壊。一部は機体から降り、敵爆撃機(B-17)に火を放ってバラバラに吹っ飛ばした。やがて鬼が島も体勢を立て直し、対空砲火を上げてきた。多くの機体は離脱に成功したが、三番機は被弾して黒い煙を引いた。
攻撃隊は空母へと帰還。ウサギ整備員や桃太郎艦長が出迎えた。しかし被弾していた三番機は空母まで辿りつけず、不時着水。絶体絶命の危機に陥る。そこへ先ほどの小鳥が現れ、親鳥が3匹の搭乗員を救助。この報せは空母にも届き、桃太郎艦長の訓示によって搭乗員の無事が知らされた。攻撃隊の損害は不時着水した三番機のみであり、作戦を成功させた空母は帰路につくのだった。
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最終更新:2024/04/25(木) 14:00
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