電機子チョッパとは、直流電動機の制御方法の一つである。
特に鉄道関連に於いては「サイリスタチョッパ」や「チョッパ制御」と呼ばれることもある。
電動機(モーター)は、知っての通り電気エネルギーを回転力(回転モーター)や推進力(リニアモーター)などの、機械的な運動に変換する素子である。
直流電動機は直流の電力を、交流電動機は交流の電力を加えてやることで動作する。
このうち、鉄道車両にはかつては直流電動機、その中でも「直流直巻電動機」(電機子コイルと、界磁コイルが直列に繋がっているタイプの電動機)が、
などの理由により用いられてきた。
直流モーターに限らないが、電車向けのような大型のモーターでは、ミニ四駆など小型モーターのように停止状態から電源の電力(:電圧×電流)をそのまま投入することはできない。制御装置を通さずに、架線からいきなり直流1500Vの電力を直接加えれば、
・・・など、大惨事が起きてしまう。そういった事態を未然に防ぎ、乗客に安全性と快適な乗り心地を提供するために「電動機の制御」は絶対不可欠なのである。
電車の電動機の制御方法としては、それまでは抵抗制御が多く使われてきた。
抵抗制御は直流電動機の制御方法としては最も基本的なもので、「電動機と直列に抵抗器を多数繋いでおき、その抵抗器を1つずつ回路から抜き取っていくことで、速度に応じて出力(電圧)を上げていく」という制御方法である。
しかし、この抵抗制御では「電気を大量に取り入れておいて、余分な電気は抵抗器で熱に変えて捨てる」というヒジョーに勿体ないことをしている。
古い電車が停車していると、その床下から電気ストーブでもつけているかのような熱風が上がってきたという経験がある方もいるのではないだろうか。あの熱こそ「抵抗器で熱に変えて捨てた電気」である。
1両あたり30~40tもの電車を100km/h以上で走らせるだけの電気エネルギーを「熱に変えて捨てる」のだから、その量は半端ではないことは容易に想像できるだろう。
地上ならともかく、熱の逃げ場のないトンネル内を走る地下鉄などにおいてはたまったものではない。環境の面で非常によろしくないし、勿体ない。
(ただし、この「電気を熱に変えて捨てる」という動作は発電ブレーキにおいては様々な点で有利な部分もあるため、山岳区間用の電車では敢えて抵抗制御を未だに採用し続けたり、或いは「ブレーキ用」にわざわざ抵抗器を積むケースもある)
・・・そのため、「いちいち電気を捨てるくらいなら、最初から『必要な分だけ電気を取り入れる』ようにすればいいんじゃね?」という考えから生まれたのが電機子チョッパ制御である。
抵抗で熱に変えて捨てるのではなく、半導体素子が1秒間に数100回という超高速で電気のON/OFFを繰り返す(:スイッチング)ことで、電気を「少しずつ、かつ必要な分だけ取り入れていく」という制御方式であり、理論上熱に変わって「捨てられる」電気はゼロになる。(実際はスイッチング素子の抵抗などにより、完全に「捨てられる」電気をゼロにすることはできない)
スイッチングを行う半導体素子には、大電力制御用半導体素子であるサイリスタ(GTOサイリスタ含む)が鉄道車両では多く使用される(フォークリフト等の小規模な装置の場合は、MOSFETやIGBTなどが使用されることもある)。
電機子チョッパ制御の電車が加速するときには一定の音程で「ビー・・・・」だの「ブーーーーーーン」だのといった変な音が聞こえてくるが、これこそがサイリスタなどのスイッチング素子が電気を超高速でON/OFFしている音である。そのために可聴域の周波数でノイズが発生し、それがノイズ防止用のフィルタリアクトル(電磁気ノイズ抑制用の巨大コイル)や電動機で「音」に変換されているのだ。(そもそも「磁気を使って電気を運動エネルギーに変える」という点では、電動機とスピーカーは親戚みたいなものである)
この「音程」、つまりスイッチング周波数は鉄道会社やメーカーによってまちまちであり、電車によって様々な音程の音が出る。
・・・と、「よくわからないけどなんか省エネみたいだし、かがくのちからってすげー!」と思ってしまうような電機子チョッパではあるが、弱点もある。
制御装置が電子回路な上、心臓部である「大容量のスイッチング用半導体素子」も目ン玉飛び出るようなお値段なので、必然的に装置の価格、行く行くは電車自体の価格が高くなる。そのため旧来の抵抗制御方式を完全に置き換えるには及ばず、より廉価なシステムで回生ブレーキを使用できる界磁添加励磁制御や界磁チョッパ制御(直流複巻電動機を使用)などの方が広く普及した。
そもそもこの制御方式は、使用する電動機が旧来の直流電動機のままであり、直流電動機が持つ欠点(:摩擦部品によるもの)も当然そのままである。そのため、後にVVVF制御で交流誘導電動機を制御する技術が開発されると、界磁添加励磁制御や界磁チョッパ制御などと共に、あっという間に「過去の技術」となった。いわば、踏み台とか中継ぎとかそんな立ち位置の技術だったと言えよう。
電機子チョッパは抵抗制御と比べて発熱を格段に抑えることができるので、旧営団地下鉄(現 東京地下鉄)が熱心な研究開発を行なっていた。このため旧営団車をはじめ全国の地下鉄の電車や路面電車、新交通の車両でそれなりに採用された。
一方国鉄では純粋な「省エネルギーな制御方式」として開発が進められていたが、採用例は201・203系及びEF67程度に終わってしまった。
尚、海外の例としてはイタリアの高速列車「ETR450」も電機子チョッパを採用している。
電機子チョッパの「音」。
最近の電機子チョッパは某社のVVVFよろしく歌うこともできるようだ。
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最終更新:2024/05/18(土) 11:00
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