連城三紀彦(れんじょう みきひこ)とは、日本の小説家。本名・加藤甚吾。
概要
1978年、「変調二人羽織」で第3回幻影城新人賞に入選しデビュー(ちなみに、同じ回で田中芳樹が李家豊名義の「緑の草原に…」で入選している)。1981年、「戻り川心中」で第34回日本推理作家協会賞短編部門受賞。
日本のミステリー史上に燦然と輝く傑作《花葬シリーズ》に代表される、叙情的な美文によって構築された世界が、一瞬にしてその様相を変える、語りの仕掛けを駆使したトリッキーな作風の短編を得意とした。その美文調とどんでん返しの作風は長編でも変わらず、超絶技巧による反転に次ぐ反転が連城ミステリの真骨頂である。
1984年、『宵待草夜情』で第5回吉川英治文学新人賞受賞。同年、恋愛小説の短編集『恋文』で第91回直木賞を受賞。これ以降、前述の美文調と語りの仕掛けを、男女の恋愛・心理の機微を描くのに用いるようになり、ミステリ的な技巧を駆使した恋愛小説・大衆小説が作品の中心になる。1988年、国際謀略ミステリー『黄昏のベルリン』で「このミス」3位、「週刊文春ミステリーベスト10」1位。1996年、『隠れ菊』で第9回柴田錬三郎賞受賞。
21世紀になると肉親の介護に追われて作品発表のペースが落ちたものの、作風は再びトリッキーなミステリに回帰し、『白光』『人間動物園』『流れ星と遊んだころ』『造花の蜜』といった意欲的なミステリ長編を発表した。『造花の蜜』では2010年版「ミステリが読みたい!」第1位を獲得。
2013年10月19日、胃がんのため死去。65歳没。男女の関係を描き続けた作家だったが、生涯独身であった。没後、2000年以降に発表された未収録短編を集めた『小さな異邦人』が刊行された。また未刊行だった長編2作『女王』『処刑までの十章』が10月に刊行予定。
実家が寺だったため、1985年に得度しており、僧侶としての側面も持っていた。
60冊以上の著作があるが、現在は残念ながらその大半が絶版となっており、新刊書店で入手できるのは『変調二人羽織』『戻り川心中』『白光』(光文社文庫)、『夜よ鼠たちのために』(宝島社文庫)、『恋文・私の叔父さん』(新潮文庫)、『私という名の変奏曲』(文春文庫)、『明日という過去に』(幻冬舎文庫)、『美女』『隠れ菊』(集英社文庫)、『誰かヒロイン』『人間動物園』『流れ星と遊んだころ』(双葉文庫)、『造花の蜜』(ハルキ文庫)、『小さな異邦人』(文藝春秋・単行本)の14作を数えるのみとなっている。『宵待草夜情』『敗北への凱旋』『どこまでも殺されて』『落日の門』といった数々の傑作の復刊が待たれる。
前述の通り、短編ミステリの名手中の名手であり、泡坂妻夫と並んで日本ミステリ史上最高の短編作家と呼んでも過言ではない。特に初期作品には綺羅星の如き傑作が並び、普通に考えれば傑作レベルの作品が水準作として埋もれてしまうレベル。『恋文』以降は一般的に恋愛小説の作家と見なされるようになったためか、ミステリ界隈からあまり注目されなくなってしまったが、それ以降にも『落日の門』や『顔のない肖像画』、『紫の傷』、『美女』のような非常にレベルの高いミステリ短編集を発表している。
初めて読む人は、とりあえず『戻り川心中』『変調二人羽織』あたりから入るのをオススメしたい。絶版の作品もブックオフや大きな古書店ならそれなりによく売っているが、文庫化されていない作品もあり、今からコンプリートを目指すのは大変である。よく知られた代表作を押さえておくなら、新刊で手に入る作品とも重複するが、ハルキ文庫の《連城三紀彦傑作推理コレクション》6冊(『変調二人羽織』『戻り川心中』『敗北への凱旋』『夜よ鼠たちのために』『宵待草夜情』『私という名の変奏曲』)を見かけたら確保しておくと良いだろう。
作品リスト(小説のみ、赤太字は現在新品で入手可能なもの)
- 暗色コメディ (1979年、幻影城→1982年、CBSソニー出版→1985年、新潮文庫→2003年、文春文庫)
- 戻り川心中 (1980年、講談社→1983年、講談社文庫→1998年、ハルキ文庫[1]→2006年、光文社文庫)
- 変調二人羽織 (1981年、講談社→1984年、講談社文庫→1998年、ハルキ文庫[2]→2010年、光文社文庫)
- 密やかな喪服 (1982年、講談社→1985年、講談社文庫)
- 運命の八分休符 (1983年、文藝春秋→1986年、文春文庫)
- 夜よ鼠たちのために (1983年、ジョイ・ノベルス→1986年、新潮文庫→1998年、ハルキ文庫[3]→2014年、宝島社文庫[4])
- 宵待草夜情 (1983年、新潮社→1987年、新潮文庫→1998年、ハルキ文庫)
- 敗北への凱旋 (1983年、講談社ノベルス→1986年、講談社文庫→1999年、ハルキ文庫→2007年、講談社ノベルス[5])
- 少女 (1984年、光文社→1988年、光文社文庫→2001年、光文社文庫(新装版))
- 恋文 (1984年、新潮社→1987年、新潮文庫) → 恋文・私の叔父さん (2012年、新潮文庫、改題)
- 私という名の変奏曲 (1984年、双葉社→1986年、フタバノベルズ→1988年、双葉文庫→1991年、新潮文庫→1999年、ハルキ文庫→2014年、文春文庫)
- 瓦斯灯 (1984年、講談社→1987年、講談社文庫)
- 夕萩心中 (1985年、講談社→1988年、講談社文庫→2007年、光文社文庫)
- 日曜日と九つの短篇 (1985年、文藝春秋→1988年、文春文庫) → 棚の隅 (2007年、コスミック出版、改題)
- 残紅 (1985年、講談社→1989年、講談社文庫)
- 青き犠牲 (1986年、文藝春秋→1989年、文春文庫)
- もうひとつの恋文 (1986年、新潮社→1989年、新潮文庫)
- 離婚しない女 (1986年、文藝春秋→1989年、文春文庫)
- 花堕ちる (1987年、毎日新聞社(上下巻)→1990年、角川文庫(上下巻))
- 恋愛小説館 (1987年、文藝春秋→1990年、文春文庫)
- 螢草 (1988年、集英社→1991年、文春文庫)
- 一夜の櫛 (1988年、新潮文庫)
- 夢ごころ (1988年、角川書店→1991年、角川文庫)
- 黄昏のベルリン (1988年、講談社→1991年、講談社文庫→2007年、文春文庫)
- あじさい前線 (1989年、中央公論社→1992年、中公文庫)
- 飾り火 (1989年、毎日新聞社(上下巻)→1992年、新潮文庫(上下巻))
- たそがれ色の微笑 (1989年、新潮社→1992年、新潮文庫)
- 萩の雨 (1989年、講談社→1992年、講談社文庫)
- どこまでも殺されて (1990年、双葉社→1993年、双葉文庫→1995年、新潮文庫)
- 夜のない窓 (1990年、文藝春秋→1993年、文春文庫)
- 褐色の祭り (1990年、日本経済新聞社(上下巻)→1993年、文春文庫(上下巻))
- ため息の時間 (1991年、集英社→1994年、集英社文庫)
- 新・恋愛小説館 (1991年、文藝春秋→1994年、文春文庫)
- 美の神たちの叛乱 (1992年、朝日新聞社→1995年、新潮文庫)
- 愛情の限界 (1993年、光文社→1996年、光文社文庫)
- 落日の門 (1993年、新潮社)
- 明日という過去に (1993年、メディアパル→1997年、幻冬舎文庫)
- 顔のない肖像画 (1993年、実業之日本社→1996年、新潮文庫)
- 背中合わせ (1993年、新潮文庫)
- 牡牛の柔らかな肉 (1993年、文藝春秋→1996年、文春文庫)
- 終章からの女 (1994年、双葉社→1998年、双葉文庫)
- 花塵 (1994年、講談社→1997年、講談社文庫)
- 紫の傷 (1994年、双葉社→2002年、双葉文庫)
- 前夜祭 (1994年、文藝春秋→1997年、文春文庫)
- 恋 (1995年、マガジンハウス→1999年、幻冬舎文庫)
- 誰かヒロイン (1995年、双葉社→2009年、双葉文庫)
- 隠れ菊 (1996年、新潮社→1999年、新潮文庫(上下巻)→2013年、集英社文庫(上下巻))
- 虹の八番目の色 (1996年、幻冬舎→1999年、幻冬舎文庫)
- 美女 (1997年、集英社→2000年、集英社文庫)
- 年上の女 (1997年、中央公論社→2000年、中公文庫)
- 火恋 (1999年、文藝春秋)
- 秘花 (2000年、東京新聞出版局→2004年、新潮文庫(上下巻))
- ゆきずりの唇 (2000年、中央公論新社→2003年、中公文庫)
- 夏の最後の薔薇 (2001年、文藝春秋) → 嘘は罪 (2006年、文春文庫、改題)
- 白光 (2002年、朝日新聞社→2008年、光文社文庫)
- 人間動物園 (2002年、双葉社→2005年、双葉文庫)
- さざなみの家 (2002年、ハルキ文庫)
- 流れ星と遊んだころ (2003年、双葉社→2014年、双葉文庫)
- 造花の蜜 (2008年、角川春樹事務所→2010年、ハルキ文庫(上下巻))
- 小さな異邦人 (2014年、文藝春秋)
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関連項目
- 小説家の一覧
- 幻影城
- 直木賞 / 吉川英治文学新人賞 / 日本推理作家協会賞
脚注
- *講談社文庫・光文社文庫版収録の5作に『夕萩心中』収録の3作を加えた《花葬シリーズ》全作収録版。
- *講談社文庫・光文社文庫版に、『密やかな喪服』から4編を追加した再編集版。
- *新潮文庫版に、『密やかな喪服』から3編を追加した再編集版。
- *ハルキ文庫版の復刊。
- *《綾辻・有栖川復刊セレクション》シリーズの1冊として復刊。