UD-3とは、第二次世界大戦中にドイツ海軍が建造中のオランダ潜水艦O-25を拿捕したものである。1941年6月8日竣工。通商破壊で1隻(5041トン)撃沈の戦果を挙げた。1945年5月3日にキールで自沈。
前身はオランダ海軍のO-21級潜水艦5番艦O-25。接頭辞の「O」はオランダ語で「Onderzeeboot(水中ボート)」を意味し、拿捕後の艦名であるUDとは「Unterseeboot(潜水艦)」「Dutch(オランダ)」を組み合わせたもの。
オランダ海軍の主任技師G.デ・ローイが設計を担当。前級O-19級から機雷敷設能力を省略、船体を小型化し、スイス製のスルツァー・ディーゼルエンジンを2基搭載した事で、より高速な水上速力を実現している。ドイツの技術も盛り込まれ、ユンカース製のフリーピストン式コンプレッサー2台と電動コンプレッサーを装備。外見上はドイツ海軍のVII型と類似点が多く見られる。
第二次世界大戦初期においてドイツのVII型、イギリスのU級、S級、T級に並ぶ最も最先端な潜水艦であり、また、Uボートよりも先に潜航時間を拡充するウィッカース式シュノーケルと、魚雷発射時に空気を艦内に排出して、水面に気泡が浮き上がるのを防ぐポペットバルブという2つの先進的な装備を持っていた。VIIC型より高く長い司令塔にはシャワー室が2つあったという。40mm対空砲を水密区画に降ろせる設計も先進的で、後にO-21級を拿捕したドイツ海軍は、XXI型やXXIII型の細部に本級の設計を模倣している。
要目は排水量990トン、全長77.7m、全幅6.8m、出力2500馬力、最大速力19.5ノット(水上)/水中速力9ノット、航続距離1万海里、最大潜航深度100m、圧壊深度175m、乗組員39名。兵装は53cm魚雷発射管8門(艦首4門、艦尾2門)、魚雷14本、88mm甲板砲1門、40mm対空砲2門、12.7mm機関砲1丁。
1938年6月28日にロッテルダムのウィルトン=フィエノールトに発注。1939年4月10日、K XXVの艦名で起工。植民地向けを意味する接頭辞「K」が付いているため、当初はオランダ領東インドに配備する予定だったようだが、建造途中で、本国近海の配備艦である「O」を持ったO-25に改名され、第二次世界大戦勃発後の1940年5月1日に進水式を迎える。しかしここからO-25の運命は大きく狂っていく。
進水直後の5月10日、ドイツ軍はフランスに侵攻するべく、道路代わりと言わんばかりにオランダへの侵攻を開始。オランダ軍の抵抗もむなしく、5月14日に首都ロッテルダムは陥落した。この時点でO-21級は全て未完成だったが、1番艦O-21と2番艦O-22はタグボートに曳航される形で、3番艦O-23と4番艦O-24は無理やり就役させて強引にイギリスに脱出、タグボートの不足でO-25、O-26、O-27は脱出出来ず、O-25はドイツ軍に拿捕されるのを防ぐため、ロッテルダム近郊の新水路で自沈した(スキーダム造船所で放置されていたとも)。時間的な問題から徹底的な破壊が出来なかったという。
その後ロッテルダムに進駐したドイツ軍に引き揚げられて修理。浅い海域に沈んでいた事、破壊が不徹底だった事から修復可能と判断されたと思われる。
1941年1月、建造工事中のO-25をU-175の乗組員が見学に訪れている。潜望鏡深度にいる時、排気口が水上に出る設計だったが、実用的ではないとして撤去。そしてUD-3の艦名を与えられて6月8日に竣工を果たした。初代艦長にはサラエボ出身のヘルマン・リゲレ少佐が着任。彼は51歳の高齢艦長であり、Uボート全体で見ても第3位の高齢者であった。図らずもO-21級は敵味方に分かれて干戈を交える事となる。
7月15日、同じく鹵獲艦であるUB、UD-1、UD-4とともにキールの管轄下に置かれ、敵国の技術を解析するための実験艦を務めた後、7月16日より8月24日まで第5潜水隊群に所属、訓練学校用の練習艦に指定される。この時UD-3が持つシュノーケルの実験が行われるも、当初はあまり関心が寄せられなかった。ちなみに海軍大国イギリスでもシュノーケルの価値は認められていない。
1942年5月13日、U-518が放った訓練用魚雷を回収・曳航してキールに持ち帰る。バルト海にて行われた夏の戦術演習にU-410やU-441とともに参加した他、8月27日、出撃するU-410の伴走者としてキールを出発、カテガット海峡を通過し、ドイツ占領下ノルウェー南部の潜水艦基地クリスチャンサンまで同行した。
10月1日にロリアンを本拠とする第10潜水隊群へ転属。いよいよ実戦投入される時が来た。
1942年10月3日にキールを出撃。翌日マルヴィケンへ寄港して燃料と真水を補給し、10月5日より最初の戦闘航海を開始する。今回の航海は通商破壊よりもロリアンへの回航が目的だったようで回航を優先。
10月21日、航空哨戒が厳しいビスケー湾を通過中、迎えに来た味方の駆逐艦を発見、そして出港から19日後の10月22日にロリアンへ入港した。
11月3日にロリアンを出撃。中部大西洋、フリータウン沖、カーボベルデ諸島近海で遊弋する。
それから間もない11月8日、連合軍がモロッコ沿岸に上陸したとの報告が入り、カール・デーニッツ提督はカーボベルデ近海・ジブラルタル間にいるUボート、あるいは燃料が豊富にある北大西洋のUボートに、敵上陸船団攻撃を命じ、11月11日頃よりUボートが所定の海域に集まり始めた。しかし予想通り連合軍の警戒は厳しく、上陸地点は駆逐艦や航空機による十重二十重の援護に加え、陸上に設けられたレーダー施設がUボートの来攻を待ち構える。結局UD-3は何ら戦果を挙げられないまま北アフリカ方面から叩き出された。
11月20日にU-462と合流して燃料、潤滑油、食糧15日分を受領。11月22日、十分な燃料と魚雷を持つUD-3は、現在ケープタウン方面で通商破壊中のウルフパック「アイスベア」に対して、補給任務が行えるとBdU(Uボート司令部)は判断。位置、燃料、食糧在庫を報告するようUD-3に命じている。
その後、UD-3はブラジル北東海域に移動。ブラジルの連合国参戦以降、同地の航空基地はアメリカ海軍航空隊に開放され、かつては潜伏先として避難所的役割を果たしていたブラジル沿岸も、今や敵哨戒機が飛来する危ない場所と化していた。
11月26日午後12時55分、ブラジルのナタール北東部にて、UD-3は水平線の向こう側から伸びる汽船のマストを発見し、16時8分より急速潜航。発見したのはクロム鉱石2820トンを輸送中のノルウェー貨物船インドラ(5041トン)であった。17時35分に2本の魚雷を発射、このうち1本がインドラの左舷へ命中して前部を僅かに沈下させるも、沈没には至らず、インドラにトドメを刺そうと行った二度の雷撃は外れて失敗。18時48分、ようやく3本目が左舷中央部に命中。これが致命の一撃となり船尾を天高く掲げながら素早く沈没していった。
同日18時55分、赤道近くの合流予定地点にてU-159と合流。ハインツ・ベックマン艦長と協議の上、補給場所を北に移して明日から作業を始める事とし、UD-3の後ろをU-159が追随、翌27日午前9時25分、雨により視界と時化が悪化していく中、まずは魚雷の引き渡し作業を開始。15時に猛烈なスコールがあり作業が一時中断したものの、21時15分までに4本の移載を完了する。UD-3から供給してもらった魚雷のおかげでU-159は更なる戦果を挙げる事が出来た。
1943年に入ると、北大西洋はハリケーン襲来に伴う厳しい天候に見舞われ、海上での戦闘は殆ど全面停止の状態となった。荒れ狂う波と戦いながら1月7日に何とかロリアンへ帰投。この戦闘航海を最後にUD-3の本国帰投が決まった。
1943年2月10日にロリアンを出撃。ハリケーンが去り、天候が回復した北大西洋で通商破壊を行いながらドイツ本国を目指し、26日にベルゲン、27日にスタヴァンゲル、28日にマルヴィケンへ寄港、護衛艦艇の交代を受けながらノルウェーを南下していき、3月3日に目的地のヨーテンハーフェンまで辿り着いた。
3月1日、占領下ポーランドのヨーテンハーフェンにある潜水艦防衛学校アプヴェーア・シューレ(Abwehrschule)へ配属。アプヴェーア・シューレは1933年10月1日に開設されたドイツ海軍の訓練施設で、一度に約100人が受講し、1週間の理論教育と、学校小隊での5週間の実技訓練を行う。UD-3の配属を以ってオランダから拿捕した潜水艦は全てアプヴァーア・シューレ所属となった。10月24日、二代目艦長に艦長養成コースを修了したばかりのヨアヒム・ゼーガー中尉が着任。
1943年7月15日、アプヴェーア・シューレの機能がヨーテンハーフェンからノルウェーに移転し、司令部をベルゲン、ベルゲン南方約30kmのハトヴィクに鹵獲潜水艦を用いた作戦訓練基地を置いた。所属艦はUボート7隻とUD-3、UD-2、UD-5、UF-2、UC-2の計12隻。これら潜水艦は敵潜の探知と戦闘訓練に使用された。後にU-298とU-1052が加入。
1944年6月25日にマルヴィケンを出港。UF-2やU-855とともに2日間の航海を経てキールに回航する。しかし10月13日、キール停泊中に空襲を受けて大破、訓練任務に耐えられなくなってしまい同日付で退役。そして1945年5月3日、「全艦自沈せよ」を意味する隠語通信レーゲンボーゲンに従い、降伏を良しとせず爆破処分。戦後残骸は解体された。
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